お誕生日おめでとう
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放課後の廊下を急ぐ足音が静かな空間に規則正しく響いていた。
窓から差し込む夕日が、デュースとななしの影を床に長く伸ばしている。
「待って、デュース。そんなに急がなくても大丈夫だから」
「あ、悪い。つい足が早くなってた」
デュースは足を止め振り返って苦笑いを浮かべた。
その手には少し大きめの紙袋が握られている。
「どうしても今日中に片付けたくてさ。付き合わせちゃってごめんな」
「ううん、わたしが手伝いたくて残ったんだし、気にしないで」
「そう言ってもらえると助かる。お前がいてくれて、本当に良かった」
まっすぐな視線が交差する。
嘘偽りのない言葉が二人の間の空気を優しく揺らした。
「よし、じゃあこれを談話室まで運ぼう」
「うん。あ、それ、わたしも半分持つよ」
「いや、これくらい僕一人で平気だ。お前は足元に気をつけて歩いてくれ」
デュースは紙袋を胸に抱え直すようにして再び歩き出す。
その背中は出会った頃よりもどこか逞しく頼もしい。
「デュース、最近なんだかすごく頼もしいね」
「えっ? そ、そうか? 自分ではよく分からないけど……」
「うん。なんだか、大人っぽくなったっていうか」
「……からかうなよ。僕はいつでも必死なだけだ」
照れ隠しにそっぽを向くデュースの耳が、夕日の赤さに紛れるようにしてほんのりと染まっていく。並んで歩く距離がいつもより少しだけ近い。
「でも、必死に頑張るデュース、わたしは好きだよ」
「……っ」
デュースが突然、大きな音を立てて足を止めた。
「デュース?」
「な、何でもない! 今の言葉は、その、心臓に悪い」
「え? そんなに変なこと言ったかな」
「変じゃないけど! いや、変っていうか、急にそういうことを言うのは反則だろ」
慌てて前を歩き出そうとするデュースの歩幅が完全に乱れている。
その様子を見て、ななしの口元から小さな笑い声が漏れた。
「笑うなよ。僕は真面目に驚いてるんだからな」
「ごめんごめん。でも、本当のことだから」
「……お前って、時々ずるいよな」
ぽつりと呟かれた声は、いつもより少しだけ低い。
すれ違う風の中に、それぞれの存在を示す独特の気配がふわりと混ざり合う。
「思ったことを言っただけなんだけどな」
「それがずるいんだって。……自覚がないのが一番困る」
デュースは深くため息をつきながらも、どこか嬉しそうな表情を隠しきれていない。
二人はそのまま目的の部屋へと向かった。
扉を開けると夕暮れの光が部屋の隅々まで行き渡っている。
大きな机の上に紙袋を置くと、デュースは小さく息を吐いた。
「これで一安心だな。手伝ってくれて本当にありがとう、ななし」
「どういたしまして。これで今日の予定は全部終わり?」
「ああ。あとは……その、もし良かったら、この後少しだけ付き合ってくれないか?」
「いいよ。何かしたいことでもあるの?」
デュースはポケットの中で何かを探るように手を動かし、それから意を決したように目の前の顔を見つめた。
「特別なことじゃないんだ。ただ、もう少しだけ、ななしと一緒にいたいなって思っただけだ」
夕暮れの部屋に、二人の静かな呼吸の音が重なった。
オレンジ色だった夕光が、次第に濃い紫色の影を部屋に落とし始めていた。
窓際にあるソファに、二人は少しの隙間を空けて腰を下ろしている。
「これ、本当にもらってもいいの?」
「ああ。お前に受け取ってもらいたくて、ずっと持ってたんだ」
ななしの手のひらにあるのは、小さなマスコットだった。
デュースは照れくさそうに頭の後ろを掻いている。
「誕生日だからって、僕がもらうばかりじゃ悪いだろ。ななしにはいつも世話になってるし」
「デュースの誕生日なのに、わたしがプレゼントをもらうなんて変だよ」
「変じゃない。僕がそうしたかったんだから」
言い張るデュースの距離が、いつの間にか少しだけ近くなっている。
ソファのシートがわずかに沈み、互いの太ももが触れ合いそうな位置で止まった。
「……ありがとう。大切にするね」
「そう言ってもらえると、すごく嬉しい」
小さなマスコットを挟んで二人の指先が偶然かすれ合う。
その瞬間に走った微かな緊張感で部屋の空気が一気に張り詰めた。
「デュース、なんだか手が熱い?」
「えっ? そ、そうか? 別に熱はないと思うけど……」
確かめるようにななしがデュースの手の甲にそっと触れた。
デュースの身体がびくりと跳ねる。
「ほら、やっぱり少し熱いよ。今日、無理して動いたからじゃない?」
「違う。これは、その、体調が悪いわけじゃなくて……」
デュースの声が少しだけ掠れている。
触れられた手の甲から、じわじわと熱が広がっていくのが互いの肌を通して伝わっていた。
「じゃあ、どうして?」
「……お前が、そんな風に真っ直ぐ見てくるからだ」
デュースは視線を逸らそうとしながらも、繋がったままの手に力を込めた。
今度はかすれ合うだけでなく、お互いの手のひらがぴったりと重なり合う。
逃げられないように固く結ばれた指先からドクドクと速い鼓動が伝わってきた。
「デュース……?」
「離したくないんだ。……今は、まだ」
いつもなら真っ赤になって飛び退くはずのデュースが、じっとその瞳を見つめ返している。
二人の呼吸も自然と浅くなっていった。
静かな空間に、デュースの少し高まった呼気が微かに響く。
「デュース、息が、上がってる?」
「お前だって……。顔、すごく赤いぞ」
「そ、そんなことないよ……」
「嘘だ。僕の目を見て言ってみろよ」
少しだけ低くなったデュースの顔が、すぐ目の前に迫る。
お互いの吐息が混ざり合うほどの距離で、熱を持った空気が二人の間を滞留していた。
言葉のテンポが遅くなり、代わりに身体の感覚だけが鮮明に浮かび上がってくる。
「……ずるいのは、デュースの方だよ」
「ずるくたっていい。今日くらいは、お前に呆れられてもいいって決めてるんだ」
繋いだ手から伝わる熱が心臓を強く揺さぶる。
夕闇に包まれかけた部屋の中で二人の体温だけが確実に上昇していった。
すっかり日が落ちた部屋には、窓から微かな月光が差し込むだけとなっていた。
視界が遮られた分、肌に触れる熱と耳元に届く呼吸の音が世界の大半を占めている。
繋いだ指先は解かれることなく、さらに深く組み合わされていた。
「ななし、まだ、このままでいいか」
「うん。……デュースの体温、すごく伝わってくる」
「僕もお前を近くに感じてる。心臓の音が、どっちのものか分からないくらいだ」
デュースのもう片方の手がななしの頬にそっと添えられた。
大きな手のひらの熱が張り詰めた肌をゆっくりと溶かしていく。
お互いの輪郭が暗闇に溶けそうなほど二人の距離はもうゼロに近かった。
「驚かないんだな。いつもなら、もっと慌てるだろ」
「デュースが真面目な顔をしてるから、逃げたくない」
「……そういうところが、本当にずるい」
小さく笑うデュースの気配が、さらに一段と近づく。
具体的な匂いこそ識別できないものの、すぐそこに彼がいるという濃厚な存在感が部屋の空気を完全に支配していた。
互いの呼吸が完全にシンクロし吸い込む空気までが熱を帯びている。
「誕生日、おめでとう。生まれてきてくれて、ありがとう」
「っ……、お前は本当に、僕が欲しい言葉を全部くれる」
デュースの指先が愛おしさを堪えきれないようにななしの髪をそっと撫で上げた。
その指の動き一つ、微かな衣服の擦れる音一つが、暗闇の中で鮮明に響く。
言葉はこれ以上必要なかった。
互いが相手をどれほど特別に想っているか、言葉未満の吐息と高鳴り続ける鼓動が全てを物語っている。
「来年も、その次も、一番にお祝いしたいな」
「当たり前だろ。僕の隣は、もうお前以外に考えられない」
重なり合った影が静かに一つへと重なっていく。
熱を帯びた夜の部屋で、二人は確かな未来を静かに手繰り寄せていた。
窓から差し込む夕日が、デュースとななしの影を床に長く伸ばしている。
「待って、デュース。そんなに急がなくても大丈夫だから」
「あ、悪い。つい足が早くなってた」
デュースは足を止め振り返って苦笑いを浮かべた。
その手には少し大きめの紙袋が握られている。
「どうしても今日中に片付けたくてさ。付き合わせちゃってごめんな」
「ううん、わたしが手伝いたくて残ったんだし、気にしないで」
「そう言ってもらえると助かる。お前がいてくれて、本当に良かった」
まっすぐな視線が交差する。
嘘偽りのない言葉が二人の間の空気を優しく揺らした。
「よし、じゃあこれを談話室まで運ぼう」
「うん。あ、それ、わたしも半分持つよ」
「いや、これくらい僕一人で平気だ。お前は足元に気をつけて歩いてくれ」
デュースは紙袋を胸に抱え直すようにして再び歩き出す。
その背中は出会った頃よりもどこか逞しく頼もしい。
「デュース、最近なんだかすごく頼もしいね」
「えっ? そ、そうか? 自分ではよく分からないけど……」
「うん。なんだか、大人っぽくなったっていうか」
「……からかうなよ。僕はいつでも必死なだけだ」
照れ隠しにそっぽを向くデュースの耳が、夕日の赤さに紛れるようにしてほんのりと染まっていく。並んで歩く距離がいつもより少しだけ近い。
「でも、必死に頑張るデュース、わたしは好きだよ」
「……っ」
デュースが突然、大きな音を立てて足を止めた。
「デュース?」
「な、何でもない! 今の言葉は、その、心臓に悪い」
「え? そんなに変なこと言ったかな」
「変じゃないけど! いや、変っていうか、急にそういうことを言うのは反則だろ」
慌てて前を歩き出そうとするデュースの歩幅が完全に乱れている。
その様子を見て、ななしの口元から小さな笑い声が漏れた。
「笑うなよ。僕は真面目に驚いてるんだからな」
「ごめんごめん。でも、本当のことだから」
「……お前って、時々ずるいよな」
ぽつりと呟かれた声は、いつもより少しだけ低い。
すれ違う風の中に、それぞれの存在を示す独特の気配がふわりと混ざり合う。
「思ったことを言っただけなんだけどな」
「それがずるいんだって。……自覚がないのが一番困る」
デュースは深くため息をつきながらも、どこか嬉しそうな表情を隠しきれていない。
二人はそのまま目的の部屋へと向かった。
扉を開けると夕暮れの光が部屋の隅々まで行き渡っている。
大きな机の上に紙袋を置くと、デュースは小さく息を吐いた。
「これで一安心だな。手伝ってくれて本当にありがとう、ななし」
「どういたしまして。これで今日の予定は全部終わり?」
「ああ。あとは……その、もし良かったら、この後少しだけ付き合ってくれないか?」
「いいよ。何かしたいことでもあるの?」
デュースはポケットの中で何かを探るように手を動かし、それから意を決したように目の前の顔を見つめた。
「特別なことじゃないんだ。ただ、もう少しだけ、ななしと一緒にいたいなって思っただけだ」
夕暮れの部屋に、二人の静かな呼吸の音が重なった。
オレンジ色だった夕光が、次第に濃い紫色の影を部屋に落とし始めていた。
窓際にあるソファに、二人は少しの隙間を空けて腰を下ろしている。
「これ、本当にもらってもいいの?」
「ああ。お前に受け取ってもらいたくて、ずっと持ってたんだ」
ななしの手のひらにあるのは、小さなマスコットだった。
デュースは照れくさそうに頭の後ろを掻いている。
「誕生日だからって、僕がもらうばかりじゃ悪いだろ。ななしにはいつも世話になってるし」
「デュースの誕生日なのに、わたしがプレゼントをもらうなんて変だよ」
「変じゃない。僕がそうしたかったんだから」
言い張るデュースの距離が、いつの間にか少しだけ近くなっている。
ソファのシートがわずかに沈み、互いの太ももが触れ合いそうな位置で止まった。
「……ありがとう。大切にするね」
「そう言ってもらえると、すごく嬉しい」
小さなマスコットを挟んで二人の指先が偶然かすれ合う。
その瞬間に走った微かな緊張感で部屋の空気が一気に張り詰めた。
「デュース、なんだか手が熱い?」
「えっ? そ、そうか? 別に熱はないと思うけど……」
確かめるようにななしがデュースの手の甲にそっと触れた。
デュースの身体がびくりと跳ねる。
「ほら、やっぱり少し熱いよ。今日、無理して動いたからじゃない?」
「違う。これは、その、体調が悪いわけじゃなくて……」
デュースの声が少しだけ掠れている。
触れられた手の甲から、じわじわと熱が広がっていくのが互いの肌を通して伝わっていた。
「じゃあ、どうして?」
「……お前が、そんな風に真っ直ぐ見てくるからだ」
デュースは視線を逸らそうとしながらも、繋がったままの手に力を込めた。
今度はかすれ合うだけでなく、お互いの手のひらがぴったりと重なり合う。
逃げられないように固く結ばれた指先からドクドクと速い鼓動が伝わってきた。
「デュース……?」
「離したくないんだ。……今は、まだ」
いつもなら真っ赤になって飛び退くはずのデュースが、じっとその瞳を見つめ返している。
二人の呼吸も自然と浅くなっていった。
静かな空間に、デュースの少し高まった呼気が微かに響く。
「デュース、息が、上がってる?」
「お前だって……。顔、すごく赤いぞ」
「そ、そんなことないよ……」
「嘘だ。僕の目を見て言ってみろよ」
少しだけ低くなったデュースの顔が、すぐ目の前に迫る。
お互いの吐息が混ざり合うほどの距離で、熱を持った空気が二人の間を滞留していた。
言葉のテンポが遅くなり、代わりに身体の感覚だけが鮮明に浮かび上がってくる。
「……ずるいのは、デュースの方だよ」
「ずるくたっていい。今日くらいは、お前に呆れられてもいいって決めてるんだ」
繋いだ手から伝わる熱が心臓を強く揺さぶる。
夕闇に包まれかけた部屋の中で二人の体温だけが確実に上昇していった。
すっかり日が落ちた部屋には、窓から微かな月光が差し込むだけとなっていた。
視界が遮られた分、肌に触れる熱と耳元に届く呼吸の音が世界の大半を占めている。
繋いだ指先は解かれることなく、さらに深く組み合わされていた。
「ななし、まだ、このままでいいか」
「うん。……デュースの体温、すごく伝わってくる」
「僕もお前を近くに感じてる。心臓の音が、どっちのものか分からないくらいだ」
デュースのもう片方の手がななしの頬にそっと添えられた。
大きな手のひらの熱が張り詰めた肌をゆっくりと溶かしていく。
お互いの輪郭が暗闇に溶けそうなほど二人の距離はもうゼロに近かった。
「驚かないんだな。いつもなら、もっと慌てるだろ」
「デュースが真面目な顔をしてるから、逃げたくない」
「……そういうところが、本当にずるい」
小さく笑うデュースの気配が、さらに一段と近づく。
具体的な匂いこそ識別できないものの、すぐそこに彼がいるという濃厚な存在感が部屋の空気を完全に支配していた。
互いの呼吸が完全にシンクロし吸い込む空気までが熱を帯びている。
「誕生日、おめでとう。生まれてきてくれて、ありがとう」
「っ……、お前は本当に、僕が欲しい言葉を全部くれる」
デュースの指先が愛おしさを堪えきれないようにななしの髪をそっと撫で上げた。
その指の動き一つ、微かな衣服の擦れる音一つが、暗闇の中で鮮明に響く。
言葉はこれ以上必要なかった。
互いが相手をどれほど特別に想っているか、言葉未満の吐息と高鳴り続ける鼓動が全てを物語っている。
「来年も、その次も、一番にお祝いしたいな」
「当たり前だろ。僕の隣は、もうお前以外に考えられない」
重なり合った影が静かに一つへと重なっていく。
熱を帯びた夜の部屋で、二人は確かな未来を静かに手繰り寄せていた。
