Fallin' Fallin'
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突然の事に、俺は戸惑っていた。アイツの口から、俺の計画の要を成す「それ」の名が紡がれたからだ。王家の連中は何か勘付いているのだろうか? 昼間に王へと謁見した際は、奴の態度はいつも通りだったように感じたが──
「ボス? 入るわよ」
「──ああ」
コンコン、とドアがノックされ、ニコ・ロビンが姿を現す。優秀なパートナーは部屋をぐるりと見回し、ネーナがいない事を知ると、俺が何の用件で自分を呼んだのかを悟ったようだった。
「『作戦』の方の話ね? 昼間、何かあったの?」
「フン──大した事じゃァねェが」
王家の連中が、雨が減っている事に勘付き始めているらしい事を伝えると、ニコ・ロビンは眉を顰めた。
「あら、もう? まだほんの少し、アルバーナにダンスパウダーを送り込んだだけなのに」
「ああ──ミス・アニヴェルセルと王女の間で、そんな話が出たらしい。帰り道、あの女の口からダンスパウダーの名も出た」
レインディナーズのオープンとほぼ同時期に、アルバーナには試験的にダンスパウダーを送り込んでいた。その効果がこんなにも早く表れるのは喜ばしくもあるが、まだ時期尚早である。単にネーナがダンスパウダーの話を思い出して話題に出しただけならまだしも、ここで王家にダンスパウダーの存在を嗅ぎ付けられては、元も子もない。
「……分かりました。すぐに王宮に潜入しているミリオンズに探りを入れさせるわ。場合によっては、工場の方でもダンスパウダー製造を一時中断させます」
「ああ──結構だ」
本当に、このパートナーは話の理解が早くて役に立つ。ひとまずはこれでいいだろう。俺はソファにどっかりと腰を下ろすと、一息つこうと葉巻を取り出し、口に咥えてマッチでその先端に火を点けた。
「──それで」
「あァ?」
切迫した声に顔を上げれば、ニコ・ロビンが神妙な面持ちでこちらを見ている。その瞳には、奴にしては珍しく、焦りの色が浮かんでいた。
「万が一……王家にダンスパウダーの存在が知れていて、あの子があなたに探りを入れようとその話を出してきたのだとしたら──あなたは、どうするの?」
縋るような目だった。青みがかった大きな瞳が、不安に揺れながらも真っ直ぐに俺を見据える。今更何を聞きやがる、「処分」するんだ、いつも通り──ただそれだけの言葉が、喉に張り付いて出てこない。俺は堪らず、目の前の女から視線を逸らした。その時だった。
プォッホーホホホ~~~! プォッホーホホホ~~~!!
聞き覚えのない間の抜けた声が、部屋中に響き渡った。突然の事に、俺もニコ・ロビンも顔を見合わせる。その音が、ニコ・ロビンに持たせている子電伝虫の発する緊急信号であることに俺が気付いた時には、奴は既に部屋を飛び出していた。即座に俺も、砂へと姿を変えて、その後を追う。
「もしもし? 私よ。何があったの?」
『支配人ですか?! 海賊です、海賊が店内で暴れて……ギャアァァァァァ!』
長い廊下を駆け抜けながら、ニコ・ロビンは状況を確認しようと子電伝虫に問い掛ける。だが、その向こうからは無惨にも悲鳴が上がった。キュッと唇を引き結んだニコ・ロビンを追い越した俺の耳に、下卑た男の声が響く。
『よォ、聞こえてるかァ? サー・クロコダイル! この店は今日から俺様のモンだ!!』
子電伝虫の向こうの相手は、ゲラゲラと愉快そうに笑う。対照的に、俺は不愉快さに顔を歪め、店に通じる階段を駆け上がった。
店へと繋がる扉を開けると、カジノフロアの中心には髭を長く伸ばして素肌にオーバーコートを羽織り、羽根飾りの付いた三角帽を被った大男が立っていた。男の周りには銃やサーベルを持った取り巻き共が群がり、客やディーラー達を威圧している。キャッシャーを見れば、そこには先程緊急信号を送ってきたボーイが、ボロ雑巾のようになりながら、息も絶え絶えにこちらを見ていた。ボーイは俺とニコ・ロビンの姿を認めると、安堵したかのように微笑んで、静かにその目を閉じた。
「──おォ、早かったじゃねェか。もう少し来るのが遅けりゃァ、1分毎に1人ずつ、ディーラー共を殺してやろうと思ってたところだ」
「──そうか、そりゃァ良かった。俺は生憎、テメェのような下衆が喜ぶ顔を見るのが何より嫌いなんだ」
「ハッ! 言うじゃねェか」
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる男を冷ややかな目で見つめながら、同時に俺は店内をぐるりと見渡し、状況の把握に努めた。
客とディーラー達は皆床に蹲り、ガタガタと震えている。その数、凡そ50。閉店時間が近かったのが幸いしたといえよう。怯える彼らの中に、ネーナの姿はない。今日はちょうど休みで、昼間のアルバーナ訪問に付き合わせた後、出掛けてくると言ってまだ戻っていないらしい。運の良い女だ、と、俺は小さく息を吐く。
賊は大男を含め、20人程。手下共は皆武器を持ってはいるが、この程度の人数であれば、ニコ・ロビンの能力で動きを封じることは可能だろう。現に背後では、いつでも能力を使って応戦出来るように身構えているパートナーの気配がしていた。
(──ただ、気になるのは)
王下七武海である俺を前にしても、臆する事なく嫌らしい笑みを絶やさない、この海賊達。首領と思しい件の大男は、武器らしい武器は持っていない。ただ1つ──男の周囲が不自然に濡れていることを除いては。
(──能力者、か)
水に関する能力だったとしたら、相性は最悪だ。そう思って俺が僅かに眉間に皺を寄せたのを、男は見逃さなかった。
「その通り、俺ァ能力者だ。“ジャブジャブの実”のジャブジャブ人間──液体を操るこの無双の能力で、俺は海を渡ってきたのさ!」
それを食べれば海に嫌われる、と言われる悪魔の実。その言われの通り、能力者達は海はもちろんのこと、総じて水が苦手になる。それ故、液体を操れるというのは、かなり特異な能力であるといえる。男が自慢げに両腕を広げると、その掌からはジャブジャブと水が溢れ出てきた。溢れた水は大理石の床を伝い、意思を持つかのようにじわりじわりと俺とニコ・ロビンの方へ向かってくる。俺は心の中で、小さく舌打ちをした。
「ここでテメェを倒して、代わりに俺が王下七武海の椅子に座る! この店も、俺の物になる!! これからは俺の時代だ! 食らいやがれ、“ジャブジャブ・ジャブ”!!」
言うが早いか、男は両腕を身体の前に構えて、拳を握る。そしてその拳を素早く前へと繰り出す。拳にグローブのように纏っていた水が、飛沫となって俺とニコ・ロビンを襲う。防ぎきれるか──? 顔に向かって飛んできた飛沫を吸い取って躱そうと、右手を翳した、刹那。
「クロコダイル!」
パァン!
「ボス? 入るわよ」
「──ああ」
コンコン、とドアがノックされ、ニコ・ロビンが姿を現す。優秀なパートナーは部屋をぐるりと見回し、ネーナがいない事を知ると、俺が何の用件で自分を呼んだのかを悟ったようだった。
「『作戦』の方の話ね? 昼間、何かあったの?」
「フン──大した事じゃァねェが」
王家の連中が、雨が減っている事に勘付き始めているらしい事を伝えると、ニコ・ロビンは眉を顰めた。
「あら、もう? まだほんの少し、アルバーナにダンスパウダーを送り込んだだけなのに」
「ああ──ミス・アニヴェルセルと王女の間で、そんな話が出たらしい。帰り道、あの女の口からダンスパウダーの名も出た」
レインディナーズのオープンとほぼ同時期に、アルバーナには試験的にダンスパウダーを送り込んでいた。その効果がこんなにも早く表れるのは喜ばしくもあるが、まだ時期尚早である。単にネーナがダンスパウダーの話を思い出して話題に出しただけならまだしも、ここで王家にダンスパウダーの存在を嗅ぎ付けられては、元も子もない。
「……分かりました。すぐに王宮に潜入しているミリオンズに探りを入れさせるわ。場合によっては、工場の方でもダンスパウダー製造を一時中断させます」
「ああ──結構だ」
本当に、このパートナーは話の理解が早くて役に立つ。ひとまずはこれでいいだろう。俺はソファにどっかりと腰を下ろすと、一息つこうと葉巻を取り出し、口に咥えてマッチでその先端に火を点けた。
「──それで」
「あァ?」
切迫した声に顔を上げれば、ニコ・ロビンが神妙な面持ちでこちらを見ている。その瞳には、奴にしては珍しく、焦りの色が浮かんでいた。
「万が一……王家にダンスパウダーの存在が知れていて、あの子があなたに探りを入れようとその話を出してきたのだとしたら──あなたは、どうするの?」
縋るような目だった。青みがかった大きな瞳が、不安に揺れながらも真っ直ぐに俺を見据える。今更何を聞きやがる、「処分」するんだ、いつも通り──ただそれだけの言葉が、喉に張り付いて出てこない。俺は堪らず、目の前の女から視線を逸らした。その時だった。
プォッホーホホホ~~~! プォッホーホホホ~~~!!
聞き覚えのない間の抜けた声が、部屋中に響き渡った。突然の事に、俺もニコ・ロビンも顔を見合わせる。その音が、ニコ・ロビンに持たせている子電伝虫の発する緊急信号であることに俺が気付いた時には、奴は既に部屋を飛び出していた。即座に俺も、砂へと姿を変えて、その後を追う。
「もしもし? 私よ。何があったの?」
『支配人ですか?! 海賊です、海賊が店内で暴れて……ギャアァァァァァ!』
長い廊下を駆け抜けながら、ニコ・ロビンは状況を確認しようと子電伝虫に問い掛ける。だが、その向こうからは無惨にも悲鳴が上がった。キュッと唇を引き結んだニコ・ロビンを追い越した俺の耳に、下卑た男の声が響く。
『よォ、聞こえてるかァ? サー・クロコダイル! この店は今日から俺様のモンだ!!』
子電伝虫の向こうの相手は、ゲラゲラと愉快そうに笑う。対照的に、俺は不愉快さに顔を歪め、店に通じる階段を駆け上がった。
店へと繋がる扉を開けると、カジノフロアの中心には髭を長く伸ばして素肌にオーバーコートを羽織り、羽根飾りの付いた三角帽を被った大男が立っていた。男の周りには銃やサーベルを持った取り巻き共が群がり、客やディーラー達を威圧している。キャッシャーを見れば、そこには先程緊急信号を送ってきたボーイが、ボロ雑巾のようになりながら、息も絶え絶えにこちらを見ていた。ボーイは俺とニコ・ロビンの姿を認めると、安堵したかのように微笑んで、静かにその目を閉じた。
「──おォ、早かったじゃねェか。もう少し来るのが遅けりゃァ、1分毎に1人ずつ、ディーラー共を殺してやろうと思ってたところだ」
「──そうか、そりゃァ良かった。俺は生憎、テメェのような下衆が喜ぶ顔を見るのが何より嫌いなんだ」
「ハッ! 言うじゃねェか」
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる男を冷ややかな目で見つめながら、同時に俺は店内をぐるりと見渡し、状況の把握に努めた。
客とディーラー達は皆床に蹲り、ガタガタと震えている。その数、凡そ50。閉店時間が近かったのが幸いしたといえよう。怯える彼らの中に、ネーナの姿はない。今日はちょうど休みで、昼間のアルバーナ訪問に付き合わせた後、出掛けてくると言ってまだ戻っていないらしい。運の良い女だ、と、俺は小さく息を吐く。
賊は大男を含め、20人程。手下共は皆武器を持ってはいるが、この程度の人数であれば、ニコ・ロビンの能力で動きを封じることは可能だろう。現に背後では、いつでも能力を使って応戦出来るように身構えているパートナーの気配がしていた。
(──ただ、気になるのは)
王下七武海である俺を前にしても、臆する事なく嫌らしい笑みを絶やさない、この海賊達。首領と思しい件の大男は、武器らしい武器は持っていない。ただ1つ──男の周囲が不自然に濡れていることを除いては。
(──能力者、か)
水に関する能力だったとしたら、相性は最悪だ。そう思って俺が僅かに眉間に皺を寄せたのを、男は見逃さなかった。
「その通り、俺ァ能力者だ。“ジャブジャブの実”のジャブジャブ人間──液体を操るこの無双の能力で、俺は海を渡ってきたのさ!」
それを食べれば海に嫌われる、と言われる悪魔の実。その言われの通り、能力者達は海はもちろんのこと、総じて水が苦手になる。それ故、液体を操れるというのは、かなり特異な能力であるといえる。男が自慢げに両腕を広げると、その掌からはジャブジャブと水が溢れ出てきた。溢れた水は大理石の床を伝い、意思を持つかのようにじわりじわりと俺とニコ・ロビンの方へ向かってくる。俺は心の中で、小さく舌打ちをした。
「ここでテメェを倒して、代わりに俺が王下七武海の椅子に座る! この店も、俺の物になる!! これからは俺の時代だ! 食らいやがれ、“ジャブジャブ・ジャブ”!!」
言うが早いか、男は両腕を身体の前に構えて、拳を握る。そしてその拳を素早く前へと繰り出す。拳にグローブのように纏っていた水が、飛沫となって俺とニコ・ロビンを襲う。防ぎきれるか──? 顔に向かって飛んできた飛沫を吸い取って躱そうと、右手を翳した、刹那。
「クロコダイル!」
パァン!