歌詞シリーズ
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オレンジ色と紫色の絵の具を雑に混ぜ合わせたような空が、学園の石畳を長く引き伸ばされた影で満たしていく。
放課後の喧騒からは少し外れた並木道。
風が吹くたびに、木々の葉がさらさらと音を立てて擦れ合っていた。
「ねえ、危ないから前見て歩きなよ」
呆れたような声が、少し高い位置から降ってくる。
エースは人差し指の上で器用にマジカルペンをくるくると回しながら、隣を歩くななしの足元を覗き込んだ。
ななしは、石畳に等間隔に敷き詰められた白いタイルだけを踏んで歩いている。
右足、左足、そしてまた右足。
タイルの幅は歩幅よりも少し狭く、自然と内股気味の窮屈な歩き方になっていた。
「これ、最後まで落ちずに歩けたら勝ちだから」
「は? 何に勝つわけ? 誰も勝負してないし」
「エースにはわからないかな、この遊び心」
「わかるわけないじゃん。ただの歩きにくい散歩だろ」
そう言いながらも、エースはななしの歩調に合わせてゆっくりと速度を落とす。
いつもならとっくに置いていってしまうような遅いペース。
しかし彼は急ぐ素振りも見せず、ただマジカルペンを胸のポケットに差し込んだ。
「そういや、昨日の夜のやつ」
「昨日の夜?」
「惚けんなよー。メッセージ」
エースが不満げに眉を寄せる。
その指先がスマートフォンの画面を軽くタップする仕草を見せた。
「『眠さ何パー?』って聞いてきたの、そっちじゃん。オレが『まだゼロパー』って返したのに、そのあと速攻で既読つかなくなったの何なんだよ」
「……寝落ちしたの」
「知ってる。どうせそんなことだろうと思ったわ」
「だって、時計見たらもう夜中の二時だったし」
「そこから一人で寂しく画面見つめてたオレの身にもなってほしいわけ」
「ごめんね」
「付き合ってやってたんだから、最後まで責任持ってよねー」
「付き合ってやってた、って言い方」
少しだけ不満を込めて見上げると、エースはニッと口角を上げた。
悪戯が成功した子供のような表情。
そこに負い目など微塵も感じられない。
「実際そうじゃん。オレが夜更かしに付き合ってやってたの。感謝してほしいくらい」
「わたしだって、眠いの我慢して返信してたよ」
「我慢してそれ? 返信の間隔、後半めっちゃ空いてたじゃん。五分に一回とか。あれ絶対に意識半分飛んでただろ」
「飛んでない。ちょっと考えてただけ」
「嘘つけ。絶対に夢の中で返事書いてたね」
言い合いをしながらも、ななしの足元は白いタイルを捉え続けている。
だが、次のタイルまでの距離が少しだけ開いていた。
少し強めに踏み出さなければ届かない位置。
ななしが小さく息を呑み重心を前に傾けたその瞬間、背後から伸びてきた影が不意に重なった。
「っと、ほら言わんこっちゃない」
バランスを崩しかけたななしの肩を、エースの細いけれど硬い手のひらが支える。
触れた衣服越しに、じんわりとした温度が伝わってきた。
ほんの一瞬、世界が静止したかのような錯覚。
風の音も、遠くで聞こえる生徒たちの笑い声も、すべてが鼓膜の奥で微かに遠のいていく。
「……ありがと」
「……どういたしまして。で、これでゲームオーバーな」
エースはすぐに手を離し、何事もなかったかのように両手をブレザーのポケットに突っ込んだ。
けれどその耳の端が、沈みかけた夕日のせいだけではない赤みを帯びているように見える。
ななしはタイルの上から一歩外れ、普通の土の地面に両足を揃えた。
「今の、エースが驚かせたからだよ」
「はぁ? オレのせいにすんの? 助けてあげたのに理不尽すぎでしょ」
「助けてくれたのは認めるけど、そもそもエースが横から話しかけてくるから集中できなかったんだもん」
「オレは普通に歩いて普通に喋ってただけ。集中力が足りないそっちのせいじゃん」
エースは人差し指をチッチと横に振る。
ななしが小さく唇を尖らせると、それを見たエースがまた可笑しそうに笑った。
「じゃあ、もう一回。次はエースもやってよ」
「オレ? なんでオレがそんな面倒なこと」
「負けず嫌いのエースなら、最後までいけるでしょ?」
「……乗らねーよ、そんな安い挑発には」
鼻で笑いながらもエースの視線はすっと足元の石畳へと落ちた。
少し先の白線。
彼は一つ大きなため息をついてから、不器用そうに片足を白いタイルの上に乗せる。
「ほら、乗った。これで満足?」
「うん。じゃあ、スタート」
並んで歩く二つの影が、白いタイルの上を交互に進んでいく。
今度は二人の歩幅が完全に揃っていた。
狭いタイルの中で肩と肩が、歩く振動に合わせて何度も軽くぶつかり合う。
その度に互いの存在が、静かに確実に輪郭を帯びて意識の奥へと滑り込んでいった。
「……なんか、これ」
「何?」
「いや、なんでもない」
エースは言葉を濁し、ふいと顔を背けた。
夕暮れの風がエースの髪を優しく揺らしている。
口元を片手で覆いながら、エースはまたマジカルペンを取り出して、今度はそれを弄ぶこともなく、ただ強く握りしめていた。
「ねえ、エース」
「なにさ」
「散歩、楽しいね」
「……ただの帰り道だし。これ散歩じゃないし」
彼はそう言い返したが、歩幅を緩めるのをやめようとはしなかった。
白いタイルの上、二人の影はどこまでもゆっくりと夕闇の奥へと伸びていく。
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Song by Novel Core
放課後の喧騒からは少し外れた並木道。
風が吹くたびに、木々の葉がさらさらと音を立てて擦れ合っていた。
「ねえ、危ないから前見て歩きなよ」
呆れたような声が、少し高い位置から降ってくる。
エースは人差し指の上で器用にマジカルペンをくるくると回しながら、隣を歩くななしの足元を覗き込んだ。
ななしは、石畳に等間隔に敷き詰められた白いタイルだけを踏んで歩いている。
右足、左足、そしてまた右足。
タイルの幅は歩幅よりも少し狭く、自然と内股気味の窮屈な歩き方になっていた。
「これ、最後まで落ちずに歩けたら勝ちだから」
「は? 何に勝つわけ? 誰も勝負してないし」
「エースにはわからないかな、この遊び心」
「わかるわけないじゃん。ただの歩きにくい散歩だろ」
そう言いながらも、エースはななしの歩調に合わせてゆっくりと速度を落とす。
いつもならとっくに置いていってしまうような遅いペース。
しかし彼は急ぐ素振りも見せず、ただマジカルペンを胸のポケットに差し込んだ。
「そういや、昨日の夜のやつ」
「昨日の夜?」
「惚けんなよー。メッセージ」
エースが不満げに眉を寄せる。
その指先がスマートフォンの画面を軽くタップする仕草を見せた。
「『眠さ何パー?』って聞いてきたの、そっちじゃん。オレが『まだゼロパー』って返したのに、そのあと速攻で既読つかなくなったの何なんだよ」
「……寝落ちしたの」
「知ってる。どうせそんなことだろうと思ったわ」
「だって、時計見たらもう夜中の二時だったし」
「そこから一人で寂しく画面見つめてたオレの身にもなってほしいわけ」
「ごめんね」
「付き合ってやってたんだから、最後まで責任持ってよねー」
「付き合ってやってた、って言い方」
少しだけ不満を込めて見上げると、エースはニッと口角を上げた。
悪戯が成功した子供のような表情。
そこに負い目など微塵も感じられない。
「実際そうじゃん。オレが夜更かしに付き合ってやってたの。感謝してほしいくらい」
「わたしだって、眠いの我慢して返信してたよ」
「我慢してそれ? 返信の間隔、後半めっちゃ空いてたじゃん。五分に一回とか。あれ絶対に意識半分飛んでただろ」
「飛んでない。ちょっと考えてただけ」
「嘘つけ。絶対に夢の中で返事書いてたね」
言い合いをしながらも、ななしの足元は白いタイルを捉え続けている。
だが、次のタイルまでの距離が少しだけ開いていた。
少し強めに踏み出さなければ届かない位置。
ななしが小さく息を呑み重心を前に傾けたその瞬間、背後から伸びてきた影が不意に重なった。
「っと、ほら言わんこっちゃない」
バランスを崩しかけたななしの肩を、エースの細いけれど硬い手のひらが支える。
触れた衣服越しに、じんわりとした温度が伝わってきた。
ほんの一瞬、世界が静止したかのような錯覚。
風の音も、遠くで聞こえる生徒たちの笑い声も、すべてが鼓膜の奥で微かに遠のいていく。
「……ありがと」
「……どういたしまして。で、これでゲームオーバーな」
エースはすぐに手を離し、何事もなかったかのように両手をブレザーのポケットに突っ込んだ。
けれどその耳の端が、沈みかけた夕日のせいだけではない赤みを帯びているように見える。
ななしはタイルの上から一歩外れ、普通の土の地面に両足を揃えた。
「今の、エースが驚かせたからだよ」
「はぁ? オレのせいにすんの? 助けてあげたのに理不尽すぎでしょ」
「助けてくれたのは認めるけど、そもそもエースが横から話しかけてくるから集中できなかったんだもん」
「オレは普通に歩いて普通に喋ってただけ。集中力が足りないそっちのせいじゃん」
エースは人差し指をチッチと横に振る。
ななしが小さく唇を尖らせると、それを見たエースがまた可笑しそうに笑った。
「じゃあ、もう一回。次はエースもやってよ」
「オレ? なんでオレがそんな面倒なこと」
「負けず嫌いのエースなら、最後までいけるでしょ?」
「……乗らねーよ、そんな安い挑発には」
鼻で笑いながらもエースの視線はすっと足元の石畳へと落ちた。
少し先の白線。
彼は一つ大きなため息をついてから、不器用そうに片足を白いタイルの上に乗せる。
「ほら、乗った。これで満足?」
「うん。じゃあ、スタート」
並んで歩く二つの影が、白いタイルの上を交互に進んでいく。
今度は二人の歩幅が完全に揃っていた。
狭いタイルの中で肩と肩が、歩く振動に合わせて何度も軽くぶつかり合う。
その度に互いの存在が、静かに確実に輪郭を帯びて意識の奥へと滑り込んでいった。
「……なんか、これ」
「何?」
「いや、なんでもない」
エースは言葉を濁し、ふいと顔を背けた。
夕暮れの風がエースの髪を優しく揺らしている。
口元を片手で覆いながら、エースはまたマジカルペンを取り出して、今度はそれを弄ぶこともなく、ただ強く握りしめていた。
「ねえ、エース」
「なにさ」
「散歩、楽しいね」
「……ただの帰り道だし。これ散歩じゃないし」
彼はそう言い返したが、歩幅を緩めるのをやめようとはしなかった。
白いタイルの上、二人の影はどこまでもゆっくりと夕闇の奥へと伸びていく。
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Song by Novel Core
