問題児たちはオンボロ寮の合鍵が欲しい
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海底を思わせる薄暗い照明と、心地よいジャズが流れるモストロ・ラウンジのVIPルーム。
アズール・アーシェングロットは、ソファに深く腰掛け手元の紅茶を優雅に揺らしていた。眼鏡の奥の瞳はテーブルの上に置かれた四つの合鍵を、まるで最高級の宝石でも見るかのように値踏みしている。
「……なるほど。学園長から直々にオンボロ寮の合鍵を、ですか。防犯対策という大義名分のもと、その管理を誰に委ねるか今はまだ検討段階であると」
「はい。アズール先輩の意見も聞きたくて、相談に来たんです」
ななしが答えると、アズールは待ってましたと言わんばかりに営業スマイルを浮かべ身を乗り出した。
「素晴らしい判断です、ななしさん。その件、ぜひ我がオクタヴィネル、いえ、この僕個人に一本預けていただけませんか? 僕が鍵を管理すれば、モストロ・ラウンジの経営ノウハウを活かし、学園長相手に維持費や修繕費の交渉も優位に進めてみせましょう」
アズールは淀みのない口調でメリットを並べ立てた。
彼にとってオンボロ寮は、最近何かと他寮の干渉を受けずに独占したい特別な場所でもある。その鍵を手に入れることは、彼にとって絶対的な優位性を確保する最高の契約になるはずだった。
「ふなっ! ななし、こいつに鍵なんて渡したら、オレ様たちの知らない間にオンボロ寮がモストロ・ラウンジの2号店に改造されちゃうんだゾ!」
グリムが危機感を募らせてソファの陰に隠れる。アズールは「人聞きの悪いことを言わないでください」と、にこやかにグリムをあしらった。
「うーん……。でも、やっぱりアズール先輩に預けるのは、ちょっと違うかなって思ってるんです」
「……おや。僕の提示した条件に何か不満でもありましたか?」
アズールの笑みが一瞬だけ固まり、眼鏡の位置を直す指先に僅かな焦燥が滲む。
「いえ、条件はすごく魅力的です。でも、アズール先輩っていつもラウンジの経営とかテストの対策とか、すごく頭を使って忙しくしてるじゃないですか。これ以上、面倒な仕事を増やしたらパンクしちゃいます」
ななしは本気でアズールの過労を心配し、彼との純粋な時間を望んでいるお人好しな笑顔を浮かべた。アズールの計算高さや商売人としての威圧感など、彼女の前では心配の対象にしかならない。
アズールは目を見開いたまま、言葉を失った。
利用価値ではなく自分自身の存在そのものを求められているのだと気づき、アズールの胸の奥が激しく揺れ動く。プライドが心地よく崩壊していくと同時に耳の後ろが熱くなる。
「っ……はは、ハハハ! 本当にあなたという人は、どこまでおめでたい思考回路をしているんですか」
アズールは片手で顔を覆い、呆れたように、しかし酷く愛おしそうに笑った。
「いいでしょう。今はまだ検討段階だと言うなら今日のところは引き下がります。……ですが、僕が鍵を持たないからといって、僕があなたの安全を諦める理由にはなりません」
アズールはカップを置くと、どこか独占欲に満ちた瞳でななしを見つめた。
「言っておきますが、もしあなたが他の誰かにその鍵を渡すような真似をすれば……その時は、僕も相応の手段を取らせていただきます。鍵が手に入らないのなら、僕の魔法でこのオンボロ寮の土地ごと買い上げる契約書を学園長に叩きつけて差し上げますよ。……僕にビジネスを抜きにさせたいのなら、それ相応の覚悟をしておいてくださいね、ななしさん」
目に見える契約は保留されたものの、アズールはより大規模な独占計画を笑顔で宣言した。検討段階の合鍵を巡る騒動は、海の魔女の慈悲深い優等生の独占欲に確かな火をつけたようだった。
アズール・アーシェングロットは、ソファに深く腰掛け手元の紅茶を優雅に揺らしていた。眼鏡の奥の瞳はテーブルの上に置かれた四つの合鍵を、まるで最高級の宝石でも見るかのように値踏みしている。
「……なるほど。学園長から直々にオンボロ寮の合鍵を、ですか。防犯対策という大義名分のもと、その管理を誰に委ねるか今はまだ検討段階であると」
「はい。アズール先輩の意見も聞きたくて、相談に来たんです」
ななしが答えると、アズールは待ってましたと言わんばかりに営業スマイルを浮かべ身を乗り出した。
「素晴らしい判断です、ななしさん。その件、ぜひ我がオクタヴィネル、いえ、この僕個人に一本預けていただけませんか? 僕が鍵を管理すれば、モストロ・ラウンジの経営ノウハウを活かし、学園長相手に維持費や修繕費の交渉も優位に進めてみせましょう」
アズールは淀みのない口調でメリットを並べ立てた。
彼にとってオンボロ寮は、最近何かと他寮の干渉を受けずに独占したい特別な場所でもある。その鍵を手に入れることは、彼にとって絶対的な優位性を確保する最高の契約になるはずだった。
「ふなっ! ななし、こいつに鍵なんて渡したら、オレ様たちの知らない間にオンボロ寮がモストロ・ラウンジの2号店に改造されちゃうんだゾ!」
グリムが危機感を募らせてソファの陰に隠れる。アズールは「人聞きの悪いことを言わないでください」と、にこやかにグリムをあしらった。
「うーん……。でも、やっぱりアズール先輩に預けるのは、ちょっと違うかなって思ってるんです」
「……おや。僕の提示した条件に何か不満でもありましたか?」
アズールの笑みが一瞬だけ固まり、眼鏡の位置を直す指先に僅かな焦燥が滲む。
「いえ、条件はすごく魅力的です。でも、アズール先輩っていつもラウンジの経営とかテストの対策とか、すごく頭を使って忙しくしてるじゃないですか。これ以上、面倒な仕事を増やしたらパンクしちゃいます」
ななしは本気でアズールの過労を心配し、彼との純粋な時間を望んでいるお人好しな笑顔を浮かべた。アズールの計算高さや商売人としての威圧感など、彼女の前では心配の対象にしかならない。
アズールは目を見開いたまま、言葉を失った。
利用価値ではなく自分自身の存在そのものを求められているのだと気づき、アズールの胸の奥が激しく揺れ動く。プライドが心地よく崩壊していくと同時に耳の後ろが熱くなる。
「っ……はは、ハハハ! 本当にあなたという人は、どこまでおめでたい思考回路をしているんですか」
アズールは片手で顔を覆い、呆れたように、しかし酷く愛おしそうに笑った。
「いいでしょう。今はまだ検討段階だと言うなら今日のところは引き下がります。……ですが、僕が鍵を持たないからといって、僕があなたの安全を諦める理由にはなりません」
アズールはカップを置くと、どこか独占欲に満ちた瞳でななしを見つめた。
「言っておきますが、もしあなたが他の誰かにその鍵を渡すような真似をすれば……その時は、僕も相応の手段を取らせていただきます。鍵が手に入らないのなら、僕の魔法でこのオンボロ寮の土地ごと買い上げる契約書を学園長に叩きつけて差し上げますよ。……僕にビジネスを抜きにさせたいのなら、それ相応の覚悟をしておいてくださいね、ななしさん」
目に見える契約は保留されたものの、アズールはより大規模な独占計画を笑顔で宣言した。検討段階の合鍵を巡る騒動は、海の魔女の慈悲深い優等生の独占欲に確かな火をつけたようだった。
