女の子の秘密
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隼と言われて、私の脳裏にはペルさんが思い浮かんでいた。とすると、チャカさんはジャッカルの悪魔の実の能力者なのかも……? そんな出来過ぎた話があるだろうか、と思いながら私は小さく笑った。ビビちゃんはこっちこっち、と言ってその石盤が守っている扉の元に歩いていく。唯一の灯りが遠のいていき、私は慌ててその後に続いた。
ビビちゃんが扉を押すと、それはガコォン、と鈍い音を立てて開いた。入って、と促されるがまま室内へと歩みを進める。足音の響き具合からして、結構な広さを持つ部屋であることが窺えた。
ビビちゃんは、おっかなびっくり歩く私とは裏腹に、スタスタと慣れた様子で部屋の中へと入っていく。そしてピタリと足を止めると、これまで足元を照らしていたカンテラを、すっと肩の位置まで持ち上げた。
カンテラの明かりに照らされてそこに浮かび上がったのは、綺麗な立方体にカッティングされた碑文らしき物だった。その表面には、記号の羅列のようなものが記されている。私には「それ」が何なのか到底想像もつかなかったが、「それ」は不思議な存在感を漂わせていた。
「ここは王家のお墓で、ママが眠っているの。ママに話を聞いてもらいたい時にたまに来ていたんだけど、パパにはお墓参りの時以外は来ちゃダメだって怒られてて。でもこれからはアニーさんがママに代わって話を聞いてくれるから、もう怒られなくて済むわ」
ビビちゃんはそう言って微笑むと、静かに碑文に触れる。カンテラの明かりに照らされた横顔は、実年齢より随分と大人びて見え、とても穏やかだった。
「さ、戻りましょ! ママにもアニーさんのことを紹介したかったの。素敵なお姉さんが出来たのよ、って」
私の方を振り返ってえへへ、と笑ったビビちゃんの顔は、すっかり年相応のものになっていた。私もつられて笑う。元来た道を引き返すビビちゃんの後を追おうとして、私は足を止める。そして今一度、碑文の方に向き直って、私はペコリとお辞儀をした。
(これからも、ビビちゃんの成長と、私もすっかり大好きになったこの国のことを、見守っていてください──)
心の中でそう呟き、私は葬祭殿を後にした。
私達はどちらからともなくまた手を繋ぎ、元来た道を引き返して王宮へと戻った。その途中で、そのまま部屋に戻るというビビちゃんとは別れた。また会おうね、と言って手を振ってくれた可愛らしい少女に、私は社交辞令でも何でもなく、心からまた会いたいと思った。
会食の会場となった大食堂へと続く長い廊下を独り歩いていると、会場の扉の前に見覚えのある人物が佇んでいた。大食堂まではまだ少し距離があるはずなのに、遠近感がおかしいんだよなぁ……と、思わず笑ってしまう。
「──何処へ行っていた」
私が声の届く位置まで来たのを見届けるようにして、クロコダイルが尋ねる。葉巻をふかすその横顔は、酔っているのかほんのりと薄紅に染まっていた。とろん、と潤んだ瞳が、私のそれを捕らえる。あまりの艶っぽさに、私は目が離せなかった。
「──おい」
「あ、ごめん……! ちょっと、お……」
王女様と葬祭殿に行っていたの、と言いかけて、はた、と口を噤む。ビビちゃんは、あそこを秘密の場所だと言っていた。初めて会った自分のような人間にそれを教えてくれたということは、彼女は私を多分に信用してくれている。その信用の芽を摘み取ってしまうわけにはいかない。
「お酒臭くてかなわなかったから、外の空気を吸いに行ってたの」
「クハハ、そうか。この国の酒は美味いんだが、度数が強いな……お前は平気なのか、ネーナ。そこそこ飲んでいたようだったが」
「え、全然平気だけど」
けろりと答える私を、クロコダイルは嘘だろ、という目で見る。そんな目で見られても、平気なものは平気なんだからしょうがない。
「さて……酔っ払い共の相手にもいい加減疲れた。そろそろ帰るか?」
そうね、と頷いた私を見て、クロコダイルも頷く。大食堂への扉を開けながら、彼はぽつりと呟いた。
「収穫もなかったことだしな……」
......To be continued.