DONQUIXOTE
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
同時に、そうなればもともと容姿も人並み以上であるネーナは、二極化したうちの「イイ女」グループに分類されるようになるであろう。そうなれば、新し物好きの客はすぐに飛びつくだろうし、それまで「確実に手に入る」と思っていた客達も、手に入りづらくなることで躍起になり、今より更に彼女に入れ揚げるようになる。彼女を育てることで起こり得る可能性の数々に、ドフラミンゴは快感が背筋を駆け上がるのを感じていた。
目を開けたネーナは、ゆっくりとカードを切り始める。最初は手元を見ながら。徐々に視線を上げ、客席の方を見る。そうするとまた手元が狂いそうになって、視線を落とす。時にこうじゃない、と首を傾げながら。時にカードを取り落として溜息を吐きながら。それでもネーナは愚痴一つ零さずに、黙々とカードを切り続けた。
(最初のうちは、それでいい。そうやって試行錯誤を繰り返しながら、いつかこの店の頂点に立ってみせろ)
ファミリー以外の人間に、こうも期待を寄せることなど、今まであっただろうか。弟に似ている、という理由が1つあるとはいえ、1人の女にこうも惹き付けられるとは。
2人きりのV.I.P.ルームで、ドフラミンゴは椅子の背にゆったりと凭れ掛かって脚を組み、膝の上で両の指を絡ませる。そうしてカードを切る音を聞きながら、彼はサングラスの奥の目をそっと閉じた。
小一時間程そのまま微睡んでいたドフラミンゴは、不意に間近で揺らいだ人の気配に、ハッと目を醒ました。椅子の背に凭れていた上体を起こし、すぐさま能力を使おうと指先に神経を集中させる。だが目の前にあったのは、突然起きた彼に驚く1人の女の姿だった。彼女が目を白黒させているのを見て漸く、ドフラミンゴは自分がカジノにいたことを思い出す。自分の命を狙う敵ではなかったことに、張り詰めていた神経の糸をプツリと切ったドフラミンゴは、息を吐いて再び背凭れにその身体を預けた。
「も、申し訳ありません! 起こしてしまいましたか……?」
おずおずと尋ねたネーナの手には、毛足の長い、柔らかそうなブランケットが握られている。掛けてくれようとしたのか、とその顔を見れば、視線に気付いたネーナが申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「練習に集中してしまって、お休みになっていたことについさっき気付いたのです……。寒くはありませんでしたか……?」
「……フフッ! 大丈夫だ……悪ィな、見ててやるって言ったのに」
いいえ、と首を横に振ったネーナは安心したように笑って、広げていたブランケットを畳むとカウンターの中へと戻る。いつもはそこに常備しているのであろう、カウンター下のスペースにブランケットをしまったネーナは、再び練習に戻ろうと、カードを手に取った。
「――ネーナ。悪ィが、支配人とステラを呼んでくれるか」
「え? あ、はい。かしこまりました」
ネーナは、カードを束にしてテーブルに置くと、V.I.P.ルームを出て行く。集中力が切れたのか、その姿に先程までの凛とした様子はない。こういうところも直させねェとな、と考えながら、ドフラミンゴはその小さな背中を見送って、1つ欠伸をした。
暫くして、ガツガツと、重量感のあるドアノッカーが扉を叩く音がした。入れ、と外に呼び掛けると扉が開き、支配人とステラ、その後に続いてネーナが現れた。
「失礼致します、ドフラミンゴ様」
支配人とステラが、揃って一礼する。それに遅れて、ネーナもぺこりと頭を下げた。顔を上げた3人の表情は三者三様だ。何が始まるのだろう、と目をぱちくりさせているネーナに、貼り付いた様な笑顔を浮かべるステラ。支配人も笑顔ではあったが、その口の端はひくひくと引き攣っている。ちらちらと視線をネーナの方に向ける辺り、大凡彼女が何か粗相をしでかしたのでは、と思っているのだろう。ドフラミンゴは些か呆れながら、口を開いた。
「支配人、さっきの話の続きなんだが……お前に頼みたい仕事を思いついた。ネーナ、お前は下がっていいぞ」
あからさまにパッと明るくなった支配人の顔色を見て、ドフラミンゴの胸にこの男に対しての強い嫌悪感が湧く。だがこの仕事は他の者に頼めるものではない。奥歯をグッと噛み締めていつものにんまり顔を作ったドフラミンゴの視界の端に、何か言いたげにこちらを窺うネーナの姿が映った。
「ネーナ、どうした」
「は、はいっ。あの……」
言い淀むネーナを、支配人は早く出て行けと言わんばかりに睨み付ける。オイ、と低音でそれを制すると、支配人はビクッと体を震わせた。
「何だ? 言いたい事があるなら言ってみろ」
「はい、その……ありがとうございました」
そう言って、ネーナは深々と頭を下げる。礼を言われるとは思ってもみなかったので面喰っていると、顔を上げたネーナが、眦を下げてにっこりと笑った。その笑顔に、ドフラミンゴは言い知れぬ感情が胸に広がるのを感じる。
扉の前でもう一度礼をして出て行くネーナと、それをひらひらと手を振りながら見送るドフラミンゴ。そんな2人の様子を、支配人は唖然としながら見ていた。
「──さて、ビジネスの話なんだが」
「え……あ、はいっ!」
慌てて向き直った支配人の目の前に、ドフラミンゴはスッ、と右手を広げて出す。きょとんとしている支配人に、ドフラミンゴはそのにんまり顔を崩さずに告げた。
「あの女──ネーナを買わせてもらおう。他の客には指一本触れさせるな。その分金は払う──月500万ベリーでどうだ?」
「ご……っ?!」
ドフラミンゴによる突然の提案に、支配人は目を白黒させる。これまでその隣で柔らかく微笑んでいたステラの顔にも、困惑の色が浮かんでいた。ドフラミンゴはそんな彼女にもにんまり顔を向けながら告げる。
「そしてお前は──お前が持つ技術の全てをアイツに叩き込め、ステラ」
ハッとして、ステラは縋るような目でドフラミンゴを見つめる。そんな彼女を余所に、ドフラミンゴは未だ500万ベリーという数字に驚いている支配人の肩をガッシリと掴んだ。
「何を驚いてやがる。俺がアイツにその位の価値を見出したのが、そんなにおかしいか?」
「い、いえ……! 断じてそのような事は!!」
「そうか。じゃあこの話、乗るんだな?」
「も、勿論でございます!」
