◯◯しないと出られない部屋
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学園の喧騒から切り離されたような、ひどく静かで無機質な空間。
ななしは手にした授業のプリントを整理しながら歩いていた。しかし次の瞬間には足元が不自然に浮き上がるような感覚に囚われ、気がついた時には窓が一つもない、部屋の壁一面が巨大なモニターで埋め尽くされた未知の部屋に立ち尽くしていた。
「あれ……? わたし、さっきまで廊下にいたはずなのに……」
「ななしさん! 奇遇だね、君もこのエリアに強制転送されたの?」
宙にふわりと浮かびながら、頭部の青い炎を揺らした少年――オルト・シュラウドが無邪気な笑みを浮かべて声をかけてきた。
「オルト!? どうしてここに……。というか、この部屋はいったい」
「僕にも詳しい事は分からないんだ。兄さんの手伝いでサーバー室のログを解析していたら、突然この独立した空間に引っ張られちゃって。あ、見て! メインモニターに何か表示されたみたい」
オルトが小さな指で指し示した大画面に、どこか懐かしいレトロゲームのようなピクセルフォントの文字が明滅を始める。
二人で協力してゲームクリアしないと出られない部屋
「……ゲームを、クリアしないと出られない?」
ななしは画面を見上げ、小さく首を傾げた。
部屋の入退室を管理するセキュリティとしてはあまりに突飛だが、危害を加えられるような物々しい雰囲気ではないことに少しだけ胸をなでおろす。
「なるほどね! いわゆる古典的なシチュエーションだ。でも安心して、ななしさん。僕とななしさんなら、どんな高難易度ゲームだって一瞬でクリアできるよ!」
オルトは誇らしげに胸を張り、コントローラーを手渡す。ななしは差し出されたコントローラーを手に取り、少し緊張気味に指を添えた。
「ゲームはあんまり得意じゃないから、足を引っ張っちゃうかもしれないけど……頑張るね」
「弱気にならなくて大丈夫!僕がしっかりサポートしてあげるね!」
画面に鮮やかなグラフィックが広がり、二人の協力プレイが始まった。
ステージが進むにつれて敵の攻撃は激しさを増し、画面内を埋め尽くす弾幕を避けるために、二人の距離は自然と近くなっていく。オルトの操作するキャラクターは一寸の狂いもない正確さでななしを守り、ななしも必死にオルトの指示に従ってボタンを操作した。
「上手いよ、ななしさん! 次は右からくる敵を狙って!」
「うん、やってみる……っ! あ、危ないっ!」
「大丈夫、僕がここにいるよ」
オルトの小さな手が、操作ミスをしそうになったななしの手の上に、そっと重ねられた。触れ合った瞬間、ななしは彼の指先から伝わってくる人間のものとは違う、けれど確かに存在する微かな熱を感じて心臓が跳ねるのを感じた。
「あ……ごめんね、オルト。手が当たっちゃって」
「ううん、気にしないで。ほら、ボス戦が始まるよ。もっと集中しなきゃ」
オルトの瞳が真剣な光を帯びてななしを見つめた。
ステージの難易度はさらに跳ね上がり、画面は無数の光の弾幕で埋め尽くされていく。右から左へ押し寄せる敵の群れ。それを捌ききるため、オルトとななしの距離は必然的に肩がぴったりと触れ合うところまで狭まっていた。
「ななしさん、次、強烈な範囲攻撃がくるよ! 僕のキャラクターの真後ろに隠れて!」
「わ、わかった……っ! でも、操作が追いつかなくて……!」
「大丈夫、僕の動きに合わせて。――せーので左にステップ!」
オルトが声を弾ませながらコントローラーを握るななしの手に、自身の小さな手をぴったりと重ね直した。
カチカチと電子的なボタンの入力音が二人の至近距離で激しく刻まれる。その音に混ざるようにして、ななしの衣服越しから伝わるドクドクという人間の鼓動が静かな部屋に微かに響いていた。
「ななしさん、呼吸が少し乱れているみたい。心拍数が平常時の1.3倍に上昇しているよ。やっぱりゲームの緊張感が強すぎるのかな」
「あ、いや……その、オルトが近くて、びっくりしちゃっただけだから……」
「僕が近いと緊張しちゃう? 物理的な接触がプレイヤーの心理的デバフになっているなら、フォーメーションを変えた方がいいかな」
オルトは不思議そうに首を少しだけ傾げてななしの顔を見つめた。彼の頭部から揺らめく青い炎の光が、二人の影を壁に大きく映し出す。
「ううん、そのままで大丈夫。オルトが隣にいてくれた方が、安心するし……」
「嬉しいな! 兄さん以外の人とこんな風にゲームをするのって、なんだかすごく新鮮でだから」
オルトの瞳が画面の光を反射してキラキラと輝いた。
彼は重ねた手に少しだけ力を込め、ななしの指の動きをサポートするように滑らかにリードしていく。
「よし、前半の猛攻は凌ぎきったよ! 次が泣いても笑ってもラスボスだ。僕たちのコンビネーションを見せつけてやろう!」
「うん……! 絶対に二人でクリアして、ここから出ようね、オルト」
熱を帯びたコントローラーを握り直し、二人は光り輝く巨大な敵へと向かって突撃した。
「ななしさん、ボスのHPは残り15%! ここから最終ギミックが作動するよ。僕が盾になって直撃を防ぐから、君は最大火力のコンボを叩き込んで!」
「でも、そんなことをしたらオルトのキャラクターが……!」
「大丈夫、僕を信じて。二人で勝つための、これが最適解だから!」
「うん、わかった!」
「――これで、終わりだっ!」
二人のタイミングが完璧にシンクロした瞬間、画面のボスは大爆発を起こし、光の粒子となって霧散した。モニターには大きく『CLEAR』の文字が躍りファンファーレが部屋中に鳴り響く。
カチリ――。
条件が満たされ、背後の重厚な金属壁が静かにスライドして道が開かれた。
「やったね、ななしさん! 最高のコンビネーションだったよ!」
「うん……! やったね、オルト。ありがとう、わたしを守ってくれて」
「ううん、僕一人の力じゃ絶対に無理だったよ。君が諦めずに僕のスピードについてきてくれたから、勝てたんだ」
開かれた扉の向こうからは、いつも通りの少し騒がしい学園の廊下の風が吹き込んできている。部屋を出ようとしたオルトはふと立ち止まり、少しだけ名残惜しそうにななしの袖を小さく引いた。
「ねえ、ななしさん。この部屋から出ても……また僕と一緒にゲームしてくれる?」
「もちろん! 今度はオンボロ寮で、のんびり遊ぼうね」
「うん、約束だよ! 次はもっと面白い協力プレイのタイトル、僕が厳選して用意しておくからね!」
繋がった確かな絆の熱を胸に抱いたまま、二人は並んで穏やかな光の射す廊下へと一歩を踏み出した。
ななしは手にした授業のプリントを整理しながら歩いていた。しかし次の瞬間には足元が不自然に浮き上がるような感覚に囚われ、気がついた時には窓が一つもない、部屋の壁一面が巨大なモニターで埋め尽くされた未知の部屋に立ち尽くしていた。
「あれ……? わたし、さっきまで廊下にいたはずなのに……」
「ななしさん! 奇遇だね、君もこのエリアに強制転送されたの?」
宙にふわりと浮かびながら、頭部の青い炎を揺らした少年――オルト・シュラウドが無邪気な笑みを浮かべて声をかけてきた。
「オルト!? どうしてここに……。というか、この部屋はいったい」
「僕にも詳しい事は分からないんだ。兄さんの手伝いでサーバー室のログを解析していたら、突然この独立した空間に引っ張られちゃって。あ、見て! メインモニターに何か表示されたみたい」
オルトが小さな指で指し示した大画面に、どこか懐かしいレトロゲームのようなピクセルフォントの文字が明滅を始める。
二人で協力してゲームクリアしないと出られない部屋
「……ゲームを、クリアしないと出られない?」
ななしは画面を見上げ、小さく首を傾げた。
部屋の入退室を管理するセキュリティとしてはあまりに突飛だが、危害を加えられるような物々しい雰囲気ではないことに少しだけ胸をなでおろす。
「なるほどね! いわゆる古典的なシチュエーションだ。でも安心して、ななしさん。僕とななしさんなら、どんな高難易度ゲームだって一瞬でクリアできるよ!」
オルトは誇らしげに胸を張り、コントローラーを手渡す。ななしは差し出されたコントローラーを手に取り、少し緊張気味に指を添えた。
「ゲームはあんまり得意じゃないから、足を引っ張っちゃうかもしれないけど……頑張るね」
「弱気にならなくて大丈夫!僕がしっかりサポートしてあげるね!」
画面に鮮やかなグラフィックが広がり、二人の協力プレイが始まった。
ステージが進むにつれて敵の攻撃は激しさを増し、画面内を埋め尽くす弾幕を避けるために、二人の距離は自然と近くなっていく。オルトの操作するキャラクターは一寸の狂いもない正確さでななしを守り、ななしも必死にオルトの指示に従ってボタンを操作した。
「上手いよ、ななしさん! 次は右からくる敵を狙って!」
「うん、やってみる……っ! あ、危ないっ!」
「大丈夫、僕がここにいるよ」
オルトの小さな手が、操作ミスをしそうになったななしの手の上に、そっと重ねられた。触れ合った瞬間、ななしは彼の指先から伝わってくる人間のものとは違う、けれど確かに存在する微かな熱を感じて心臓が跳ねるのを感じた。
「あ……ごめんね、オルト。手が当たっちゃって」
「ううん、気にしないで。ほら、ボス戦が始まるよ。もっと集中しなきゃ」
オルトの瞳が真剣な光を帯びてななしを見つめた。
ステージの難易度はさらに跳ね上がり、画面は無数の光の弾幕で埋め尽くされていく。右から左へ押し寄せる敵の群れ。それを捌ききるため、オルトとななしの距離は必然的に肩がぴったりと触れ合うところまで狭まっていた。
「ななしさん、次、強烈な範囲攻撃がくるよ! 僕のキャラクターの真後ろに隠れて!」
「わ、わかった……っ! でも、操作が追いつかなくて……!」
「大丈夫、僕の動きに合わせて。――せーので左にステップ!」
オルトが声を弾ませながらコントローラーを握るななしの手に、自身の小さな手をぴったりと重ね直した。
カチカチと電子的なボタンの入力音が二人の至近距離で激しく刻まれる。その音に混ざるようにして、ななしの衣服越しから伝わるドクドクという人間の鼓動が静かな部屋に微かに響いていた。
「ななしさん、呼吸が少し乱れているみたい。心拍数が平常時の1.3倍に上昇しているよ。やっぱりゲームの緊張感が強すぎるのかな」
「あ、いや……その、オルトが近くて、びっくりしちゃっただけだから……」
「僕が近いと緊張しちゃう? 物理的な接触がプレイヤーの心理的デバフになっているなら、フォーメーションを変えた方がいいかな」
オルトは不思議そうに首を少しだけ傾げてななしの顔を見つめた。彼の頭部から揺らめく青い炎の光が、二人の影を壁に大きく映し出す。
「ううん、そのままで大丈夫。オルトが隣にいてくれた方が、安心するし……」
「嬉しいな! 兄さん以外の人とこんな風にゲームをするのって、なんだかすごく新鮮でだから」
オルトの瞳が画面の光を反射してキラキラと輝いた。
彼は重ねた手に少しだけ力を込め、ななしの指の動きをサポートするように滑らかにリードしていく。
「よし、前半の猛攻は凌ぎきったよ! 次が泣いても笑ってもラスボスだ。僕たちのコンビネーションを見せつけてやろう!」
「うん……! 絶対に二人でクリアして、ここから出ようね、オルト」
熱を帯びたコントローラーを握り直し、二人は光り輝く巨大な敵へと向かって突撃した。
「ななしさん、ボスのHPは残り15%! ここから最終ギミックが作動するよ。僕が盾になって直撃を防ぐから、君は最大火力のコンボを叩き込んで!」
「でも、そんなことをしたらオルトのキャラクターが……!」
「大丈夫、僕を信じて。二人で勝つための、これが最適解だから!」
「うん、わかった!」
「――これで、終わりだっ!」
二人のタイミングが完璧にシンクロした瞬間、画面のボスは大爆発を起こし、光の粒子となって霧散した。モニターには大きく『CLEAR』の文字が躍りファンファーレが部屋中に鳴り響く。
カチリ――。
条件が満たされ、背後の重厚な金属壁が静かにスライドして道が開かれた。
「やったね、ななしさん! 最高のコンビネーションだったよ!」
「うん……! やったね、オルト。ありがとう、わたしを守ってくれて」
「ううん、僕一人の力じゃ絶対に無理だったよ。君が諦めずに僕のスピードについてきてくれたから、勝てたんだ」
開かれた扉の向こうからは、いつも通りの少し騒がしい学園の廊下の風が吹き込んできている。部屋を出ようとしたオルトはふと立ち止まり、少しだけ名残惜しそうにななしの袖を小さく引いた。
「ねえ、ななしさん。この部屋から出ても……また僕と一緒にゲームしてくれる?」
「もちろん! 今度はオンボロ寮で、のんびり遊ぼうね」
「うん、約束だよ! 次はもっと面白い協力プレイのタイトル、僕が厳選して用意しておくからね!」
繋がった確かな絆の熱を胸に抱いたまま、二人は並んで穏やかな光の射す廊下へと一歩を踏み出した。
