Great power of the MARINE
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コォ……と、青雉の口から洩れる息が白く霞む。その手に握られた受話器も、彼の「能力」でパキキキ、と音を立てて、見る間に凍り付いた。
「──お前、クビじゃァ済まねェよ?」
青雉の怒気を孕んだ冷たい声に、スモーカーは思わず息を呑む。いつものんびりした調子なのでつい忘れそうになるが、電話の相手は海軍の最高戦力、大将なのだ。
「──ああ、分かってる。俺は俺の思う正義に則って行動したまでだ。言い訳もしねェし、処分にも従う」
「──あ、そ。えらく物分りがいいじゃないの。そんじゃま、そういうことだから。逃げも隠れもしなさんなよ」
「ああ」
ガチャ、と受話器を置くと、執務室には静寂が訪れた。青雉は再び、手の中の書類を眺める。
(野犬が飼い慣らされたみてェになりやがって……何者だ? このお嬢ちゃんは……)
砂漠の国・アラバスタのカジノ、レインディナーズのディーラー──ミス・アニヴェルセル。写真から感じる印象からはとても銃を扱えるようには見えないのに、致命傷になりにくく、それでいて相手の動きを確実に止められる脾臓を的確に狙い撃つという、確かな射撃の腕を持っている。
(ちょっと調べてみる必要があるかもしれねェな……)
青雉は、書類をぽいっと机の上に放ると、よっこらせ、と独りごちて椅子から立ち上がった。すたすたと窓際に歩み寄り、古い片上げ式の窓を開けた。
「これも仕事だからなァ……ちょっと行ってきますよ、っと」
長身の身体を折り曲げるようにしてするりと窓から抜け出すと、青雉は、マリンフォードを見下ろす位置にある執務室から、その高さをものともせずに軽々と飛び降りた。そして、ヒラリと地上に降り立つと、建物の陰に隠してあったレトロな自転車に乗り、海に向かってゆっくりとペダルを漕ぎ出した。
「…………じ殿……青雉殿!」
「んぁ……?」
デッキでのんびりと昼寝をしていた青雉は、自身を呼ぶ声に、両目を覆っていたトレードマークの青いアイマスクを取る。その傍らには敬礼をした新兵が1人、佇んでいた。
「もう間もなく、アラバスタ王国近海に到着いたします」
「あァそう……分かった。ありがとよ」
ムクリと身体を起こすと、眩しい日差しが目に入る。その日差しの強さに、青雉は、船が目的地である砂漠の国へと近付いていることを、身をもって感じた。
「やれやれ、やっと起きよったか」
声のする方を振り返ると、そこには恰幅のいい、白髪に髭面の大男が笑いながら立っている。男は頭に犬の毛皮を被っていて、その顔は見えない。だが青雉は、男のことを見据えてフッと小さく笑った。
「──アンタは俺以上によく寝てるでしょうよ、ガープさん」
「ぶわっはっはっは! それを言われると弱いわい」
ガープと呼ばれた大男は、毛皮を取ってニッカリと歯を思いっきり見せて笑う。青雉は立ち上がると、大きく一度伸びをしてから、ガープと向かい合った。
「悪いね、ガープさん。ついでに乗っけてもらって助かったよ。アンタは“
「ああ。ちぃとばかし、孫の様子を見にな」
青雉がアラバスタへ向かおうと、海を凍らせて自転車の通り道を作ろうとしていたとき。これから出航するところなんで止めて下さい!と懇願してきたのが、ガープの部下達だった。聞けば、ガープ達は
もうすぐ会える孫のことが可愛くて仕方ないのか、ガープの笑顔は、いつもよりも眦が下がっているように見える。彼の後ろで部下達がそれはあくまで任務のついでです! サボりじゃないんです!!と言って慌てているのは、大将として、見て見ぬ振りをしてやった方がよいだろう。
部下達の慌てふためく様を見て、豪快に笑っている男の名は、モンキー・D・ガープ。階級こそ中将と青雉よりも低いが、今の大海賊時代が始まる前、“海賊王”ゴールド・ロジャーと肩を並べたといわれ、英雄と呼ばれる百戦錬磨の老兵だ。実力は折り紙付きなのだが、その豪放磊落とした性格から、「自由にやるにはこれ以上の地位はいらん」と言って、大将になることをずっと拒み続けている。そんな彼のことを、青雉はよく慕っていた。
「孫、か。相も変わらず、『海賊になる』、なんて言ってんの?」
「うるさいわい! わしは奴を、お前を超える海兵に育て上げるんじゃ!!」
英雄と呼ばれる彼には、
「英雄と呼ばれるアンタの姿を見ても靡かねェんだ、相当意思は固いよ。そろそろ諦めた方がいいんじゃないの?」
「何を言うか! 英雄だからこそ、身内から海賊なんぞ出せんのじゃ!!」
「ハハハ。それもそうだなァ」
フーッと荒く鼻息を吐いて、ガープは怒ったような困ったような、複雑な表情になる。あのガープさんを困らせるとは、彼の孫とやらは相当な強者らしい。青雉は笑って、傍らに寝かせておいた自転車を起こすと、ぼんやりと遠くに霞んで見える陸地を眺めながら、言った。
「ま、海賊になっちまったら、そのときは──」
え、と戸惑う海兵達を後目に、青雉は船から少し離れた海面に冷気を中てる。途端、そこには人一人が乗れるであろう程の氷が張った。
「俺が引導を渡してやるよ──それじゃァな、ガープさん。里帰りのことは、センゴクさん達には言わないでおいてやるから」
「ぶわっはっはっは! 恩に着るわい、青二才が!!」
青雉はガープに笑い掛けると、自転車を肩に担いでひらりと船から飛び降りた。そして、先に張っておいた氷の地面に降り立つと、ガープに手を振って、海面を凍らせながらアラバスタの地を目指した。
──数時間後
「やっと着いた……ホント参るね、この暑さには……」
アラバスタ王国の海からの玄関口・ナノハナ港へと着いた青雉は、自転車を押しながら陸地に上がるなり、がっくりと項垂れた。能力で身体を冷やしつつ来たものの、それでも追い付かない程の暑さに、さしもの海軍大将もすっかり参ってしまっていた。
(とりあえず、どこかで地図を入手しねェとな……)
無計画に出てきてしまったものだから、目指すカジノが何所にあるのか、青雉には皆目見当が付かない。何なら、忘れっぽい性質の彼は既に、目的としているカジノの名前すらも忘れそうになっていた。
