Great power of the MARINE
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「スモーカーさん! た、大変です!!」
ばたばたと騒がしく廊下を走ってきてバン! と勢いよくドアを開けた女海兵は、息を切らしながら、椅子に腰掛けて葉巻をふかす上官に向かい、叫んだ。呼び掛けられた男は五月蠅そうに顔だけ振り返ると、大きく溜息を吐く。その手には拳大の石が1つ握られていて、女海兵はう、と顔を強張らせた。
「──たしぎ。集中力が切れちまっただろうが。何をそんなに慌ててやがる」
男の前にある机には、バランス良く積まれた石の塔が、彼の胸辺りの高さにまで聳えていた。が、ピンと張り詰めていた部屋の空気は女海兵の来訪により弛緩し、振り返った男の背後で、それはガラガラと音を立てて崩れ落ちてしまった。チ、と舌打ちをする上司に対し、たしぎと呼ばれた若い女海兵は、ずり落ちた眼鏡を直しながら、すみません!と頭を下げる。男は崩れた石達を机の端に纏めると、身体ごと部下の方へと向き直って、ブハーッと勢いよく葉巻の煙を吐き出した。
「──で、何の用だ」
「そ、そうでした……! ほ、本部より、お電話です……!!」
「……あァ?」
ギロリ、と訝しげに睨み付けられて、たしぎはギュッと目を瞑り顔を背けながら、掌に乗せた電伝虫を上司へと差し出す。この男の目つきが鋭いのはもとからなのだが、最近同じ基地に配属されたばかりで付き合いの浅い彼女は、未だに彼の一挙手一投足にびくびくしている。男は呆れながら差し出された電伝虫を受け取り、受話器を取ろうとして手を止めた。
「おい、相手は」
「へ?」
「誰からの電話だって聞いてるんだ」
「す、すみませんっ!」
身体をI字になろうかという程に折り曲げて、たしぎは頭を下げる。謝罪はいいから早く教えろ、と苛立つ男を、戸惑いを孕んだたしぎの目が見つめ返した。
「海軍本部大将──青雉殿からのお電話です……!」
海軍本部大将──それは、たしぎのような将校になりたての人間にとっては遥か雲の上の存在といってもいい程で。スモーカーは、保留になった電伝虫を片手に目を白黒させていた彼女から、それを本体ごと奪い取ると、部屋を出て基地の屋上へと上がった。
屋上へと繋がるドアを開けると、気持ちの良い海風が頬を撫でる。スモーカーは、彼に気付いて敬礼をする見張りの海兵達に一瞥をくれると、街を一望出来る場所に陣取り、フェンスに寄りかかりながら受話器を取った。
「──待たせたな。わざわざ何の用だ? 大将殿」
「お前さァ。上官に向かって相変わらずの態度だねェ、ったく……。そっちはどうよ? しっかりやってんの?」
受話器の向こうから聞こえてくるのんびりと間延びした声に、スモーカーはくつくつと喉元で笑う。「だらけきった正義」──そんなのでよく大将を張れているな、と思う程に緩い正義を掲げているこの上官と、野犬と呼ばれて異端扱いされているスモーカーは、慣れ合ったりするわけではないが、なんだかんだ言って親しい仲であった。
「まァな──っつっても、物見遊山の海賊達ばかりが相手で、腕の方はすっかりなまっちまいそうだが」
「ハハ、そうかい。ま、のんびりできそうじゃないの。可愛い女の子の部下もできたみたいだし、羨ましいね、まったく」
そう言うと、手に持った電伝虫の口元が緩む。しようのねェ上官だ、と、スモーカーは小さく溜息を吐いた。
「──ところで、スモーカー。本題なんだけどさァ──」
「あァ? なんだ、改まって──」
瞬間。電話の向こうの空気が張り詰めたのが受話器越しに伝わってきて、スモーカーは息を呑んだ。フェンスに凭れ掛かっていた体を起こし、居住まいを正す。スモーカーが聞く体勢になったのを感じ取ったのか、大将・青雉はいつもののんびりとした声に若干の怒気を孕ませて、言った。
「──お前、一般人に軍の武器を横流ししたんだって? ついさっき報告に上がってきたんだけどさァ……何やってくれちゃってんのよ、ホント」
「あァ? 何言ってやが──」
唐突に糾弾されて反論しようとしたスモーカーだったが、脳裏にくしゃっと顔を綻ばせて笑う1人の女の姿が思い浮かんで、即座に口を噤んだ。そんな彼の様子から、報告が事実であるらしいと読み取った青雉は、深く溜息を吐いた。
「お前さァ……これ、大問題よ? 銃弾1発だって話だけどさァ、もしそれで何か事故でも起こったらどうするつもりなワケよ。責任取れんの?」
「……あァ、悪ィ。軽率だった」
スモーカーの様子に、青雉はおや、と思った。いつもの彼なら、素直に謝りなどしないはずだ。何か事情があるのかもしれない──直感的にそう感じて、青雉は椅子に腰掛けて組んでいた長い脚を、ゆったりと組み替えた。
「まァ俺としちゃァ、反省してくれてりゃそれでいいんだけどさ……それだけじゃ良しとしない連中もいるワケよ。さしあたって、お前には事情を聞かないといけねェことになってる。近いうちにそっちに行くから──ま、首洗って待っててちょうだいよ」
「ああ──迷惑かけちまって済まない」
やはりどうにも素直過ぎる。青雉には、今のスモーカーの姿は、とても海軍本部内で野犬と呼ばれ、持て余されている男と同一人物だとは思えなかった。
(──それもこれも)
この女のせいなのか、と、青雉は机に積まれていた書類の中から、写真つきの1枚をぺらりと手に取った。写真には、緊張した面持ちでカメラを見据える女の姿が写し出されている。
「ところで、青雉」
「あァン? 何よ」
電話越しにスモーカーが口を開く。その声に、いつローグタウンへ行こうかと思案中だった青雉は、ぶっきらぼうに返事をした。
「ちょっと聞きてェんだが──俺にこの件の嫌疑がかかってるってことは、つまり……俺が渡した銃弾が使われた、そういう事か?」
「あァ、そうだよ。だから問題になってんでしょうよ、ったく」
「……!」
受話器の向こうで息を呑む気配がして、青雉はふむ、と様子を窺う。少しの沈黙の後、電話の向こうの相手は、周囲を気にしているかのように小声で話し始めた。
「──それで、相手はどうなったんだ」
「どうって──脾臓をブチ抜かれたところを、王下七武海のサー・クロコダイルに討伐されたって話だ。これでまた、奴さんの国での株が上がったらしい」
「……? そんなはずは……」
腑に落ちない、とでも言いたげに、スモーカーの声に疑問の色が見え隠れしたのを、耳聡い青雉は聞き逃さなかった。
「何よ、まるで『撃たれた相手が思っていた奴とは違うらしい』、みたいな声しちゃって」
「……!」
「──もしそうだとしたら、お前、大問題だよ? 誰か特定の相手を指して、『アイツに使え』なんて指示でもしてたんだとしたら──」
ばたばたと騒がしく廊下を走ってきてバン! と勢いよくドアを開けた女海兵は、息を切らしながら、椅子に腰掛けて葉巻をふかす上官に向かい、叫んだ。呼び掛けられた男は五月蠅そうに顔だけ振り返ると、大きく溜息を吐く。その手には拳大の石が1つ握られていて、女海兵はう、と顔を強張らせた。
「──たしぎ。集中力が切れちまっただろうが。何をそんなに慌ててやがる」
男の前にある机には、バランス良く積まれた石の塔が、彼の胸辺りの高さにまで聳えていた。が、ピンと張り詰めていた部屋の空気は女海兵の来訪により弛緩し、振り返った男の背後で、それはガラガラと音を立てて崩れ落ちてしまった。チ、と舌打ちをする上司に対し、たしぎと呼ばれた若い女海兵は、ずり落ちた眼鏡を直しながら、すみません!と頭を下げる。男は崩れた石達を机の端に纏めると、身体ごと部下の方へと向き直って、ブハーッと勢いよく葉巻の煙を吐き出した。
「──で、何の用だ」
「そ、そうでした……! ほ、本部より、お電話です……!!」
「……あァ?」
ギロリ、と訝しげに睨み付けられて、たしぎはギュッと目を瞑り顔を背けながら、掌に乗せた電伝虫を上司へと差し出す。この男の目つきが鋭いのはもとからなのだが、最近同じ基地に配属されたばかりで付き合いの浅い彼女は、未だに彼の一挙手一投足にびくびくしている。男は呆れながら差し出された電伝虫を受け取り、受話器を取ろうとして手を止めた。
「おい、相手は」
「へ?」
「誰からの電話だって聞いてるんだ」
「す、すみませんっ!」
身体をI字になろうかという程に折り曲げて、たしぎは頭を下げる。謝罪はいいから早く教えろ、と苛立つ男を、戸惑いを孕んだたしぎの目が見つめ返した。
「海軍本部大将──青雉殿からのお電話です……!」
海軍本部大将──それは、たしぎのような将校になりたての人間にとっては遥か雲の上の存在といってもいい程で。スモーカーは、保留になった電伝虫を片手に目を白黒させていた彼女から、それを本体ごと奪い取ると、部屋を出て基地の屋上へと上がった。
屋上へと繋がるドアを開けると、気持ちの良い海風が頬を撫でる。スモーカーは、彼に気付いて敬礼をする見張りの海兵達に一瞥をくれると、街を一望出来る場所に陣取り、フェンスに寄りかかりながら受話器を取った。
「──待たせたな。わざわざ何の用だ? 大将殿」
「お前さァ。上官に向かって相変わらずの態度だねェ、ったく……。そっちはどうよ? しっかりやってんの?」
受話器の向こうから聞こえてくるのんびりと間延びした声に、スモーカーはくつくつと喉元で笑う。「だらけきった正義」──そんなのでよく大将を張れているな、と思う程に緩い正義を掲げているこの上官と、野犬と呼ばれて異端扱いされているスモーカーは、慣れ合ったりするわけではないが、なんだかんだ言って親しい仲であった。
「まァな──っつっても、物見遊山の海賊達ばかりが相手で、腕の方はすっかりなまっちまいそうだが」
「ハハ、そうかい。ま、のんびりできそうじゃないの。可愛い女の子の部下もできたみたいだし、羨ましいね、まったく」
そう言うと、手に持った電伝虫の口元が緩む。しようのねェ上官だ、と、スモーカーは小さく溜息を吐いた。
「──ところで、スモーカー。本題なんだけどさァ──」
「あァ? なんだ、改まって──」
瞬間。電話の向こうの空気が張り詰めたのが受話器越しに伝わってきて、スモーカーは息を呑んだ。フェンスに凭れ掛かっていた体を起こし、居住まいを正す。スモーカーが聞く体勢になったのを感じ取ったのか、大将・青雉はいつもののんびりとした声に若干の怒気を孕ませて、言った。
「──お前、一般人に軍の武器を横流ししたんだって? ついさっき報告に上がってきたんだけどさァ……何やってくれちゃってんのよ、ホント」
「あァ? 何言ってやが──」
唐突に糾弾されて反論しようとしたスモーカーだったが、脳裏にくしゃっと顔を綻ばせて笑う1人の女の姿が思い浮かんで、即座に口を噤んだ。そんな彼の様子から、報告が事実であるらしいと読み取った青雉は、深く溜息を吐いた。
「お前さァ……これ、大問題よ? 銃弾1発だって話だけどさァ、もしそれで何か事故でも起こったらどうするつもりなワケよ。責任取れんの?」
「……あァ、悪ィ。軽率だった」
スモーカーの様子に、青雉はおや、と思った。いつもの彼なら、素直に謝りなどしないはずだ。何か事情があるのかもしれない──直感的にそう感じて、青雉は椅子に腰掛けて組んでいた長い脚を、ゆったりと組み替えた。
「まァ俺としちゃァ、反省してくれてりゃそれでいいんだけどさ……それだけじゃ良しとしない連中もいるワケよ。さしあたって、お前には事情を聞かないといけねェことになってる。近いうちにそっちに行くから──ま、首洗って待っててちょうだいよ」
「ああ──迷惑かけちまって済まない」
やはりどうにも素直過ぎる。青雉には、今のスモーカーの姿は、とても海軍本部内で野犬と呼ばれ、持て余されている男と同一人物だとは思えなかった。
(──それもこれも)
この女のせいなのか、と、青雉は机に積まれていた書類の中から、写真つきの1枚をぺらりと手に取った。写真には、緊張した面持ちでカメラを見据える女の姿が写し出されている。
「ところで、青雉」
「あァン? 何よ」
電話越しにスモーカーが口を開く。その声に、いつローグタウンへ行こうかと思案中だった青雉は、ぶっきらぼうに返事をした。
「ちょっと聞きてェんだが──俺にこの件の嫌疑がかかってるってことは、つまり……俺が渡した銃弾が使われた、そういう事か?」
「あァ、そうだよ。だから問題になってんでしょうよ、ったく」
「……!」
受話器の向こうで息を呑む気配がして、青雉はふむ、と様子を窺う。少しの沈黙の後、電話の向こうの相手は、周囲を気にしているかのように小声で話し始めた。
「──それで、相手はどうなったんだ」
「どうって──脾臓をブチ抜かれたところを、王下七武海のサー・クロコダイルに討伐されたって話だ。これでまた、奴さんの国での株が上がったらしい」
「……? そんなはずは……」
腑に落ちない、とでも言いたげに、スモーカーの声に疑問の色が見え隠れしたのを、耳聡い青雉は聞き逃さなかった。
「何よ、まるで『撃たれた相手が思っていた奴とは違うらしい』、みたいな声しちゃって」
「……!」
「──もしそうだとしたら、お前、大問題だよ? 誰か特定の相手を指して、『アイツに使え』なんて指示でもしてたんだとしたら──」
