歌詞シリーズ
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液晶の淡い光が薄暗い部屋の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせていた。
電子機器の排熱の音と規則的なキーボードの打鍵音だけが響く空間。
普段なら他人の立ち入りを極端に嫌うその場所に、今は二人の影がある。
「あの、イデア先輩。ここ、どうしてもエラーが出ちゃって」
差し出されたタブレットの画面を覗き込み、イデアはわずかに眉をひそめた。今日の彼はどこか静かだった。肩にかかる青い髪が、微かな空気の振動で揺れる。
「……あー、これ。閉じタグが抜けてる。ほら、ここ」
「あ、本当だ。気づきませんでした」
「ななし氏は、こういう細かいところでいつも足元をすくわれる。もっと引いて見ないと」
そう言ってイデアは身を乗り出して画面を指差した。
その瞬間、彼のまとった空気がふわりと動く。
「すみません。次は気をつけます」
「謝らなくていい。僕が勝手に見てるだけだし」
イデアはすぐに視線を自分のモニターへと戻した。
しかし、その指先はキーボードの上でぴたりと止まっている。
画面に映る複雑なコードを見つめる彼の瞳は、暗がりの中で不思議な深みを持って見えた。
「……ななし氏」
「はい?」
「疲れたなら、もう戻れば。別に今日中に終わらせなきゃいけないタスクでもないでしょ」
「そうなんですけど……、もう少しだけ進めたいです。先輩が付き合ってくれるなら」
「……そういう言い方は語弊があるというか……」
ぼそぼそと呟く声はいつもの調子だったが、そこにトゲは一切なかった。
むしろ差し出された言葉を丁寧に咀嚼しているような奇妙な間がある。
イデアは椅子の背もたれに体重を預け天井を見上げた。
「僕みたいな陰キャと一緒にいても、何も面白くないと思うけど」
「そんなことないです。わたし先輩とこうして話してるの、嫌いじゃないですから」
「……おめでたい頭をしてるっすなぁ。そういうのを世間では都合のいい関係って言うんだよ」
自嘲気味に笑う彼の横顔はディスプレイの青白い光に照らされて、どこか現実味を欠いていた。
妄想と現実の境界線に立っているような危ういバランス。
二人の間に流れる時間は確かにどこか歪んでいた。
お互いに踏み込みすぎず、かといって離れもしない。
まるで傷を舐め合うための同盟を言葉にせず結んでいるかのように。
「都合がよくても、構いません。今は」
「……まあ、ななし氏がそう言うなら、別に止めないけど」
イデアは再びキーボードに手を置いた。
カタカタと静かな音が再開される。
その音は二人の間にある曖昧な距離感を、少しずつ、しかし確実に埋めていくように響いていた。
まだ熱を帯びる前の、ほんのりとした予感だけが狭い部屋の空気を満たしていく。
「……構わない、って」
「はい」
「どういう意味で言ってるわけ? 僕がどんな人間か、分かってて言ってる?」
イデアの声は低く、そしてどこか掠れていた。
いつもの捲し立てるような早口は完全に影を潜め、感情の輪郭がそのまま剥き出しになったような響き。
彼はゆっくりと首を巡らせ、ななしを見つめた。
薄暗がりのなかで、彼の瞳がじっとななしを捉える。その色彩は、部屋を満たすモニターの青に溶けているようで、同時にひどく鮮烈に熱を持って揺れていた。
「分かってます。イデア先輩は、先輩です」
「ずるい。そういう曖昧な言葉で僕を煙に巻こうとするの、本当にずるい」
イデアは自嘲するように唇の端を上げたが、その表情はすぐに歪んだ。
彼は細い指先で自分の胸元を強く掴む。
まるで、そこに溢れそうになっている何事かを無理やり抑え込んでいるかのように。
「僕は、君が思うような綺麗な存在じゃないよ。君の優しさや寂しさに付け込んで、自分の都合のいいように解釈して、頭の中で何回も、何十回も……君の存在を都合よく消費してる。これ、ただの汚い妄想だからね」
「……わたしのほうこそ、先輩に甘えているだけかもしれません」
「甘え、ね。じゃあ、お互い様ってこと?」
イデアがふっと息を漏らす。
吐息がすぐ近くで肌をかすめたかのような錯覚を抱かせる。
言葉が交わされるたびに部屋の温度が上がっていく。
いや、上がっているのは部屋の温度ではなく、二人の間にある物理的な距離と皮膚の感覚だった。
「傷つけ合って、慰め合って、それで何かを生み出した気になってる。僕たちのやってることって、ただの感傷の押し付け合い。代償を払い合ってるだけの、歪んだ関係性だよ」
「それでも、わたしはここにいたいです」
「……あーあ。本当に、バカなのかな」
イデアの手が、ゆっくりと動いた。
長い指先がデスクの上に置かれたななしの手に、じわじわと染み込んでいく。
直接肌は触れ合っていない。
それなのにイデアの体温が微かな空気の対流となってななしの皮膚にじわじわと染み込んでくる。
「引き返せなくなっても、僕は知らないからね」
低く落とされた声が鼓膜の奥を直接揺らした。
言葉の痛みに胸が締め付けられるのと同時に、指先が痺れるような甘い熱がじわりと身体の芯へ広がっていく。
互いのエゴと傷を差し出し合う引き返せない契約の幕が、静かに上がり始めていた。
限界まで狭まった二人の空間には、もう言い訳を挟む隙間など残されていなかった。
思考すら止まってしまったかのような静寂が部屋を支配している。ただ、お互いの呼吸が重なる音だけが、ひどく鮮明に鼓膜を震わせていた。
「もう、終わり。これ以上は、絶対に一線を越える」
イデアの口から漏れたのは拒絶ではなく、自身の境界が決壊していくのをただ見つめるような諦念の混じった呟きだった。
その指先が、ついに微かな距離を埋めて重ねられる。
肌と肌が触れ合った瞬間、言葉にならない熱が互いの内側へとなだれ込んでいった。冷え切っているはずの彼の指先は驚くほど熱く、そして微かに震えている。
「イデア先輩……」
「呼ばないで。名前を呼ばれたら、僕の頭の中の都合のいい妄想が全部本物になりそう」
イデアは顔を背けようとしたが、その視線は吸い寄せられるように再び目の前の存在へと戻された。
ディスプレイの光を反射する彼の瞳は、もはや何色とも識別できないほどに深く、ただ狂おしいほどの執着と、それと同じだけの臆病さを映し出している。
傷つくことを恐れる彼が、自らその柔らかい内面を曝け出し、差し出している。その事実が二人の間の空気をどこまでも濃密に重くしていった。
「これは、ただの寂しさの代償。お互いに都合のいい夢を見ているだけ。……そう言い聞かせないと、僕は君を壊してしまう」
「壊れても、構わないと言ったら?」
「……そんなの、ただの感傷に酔ってるだけでしょ。後で絶対に後悔する」
言いながらも、イデアの手は離れるどころか、さらに力を増して指の隙間を埋めるように深く絡め合わされた。
互いのエゴが痛いほどの熱となって皮膚を媒介し、融解していく。
どれほど言葉を尽くしても決して交わることのない二人が、唯一許された一瞬の共鳴だった。
部屋に満ちるイデアに固有の微かな気配が、いっそう深く五感を満たす。
これが救いなのか、あるいは破滅への契約なのか、どちらでもよかった。
ただ互いの存在を内面の奥深くへと刻みつけるように、二人は静かに、しかし深く、その濃密な熱の渦へと沈んでいった。
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Song by DECO*27
電子機器の排熱の音と規則的なキーボードの打鍵音だけが響く空間。
普段なら他人の立ち入りを極端に嫌うその場所に、今は二人の影がある。
「あの、イデア先輩。ここ、どうしてもエラーが出ちゃって」
差し出されたタブレットの画面を覗き込み、イデアはわずかに眉をひそめた。今日の彼はどこか静かだった。肩にかかる青い髪が、微かな空気の振動で揺れる。
「……あー、これ。閉じタグが抜けてる。ほら、ここ」
「あ、本当だ。気づきませんでした」
「ななし氏は、こういう細かいところでいつも足元をすくわれる。もっと引いて見ないと」
そう言ってイデアは身を乗り出して画面を指差した。
その瞬間、彼のまとった空気がふわりと動く。
「すみません。次は気をつけます」
「謝らなくていい。僕が勝手に見てるだけだし」
イデアはすぐに視線を自分のモニターへと戻した。
しかし、その指先はキーボードの上でぴたりと止まっている。
画面に映る複雑なコードを見つめる彼の瞳は、暗がりの中で不思議な深みを持って見えた。
「……ななし氏」
「はい?」
「疲れたなら、もう戻れば。別に今日中に終わらせなきゃいけないタスクでもないでしょ」
「そうなんですけど……、もう少しだけ進めたいです。先輩が付き合ってくれるなら」
「……そういう言い方は語弊があるというか……」
ぼそぼそと呟く声はいつもの調子だったが、そこにトゲは一切なかった。
むしろ差し出された言葉を丁寧に咀嚼しているような奇妙な間がある。
イデアは椅子の背もたれに体重を預け天井を見上げた。
「僕みたいな陰キャと一緒にいても、何も面白くないと思うけど」
「そんなことないです。わたし先輩とこうして話してるの、嫌いじゃないですから」
「……おめでたい頭をしてるっすなぁ。そういうのを世間では都合のいい関係って言うんだよ」
自嘲気味に笑う彼の横顔はディスプレイの青白い光に照らされて、どこか現実味を欠いていた。
妄想と現実の境界線に立っているような危ういバランス。
二人の間に流れる時間は確かにどこか歪んでいた。
お互いに踏み込みすぎず、かといって離れもしない。
まるで傷を舐め合うための同盟を言葉にせず結んでいるかのように。
「都合がよくても、構いません。今は」
「……まあ、ななし氏がそう言うなら、別に止めないけど」
イデアは再びキーボードに手を置いた。
カタカタと静かな音が再開される。
その音は二人の間にある曖昧な距離感を、少しずつ、しかし確実に埋めていくように響いていた。
まだ熱を帯びる前の、ほんのりとした予感だけが狭い部屋の空気を満たしていく。
「……構わない、って」
「はい」
「どういう意味で言ってるわけ? 僕がどんな人間か、分かってて言ってる?」
イデアの声は低く、そしてどこか掠れていた。
いつもの捲し立てるような早口は完全に影を潜め、感情の輪郭がそのまま剥き出しになったような響き。
彼はゆっくりと首を巡らせ、ななしを見つめた。
薄暗がりのなかで、彼の瞳がじっとななしを捉える。その色彩は、部屋を満たすモニターの青に溶けているようで、同時にひどく鮮烈に熱を持って揺れていた。
「分かってます。イデア先輩は、先輩です」
「ずるい。そういう曖昧な言葉で僕を煙に巻こうとするの、本当にずるい」
イデアは自嘲するように唇の端を上げたが、その表情はすぐに歪んだ。
彼は細い指先で自分の胸元を強く掴む。
まるで、そこに溢れそうになっている何事かを無理やり抑え込んでいるかのように。
「僕は、君が思うような綺麗な存在じゃないよ。君の優しさや寂しさに付け込んで、自分の都合のいいように解釈して、頭の中で何回も、何十回も……君の存在を都合よく消費してる。これ、ただの汚い妄想だからね」
「……わたしのほうこそ、先輩に甘えているだけかもしれません」
「甘え、ね。じゃあ、お互い様ってこと?」
イデアがふっと息を漏らす。
吐息がすぐ近くで肌をかすめたかのような錯覚を抱かせる。
言葉が交わされるたびに部屋の温度が上がっていく。
いや、上がっているのは部屋の温度ではなく、二人の間にある物理的な距離と皮膚の感覚だった。
「傷つけ合って、慰め合って、それで何かを生み出した気になってる。僕たちのやってることって、ただの感傷の押し付け合い。代償を払い合ってるだけの、歪んだ関係性だよ」
「それでも、わたしはここにいたいです」
「……あーあ。本当に、バカなのかな」
イデアの手が、ゆっくりと動いた。
長い指先がデスクの上に置かれたななしの手に、じわじわと染み込んでいく。
直接肌は触れ合っていない。
それなのにイデアの体温が微かな空気の対流となってななしの皮膚にじわじわと染み込んでくる。
「引き返せなくなっても、僕は知らないからね」
低く落とされた声が鼓膜の奥を直接揺らした。
言葉の痛みに胸が締め付けられるのと同時に、指先が痺れるような甘い熱がじわりと身体の芯へ広がっていく。
互いのエゴと傷を差し出し合う引き返せない契約の幕が、静かに上がり始めていた。
限界まで狭まった二人の空間には、もう言い訳を挟む隙間など残されていなかった。
思考すら止まってしまったかのような静寂が部屋を支配している。ただ、お互いの呼吸が重なる音だけが、ひどく鮮明に鼓膜を震わせていた。
「もう、終わり。これ以上は、絶対に一線を越える」
イデアの口から漏れたのは拒絶ではなく、自身の境界が決壊していくのをただ見つめるような諦念の混じった呟きだった。
その指先が、ついに微かな距離を埋めて重ねられる。
肌と肌が触れ合った瞬間、言葉にならない熱が互いの内側へとなだれ込んでいった。冷え切っているはずの彼の指先は驚くほど熱く、そして微かに震えている。
「イデア先輩……」
「呼ばないで。名前を呼ばれたら、僕の頭の中の都合のいい妄想が全部本物になりそう」
イデアは顔を背けようとしたが、その視線は吸い寄せられるように再び目の前の存在へと戻された。
ディスプレイの光を反射する彼の瞳は、もはや何色とも識別できないほどに深く、ただ狂おしいほどの執着と、それと同じだけの臆病さを映し出している。
傷つくことを恐れる彼が、自らその柔らかい内面を曝け出し、差し出している。その事実が二人の間の空気をどこまでも濃密に重くしていった。
「これは、ただの寂しさの代償。お互いに都合のいい夢を見ているだけ。……そう言い聞かせないと、僕は君を壊してしまう」
「壊れても、構わないと言ったら?」
「……そんなの、ただの感傷に酔ってるだけでしょ。後で絶対に後悔する」
言いながらも、イデアの手は離れるどころか、さらに力を増して指の隙間を埋めるように深く絡め合わされた。
互いのエゴが痛いほどの熱となって皮膚を媒介し、融解していく。
どれほど言葉を尽くしても決して交わることのない二人が、唯一許された一瞬の共鳴だった。
部屋に満ちるイデアに固有の微かな気配が、いっそう深く五感を満たす。
これが救いなのか、あるいは破滅への契約なのか、どちらでもよかった。
ただ互いの存在を内面の奥深くへと刻みつけるように、二人は静かに、しかし深く、その濃密な熱の渦へと沈んでいった。
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Song by DECO*27
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