End of love
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Heaven's Bellの支配人と交わした契約について、なんとかディアマンテを説き伏せたドフラミンゴは、何度かファミリーを連れて店を訪れた。人の目に慣れる練習と称してファミリーとも交流を持たせているうちに、彼らもまた、明るく素直なネーナのことを気に入っていった。
その後
実際久しぶりに店を訪れると、カードを取り落とすことなく、客と会話をしながらそれを配ることが出来るようになっていたり、客あしらいが上手くなっていたりと、その成長が窺えていた。そんな中、初めてHeavn's Bellを訪れてから、1年。ついに待ちに待ったその知らせがドフラミンゴの元へと届いたのだった。
「悪ィが、今日はアイツに大事な話があるもんでな。お前達は自由に遊んでいてくれ」
「ああ、分かった。ドフィ」
「そうか、残念じゃ。また肩叩きをしてもらいたかったんじゃがのぅ」
「ラオG、それなら私がやってあげるから。でも若、私もネーナと話したいから、もし話が早く終わったら教えて?」
「フッフッ……! ああ、分かってる」
店へと向かう船の中でドフラミンゴがそう告げると、ファミリーの面々は揃って残念がる。皆も喜ぶであろうし、隠し立てする必要は全くないのだが、今日この日だけは自分1人でそれを祝ってやりたい、とドフラミンゴは思っていた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、ドフラミンゴ様」
「フッフッ! また来てやったぜ、ネーナ」
「よォ、ネーナ。元気にしてたか?」
「ネーナ、久しぶりざますわねぇ」
にっこりと笑顔で迎えられて、ドフラミンゴは満足気に口角を吊り上げる。後ろに控えるファミリーの面々も、口々にネーナに声を掛けた。すっかりファミリー全員の名前を覚え、1人1人にちゃんと挨拶を返すネーナ。背筋をしゃんと伸ばして客を迎えるその姿は、随分と様になってきていた。
こちらへどうぞ、と言ってV.I.P.ルームを手で指し示し、歩き出したネーナの後ろについて歩みを進めたのは、ドフラミンゴ1人。ネーナはそれに気が付くと、おや、と不思議そうにドフラミンゴに視線を投げて寄越す。気にするな、とでもいうように、ドフラミンゴは彼女の頭をポンポン、と撫でた。くすぐったそうに笑う彼女を、愛しいと思う。自分の中に生まれた気持ちの正体に、ドフラミンゴはとうに気が付いていた。
「今日はドフラミンゴ様にお知らせがあります」
V.I.P.ルームに入ってドフラミンゴが席へと座るなり、ネーナは喜びを隠しきれない様子でにこにこしながら、ポーカーテーブルについた。ドフラミンゴは、笑い出しそうになるのをぐっと堪えて首を傾げる。ネーナはそんな彼に向かってスッと背筋を伸ばし、ステラ顔負けの美しい礼をしてみせた。
「この度、ステラが引退することになりまして、看板の座を私が引き継がせていただく運びと相成りました。今後とも、どうぞよろしくお願い致します」
顔を上げたネーナの姿はとても凛としていて、1年前とは見違える程だった。ステラにその技術の全てを叩き込まれ、自信を持つことが出来たのであろう。時折見せる笑顔には、彼女の元々の持ち味である明るさも残っていて、それはステラとはまた違った魅力を醸し出していた。
「フッフッフ! そりゃァ、めでてェじゃねェ……かっ!!」
「──!」
祝いの言葉を告げるのと同時に、ドフラミンゴはそれまで背後に回していた手をネーナへと差し出す。その手には、大輪の薔薇の花束。ネーナは驚きに言葉を失い、ドフラミンゴの顔を目を丸くさせながら見つめた。
「ステラから連絡を受けてな。今日は元々それを祝うつもりで来た。悪ィな、驚かせたかったか?」
「いえ……! スゴく嬉しいです……!!」
両手で口元を覆い、感極まった様子だったネーナは、ドフラミンゴがほら、と促すと、おずおずと手を差し伸べて花束を受け取った。そのままそれを抱き寄せると、ネーナは目を閉じて、すぅっとその香りを胸一杯に吸い込む。幾重にも重なった花弁が貴婦人のドレスのように見えることから、ドフラミンゴの治める国と同じ名を冠したその薔薇をネーナは大層気に入ったようで、花束を胸に抱き留めたまま彼女は呟いた。
「こんなに良くしてもらって、私はとっても幸せ者です……!」
「フフッ……大袈裟だな」
「そんな事ありません! ステラに指導してもらって、ドフラミンゴ様にも練習を見てもらって……お客様からもディーラー仲間達からも、『変わったな』と褒めていただくことが増えたのです」
満面の笑みを浮かべるネーナを褒めてやろうと、ドフラミンゴがその頭に手を伸ばしかけた──そのときだった。
「覚えていらっしゃいますか? ドフラミンゴ様が初めて当店へお越しくださったとき、私が叱られていた方──あの方は、今ではすっかり私の常連客になってくださっているのです」
ネーナの何気ない一言に、ドフラミンゴは顔を顰める。あの時の男が、この女を気に入った、だと? 勿論、可能性としてなくはない事であるのは分かっていたが、あの男にもこの笑顔が向けられていると思うと、嫉妬心が胸の奥でメラッと燃え上がった。
「あの方以外にも、そういう方は多くて──ドフラミンゴ様?」
笑顔で話すネーナを遮って、ドフラミンゴは席から立ち上がる。不思議そうに、身長差のあるドフラミンゴの顔を見上げるネーナの顎を、大きな手が捕らえた。え、と目を丸くしたネーナの唇をドフラミンゴのそれが掠め取ったのは、ほんの数瞬後のことだった。
ブルームーンを飲み干すと、ネーナはきっちり飲んだ分の代金を置いて帰って行った。可愛げのない奴だと思うのと同時に、そこまでして自分に借りを作りたくないものか、と、ドフラミンゴは一抹の寂しさを感じた。
(あのとき、自分の気持ちだけで突っ走ってなけりゃァ……今頃は)
想像してみようとして、頭を振る。たら、れば、なんて不毛な考えは、するだけ無駄だ。
僅かに残ったラスティーネイルを一息に呷り、ドフラミンゴはグラスを置いて溜息を吐く。不毛と分かっていながら頭を占める考えを追い出すには、酔いが全く足りていなかった。
「どうぞ」
「──あァ?」
