憂える向日葵
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「この子はF-ワニといって、アラバスタでは2番目に足の速い生き物と言われているわ。安心して、こう見えて穏やかな性格だから」
「へぇ……」
F-ワニを正面から見てみると、その大きな口の上はバナナのような造形をしていた。何だろう、と思い手を伸ばすと、ミス・オールサンデーがそれを止めた。
「撫でるなら横からにしてあげて。彼らは自分の行く手を阻むものには攻撃的だから、正面からだと噛みつかれちゃうわよ」
「……!」
慌てて手を引っ込める私に、ミス・オールサンデーは優しく微笑みかける。今まさに命の危機にあったことなどまったく気にしていないかのような笑みに、私もひきつった笑顔を返した。
ミス・オールサンデーはF-ワニの胴体についた鐙に足を掛けると、ヒラリとその背に乗った。私も真似して背中に上がる。F-ワニの背中には、椅子とそれを覆うガラスの屋根が設えてある。座席は縦に2つ並んでおり、ミス・オールサンデーが前に座った。私もそれに続いて後ろの席に腰掛ける。
「まずは街で服を揃えましょ。その格好じゃ、砂漠の気温差には耐えられないわ」
「そういえば、ミス・オールサンデーもクロコダイルも、こんなに暑いのにコートを着てますよね」
「もうあと数時間もすれば、日が落ちて急に寒くなるのよ。早く慣れた方がいいわ」
そう言うと、ミス・オールサンデーは手元にあったハンドルのようなものを引いた。ガラスの屋根の外でピシャリ、と鞭の鳴る音がして、F-ワニが一際大きな声で喉を鳴らしたかと思うと、彼は砂を蹴散らして走り出した。急激な加速に、体がつんのめる。ミス・オールサンデーは、そんな私の様子を見て、楽しそうに微笑んでいた。
「それはそうと……どうして私の本名を知っていたんですか? ミス・オールサンデー」
F-ワニの走るスピードに体が慣れてきたので、私はふと抱いた疑問を前に座る美しい女性に投げ掛けてみた。彼女は前を向いたまま答える。
「今朝のニュース・クーで見たのよ。ボスがうちの看板ディーラーを探しているのは知っていたから、これはきっと彼の仕業ね、と思っていたの」
「そうだったんですね……」
あんなに小さな記事まで漏らさず読んでいたとは、その容貌から窺える知性は本物らしい。私は素直に感心した。
「ボスが連れてきたのがあなたみたいな人で良かったわ。ボスもあなたを気に入っているようだし、改めて、これからよろしくね。ネーナ」
「こちらこそ、よろしくお願いします──って、私、あの人に気に入られてなんかないですよ? さっきだってああやって、空から放り投げられたし……」
「あら、そんなことないわよ。気付いてない?」
「……? 何がですか……?」
ミス・オールサンデーが驚いたようにこちらを振り返る。私が首を傾げると、彼女はクスクスと笑い、前に向き直った。
「気付いてないなら、いいわ。その時が来たら、教えてあげる」
「えぇっ、何ですか、それ?! 気になる……! ヒント!! ヒントをください!」
「ヒント? そうねぇ……『名前』、かしら」
これ以上は言えないわ、と、ミス・オールサンデーは人差し指を口の前に立て、ナイショの仕草をして笑う。その姿がとても可愛らしくて、何故クロコダイルはこの女性をいけ好かない、などと言うのかが益々分からなくなる。うーん、と首を捻る私を見るミス・オールサンデーは、とても楽しそうだ。
「ねぇ、ネーナ。私も、あなたのこと、気に入っちゃったみたい」
「え? あ、ありがとうございます……」
なんだか、照れる……。女性相手なのに、何故か顔を赤らめてしまう。
「店の外ではこうやって、ネーナって呼んでもいいかしら?」
「えぇ、それは勿論」
「ありがとう。そうしたら、私だけ本当の名前を名乗らずにいるのはフェアじゃないわね」
「え? 支配人も偽名だったんですか?」
「私のは偽名とは少し違うけれど……」
先程から少しスピードを緩めていたF-ワニが、完全にその進行を止める。目的地に着いたらしい。それを合図にするように、ミス・オールサンデーは口を開いた。
「私の本当の名前は、ロビン。ニコ・ロビンよ」
......To be continued.