歌詞シリーズ
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夕闇がすべてを包み込んでいく時間帯、見上げる空には不自然なほどの静寂が満ちていた。
「なあ」
デュースが歩調を緩めて振り返る。
その手には、少し古びた魔導書が握られていた。
「ん? どうしたの、デュース」
「いや、なんでもない。ただ、少し静かすぎると思ってな」
「いつもなら、グリムが騒いでエースが茶化してる時間だもんね」
「そうだな。あいつらいないだけで、この廊下がこんなに広く感じるなんてな」
二人の足音が廊下に響く。
「二人がいないと寂しい?」
「そんなわけないだろ。これくらい、どうってことない」
デュースは少しだけ胸を張る。
けれど、その視線はどこか手元の魔導書へと泳いでいた。
「そっか。強いね、デュースは」
「強くなんかない。ただ、決めたんだ。お前がいつか元の世界に帰る日が来ても、胸を張って見送れるように、僕もここでちゃんとやらないとって」
「そっか。わたしが帰る時、デュースが泣いてたら『格好つかないね』って笑っちゃうかも」
「笑う、か。そうかもしれないな」
デュースの口元に微かな笑みが浮かぶ。
しかし、その笑みはどこか夜の帳に溶けてしまいそうなほど儚かった。
廊下の突き当たり、大きな窓の前に二人は立ち止まる。
外はすっかり日が落ちて一番星が瞬き始めていた。
「お前さ、よく夜空を見てるよな」
「うん。星の形が違うって、不思議で」
デュースが窓ガラスに手を触れる。
冷たいガラスの向こうには、彼らの世界を照らす星々が散らばっている。
「いつか帰ったら、もう見られないのかな」
「遠くても、同じ星なんだろ。どこかで繋がっているかもしれない」
「そうだね、繋がっていてほしいよね」
「……そうだな」
デュースの声が少しだけ低くなる。
彼は窓に映る自分の姿ではなく、その隣に並ぶ影を見つめていた。
「もし、本当にお前が帰る時がきたら、僕はなんて言えばいいんだろうな」
「うーん、その時が来ないとわからないけど、たくさんお喋りしたいな」
「わからない、か」
「デュースは何て言いたい?」
「僕は……」
デュースは言葉を濁し視線を落とす。
握りしめた拳がわずかに震えているように見えた。
「僕は、ただ、ありがとうって言いたい。それと……」
「それと?」
「……ううん、なんでもない。忘れてくれ」
「気になるよ。教えてくれてもいいじゃん」
「ダメだ。これは、僕がもっとちゃんとした男になったら言うことだからな」
そう言ってデュースは無理に明るい声を出す。
しかし、その距離はいつの間にか一歩分だけ近くなっていた。
「ずるい。自分だけ秘密にするなんて」
「ずるくたっていい。お前には、まだ言わない」
「もう、意地悪」
二人の間に短い沈黙が流れる。
「なあ」
「なあに?」
「星ってさ、掴めると思うか」
「え? 無理だよ。あんなに遠いんだもん」
「だよな。わかってる。わかってるんだけどさ」
「でも、ここからなら掴めるのかも。魔法は思いの強さなんでしょ」
デュースはゆっくりと手を伸ばす。
夜空に向けてではなく、隣にいる存在のすぐ近くへと。
「手が届きそうな気がするんだ。時々、な」
その言葉の響きは、いつか訪れる別れへの予感のようでもあり、今そこにいる者への静かな熱を孕んでいるようでもあった。
「デュース?」
「なんでもない。ほら、もう帰るぞ」
「そうだね。急ごう」
背を向けて歩き出すデュースの背中は少しだけ寂しげで、それでも確かに前を向いていた。
冷たい雫が、ぽつりと灰色のコンクリートに黒い染みを作った。
それが合図だったかのように空は一気に重いカーテンを閉ざし、激しい雨を降らせ始めた。
「うわ、急に降ってきたな!」
デュースが叫び隣を歩く腕を引いて走り出す。
逃げ込んだのは古い石造りの東屋だった。
辛うじて雨を凌げるだけの酷く狭い雨宿りの場所。
吹き込んでくる風が濡れた制服を容赦なく冷やしていく。
「大丈夫か? かなり濡れちまったな」
「うん、デュースこそ。髪から水が滴ってるよ」
「こんなの、どうってことない」
デュースは濡れた前髪を無造作にかき上げる。
その指先が寒さのせいかそれとも別の理由からかわずかに震えていた。
狭い空間の中、二人の距離は肩が触れ合うほどに近い。
湿った布地越しに互いの体温がじわじわと伝わってくる。
「冷えるな」
「そうだね」
「……ほら、これ使え」
デュースは自分のブレザーを脱ぎ迷うことなく肩にかけてよこした。
彼の体温が残る厚い生地が冷えた身体を優しく包み込む。
「待って、これじゃデュースが本当に風邪ひいちゃうよ」
「僕なら大丈夫だ。いいから着てろ」
「でも……」
引き止めようと伸ばした指先がデュースの剥き出しの手首に触れた。
瞬間、静電気のような微かな火花が散った気がした。
触れた肌は酷く冷え切っているのに、その奥にある脈拍は驚くほど速く、そして熱い。
「冷たい。やっぱり寒いんじゃん」
「寒く、ない」
デュースが小さく息を吸い込む。
吐き出された息が白く濁ってすぐに雨の湿気に溶けた。
彼は触れられた手首を引っ込めることもせず、ただじっと隣にいる存在を見つめている。
雨音が周囲の音をすべて掻き消し、世界に二人きりになったかのような錯覚を抱かせる。
「なあ」
「なあに?」
「もし、魔法でこの雨を止められたら、お前はすぐに帰ってしまうのか?」
「どうかな。でも、濡れずに済むなら、みんなのところへ急ぐかもしれないね」
「そう、だよな」
デュースが小さく息を吐き出す。
その吐息の熱が雨の冷気と混ざり合って白く消えた。
彼はゆっくりと、しかし確かな意思を持って隣にある手をそっと包み込むように重ねる。
「デュース……?」
「冷えるな」
「……嘘つき、やっぱり寒いんじゃん」
重ねられた手のひらは驚くほど熱かった。
不器用で少しだけ強引なその熱が指先から腕へ、そして胸の奥へと波紋のように広がっていく。
「あいつらの前じゃ、こんなこと絶対にできない」
「デュースの手、すごく熱いよ」
「……お前の手が冷たすぎるからだ。離さないからな」
真っ直ぐに前を見つめるデュースの横顔は、いつになく強張っていた。
繋がれた手から伝わる鼓動は雨音よりもずっと速く、そして激しく響いている。言葉にできない感情が互いの身体感覚を通して、静かに、けれど確実に熱を帯びていく。
「こうしていると、お前がいつか遠くに行ってしまうなんて、信じられないな」
「ここにいるよ。今は、ちゃんとここにいる」
「わかってる。だから、今だけは」
デュースの手のひらに力がこもる。
離したくないという痛いほどの衝動が、皮膚の熱を通じてダイレクトに伝わってきた。
「ほら、少し小降りになってきたぞ」
「本当だね」
「……手を離したら、またいつも通りだ」
デュースは寂しそうに笑うと名残惜しそうに指を解いた。
離れた瞬間の肌寒さが、先ほどまでの熱をよりいっそう鮮烈に際立たせる。
雨上がりの空に洗われた星々が一つ、また一つと瞬き始めていた。
掴めないほど遠くにある光を、あの時、彼は確かに引き寄せようとしていたのだと今ならわかる。
──その手に残った確かな熱量と胸を突き刺すような愛おしさを、元の世界に戻った夜空の下、今でも自分の指先に見出すように思い出す。
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Song by ELLEGARDEN
「なあ」
デュースが歩調を緩めて振り返る。
その手には、少し古びた魔導書が握られていた。
「ん? どうしたの、デュース」
「いや、なんでもない。ただ、少し静かすぎると思ってな」
「いつもなら、グリムが騒いでエースが茶化してる時間だもんね」
「そうだな。あいつらいないだけで、この廊下がこんなに広く感じるなんてな」
二人の足音が廊下に響く。
「二人がいないと寂しい?」
「そんなわけないだろ。これくらい、どうってことない」
デュースは少しだけ胸を張る。
けれど、その視線はどこか手元の魔導書へと泳いでいた。
「そっか。強いね、デュースは」
「強くなんかない。ただ、決めたんだ。お前がいつか元の世界に帰る日が来ても、胸を張って見送れるように、僕もここでちゃんとやらないとって」
「そっか。わたしが帰る時、デュースが泣いてたら『格好つかないね』って笑っちゃうかも」
「笑う、か。そうかもしれないな」
デュースの口元に微かな笑みが浮かぶ。
しかし、その笑みはどこか夜の帳に溶けてしまいそうなほど儚かった。
廊下の突き当たり、大きな窓の前に二人は立ち止まる。
外はすっかり日が落ちて一番星が瞬き始めていた。
「お前さ、よく夜空を見てるよな」
「うん。星の形が違うって、不思議で」
デュースが窓ガラスに手を触れる。
冷たいガラスの向こうには、彼らの世界を照らす星々が散らばっている。
「いつか帰ったら、もう見られないのかな」
「遠くても、同じ星なんだろ。どこかで繋がっているかもしれない」
「そうだね、繋がっていてほしいよね」
「……そうだな」
デュースの声が少しだけ低くなる。
彼は窓に映る自分の姿ではなく、その隣に並ぶ影を見つめていた。
「もし、本当にお前が帰る時がきたら、僕はなんて言えばいいんだろうな」
「うーん、その時が来ないとわからないけど、たくさんお喋りしたいな」
「わからない、か」
「デュースは何て言いたい?」
「僕は……」
デュースは言葉を濁し視線を落とす。
握りしめた拳がわずかに震えているように見えた。
「僕は、ただ、ありがとうって言いたい。それと……」
「それと?」
「……ううん、なんでもない。忘れてくれ」
「気になるよ。教えてくれてもいいじゃん」
「ダメだ。これは、僕がもっとちゃんとした男になったら言うことだからな」
そう言ってデュースは無理に明るい声を出す。
しかし、その距離はいつの間にか一歩分だけ近くなっていた。
「ずるい。自分だけ秘密にするなんて」
「ずるくたっていい。お前には、まだ言わない」
「もう、意地悪」
二人の間に短い沈黙が流れる。
「なあ」
「なあに?」
「星ってさ、掴めると思うか」
「え? 無理だよ。あんなに遠いんだもん」
「だよな。わかってる。わかってるんだけどさ」
「でも、ここからなら掴めるのかも。魔法は思いの強さなんでしょ」
デュースはゆっくりと手を伸ばす。
夜空に向けてではなく、隣にいる存在のすぐ近くへと。
「手が届きそうな気がするんだ。時々、な」
その言葉の響きは、いつか訪れる別れへの予感のようでもあり、今そこにいる者への静かな熱を孕んでいるようでもあった。
「デュース?」
「なんでもない。ほら、もう帰るぞ」
「そうだね。急ごう」
背を向けて歩き出すデュースの背中は少しだけ寂しげで、それでも確かに前を向いていた。
冷たい雫が、ぽつりと灰色のコンクリートに黒い染みを作った。
それが合図だったかのように空は一気に重いカーテンを閉ざし、激しい雨を降らせ始めた。
「うわ、急に降ってきたな!」
デュースが叫び隣を歩く腕を引いて走り出す。
逃げ込んだのは古い石造りの東屋だった。
辛うじて雨を凌げるだけの酷く狭い雨宿りの場所。
吹き込んでくる風が濡れた制服を容赦なく冷やしていく。
「大丈夫か? かなり濡れちまったな」
「うん、デュースこそ。髪から水が滴ってるよ」
「こんなの、どうってことない」
デュースは濡れた前髪を無造作にかき上げる。
その指先が寒さのせいかそれとも別の理由からかわずかに震えていた。
狭い空間の中、二人の距離は肩が触れ合うほどに近い。
湿った布地越しに互いの体温がじわじわと伝わってくる。
「冷えるな」
「そうだね」
「……ほら、これ使え」
デュースは自分のブレザーを脱ぎ迷うことなく肩にかけてよこした。
彼の体温が残る厚い生地が冷えた身体を優しく包み込む。
「待って、これじゃデュースが本当に風邪ひいちゃうよ」
「僕なら大丈夫だ。いいから着てろ」
「でも……」
引き止めようと伸ばした指先がデュースの剥き出しの手首に触れた。
瞬間、静電気のような微かな火花が散った気がした。
触れた肌は酷く冷え切っているのに、その奥にある脈拍は驚くほど速く、そして熱い。
「冷たい。やっぱり寒いんじゃん」
「寒く、ない」
デュースが小さく息を吸い込む。
吐き出された息が白く濁ってすぐに雨の湿気に溶けた。
彼は触れられた手首を引っ込めることもせず、ただじっと隣にいる存在を見つめている。
雨音が周囲の音をすべて掻き消し、世界に二人きりになったかのような錯覚を抱かせる。
「なあ」
「なあに?」
「もし、魔法でこの雨を止められたら、お前はすぐに帰ってしまうのか?」
「どうかな。でも、濡れずに済むなら、みんなのところへ急ぐかもしれないね」
「そう、だよな」
デュースが小さく息を吐き出す。
その吐息の熱が雨の冷気と混ざり合って白く消えた。
彼はゆっくりと、しかし確かな意思を持って隣にある手をそっと包み込むように重ねる。
「デュース……?」
「冷えるな」
「……嘘つき、やっぱり寒いんじゃん」
重ねられた手のひらは驚くほど熱かった。
不器用で少しだけ強引なその熱が指先から腕へ、そして胸の奥へと波紋のように広がっていく。
「あいつらの前じゃ、こんなこと絶対にできない」
「デュースの手、すごく熱いよ」
「……お前の手が冷たすぎるからだ。離さないからな」
真っ直ぐに前を見つめるデュースの横顔は、いつになく強張っていた。
繋がれた手から伝わる鼓動は雨音よりもずっと速く、そして激しく響いている。言葉にできない感情が互いの身体感覚を通して、静かに、けれど確実に熱を帯びていく。
「こうしていると、お前がいつか遠くに行ってしまうなんて、信じられないな」
「ここにいるよ。今は、ちゃんとここにいる」
「わかってる。だから、今だけは」
デュースの手のひらに力がこもる。
離したくないという痛いほどの衝動が、皮膚の熱を通じてダイレクトに伝わってきた。
「ほら、少し小降りになってきたぞ」
「本当だね」
「……手を離したら、またいつも通りだ」
デュースは寂しそうに笑うと名残惜しそうに指を解いた。
離れた瞬間の肌寒さが、先ほどまでの熱をよりいっそう鮮烈に際立たせる。
雨上がりの空に洗われた星々が一つ、また一つと瞬き始めていた。
掴めないほど遠くにある光を、あの時、彼は確かに引き寄せようとしていたのだと今ならわかる。
──その手に残った確かな熱量と胸を突き刺すような愛おしさを、元の世界に戻った夜空の下、今でも自分の指先に見出すように思い出す。
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Song by ELLEGARDEN
