権利と義務と我儘と
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私が元いた
「今日は楽しかったよ、また来る」
「くっそー、今日はツイてなかったぜ……今度来るときこそは、絶対に勝ってやる!」
「はいはい。分かったから、明日からまた、今日負けた分キリキリ働きなさいよ!」
最後のゲームが終わり、オーナーと支配人、ディーラー達が総出で客のお見送りをする。私のテーブルについていた客が、またな、と言って私に手を振り最後に店を出ると、全員でありがとうございました、と声を揃えて挨拶をし、深々と礼をする。ボーイの手によって扉が完全に閉められ、外から入って来ていた夜の冷たい空気が遮断されると、ディーラー達は顔を上げて一斉に深く息を吐いた。
「だぁーっ! 疲れたーっ!!」
「もう足パンッパン!」
「でも楽しかったな」
「うん、楽しかった!」
ディーラー達が、皆口々に今日一日を振り返っているのを見て、私は微笑む。そこへ、パンパンッ、と手を叩く音が鳴り響いた。ロビンさんだ。
「皆、お疲れ様。レストランに軽食とお酒を用意してあるから、明日に響かない程度に、軽く打ち上げにしましょう」
「「「やったー!」」」
「ふふ。スポンサーはオーナーだから、オーナーにお礼を言ってね?」
「「「オーナー! ありがとうございます!!」」」
「ああ……ご苦労だった」
クロコダイルの短い労いの言葉に、ディーラー達は歓喜して、我先にとレストランへ向かう。その後についてゆっくりと歩くロビンさんの背中を、私とクロコダイルは並んで見送った。
「……行くのか」
「……うん。約束だから」
「……そうか」
訊ねたクロコダイルの声からは、昼間のような不機嫌さは感じ取れなかった。感情という色のついていないその声は、凪いだ海を思わせる。落ち着き払ったというよりは、何かを諦めたかのようなその声に、私の胸は押し潰されそうになる。私は思わず、隣で葉巻を燻らせる彼の袖を掴んでいた。
「……なんだ」
「……ねぇ。私の命は、クロコダイルが預かってるんだよね」
「……ああ」
「ってことは、私の心と身体を自由に出来る権利は、クロコダイル以外にはないわけだ」
呟いて、私はとんでもない事を口走ったことに気が付く。慌ててクロコダイルの顔を見上げると、彼は「何を言い出すんだコイツ」とでも言いたげな表情で、私のことを見下ろしていた。私は慌てて弁明する。
「ち、違……っ! えーっと……そう!! 私を自由にしたいなら、『クロコダイルが許可した相手』でないとその権利はないんだよね、ってことを言いたかったの!」
「ほう……? だがまあ、そういう事になるか。だとすれば……」
クロコダイルは、ふうっと葉巻の煙を吐き出すと、口の端を少し上げて意地悪く笑う。
「あの野郎は、却下だ。心の一欠片たりとも、くれてやる必要はない」
「あははっ! そう言うと思った」
「──分かっているなら、早く行け。遅くなって締め出されてェか」
「それは困る!」
慌てて叫んだ私を見て、クロコダイルはクハハ、と笑うと、冗談だ、と言って私に何かを手渡す。
「これは?」
「裏口の鍵だ。明日も店があるんだ、さっさと行って、さっさと帰って来い」
クロコダイルはそう言うと、ポン、と私の背中を押した。私は弾かれたように走り出す。仕事が終わったと電話を入れて、着替えて……メイクは直さなくてもいいか、ドフラミンゴだし。昼間にスモーカーさんから念のために、と言って貰った“カイロウセキ”の銃弾も持って行こう。撃つのは流石にマズいけど……触れさせるだけで能力を無効化出来るらしいから、あの厄介な糸の能力を防げる。
「私」のオーナーであるクロコダイルが、その所有権をドフラミンゴに与えないとするならば。私は私自身を守る義務がある──なんて言う傍らでは、権利とか義務とか、そんな小難しいことはどうでもよくて。たとえ叶わない想いだとしても、クロコダイル以外のものになりたくない。そんな我儘が、私をここまで慎重にさせていることは、百も承知なのだけれど。
......To be continued.
