End of love
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唐突に、目の前にカクテルグラスが差し出される。カウンター越しに真向いに立った中年の男性バーテンダーに、ドフラミンゴは訝しげな視線を向けた。
「ンなモン、頼んじゃいねェぞ」
「ええ──X・Y・Zです。お嫌いでなければ。お飲みになった以上はいただいておりますし」
そうか、と言って小さく笑うと、ドフラミンゴはカクテルグラスの脚を長い指で捉えて口元へと運ぶ。ネーナとの時間を他の客に邪魔されたくなくて、ドフラミンゴは予め店主であるこのバーテンダーに金を積んでいた。それに対してのサービスだというのであれば、ありがたく受け取っておくことにしよう。ホワイトラムの抜ける感覚と、広がるレモンジュースの酸味が心地良かった。
「彼女が、レインディナーズの看板ディーラーなのですね?」
「ああ、知っていたのか?」
「ええ──昨日の騒動は、お客様が噂していて聞き及んでおります」
「フッフッ! そうか……それで? 俺がフラれていたと、喧伝でもするつもりか?」
ドフラミンゴは僅かな苛立ちを込めて、タンッと音を立ててカクテルグラスをカウンターに置く。だがバーテンダーの男は、ドフラミンゴの苛立ちなど意にも介さない様子で、表情一つ変えずにグラスを磨いていた。どこか余裕すら感じさせるその仕草に、ドフラミンゴは興味を持つ。
「お前──何を企んでる?」
「企んでなど──ただ私は、貴方様の恋路を、陰ながら応援したいだけですよ」
その言葉に偽りはなさそうだったが、茶化されたように感じて、ドフラミンゴはチッと舌打ちをする。そんな客の様子を見て、バーテンダーは微笑んだ。
「それに──私は、レインディナーズのオーナーのことは、良く思っておりませんので」
「──クロコダイルを、か? アイツはこの国じゃ英雄扱いされてるって話だが?」
「ええ。まぁ、私の逆恨みですが──実を言うと、私はこのバーを経営する傍らで海賊相手に情報屋をやっておりまして。それが最近では、この国に王下七武海がいる、ということで、客足がすっかり減ってしまっているのです」
困り顔で肩を竦める男を見て、ドフラミンゴは笑う。とんだ逆恨みだ。だが、確かにこの店が情報の引き渡し場所を兼ねているのであれば、路地裏という立地はその面では最適だろう。それが、情報を求める客が来ないということになれば、表の稼業の方であるこの店の経営が苦しくなるのは想像に容易かった。
「そうか──それなら」
ドフラミンゴは懐から分厚い紙の束を取り出して、バーテンダーの目の前へと差し出す。それを見て、男は驚きに目を見開いた。
「100万ベリーある。毎月これと同じだけ払おう──あの女の情報を、俺に売れ。付け入る隙があれば、奪ってやる」
ネーナが自分に抱いている想いが、恋慕とも嫌悪ともつかないものであることは、ドフラミンゴにも察しがついていた。同時に、彼女の心が今誰の元にあるのかも。奪うのは容易ではないだろうが、この海で自分の欲しい物を手に入れるためには、情報が必要不可欠であることを、ドフラミンゴはまた、知っていた。
戸惑いながらも深々と礼をするバーテンダーを後目に、ドフラミンゴは席を立つ。ドアを開けると、砂漠の冷たい夜風が頬を撫でた。肩に羽織ったコートの前を閉じるようにして、夜の街を歩く。レインディナーズの前まで来て見上げれば、奴の名前にもなっている頭にバナナを乗せた生き物の像が、我が物顔に鎮座していた。
(見てろ。今にそこから追い落としてやる)
フン、と鼻で笑って、ドフラミンゴは手近なところに浮かんでいた雲に「糸」を引っ掛ける。さて、ホテルはどっちだったか。そんな事を考えながら、彼はその身をふわりと宙へと躍らせた。
......To be continued.
