Boy's secret
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「お帰りなさい。首尾はどうだった?」
王宮での会食を終え、レインベースへと帰り着いた頃には、時計の針は既に0時を回っていた。
眠い目を擦っていたネーナを先に部屋へと帰し、支配人室に向かおうとしていたところを、当の本人に声を掛けられる。まったく、神出鬼没な女だ。俺は葉巻に火を点けながら答える。
「フン……悪かねェな。収穫こそなかったが、ネーナが場の雰囲気を和ませるいい働きをした。これで王家とのパイプを強く持てそうだ」
「そう、それは良かった。一緒に行っていたのが私なら、そうはいかなかったと思うわ」
自虐的な言葉とは裏腹に、ニコ・ロビンは顔に笑みを浮かべる。昨日までは見たことのなかった、柔らかな表情。これもネーナの影響なのだろうか。俺はあの少年のような人懐っこい笑顔を思い浮かべて、小さく笑った。
「それはいいとして──ネーナのことだけれど。貴方、これからどうするつもりなの?」
「どうするつもり──とは?」
要領を得ない質問に俺が聞き返すと、ニコ・ロビンは小さく溜息を吐く。腕組みをしながらこちらを見つめるその瞳は、何もかもを見透かすように真っ直ぐだ。俺は反射的に目を逸らす。
「──あの子をB・W の社員にする気なのか、って聞いてるの。ディーラーにすると言って連れて来たのに、コードネームみたいな偽名を与えて、揚句王家と接触まで持たせて──一体どういうつもり?」
「今日の会食はレインディナーズのオーナーとして行ったんだ、看板ディーラーを連れて行ったところでおかしくはないだろう? 社員にするかは検討中だ──どうやら銃を扱えるようだしな」
「……! 私は反対よ。あの子を──危険な目に遭わせたくない」
「ほう、この俺に意見するつもりか? ミス・オールサンデー」
ギロリ、と睨め付けると、ニコ・ロビンはぐっと押し黙る。俺がその名をミス・オールサンデーと呼ぶとき、俺は絶対的に揺らぎえない、B・W の社長というトップの存在になる。その名で呼べば、この賢い女はあくまで自分が「二番手」であることを思い出し、何も口出し出来なくなることを、俺は知っていた。
「心配するな。検討中、と言っただろう。銃だって、持っているのは見たが腕前の程は分からん。腕のねェ奴を組織に引き入れる程、俺は馬鹿じゃァねェ」
「──そう……分かったわ」
俺の言葉に納得したわけではないだろうが、ニコ・ロビンは小さく頷くと、寝室を兼ねている支配人室へと戻っていく。その背中を見送って、俺は深く吸い込んだ葉巻の煙を、長くゆっくりと吐き出した。
(──どうするつもりなのか、だと? そんなこと、こっちが聞きてェぐらいだ──)
頭に被ったままだったスカーフを引き剥がし、撫で付けられた髪をぐしゃぐしゃと掻き毟る。乱れた髪は、今の自分の心を表しているかのようで忌々しかった。
その感情がいつから芽生えていたのかなど、今となってはもう分からない。少なくとも、それをうっすらと意識したのは、ネーナがニコ・ロビンとの買い物を追えて帰ってきた時だと思う。ニコ・ロビンが露出の高い服を着ていてもなんとも思わないのに、アイツの場合は、違った。
それまで黒のディーラー服なんて色気のない格好で、肌をほとんど見せていなかったせいもあるとは思う。露わになった臍の窪みや、短いパンツから覗く色の白い脚は、思わず目を逸らしてしまうには十分過ぎる程扇情的だった。自分以外の前でそれを着るな、と命じたのは、Heaven's Bellでの過去を思えば、そんな姿を他の男の目に触れさせたくないと思ってのことであって、その命を預かった身としては当然の義務のように思っていた。
次にその感情が首を擡げたのは、王宮に着いてからだ。階段は大変だから、といって、ペルという護衛隊の副官の背に乗って王宮まで上がる、ということになった時──俺は心の奥がざわつくのを感じた。「男に乗る」という字面だけで既に腹立たしいというのに、その相手がまさか“動物 系”の中でも「鳥」の能力者だとは。どこぞの浮かれたピンクの鳥野郎を思い出して不愉快になる。
だが実際、あの長い階段をネーナに上らせるのは非現実的だと思ったし、では自分がネーナを攫ったときのように抱えて行く、というのも、ここの連中の好奇の目に晒されてしまうだろう。そこで、チャカの提案とペルの勧めを頑なに固辞しようとするネーナを窘めて、ペルに預けることにした──のだが。
(「あれ」は流石に、独占欲と取られてもしょうがねェな……)
ネーナを背に乗せて飛び立とうとするペルに向かって、俺はネーナに怪我をさせるな、という忠告と共に、彼女の「体重」のことに触れた。無意識に口をついて出たことだったのだが、後になって自分がとんでもないことを口走っていたことに気が付いた。
(その女の「重さ」を知っているなんざ、抱えたことがあるか、「乗せた」ことがあると宣言してるようなモンじゃねェか……)
チャカと2人で階段を上っているときに自分のしでかしたことに気が付いた俺は、あの実直そうな青年がその言葉の裏にある意図に思い当ったかは分からなかったが、その後の会食では殆どペルとは目を合わせることが出来なかった。
決定的だったのは、会食が始まってからだ。俺は自分の目的──理想国家の建国に不可欠な要素の1つである古代兵器、“プルトン”の情報を少しでも得ようと、積極的に王と酒を酌み交わした。平和ボケしたこの国のトップに立つ男は、目の前の男が海賊であることも忘れてしまっているのか、呑気にその杯を受けている。俺の目的はそう遠くない未来に実現する──そう思えた。
だが、酒に酔ってはいても、そこはやはり一国の王たる人物。俺が言葉巧みに世界情勢の話題や、世界政府加盟国のパワーバランスについての話題を振っても、「それ」のことには全く触れようとしない。まぁ、彼が国家の機密事項をこんな宴席でバラしてしまうような愚かな王であれば、この先計画している全てを今すぐ投げ出して、この場で干からびさせてやってもいいくらいなのだが。お楽しみは後に取っておいた方がいいしな、と、俺はこの国にこれから訪れる悲劇を思ってほくそ笑む。
酒による高揚感で饒舌になった王の口からよく出てくるのは、その傍らに座ってネーナとの会話を楽しむ王女の話だった。亡き王妃との忘れ形見である彼女のことが可愛くてしょうがないらしい。“世界会議 ”のときに他国の王にぶたれても毅然としていたという話などは情感たっぷりに聞かせてみせ、後ろで聞いていた護衛隊の連中などは涙している者もいたぐらいだ。
王宮での会食を終え、レインベースへと帰り着いた頃には、時計の針は既に0時を回っていた。
眠い目を擦っていたネーナを先に部屋へと帰し、支配人室に向かおうとしていたところを、当の本人に声を掛けられる。まったく、神出鬼没な女だ。俺は葉巻に火を点けながら答える。
「フン……悪かねェな。収穫こそなかったが、ネーナが場の雰囲気を和ませるいい働きをした。これで王家とのパイプを強く持てそうだ」
「そう、それは良かった。一緒に行っていたのが私なら、そうはいかなかったと思うわ」
自虐的な言葉とは裏腹に、ニコ・ロビンは顔に笑みを浮かべる。昨日までは見たことのなかった、柔らかな表情。これもネーナの影響なのだろうか。俺はあの少年のような人懐っこい笑顔を思い浮かべて、小さく笑った。
「それはいいとして──ネーナのことだけれど。貴方、これからどうするつもりなの?」
「どうするつもり──とは?」
要領を得ない質問に俺が聞き返すと、ニコ・ロビンは小さく溜息を吐く。腕組みをしながらこちらを見つめるその瞳は、何もかもを見透かすように真っ直ぐだ。俺は反射的に目を逸らす。
「──あの子を
「今日の会食はレインディナーズのオーナーとして行ったんだ、看板ディーラーを連れて行ったところでおかしくはないだろう? 社員にするかは検討中だ──どうやら銃を扱えるようだしな」
「……! 私は反対よ。あの子を──危険な目に遭わせたくない」
「ほう、この俺に意見するつもりか? ミス・オールサンデー」
ギロリ、と睨め付けると、ニコ・ロビンはぐっと押し黙る。俺がその名をミス・オールサンデーと呼ぶとき、俺は絶対的に揺らぎえない、
「心配するな。検討中、と言っただろう。銃だって、持っているのは見たが腕前の程は分からん。腕のねェ奴を組織に引き入れる程、俺は馬鹿じゃァねェ」
「──そう……分かったわ」
俺の言葉に納得したわけではないだろうが、ニコ・ロビンは小さく頷くと、寝室を兼ねている支配人室へと戻っていく。その背中を見送って、俺は深く吸い込んだ葉巻の煙を、長くゆっくりと吐き出した。
(──どうするつもりなのか、だと? そんなこと、こっちが聞きてェぐらいだ──)
頭に被ったままだったスカーフを引き剥がし、撫で付けられた髪をぐしゃぐしゃと掻き毟る。乱れた髪は、今の自分の心を表しているかのようで忌々しかった。
その感情がいつから芽生えていたのかなど、今となってはもう分からない。少なくとも、それをうっすらと意識したのは、ネーナがニコ・ロビンとの買い物を追えて帰ってきた時だと思う。ニコ・ロビンが露出の高い服を着ていてもなんとも思わないのに、アイツの場合は、違った。
それまで黒のディーラー服なんて色気のない格好で、肌をほとんど見せていなかったせいもあるとは思う。露わになった臍の窪みや、短いパンツから覗く色の白い脚は、思わず目を逸らしてしまうには十分過ぎる程扇情的だった。自分以外の前でそれを着るな、と命じたのは、Heaven's Bellでの過去を思えば、そんな姿を他の男の目に触れさせたくないと思ってのことであって、その命を預かった身としては当然の義務のように思っていた。
次にその感情が首を擡げたのは、王宮に着いてからだ。階段は大変だから、といって、ペルという護衛隊の副官の背に乗って王宮まで上がる、ということになった時──俺は心の奥がざわつくのを感じた。「男に乗る」という字面だけで既に腹立たしいというのに、その相手がまさか“
だが実際、あの長い階段をネーナに上らせるのは非現実的だと思ったし、では自分がネーナを攫ったときのように抱えて行く、というのも、ここの連中の好奇の目に晒されてしまうだろう。そこで、チャカの提案とペルの勧めを頑なに固辞しようとするネーナを窘めて、ペルに預けることにした──のだが。
(「あれ」は流石に、独占欲と取られてもしょうがねェな……)
ネーナを背に乗せて飛び立とうとするペルに向かって、俺はネーナに怪我をさせるな、という忠告と共に、彼女の「体重」のことに触れた。無意識に口をついて出たことだったのだが、後になって自分がとんでもないことを口走っていたことに気が付いた。
(その女の「重さ」を知っているなんざ、抱えたことがあるか、「乗せた」ことがあると宣言してるようなモンじゃねェか……)
チャカと2人で階段を上っているときに自分のしでかしたことに気が付いた俺は、あの実直そうな青年がその言葉の裏にある意図に思い当ったかは分からなかったが、その後の会食では殆どペルとは目を合わせることが出来なかった。
決定的だったのは、会食が始まってからだ。俺は自分の目的──理想国家の建国に不可欠な要素の1つである古代兵器、“プルトン”の情報を少しでも得ようと、積極的に王と酒を酌み交わした。平和ボケしたこの国のトップに立つ男は、目の前の男が海賊であることも忘れてしまっているのか、呑気にその杯を受けている。俺の目的はそう遠くない未来に実現する──そう思えた。
だが、酒に酔ってはいても、そこはやはり一国の王たる人物。俺が言葉巧みに世界情勢の話題や、世界政府加盟国のパワーバランスについての話題を振っても、「それ」のことには全く触れようとしない。まぁ、彼が国家の機密事項をこんな宴席でバラしてしまうような愚かな王であれば、この先計画している全てを今すぐ投げ出して、この場で干からびさせてやってもいいくらいなのだが。お楽しみは後に取っておいた方がいいしな、と、俺はこの国にこれから訪れる悲劇を思ってほくそ笑む。
酒による高揚感で饒舌になった王の口からよく出てくるのは、その傍らに座ってネーナとの会話を楽しむ王女の話だった。亡き王妃との忘れ形見である彼女のことが可愛くてしょうがないらしい。“
