Chu!
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「ミス・オールサンデー。ミス・アニヴェルセルを見なかったか?」
店のオープンを明日に控え、ミス・オールサンデーは店内の調度品の位置を確認していた。明日からしばらく忙しくなるだろうからディーラー達は今日は休ませるように、と言ってあったのだが、気が逸るのか、所々でカードを切ったりルーレットにボールを投げ入れたりしている者達もいる。だがその中に、探している女の姿は見当たらなかった。
「あら。さっき自分でF-ワニの用意をしておくように言ったんじゃなかったの? 外に向かって行ったけれど」
「ああ、だがそれにしちゃァ遅ェと思ってな。何をちんたらしてやがるんだ……」
今日はこの後、レインベースの他のカジノの経営者連中に挨拶回りに行かなくてはならない。明日に備えてさっさと出掛けてさっさと戻って来たいのだが、F-ワニの準備を任せたネーナが、一向に準備完了の報告をしに戻らないものだから、俺は業を煮やして、自らあの女を探しに来たのだった。
アイツが知る地下に出入りする方法は、店の中を通る他にはない。外に出て行ったっきり見掛けていないとなると、まだ外にいると考えた方が良さそうだ。俺は1つ溜息を吐き、エントランスへと足を向けた。
店の外に出てみれば、途端に黄色い声が上がる。見れば女共がうっとりとした視線をこちらに送っていた。服装から見るに、観光客ではなくこの国の女共のようだ。だとすれば、今後のためにも愛想を振り撒いておいて損はないだろう。目だけはネーナを探しつつ、俺はヒラヒラと手を振ってみせる。その仕草にまた一段と大きい歓声が上がると、辺りにいた者達も、なんだなんだと一斉に振り返った。
(──いやがった)
そんな中、騒ぎに振り返らない後姿があった。あのショートカットの良く似合う後頭部は、間違いなくアイツのものだ。呑気に店を囲む堀の石塀に座っているが、F-ワニの準備は終わったのだろうか。終わっていなければどうしてくれよう、と思った、その時。俺はその向かいに対面して座る男の存在に気が付いた。
(──何故あの野郎が……!)
ふてぶてしい態度。趣味の悪い葉巻。何もかもが気に入らない、あの男。俺の証言を疑って、わざわざここまでネーナを探しに来たというのか。
最悪の事態が頭を過る。ネーナを攫ったのが自分だと露見すれば、王下七武海の権利は当然剥奪され、かの有名な海底監獄・インペルダウン送りになるだろう。そうなれば、巨額を投じて建設したこの店も、この店の売り上げで買おうと持ちかけていた銀の取引も、禁止されているのをわざわざ技術者を高額で雇ってまで立ち上げたダンスパウダーの製造工場も──その先の理想に向けて着々と準備してきたもの全てが、水の泡になる。あの女1人失うだけで、自分の理想とする未来が露と消えてしまうのだ。
(アイツは絶対に渡さねェ……!)
俺はその身を砂に変え、ネーナの元へと急いだ。
何事も、計画性を持って準備をしっかりしてから臨むこと。物事全てに共通する成功法があるとすれば、その一点のみだ。
だが俺は今日、それを怠った。いくら突然のことだったとはいえ、自分が罪に問われないための言い分として、ネーナを「俺の女」などと言ってしまうとは。
まず、状況把握が出来ていなかったのが拙い。後からネーナに言われて初めて知ったのだが、スモーカーはそもそもネーナを連れ戻しに来たのではなかったのだという。捜索願が取り下げられていたことも知らなかった。いや、実のところ、事情を知るステラからは伝書バットが来ていたのだが、忙しさに感けて確認していなかった。今思えば、恐らくそのことについての連絡だったのだと思う。
(国家転覆を目論んでいる人間とは思えない失態だな、サー・クロコダイル──)
F-ワニの背に揺られながら、俺は自戒する。自分が突然のハプニングに弱い一面もあることは分かった。今後は不測の事態に備えて、二重三重の万全の態勢で臨むようにしなくては。改めて、計画性の重要さを認識することが出来たという点においては、今回のことはある意味良い試金石になったと言えよう。
だが、そんな事よりも。スモーカーが帰った後も、ずっと胸の奥に引っ掛かっていることがあった。
(アイツら2人の間に、何があったていうんだ……?)
親しげという程ではないが、他人と呼ぶには不自然な、砕けた空気。スモーカーの言う、ネーナを探していた個人的な事情というのも分からず仕舞いだ。込み入った話なら、放っておいてやった方がいいだろうか。だが俺はアイツの命を預かった身だ。年若い恋人同士のように、相手の全てを知っていないと気が済まない、というわけではないが──
(だとしても。俺の知らないことをあの煙野郎が知っている、というのは面白くねェ……)
ギリ、と葉巻の口を噛み締めたところで目的地に着く。そのままの不機嫌顔でF-ワニを降りた俺に、出迎えの者達の毛穴から一斉に冷や汗が噴き出しただろうことは、想像に難くなかった。
結局。挨拶回りとはいうものの、店の大きさに裏打ちされる資金力を見て、俺に媚びを売ろうと目論んでいたらしい他店の経営者連中に睨みを利かし、「ビジネスに片足を突っ込んでいても、海賊は海賊」ということを教え込んだだけになった。勿論、富を得ても贅を尽くすことにしか興味のない連中なんぞ、端から眼中にはない。質実剛健を旨とするこの国の王へのあてつけのように、王宮そっくりの、それでいて趣味の悪い装飾で彩られた豪邸に住まっているそいつらに、俺は反吐が出る思いだった。
(真似事じゃなく、本気であの王宮を奪ってやったら、アイツらはさぞかし驚くことだろうな)
想像すると笑えたが、その後の擦り寄りっぷりを思うとげんなりする。俺は全ての訪問先を回り終えると、F-ワニに乗って帰路に着いた。
最後の訪問先で是非夕食も、と誘われ、酒にも付き合っていたせいで、店に帰り着く頃にはすっかり夜が更けてしまっていた。アイツはまだ起きているだろうか? 明日に備えて、もう寝てしまっているかもしれない。そうだとしたら、叩き起こしてでも話を聞くのか? この胸にいつまでも居座って離れようとしない異物感を明日以降にまで持ち越したくはないが、そんなに気にしていたのかと思われるのも癪だ。
あれこれ考えているうちに部屋に着き、俺はドアを開ける。部屋の灯りはまだ点いており、見ればネーナはベッドに入って本を読んでいたところだった。
「あ、お帰りなさい」
「……」
