英雄と王
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恭しく腰を折って一礼したクロコダイルを迎えたのは、特徴的な顎髭を蓄えた壮年の男性だった。緑色のローブにゆったりと身を包み、その上からは紫色のロングコートを羽織っている。想像していた、絵本に出てくるような豪奢な出で立ちの「王様」とは違って簡素なその姿に、私は思わず目を丸くした。
王は使用人にも気さくに声を掛けたり、使用人を制して自らクロコダイルに椅子を引いてみせたりと、あらゆるところから人柄の良さが滲み出ていた。こういう王だからこそ、この砂漠の国は、その気候の厳しさにも関わらず、人が集まるのだろうな、と思う。
「そちらが、支配人のミス・オールサンデー君だったか。初めまして。君も、さあ、こちらへ」
「あ、えっと──」
「いや、支配人は急な仕事が入って来れなくなってしまったのです。これはミス・アニヴェルセル。うちの看板ディーラーです。ミス・アニヴェルセル、王にご挨拶を」
急な予定変更が王には伝わっておらず、クロコダイルが訂正する。私はクロコダイルに倣って王に一礼をし、姿勢を正して名乗った。
「初めまして。御目にかかれて光栄です、王。本日は支配人に代わってご挨拶をさせていただきます、ミス・アニヴェルセルと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「ああ、そうだったのか。失礼、ミス・アニヴェルセル君。噂に聞いていたより随分可愛らしい方だな、と思っていたのだ。私はネフェルタリ・コブラ。僭越ながら、この国の王を務めさせてもらっているよ」
ハハハ、と笑って、コブラ王は私の手を固く握る。Heaven's BellでV.I.P.の相手をしていた頃に取った杵柄を活かして、一国の王相手にも辛うじて挨拶を出来たところまでは良かったのだが、笑顔でサラリと「可愛らしい」などと言われて、私の耳は気恥ずかしさで途端に赤くなる。勿体ないお言葉です、などと言って謙遜する私の背後からは、何故かクロコダイルの刺すような視線を感じた。
「王……ン゛ンッ、マーマー♪」
「ああ、済まないイガラム。料理が冷めてしまうな。さあ、ミス・アニヴェルセル君。君はこちらの席へ掛けてくれたまえ」
思わず二度見してしまうほどの芸術的な巻き毛の男性に声を掛けられて、王はテーブルの反対側の空席を手で指し示してくれる。ありがとうございます、と礼を言い、長いテーブルの反対側へぐるりと回ると、ペルさんが椅子を引いて待っていてくれた。
一礼して席に着くと、隣の席には10歳くらいの利発そうな少女が行儀よく座っていた。彼女は私と目が合うと、ニッコリと微笑んだ。王の娘さん、なのだろうか? 賑やかなのが嬉しいのか、ほんのりと頬を上気させて、視線を忙しなく廻らせている。そんな中、1つ咳払いをして王が立ち上がり、皆が注目すると朗々と話し始めた。
「あー、それでは。クロコダイル君、今日は忙しい中ご足労いただき、感謝する。皆知っての通り、1週間後、レインベースにクロコダイル君がオーナーを務めるカジノ、レインディナーズがオープンする。王下七武海であり、この国で『英雄』と呼ばれる君が、このように我が国に拠点を置いてくれることは、ひいては我が国の平和と発展に繋がるだろう」
王の言葉に、ちら、と向かいに座るクロコダイルを見る。王をじっと見つめるその横顔は、口元には笑みが浮かんでいるものの、目はどこか獲物を狙う鰐のような輝きを湛えていた。王はそんなことはお構い無しに話を続ける。
「今日はクロコダイル君の他にもう1人、レインディナーズの看板ディーラー、ミス・アニヴェルセル君も来てくれている。酒の肴に、カジノで勝つコツを是非ともご教示願いたい」
その場に居合わせた者達が、皆ドッと笑い出す。クロコダイルも、クッハッハ、と声を上げて笑っていた。王はその姿を見ると満足したのか、手元のシャンパングラスを取った。それを合図に、皆がグラスを手に取る。王が話している間に注がれていた乾杯酒は、琥珀色に輝きながら、小さな星屑のような気泡を浮かべており、フワリと香るその上品な香りに、私はうっとりとした。
「それでは、レインディナーズの今後の発展を願い──乾杯!」
「「「乾杯!」」」
乾杯の合図と共に、末席の方に設えられたドアから女性達が料理を持ってぞろぞろと現れる。先頭に立つ女性は、先程王に声を掛けた男性と同じくらい芸術的な巻き毛だ。次々と目の前に並べられていく豪勢な料理に、私はただただ圧倒されていた。
クロコダイルが王とグラスを合わせるのを見届けて、私もグラスを取って自分の席を立ち、王の元へと向かう。軽く一礼をすると、王はにっこりと笑顔で私を迎えてくれた。
「本日はこのような素晴らしい席にお招きくださり、ありがとうございます」
「あー、ミス・アニヴェルセル君。今日は私達が君達をもてなしているのだ、堅苦しいのはよしてくれ。君達の店が出来るおかげで、レインベースはまた一層賑やかな街になるだろう。期待しているよ」
「勿体無いお言葉でございます。クロコダイルと共に、この国の発展に尽くせたらと思っておりますので、どうぞよろしくお願い致します」
グラスを軽く合わせ、席へと戻ろうとすると、王が背後から声を掛けた。
「ああ、ミス・アニヴェルセル君。これは私の娘のビビだ。将来は君のような淑女になってもらいたいのだが、お転婆が過ぎて困っているんだ。よろしくしてやってくれ」
「もう! パパったら、失礼ね!!」
王の言葉に被せるようにして、元気な声があがる。ふと見れば、先程の少女が私を見つめてニッコリと笑っていた。
「ネフェルタリ・ビビです。初めまして!」
「初めまして、ビビ王女。私はミス・アニヴェルセルと申します」
「ミス・アニベ……? うーん……アニーさんね! よろしくお願いします!!」
私は腰を屈め、座ったままの王女と視線の高さを合わせて話す。大きな丸い瞳が、私の姿を映してキラキラと輝いていた。この国の未来をそのまま映したかのような、綺麗な瞳。ニックネームまで付けてもらって打ち解けた私達2人を、王を含めた全員がニコニコと眺めていた。
席へ戻ると、クロコダイルに乾杯を求めに行っていたチャカさんにペルさん、そして巻き毛の男性が列を成して私のことを待っていた。チャカさんとペルさんとは先程顔を合わせていたし、言葉少なにグラスを合わせる。最後にやって来たのは、巻き毛の男性。私はすっかり、その芸術的な髪の毛に釘付けになっていた。
