◯◯しないと出られない部屋
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不意に視界の端がぐにゃりと歪むような奇妙な感覚に襲われ、気がついた時には窓のないベッドだけが置かれた部屋の真ん中に立ち尽くしていた。
「え……? ここ、どこ……?」
「うわっ!? びっくりした……! ななしサン!?」
ベッドの脇から、驚きに満ちた愛らしい少年らしい声が響いた。
エペルは大きな瞳を丸くしてななしを見つめている。
「エペル!? どうしてここに……」
「僕にも分からないんだ。気がついたらこの部屋にいて……」
エペルの会話を遮るように、この部屋で唯一の出口である扉に淡い桃色の文字が浮かび上がった。
同じ毛布に包まって寝ないと出られない部屋
「……お、同じ毛布に、包まって、寝る……?」
「な、なんだよこれ……! 誰の悪戯!?」
エペルが扉のノブをガチャガチャと力任せに回すが、びくともしない。彼は悔しそうに唇を噛み、ベッドの上に無造作に置かれた分厚いウールの一枚の毛布を見つめた。
「エペル……あの、どうにかして魔法を破る方法は……」
「僕の魔力じゃ、びくともしないみたいだ。……悔しいけど、この部屋の言う通りにするしかないのかな」
エペルは顔を背け、少し決まずそうに首筋を掻いた。
「でも、わたし……エペルと同じ毛布なんて、緊張して眠れるわけが……」
「……僕だって、緊張しないわけじゃないよ。でも、ここにずっと閉じ込められてるわけにはいかないだろ? ほらななしサン、おいでよ」
エペルの声音がいつもの大人しいトーンから、少しだけ低く男らしいものへと変化した。その声音に含まれた普段は見せない強引さに圧され、ななしは震える足で一歩ずつベッドへと歩みを進めた。
シーツの上に腰を下ろすと、エペルがすぐ隣に腰掛け毛布を広げた。
「ほら、入って。……寒くはない?」
「う、うん。大丈夫……」
ななしは目をきつく閉じ、意を決して毛布の中に身体を滑り込ませた。
隣に並んで横たわった瞬間、エペルの体温がダイレクトに伝わってきた。可憐な見た目とは裏腹に鍛えられた引き締まった男の子の身体。
ななしの心臓は、すでに限界を突破したような音を立てていた。衣服を通り抜けて、自分の異常な鼓動がエペルにすべて伝わっているのではないかと不安でたまらなくなる。
「……ななしサン。すっごく身体、強張ってるみたい。そんなに僕の隣、嫌だった……?」
「ち、違うの! 嫌なわけないよ! ただ、その……恥ずかしくて……」
「……そっか。確かに、そうだよね。僕も……心臓がさっきから、うるさいんだ」
エペルが小さく呟き、毛布の中でそっとななしの方を向いた。
部屋の温度がじわじわと上がり始めているような錯覚を覚える。
ななしは恥ずかしさのあまり、顔をこれ以上近づけられないように、首元まで毛布をきつく手繰り寄せた。
「エペル……?」
「ななしサンの顔、毛布の隙間からすっごく赤くなってるのが見える。……ねえ、もっとこっち向いてよ」
エペルがふっと、少しだけ意地悪な笑みを漏らした。
彼の右手が毛布の中でななしの手にそっと触れ、指先を絡めてくる。触れられた肌から、じっとりとした熱が身体の奥へと染み込んでいくようだった。
「このままだと、いつまで経っても出られないよ。……だから、観念してよ」
毛布の中でエペルの指先がじわりと熱を帯び、絡められた手のひらから甘い痺れのような感覚が全身へと広がっていく。
ななしは厚い生地をもう片方の手で握りしめ、必死に浅い呼吸を繰り返した。至近距離から漂うエペルの瑞々しくもどこか熱を孕んだ香りが毛布の中の熱気と混ざり合い、脳の芯をぼんやりと狂わせていく。
「……ななしサン。まだ、僕のほう、ちゃんと見てくれないんだね」
エペルの声は普段の控えめなトーンから完全に変わり、低く、どこか掠れた響きを帯びていた。
彼は絡めた手をぐっと引き寄せ、二人の距離をさらに縮める。
「エペル……あの、近すぎて、心臓の音が……聞こえちゃう……」
「……聞こえればいいよ。僕のだって、さっきから壊れそうなくらい鳴ってるんだから。……お揃い、だね」
耳元に吹きかけられる熱い息にななしは背筋がゾクゾクと震えるのを禁じ得なかった。可憐な見た目の奥に隠された、剥き出しの強さと男らしさ。そのギャップが身体の境界線をなぞるようにじっとりとした熱となって染み込んでくる。
ななしが耐えかねてほんの少し顔を背けようと身を捩ると、エペルは空いている左腕をななしの腰に回し、逃げ道を塞ぐように強く抱き寄せた。
「……僕、舐められないように、ずっと強くなりたいって思ってきた。だけどななしサンの前だと、別の意味で我慢がきかなくなるみたい」
「…… エペ、ル……?」
「ななしサンが僕を見て、そうやって真っ赤になって、怯えたみたいに震えてるの見ると……すごく独り占めしたくなる。僕だけのものになってよって、」
エペルはななしの手を握ったまま、もう片方の手でななしの顎をそっと掴み、強引に自分の方へと向かせた。
至近距離でエペルの瞳が真っ直ぐに射抜いてくる。
「……ななしサン。そんな顔されたら、僕、本当に男として……手加減できなくなるよ」
「エペル……」
熱い手のひらが頬を包み込み、ななしの思考は完全に停止した。恥ずかしさの限界を突き抜けたその先で、エペルという一人の男の子の熱に、このまま跡形もなく溶かされてしまいたいという、濃密な欲求がじわじわと身体の奥底から溢れ出そうになっていた。
「……ななしサン、目を逸らさないで。僕だけを見て……」
エペルの囁きはどこか切実で、それでいて有無を言わせない傲慢さを孕んでいた。
頬を包み込む彼の指先が、ななしの髪を優しく撫でながら二人の距離をゼロにする。触れ合う唇と唇の間からお互いの熱い吐息が溶け合い、狭い空間の酸素がじわじわと奪われていくのが分かった。
「ななしサン……。僕もう、ただの同級生じゃいられないよ」
「エペ、ル……っ」
「……ん……っ」
名前を呼ぶ声は、すぐに重なり合った唇によって塞がれた。
脳裏が鮮やかに弾け、ななしの全身が心地よい痺れに包まれる。
エペルの唇は驚くほど情熱的で、そして貪欲だった。恥ずかしさに強張るななしの唇を、彼は何度も何度も形を確かめるように、深く深く食んだ。絡められた指先にはさらに強い力が込められ、毛布の擦れる音だけが二人の甘い呼吸の合間に小さく響く。
深く、どこまでも深い蜜の底へと沈んでいくような感覚のなかで、ななしの瞼が限界を迎えたようにじわじわと重くなっていく。エペルの心地よい心音を子守唄のように聴きながら、ななしはついに深い眠りの中へと落ちていった。
「……ななしサン?」
腕の中では、すっかり安心しきった顔で眠りに就いたななしの姿があった。そのあまりの無防備さと愛らしさに、エペルの胸の奥の尖った熱が、じわじわと温かい幸福感へと変わっていく。自分のすべてを捧げてくれた同級生の体温を感じているうちに、これまで虚勢を張り続けていたエペルの心と身体からも急速に力が抜けていく。
「……ずるいよ。僕だって、もう限界なのに……」
エペルは愛おしそうに微笑むとななしの肩を引き寄せ、その首筋に深く顔を埋めた。
互いの心音が毛布の中で重なり合い、心地よいリズムとなってエペルの脳裏を揺らす。ななしを誰にも渡さないように強く、強く抱きしめたまま、エペルもまた引きずり込まれるように深い眠りへと落ちていった。
・
カチリ――
二人の意識が完全に途切れて重なった瞬間、鍵の開く音が静かに響き外界へと続く道が確かに開かれる。
しかし開かれた扉の向こうから穏やかな光が差し込んでも、一枚の毛布に包まれた二人が目を覚ます気配はなかった。互いの腕の中で世界で一番深い幸福な眠りに落ち、寄り添ったまま離れることなく静かに息を刻み続けていた。
「え……? ここ、どこ……?」
「うわっ!? びっくりした……! ななしサン!?」
ベッドの脇から、驚きに満ちた愛らしい少年らしい声が響いた。
エペルは大きな瞳を丸くしてななしを見つめている。
「エペル!? どうしてここに……」
「僕にも分からないんだ。気がついたらこの部屋にいて……」
エペルの会話を遮るように、この部屋で唯一の出口である扉に淡い桃色の文字が浮かび上がった。
同じ毛布に包まって寝ないと出られない部屋
「……お、同じ毛布に、包まって、寝る……?」
「な、なんだよこれ……! 誰の悪戯!?」
エペルが扉のノブをガチャガチャと力任せに回すが、びくともしない。彼は悔しそうに唇を噛み、ベッドの上に無造作に置かれた分厚いウールの一枚の毛布を見つめた。
「エペル……あの、どうにかして魔法を破る方法は……」
「僕の魔力じゃ、びくともしないみたいだ。……悔しいけど、この部屋の言う通りにするしかないのかな」
エペルは顔を背け、少し決まずそうに首筋を掻いた。
「でも、わたし……エペルと同じ毛布なんて、緊張して眠れるわけが……」
「……僕だって、緊張しないわけじゃないよ。でも、ここにずっと閉じ込められてるわけにはいかないだろ? ほらななしサン、おいでよ」
エペルの声音がいつもの大人しいトーンから、少しだけ低く男らしいものへと変化した。その声音に含まれた普段は見せない強引さに圧され、ななしは震える足で一歩ずつベッドへと歩みを進めた。
シーツの上に腰を下ろすと、エペルがすぐ隣に腰掛け毛布を広げた。
「ほら、入って。……寒くはない?」
「う、うん。大丈夫……」
ななしは目をきつく閉じ、意を決して毛布の中に身体を滑り込ませた。
隣に並んで横たわった瞬間、エペルの体温がダイレクトに伝わってきた。可憐な見た目とは裏腹に鍛えられた引き締まった男の子の身体。
ななしの心臓は、すでに限界を突破したような音を立てていた。衣服を通り抜けて、自分の異常な鼓動がエペルにすべて伝わっているのではないかと不安でたまらなくなる。
「……ななしサン。すっごく身体、強張ってるみたい。そんなに僕の隣、嫌だった……?」
「ち、違うの! 嫌なわけないよ! ただ、その……恥ずかしくて……」
「……そっか。確かに、そうだよね。僕も……心臓がさっきから、うるさいんだ」
エペルが小さく呟き、毛布の中でそっとななしの方を向いた。
部屋の温度がじわじわと上がり始めているような錯覚を覚える。
ななしは恥ずかしさのあまり、顔をこれ以上近づけられないように、首元まで毛布をきつく手繰り寄せた。
「エペル……?」
「ななしサンの顔、毛布の隙間からすっごく赤くなってるのが見える。……ねえ、もっとこっち向いてよ」
エペルがふっと、少しだけ意地悪な笑みを漏らした。
彼の右手が毛布の中でななしの手にそっと触れ、指先を絡めてくる。触れられた肌から、じっとりとした熱が身体の奥へと染み込んでいくようだった。
「このままだと、いつまで経っても出られないよ。……だから、観念してよ」
毛布の中でエペルの指先がじわりと熱を帯び、絡められた手のひらから甘い痺れのような感覚が全身へと広がっていく。
ななしは厚い生地をもう片方の手で握りしめ、必死に浅い呼吸を繰り返した。至近距離から漂うエペルの瑞々しくもどこか熱を孕んだ香りが毛布の中の熱気と混ざり合い、脳の芯をぼんやりと狂わせていく。
「……ななしサン。まだ、僕のほう、ちゃんと見てくれないんだね」
エペルの声は普段の控えめなトーンから完全に変わり、低く、どこか掠れた響きを帯びていた。
彼は絡めた手をぐっと引き寄せ、二人の距離をさらに縮める。
「エペル……あの、近すぎて、心臓の音が……聞こえちゃう……」
「……聞こえればいいよ。僕のだって、さっきから壊れそうなくらい鳴ってるんだから。……お揃い、だね」
耳元に吹きかけられる熱い息にななしは背筋がゾクゾクと震えるのを禁じ得なかった。可憐な見た目の奥に隠された、剥き出しの強さと男らしさ。そのギャップが身体の境界線をなぞるようにじっとりとした熱となって染み込んでくる。
ななしが耐えかねてほんの少し顔を背けようと身を捩ると、エペルは空いている左腕をななしの腰に回し、逃げ道を塞ぐように強く抱き寄せた。
「……僕、舐められないように、ずっと強くなりたいって思ってきた。だけどななしサンの前だと、別の意味で我慢がきかなくなるみたい」
「…… エペ、ル……?」
「ななしサンが僕を見て、そうやって真っ赤になって、怯えたみたいに震えてるの見ると……すごく独り占めしたくなる。僕だけのものになってよって、」
エペルはななしの手を握ったまま、もう片方の手でななしの顎をそっと掴み、強引に自分の方へと向かせた。
至近距離でエペルの瞳が真っ直ぐに射抜いてくる。
「……ななしサン。そんな顔されたら、僕、本当に男として……手加減できなくなるよ」
「エペル……」
熱い手のひらが頬を包み込み、ななしの思考は完全に停止した。恥ずかしさの限界を突き抜けたその先で、エペルという一人の男の子の熱に、このまま跡形もなく溶かされてしまいたいという、濃密な欲求がじわじわと身体の奥底から溢れ出そうになっていた。
「……ななしサン、目を逸らさないで。僕だけを見て……」
エペルの囁きはどこか切実で、それでいて有無を言わせない傲慢さを孕んでいた。
頬を包み込む彼の指先が、ななしの髪を優しく撫でながら二人の距離をゼロにする。触れ合う唇と唇の間からお互いの熱い吐息が溶け合い、狭い空間の酸素がじわじわと奪われていくのが分かった。
「ななしサン……。僕もう、ただの同級生じゃいられないよ」
「エペ、ル……っ」
「……ん……っ」
名前を呼ぶ声は、すぐに重なり合った唇によって塞がれた。
脳裏が鮮やかに弾け、ななしの全身が心地よい痺れに包まれる。
エペルの唇は驚くほど情熱的で、そして貪欲だった。恥ずかしさに強張るななしの唇を、彼は何度も何度も形を確かめるように、深く深く食んだ。絡められた指先にはさらに強い力が込められ、毛布の擦れる音だけが二人の甘い呼吸の合間に小さく響く。
深く、どこまでも深い蜜の底へと沈んでいくような感覚のなかで、ななしの瞼が限界を迎えたようにじわじわと重くなっていく。エペルの心地よい心音を子守唄のように聴きながら、ななしはついに深い眠りの中へと落ちていった。
「……ななしサン?」
腕の中では、すっかり安心しきった顔で眠りに就いたななしの姿があった。そのあまりの無防備さと愛らしさに、エペルの胸の奥の尖った熱が、じわじわと温かい幸福感へと変わっていく。自分のすべてを捧げてくれた同級生の体温を感じているうちに、これまで虚勢を張り続けていたエペルの心と身体からも急速に力が抜けていく。
「……ずるいよ。僕だって、もう限界なのに……」
エペルは愛おしそうに微笑むとななしの肩を引き寄せ、その首筋に深く顔を埋めた。
互いの心音が毛布の中で重なり合い、心地よいリズムとなってエペルの脳裏を揺らす。ななしを誰にも渡さないように強く、強く抱きしめたまま、エペルもまた引きずり込まれるように深い眠りへと落ちていった。
・
カチリ――
二人の意識が完全に途切れて重なった瞬間、鍵の開く音が静かに響き外界へと続く道が確かに開かれる。
しかし開かれた扉の向こうから穏やかな光が差し込んでも、一枚の毛布に包まれた二人が目を覚ます気配はなかった。互いの腕の中で世界で一番深い幸福な眠りに落ち、寄り添ったまま離れることなく静かに息を刻み続けていた。
