◯◯しないと出られない部屋
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ななしは手にした書類に目を落として歩いていたはずだった。しかし不意に足元から世界がぐにゃりと歪むような奇妙な感覚に襲われ、気がついた時には窓のない、豪奢な天蓋付きベッドだけが置かれた部屋の真ん中に立ち尽くしていた。
「え……? ここ、どこ……?」
「おやおや、これは驚いた。まさかこんな美しい罠が仕掛けられていたとはね!」
部屋の壁際から朗々とした、それでいてどこか芝居がかった艶やかな声が響いた。ルーク・ハントが帽子揺らしながらななしを見つめている。
「ル、ルーク先輩!? どうしてここに……」
「私にも分からないのだよ、ななしくん。ただ、君が不思議な空間に吸い込まれるのが見えてね。思わず君を追いかけて、この未知の領域へと飛び込んでしまったというわけさ」
ルークは楽しげに肩をすくめ、部屋の唯一の出口である重厚な扉へと近づいた。その扉の表面に淡い光を放つ文字が生き物のように滑らかに浮かび上がっていく。
30分腕枕しないと出られない部屋
「……う、腕枕、を……30分……?」
ななしは文字を読み終えた瞬間、一気に顔が火照るのを感じ持っていた書類で慌てて顔を覆った。ただでさえ常に情熱的な言葉を投げかけてくるルークと至近距離で接するだけでも、心臓が爆発しそうなほど緊張する。それなのに30分も密室で過ごすなど到底不可能な難題に思えた。
「素晴らしい! なんとロマンチックで、官能的な試練だろう! 部屋の主はなかなかの芸術家だね。さあトリックスター、ぐずぐずしている時間はない。時間は命の輝きそのものだ。そのベッドへ向かおうじゃないか」
「えっ!? で、でも、ルーク先輩、わたし……そんな無理です! 腕枕なんて、緊張して心臓が止まってしまいます……!」
「ノン! 恐れることは何もないよ。私はただ、愛しい君にこの腕を差し出すだけさ。それとも私の腕では君の美しい頭を支えるに値しないとでも言うのかい?」
ルークは楽しげに笑いながら、帽子を脱いで近くのチェストへと置いた。彼が動くたびに、爽やかでいてどこか狂気を孕んだ香りが狭い部屋の空気にじわりと混ざり合っていく。
ななしは書類を胸に抱きしめたまま、一歩も動くことができない。
「そんなわけありません! ルーク先輩は、いつでも格好良くて、その……わたしなんかじゃ、釣り合わないというか……」
「おや、それは大いなる誤解だ。君がどれほど美しく、私の心を惑わせる存在かまだ自覚していないのだね? ……いいから、おいで」
ルークの声音が、いつもの高揚したトーンから低く滑らかなものへと変化した。その声音に含まれた絶対的な引力に抗えず、ななしは震える足で一歩ずつベッドへと歩みを進めた。
シーツの上に横たわると、ルークがすぐ隣に滑り込んできた。
彼が右腕を惜しげもなく差し出す。
「さあ、ここへ。君の特等席だ」
「う、失礼します……」
ななしは目をきつく閉じ、意を決してその腕の上に頭を乗せた。
触れた瞬間、ルークの体温がダイレクトに伝わってきた。しなやかで、驚くほど硬く男性らしい逞しさに満ちている。
ななしの心臓はすでに早鐘を打っていた。衣服や髪を通り抜けて、自分の異常な鼓動がルークにすべて伝わっているのではないかと不安でたまらなくなる。
「……ふむ。君の鼓動が、まるで捕らえられたばかりの小鳥のように激しく跳ねているね。私の腕を通して、その愛らしい生命のステップがびしびしと伝わってくるよ、ななしくん」
「すみません……。どうしても、緊張してしまって……」
「謝る必要なんてどこにもないさ。むしろ、これほどまでに私を意識してくれているのだと思うと、私の胸の奥の情熱もどうにかなってしまいそうだ」
ルークの鋭い双眸が至近距離でななしの顔をじっと見つめていた。部屋の温度が、じわじわと上がり始めているような錯覚を覚える。
ななしは恥ずかしさのあまり、顔をこれ以上近づけられないように首元までシーツを手繰り寄せようとした。
「ルーク先輩、そんな風に見つめられると……」
「ノン、隠れてはいけないよ。君のその、今にも色づきそうな果実のように赤くなった頬も、彷徨う視線も……すべてが私を魅了するのだから」
ルークがふっと妖艶な笑みを漏らした。
彼の左手がななしの頬に優しく触れ、遮るシーツをそっと引き下げる。触れられた肌から熱が身体の奥へと染み込んでいくようだった。
「……おや、これほど近くにいるというのに、まだ私から目を逸らしてしまうのかい?」
ルークの声はいつもの朗々とした響きから一転し、まるで獲物の呼吸を遮るかのように低く滑らかに響いた。右腕に預けられたななしの頭を彼はさらに自分の胸元へと優しく引き寄せる。
密着した身体を通して、ルークの規則正しく力強い心臓の鼓動がダイレクトに伝わってきた。弓を引き絞る背筋の強靭さ、衣服越しでも分かる引き締まった胸板の硬さと熱。それがななしの狂ったように高鳴る鼓動と重なり合い、逃げ場のない輪舞曲を奏でる。
「ルーク、先輩……あの、心臓の音が、うるさくて……、すみません……」
「何を言うんだい。これほど愛おしい音はないよ。君が私に心を揺さぶられているという、何よりの証明さ。もっと聞かせておくれ」
耳元で囁かれる濃密な低音にななしは全身の血がさらに沸き立つ感覚を覚えた。彼が吐き出す熱い息が、ななしの首筋を優しく撫でていく。身体の内側と外側の境界線が、その熱によってじわじわと溶かされていくようだった。
ななしが耐えかねて、ほんの少し身を捩ると、ルークの左腕がその背中に回され抱きすくめる力が一段と強くなった。
「逃がさないよ、愛しのトリックスター。君がそうやって身を震わせるたびに、私の本能がどうしようもなく刺激されてしまうのだから」
「っ……! でも、こんなに近くにいたら……」
「近くにいたら、どうなってしまうというんだい? 君の本音を、その美しい唇から溢れさせてごらん」
ルークはななしの顎にそっと触れ、ゆっくりと自分の方を向かせた。遮るもののない至近距離で、二人の視線が真っ直ぐに交差する。ルークの切れ長の双眸はいつも学園で見せる、万物へ向けられた賛美の光ではなかった。
そこにあるのは、目の前の少女の細やかな変化を一つも見落とさず、そのすべてを剥き出しにしようとする、底知れない独占欲を孕んだ、純粋な男の目だった。
「君のその、今にも泣き出しそうなほど潤んだ瞳……。そして、私の体温に怯えながらも、じっと縋り付いてくる小さな手。……ああ、なんて愛らしいのだろう」
「せ、んぱい……」
射抜かれた心臓が痛いほどの熱を放つ。
恥ずかしさの限界を超えたその先で身体の芯からじわりと湧き上がってくる別の熱。ルークという情熱の塊に自分のすべてを見透かされ、組み伏せられてしまいたいという甘く濁った欲求がななしの内面で急速に形作られていく。
「ここでの時間は、私たちが互いの本質を溶かし合うには少し短すぎるかもしれないね。……さあ、もっと私を感じておくれ、愛しい人」
ルークの指先がななしの熱を持った唇にそっと触れた。
その濃厚な身体感覚の共有に、ななしの全身の力が完全に抜けていく。ただ、この逞しい腕の中で彼の熱にどこまでも溶かされていたいという本能だけが、ゆっくりと身体を支配していった。
静寂が部屋の隅々にまで沈殿し、ただ重なり合う二人の熱い呼吸だけが微かに空間を揺らしていた。
ルークの逞しい腕の中に完全に閉じ込められた状態で、ななしの思考はもはやひとつの意味を持たなくなっていた。恥ずかしさの限界を迎えた身体は、彼の肌から伝わる圧倒的な体温と、すべてを見透かすような視線によって心地よい麻痺の底へと深く沈んでいく。
「……君の身体が、私の熱を吸い込んで、こんなにも熱く柔らかくなっているね」
ルークの低い囁きがななしの耳裏にじかに触れるように響いた。
彼の大きな手のひらが、ななしの後頭部を包み込むようにして引き寄せる。その指先は驚くほど優しく、けれど絶対に拒絶を許さない強固さで固定されていた。
ルークを満たしていたのは、いつもの華美な賛美の言葉ではなかった。自分の腕の中で熱に浮かされたように不器用な呼吸を繰り返す少女。その無防備な存在が彼の理性に甘く苛烈な支配欲を注ぎ込んでいた。
誰の目にも触れさせずこの閉ざされた空間で、自分だけのために体温を上昇させる少女を永遠にこの腕の中に繋ぎ止めておきたいという、剥き出しの独占欲が彼の心を支配していく。
ルークはゆっくりと顔を近づけ、ななしの濡れた瞳に自らの熱い視線を重ねた。
ななしは迫り来る圧倒的な熱量に震えながらも、もう目を背けることはしなかった。いや、背けるための気力さえ彼の放つ絶対的な引力によって奪い去られていた。
「ななしくん……。君のその、私を恐れ、同時に求めている眼差しが、私の心をどうしようもなく狂わせる。……もう、引き返せそうにないくらいに」
「ルーク、先輩……、わたし、は……」
「何も言わなくていいさ。ただ、私の射抜いた熱の中にすべてを委ねておくれ」
ルークはそう言うと、ななしの顎を愛おしそうに上向かせ、その熱い唇を深く濃密に塞いだ。
脳裏が真っ白に染まるほどの衝撃がななしの全身を駆け抜ける。彼の唇から伝わるのは、いつもの紳士的な態度からは想像もつかないほど貪欲で、狂おしいまでの熱量だった。
何度も何度も呼吸を奪うように深く重ねられ、ななしはただルークのしなやかな背中に細い手を回し、必死に縋り付くことしかできなかった。彼の衣服を掴む指先が、その熱さに完全に馴染んでいく。
深く甘い泥の中に沈んでいくような感覚のなかで、どれほどの時間が経ったのだろうか。
カチリ――。
二人の魂が完全に溶け合い、定められ時間が満たされたその瞬間、重厚な扉が静かに音を立てて開いた。差し込んできたのは、いつもの見慣れたはずの穏やかな光。
しかし結界が解けたというのに、ルークはななしを抱きしめた腕を微かにも緩めようとはしなかった。
「……ルーク、先輩。扉、開きました、よ……?」
「ああ、見えているよ。……だが困ったね。試練が終わっても私の腕が君を離したがらないのだよ」
ルークはななしの赤く腫れた唇を指先で愛おしそうになぞると、その耳元に今度は甘く、ひどく執着に満ちた声で囁いた。
「……これからは終わりのない私の檻の中で、じっくりと愛を語り合おうじゃないか、ななしくん」
光の戻った空間の中で赤くなった顔を隠せないななしを、ルークは慈しむような熱い目で、いつまでも見つめ続けていた。
「え……? ここ、どこ……?」
「おやおや、これは驚いた。まさかこんな美しい罠が仕掛けられていたとはね!」
部屋の壁際から朗々とした、それでいてどこか芝居がかった艶やかな声が響いた。ルーク・ハントが帽子揺らしながらななしを見つめている。
「ル、ルーク先輩!? どうしてここに……」
「私にも分からないのだよ、ななしくん。ただ、君が不思議な空間に吸い込まれるのが見えてね。思わず君を追いかけて、この未知の領域へと飛び込んでしまったというわけさ」
ルークは楽しげに肩をすくめ、部屋の唯一の出口である重厚な扉へと近づいた。その扉の表面に淡い光を放つ文字が生き物のように滑らかに浮かび上がっていく。
30分腕枕しないと出られない部屋
「……う、腕枕、を……30分……?」
ななしは文字を読み終えた瞬間、一気に顔が火照るのを感じ持っていた書類で慌てて顔を覆った。ただでさえ常に情熱的な言葉を投げかけてくるルークと至近距離で接するだけでも、心臓が爆発しそうなほど緊張する。それなのに30分も密室で過ごすなど到底不可能な難題に思えた。
「素晴らしい! なんとロマンチックで、官能的な試練だろう! 部屋の主はなかなかの芸術家だね。さあトリックスター、ぐずぐずしている時間はない。時間は命の輝きそのものだ。そのベッドへ向かおうじゃないか」
「えっ!? で、でも、ルーク先輩、わたし……そんな無理です! 腕枕なんて、緊張して心臓が止まってしまいます……!」
「ノン! 恐れることは何もないよ。私はただ、愛しい君にこの腕を差し出すだけさ。それとも私の腕では君の美しい頭を支えるに値しないとでも言うのかい?」
ルークは楽しげに笑いながら、帽子を脱いで近くのチェストへと置いた。彼が動くたびに、爽やかでいてどこか狂気を孕んだ香りが狭い部屋の空気にじわりと混ざり合っていく。
ななしは書類を胸に抱きしめたまま、一歩も動くことができない。
「そんなわけありません! ルーク先輩は、いつでも格好良くて、その……わたしなんかじゃ、釣り合わないというか……」
「おや、それは大いなる誤解だ。君がどれほど美しく、私の心を惑わせる存在かまだ自覚していないのだね? ……いいから、おいで」
ルークの声音が、いつもの高揚したトーンから低く滑らかなものへと変化した。その声音に含まれた絶対的な引力に抗えず、ななしは震える足で一歩ずつベッドへと歩みを進めた。
シーツの上に横たわると、ルークがすぐ隣に滑り込んできた。
彼が右腕を惜しげもなく差し出す。
「さあ、ここへ。君の特等席だ」
「う、失礼します……」
ななしは目をきつく閉じ、意を決してその腕の上に頭を乗せた。
触れた瞬間、ルークの体温がダイレクトに伝わってきた。しなやかで、驚くほど硬く男性らしい逞しさに満ちている。
ななしの心臓はすでに早鐘を打っていた。衣服や髪を通り抜けて、自分の異常な鼓動がルークにすべて伝わっているのではないかと不安でたまらなくなる。
「……ふむ。君の鼓動が、まるで捕らえられたばかりの小鳥のように激しく跳ねているね。私の腕を通して、その愛らしい生命のステップがびしびしと伝わってくるよ、ななしくん」
「すみません……。どうしても、緊張してしまって……」
「謝る必要なんてどこにもないさ。むしろ、これほどまでに私を意識してくれているのだと思うと、私の胸の奥の情熱もどうにかなってしまいそうだ」
ルークの鋭い双眸が至近距離でななしの顔をじっと見つめていた。部屋の温度が、じわじわと上がり始めているような錯覚を覚える。
ななしは恥ずかしさのあまり、顔をこれ以上近づけられないように首元までシーツを手繰り寄せようとした。
「ルーク先輩、そんな風に見つめられると……」
「ノン、隠れてはいけないよ。君のその、今にも色づきそうな果実のように赤くなった頬も、彷徨う視線も……すべてが私を魅了するのだから」
ルークがふっと妖艶な笑みを漏らした。
彼の左手がななしの頬に優しく触れ、遮るシーツをそっと引き下げる。触れられた肌から熱が身体の奥へと染み込んでいくようだった。
「……おや、これほど近くにいるというのに、まだ私から目を逸らしてしまうのかい?」
ルークの声はいつもの朗々とした響きから一転し、まるで獲物の呼吸を遮るかのように低く滑らかに響いた。右腕に預けられたななしの頭を彼はさらに自分の胸元へと優しく引き寄せる。
密着した身体を通して、ルークの規則正しく力強い心臓の鼓動がダイレクトに伝わってきた。弓を引き絞る背筋の強靭さ、衣服越しでも分かる引き締まった胸板の硬さと熱。それがななしの狂ったように高鳴る鼓動と重なり合い、逃げ場のない輪舞曲を奏でる。
「ルーク、先輩……あの、心臓の音が、うるさくて……、すみません……」
「何を言うんだい。これほど愛おしい音はないよ。君が私に心を揺さぶられているという、何よりの証明さ。もっと聞かせておくれ」
耳元で囁かれる濃密な低音にななしは全身の血がさらに沸き立つ感覚を覚えた。彼が吐き出す熱い息が、ななしの首筋を優しく撫でていく。身体の内側と外側の境界線が、その熱によってじわじわと溶かされていくようだった。
ななしが耐えかねて、ほんの少し身を捩ると、ルークの左腕がその背中に回され抱きすくめる力が一段と強くなった。
「逃がさないよ、愛しのトリックスター。君がそうやって身を震わせるたびに、私の本能がどうしようもなく刺激されてしまうのだから」
「っ……! でも、こんなに近くにいたら……」
「近くにいたら、どうなってしまうというんだい? 君の本音を、その美しい唇から溢れさせてごらん」
ルークはななしの顎にそっと触れ、ゆっくりと自分の方を向かせた。遮るもののない至近距離で、二人の視線が真っ直ぐに交差する。ルークの切れ長の双眸はいつも学園で見せる、万物へ向けられた賛美の光ではなかった。
そこにあるのは、目の前の少女の細やかな変化を一つも見落とさず、そのすべてを剥き出しにしようとする、底知れない独占欲を孕んだ、純粋な男の目だった。
「君のその、今にも泣き出しそうなほど潤んだ瞳……。そして、私の体温に怯えながらも、じっと縋り付いてくる小さな手。……ああ、なんて愛らしいのだろう」
「せ、んぱい……」
射抜かれた心臓が痛いほどの熱を放つ。
恥ずかしさの限界を超えたその先で身体の芯からじわりと湧き上がってくる別の熱。ルークという情熱の塊に自分のすべてを見透かされ、組み伏せられてしまいたいという甘く濁った欲求がななしの内面で急速に形作られていく。
「ここでの時間は、私たちが互いの本質を溶かし合うには少し短すぎるかもしれないね。……さあ、もっと私を感じておくれ、愛しい人」
ルークの指先がななしの熱を持った唇にそっと触れた。
その濃厚な身体感覚の共有に、ななしの全身の力が完全に抜けていく。ただ、この逞しい腕の中で彼の熱にどこまでも溶かされていたいという本能だけが、ゆっくりと身体を支配していった。
静寂が部屋の隅々にまで沈殿し、ただ重なり合う二人の熱い呼吸だけが微かに空間を揺らしていた。
ルークの逞しい腕の中に完全に閉じ込められた状態で、ななしの思考はもはやひとつの意味を持たなくなっていた。恥ずかしさの限界を迎えた身体は、彼の肌から伝わる圧倒的な体温と、すべてを見透かすような視線によって心地よい麻痺の底へと深く沈んでいく。
「……君の身体が、私の熱を吸い込んで、こんなにも熱く柔らかくなっているね」
ルークの低い囁きがななしの耳裏にじかに触れるように響いた。
彼の大きな手のひらが、ななしの後頭部を包み込むようにして引き寄せる。その指先は驚くほど優しく、けれど絶対に拒絶を許さない強固さで固定されていた。
ルークを満たしていたのは、いつもの華美な賛美の言葉ではなかった。自分の腕の中で熱に浮かされたように不器用な呼吸を繰り返す少女。その無防備な存在が彼の理性に甘く苛烈な支配欲を注ぎ込んでいた。
誰の目にも触れさせずこの閉ざされた空間で、自分だけのために体温を上昇させる少女を永遠にこの腕の中に繋ぎ止めておきたいという、剥き出しの独占欲が彼の心を支配していく。
ルークはゆっくりと顔を近づけ、ななしの濡れた瞳に自らの熱い視線を重ねた。
ななしは迫り来る圧倒的な熱量に震えながらも、もう目を背けることはしなかった。いや、背けるための気力さえ彼の放つ絶対的な引力によって奪い去られていた。
「ななしくん……。君のその、私を恐れ、同時に求めている眼差しが、私の心をどうしようもなく狂わせる。……もう、引き返せそうにないくらいに」
「ルーク、先輩……、わたし、は……」
「何も言わなくていいさ。ただ、私の射抜いた熱の中にすべてを委ねておくれ」
ルークはそう言うと、ななしの顎を愛おしそうに上向かせ、その熱い唇を深く濃密に塞いだ。
脳裏が真っ白に染まるほどの衝撃がななしの全身を駆け抜ける。彼の唇から伝わるのは、いつもの紳士的な態度からは想像もつかないほど貪欲で、狂おしいまでの熱量だった。
何度も何度も呼吸を奪うように深く重ねられ、ななしはただルークのしなやかな背中に細い手を回し、必死に縋り付くことしかできなかった。彼の衣服を掴む指先が、その熱さに完全に馴染んでいく。
深く甘い泥の中に沈んでいくような感覚のなかで、どれほどの時間が経ったのだろうか。
カチリ――。
二人の魂が完全に溶け合い、定められ時間が満たされたその瞬間、重厚な扉が静かに音を立てて開いた。差し込んできたのは、いつもの見慣れたはずの穏やかな光。
しかし結界が解けたというのに、ルークはななしを抱きしめた腕を微かにも緩めようとはしなかった。
「……ルーク、先輩。扉、開きました、よ……?」
「ああ、見えているよ。……だが困ったね。試練が終わっても私の腕が君を離したがらないのだよ」
ルークはななしの赤く腫れた唇を指先で愛おしそうになぞると、その耳元に今度は甘く、ひどく執着に満ちた声で囁いた。
「……これからは終わりのない私の檻の中で、じっくりと愛を語り合おうじゃないか、ななしくん」
光の戻った空間の中で赤くなった顔を隠せないななしを、ルークは慈しむような熱い目で、いつまでも見つめ続けていた。
