砂の墓標
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人一人乗せても軽快に運んでいた脚はだんだんとスピードを緩め、目的地である店の前にぴたりと着ける。クエーッ!と高らかに到着を告げた超カルガモにありがとう、と言って背中から降りると、私は料金を彼が首から提げていた大きながま口へと入れた。バイバイ、と手を振ると、海兵よろしくピシッと敬礼をしてみせる姿が可愛くて、私は微笑む。私が背を向けて店へと向かうのを見届けて、超カルガモは再び夜の街へと走り出した。
クロコダイルに作ってもらった裏口の合鍵を使い、店へと入る。時刻は20時──店内はいつも通り賑わっているが、夕飯時ともあって、店の中よりはレストランの方に客が集まっているようだ。私の姿に気付いた常連客が数人、声を掛けてくる。笑顔でこんばんは、と挨拶を返し、一言二言言葉を交わすと、私は控えめにその場から離れ、地下に通じるドアへと向かった。
(ロビンさんは部屋かな?)
ロビンさんの部屋は長い廊下の突当たりにある。途中のミニキッチンでお茶を淹れてから向かおうかとも思ったが、片手にケーキボックスを持った状態ではティーセットを乗せたトレンチは持てないだろうと考えて、まずはロビンさんの部屋に行って、ケーキを置いてからお茶を取りに来ることにした。
階段を下りてバナナワニの水槽の前を通り、廊下へと足を進める。コツコツとヒールを鳴らしながら、紅茶の種類は何にしようかと思案する。ロビンさんには私がカフェで食べたのと同じフルーツタルトを買ってきたから、キャンディが合うんじゃないだろうか。自分用に買ったオペラには何が合うだろう……ダージリンかな? そんな風にあれこれ考えているうちに、気付けばロビンさんの部屋の前まで来ていた。
「ロビンさん、ネーナです。お土産買って来たんで、お茶にしませんか?」
コンコン、とドアをノックして中に呼び掛けるが、返事はない。忙しそうにしていたし、まだ帰っていないのかもしれない。また後で出直そうと、私は踵を返した。
「──あの女なら、しばらく帰らねェぞ」
「ぅわっ! びっくりした!!」
部屋へ戻ろうと振り返った先──廊下の壁に凭れ掛かって、クロコダイルが葉巻を吹かしながら佇んでいた。突然声を掛けられ、驚きで跳ね上がった心臓を宥めるように、私は胸に手を当てた。
「──アイツには、急ぎの出張を頼んだ。ついさっき、出たところだ」
「そう、だったんだ……」
ケーキボックスに視線を落とし、肩を落とす。お茶はまた今度にすればいいからそれ程気にしてはいないのだが、箱の中身をどうすべきかで、私は大いに悩んでいた。
(1日に3個は、流石に食べ過ぎだよね……しかも夜だし……)
だからといって、洋生菓子を翌日までとっておいて食べるのも、せっかくの美味しさが損なわれてしまう懸念があって、なるべく避けたい事態ではあった。斯くなる上は──
「クロコダイル、これ……」
「──ついて来い」
「……え? ちょっと!」
食い気味に遮って、クロコダイルは広間の方に向かって歩き出す。クロコダイルはオペラの方が好きかなぁ、でもそうすると、今日2個目のタルトだなぁ……などと呑気に考えていた私は、慌ててその背中を追った。
クロコダイルはその長いコンパスでもってずんずんと廊下を進み、階段を上がって地下を出た。店に出ると、客達がクロコダイル様だ、と色めき立つ。だが、当の本人はそんな様子など全く見えていないかのように、さっさとフロアを後にしてしまった。
(え……? ちょっと、クロコダイル!)
いつもの彼なら、少し店に顔を出しただけであっても、その名を呼ばれれば手を振ったり、何かしらの反応を示す。海賊でありながら「砂漠の英雄」と称される所以は、そんなところにも起因しているのだが──。
素っ気無いオーナーの姿に、客達もおや、と残念そうにしている。私はすかさず、オーナーはこれから別の仕事が入っておりまして、失礼させていただきます、とフォローに入る。客達はそれならば、と納得してくれたが、私は違った。お客様に対して、なんて態度なんだろう。
「これ、2人で食べて。2つしかないから、皆には内緒ね!」
キャッシャーに立ち寄り、今日の担当だったスタッフ2人に、手に持ったままだったケーキボックスを手渡す。ありがとうございます、と返事を聞くのもそこそこに、私は速足で、既に裏口を出て行ったクロコダイルの後を追った。
「クロコダイル!」
裏口を出ると、外の空気はさっき帰ってきたときよりも一層冷たさを増していた。名前を呼んだ相手はというと、そんじょそこらには見つからない。辺りをぐるりと見渡してようやく、店の裏通りを行くその背中を見つけた。
(こんな時間に、どこに行くつもり……?)
行く先に思い当る節は全くないが、とにかく、ずっとこの仕事をやってきた身としては、彼のさっきのお客様への態度には一言物申さなければならない。私は既に遠くなりかけている後ろ姿を追って、小走りに駆け出した。
月明かりが、砂の上に2つの影を落とす。見上げれば、今日は満月。ぽっかりと空に浮かんだそれは、冷え切った下界に、温度のない冴え冴えとした輝きを放っていた。
もう、どれくらい歩いてきただろうか。街の灯は遠く霞み、辺りには家の1軒も見当たらない。視界に広がるのは唯、砂、砂、砂。これだけ遠いのならF-ワニを使った方が早かっただろうに、クロコダイルはこの広漠たる砂の大地を、自らの足で進んで行く。彼なら自らの能力で飛ぶように進むことだって出来るのに、それをしないのは、私への気遣いなのだろうか。
(どちらにせよ、もう帰りたい……)
コートを羽織ってはいるものの、
ふ、と。そんな視線に気付いたのか、クロコダイルが立ち止まり、こちらを振り返る。そこが目的地なのだろうか、と思ったが、辺りには何もない。流石の彼も疲れて、休憩でも取るのかもしれない。私は彼に追い付こうと、棒になりかけている足に鞭打って歩き出した。
クロコダイルが立ち止まっていたのは起伏が少なく拓けた場所で、少しでも足を取られないようにと、私は彼の歩いた足跡をなぞって進む。だんだんと大きく見えてきたその姿に、自然と歩みは早くなった。
「──どうしたの、こんなところまで連れて来て」
