歌詞シリーズ
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夜の帳が降りたオンボロ寮の談話室は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。微かに聞こえるのは古い柱が刻む音と、窓の外で揺れる木々のざわめきだけ。
ソファーの沈み込みが隣に座る人物の重さを伝えてくる。
「シルバー先輩、本当にここで休まなくて大丈夫ですか?」
「ああ。すまない、ななし。少し、目が冴えてしまってな」
シルバーは、いつもより心持ち低い声で応じる。
その瞳は、心なしか潤んでいるようにも見える。
「いつもなら、すぐに眠ってしまうのに。珍しいこともあるものですね」
「自分でも不思議なんだ。お前の傍にいると、いつもなら強烈な眠気に襲われるはずなのだが……今は不思議と意識がはっきりしている」
シルバーの手が、そっとソファーの背もたれに回される。触れてはいないが彼の体温が背中の後ろからじんわりと伝わってくる。
「それは、わたしの淹れた紅茶が濃すぎたからでしょうか」
「いや。このハーブティーは、むしろ心を落ち着かせるものだろう」
「ふふ、それなら良かったです。あ、そうだ。マカロンもあるんですよ。エースたちが置いていったんです」
「甘いもの、か。……一つ、もらおう」
ななしがテーブルの上の皿に手を伸ばそうとした瞬間、シルバーの指先がその手首に触れる。
「あ」
「……すまない。遮るつもりはなかったんだが」
シルバーの指は離れない。それどころか、親指がななしの手首の脈拍をなぞるようにゆっくりと動く。
「シルバー、先輩……?」
「ななしの手は、いつも温かいな。いや、俺の体温が下がっているだけかもしれないが」
「……先輩の手のほうが、ずっと……心地いいです」
「心地いい、か」
シルバーの口元に微かな笑みが浮かぶ。しかしその瞳の奥にある光は、いつもの穏やかな彼のものではない。じっと見つめられるだけで、肌の表面が粟立つような錯覚を覚える。
「ななし。少し、距離が遠くないか」
「え? でも、すぐ隣に……」
「もっと、近くへ来てくれないか」
シルバーが引き寄せるように手首に力を込める。抗う理由もなく、ななしの身体は吸い寄せられるように彼の胸元へと傾く。
鼻腔をくすぐるのはシルバーから漂うどこか冷ややかで、それでいて甘い、深い森のような香り。
「先輩、近い、です」
「お前が、そうさせているんだ。気付いていないのか?」
「わたしが……?」
「お前の視線が、俺を捉えて離さないからだ。……いつもなら、俺を眠りに誘うはずのその瞳が、今は俺を覚醒させている」
シルバーの顔が近づく。彼の吐息が、ななしの頬を優しく撫でる。その吐息は外の夜気とは対照的に酷く熱を帯びている。
「ななし」
名前を呼ばれるだけで、背筋に電流が走るような感覚。
「はい」
「お前の声は、鼓膜の奥に響く。とても、甘く」
シルバーの自由な方の手が、ななしの頬に触れる。冷たいはずの彼の指先が今は驚くほど熱い。その熱は触れられた肌からじわじわと全身へと伝播していく。
「先輩の、その顔……ずるいです。いつもはあんなに無防備に寝ているのに」
「無防備、か。お前の前だからこそ、そうなってしまうだけだ。だが……今夜は、眠りたくない。眠ってしまえば、この時間が終わってしまうだろう?」
「終わらせたく、ないですか?」
「ああ。お前と二人だけのこの静かな空間を、もっと深く味わいたい」
シルバーの指先が顎から首筋へと滑り降りると、そこから伝わる熱にななしの身体は微かに震えた。
「そんなに震えて……寒いの、か?」
「いえ、寒くは……ないです。ただ、先輩の熱が、その、凄くて……」
「俺の熱、か。確かにお前が触れている場所から、身体の奥が酷く熱い」
シルバーはもう片方の手でななしの腰をそっと抱き寄せた。逃げる隙間を完全に塞ぐように、二人の身体が隙間なく密着する。衣服越しでも分かる彼の胸の鼓動は驚くほど速く、力強い。
「先輩の心臓、すごくドキドキしています」
「お前のせいで、な。……いや、お前のせい、にさせてくれ」
シルバーの視線がななしの唇へと落とされる。彼の瞳には普段の冷静沈着な面影はもうどこにもない。ただ目の前にいる存在を自身のすべてで満たしたいという、本能的な渇望だけが揺らめいている。
「ななし。目を閉じないでくれ。お前が俺をどう見ているのか、そのすべてを焼き付けたい」
「そんな風に見つめられたら、どうしていいか分からなくなります……」
「何も考えなくていい。ただ、俺を感じていてくれれば、それでいい」
言葉が終わると同時に、シルバーの顔がさらに近づいた。
触れ合うだけの、短い口づけ。しかし、それは始まりの合図に過ぎなかった。一度離れた唇が、今度は深い角度で再び重なり合う。
「ん……っ、」
小さな吐息がシルバーの口内へと吸い込まれていく。彼の舌がななしの唇をそっとなぞり、強引ではなく、しかし拒絶を許さない確かさで割り込んできた。
頭の芯がじわじわと痺れていく。シルバーの体温が混ざり合い、脳裏に見たこともない深い茨の庭が広がっていくような錯覚を覚える。外界の音は完全に遮断され、聞こえるのは二人が刻む互いの呼吸の音だけ。
「……はぁ、ななし」
ようやく唇が離れたとき、繋ぎ止められていた細い銀の糸が月明かりに妖しく光った。シルバーの息もいつになく荒い。
「シルバー先輩……、わたし、なんだか、夢を、見ているみたいで……」
「夢ではない。これは現実だ。だがもしこれが夢だと言うのなら、俺は二度と目覚めたくない。お前を俺の腕の中から離したくない」
シルバーの額がななしの額にこつんと乗せられる。お互いの熱い吐息が混ざり合って肌を濡らす。彼の大きな手が、ななしの背中を、まるで壊れ物を扱うように、けれど確実な力で愛おしそうに何度も撫で上げた。
「お前の中の俺を、もっと増やしてくれ。俺のことで、いっぱいに……なってほしい」
「もう、なっています……。先輩の匂いも、熱も、全部、頭から離れなくて……」
「なら、もっと刻み込もう」
シルバーの指がななしの髪に深く絡みつく。引き寄せられるままに、二人は再び深く、溺れるような口づけを交わした。
夜の帳がどれほど深まろうとも、この秘密の庭から抜け出す道は、もうどこにも見当たらなかった。
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Song by BE:FIRST
ソファーの沈み込みが隣に座る人物の重さを伝えてくる。
「シルバー先輩、本当にここで休まなくて大丈夫ですか?」
「ああ。すまない、ななし。少し、目が冴えてしまってな」
シルバーは、いつもより心持ち低い声で応じる。
その瞳は、心なしか潤んでいるようにも見える。
「いつもなら、すぐに眠ってしまうのに。珍しいこともあるものですね」
「自分でも不思議なんだ。お前の傍にいると、いつもなら強烈な眠気に襲われるはずなのだが……今は不思議と意識がはっきりしている」
シルバーの手が、そっとソファーの背もたれに回される。触れてはいないが彼の体温が背中の後ろからじんわりと伝わってくる。
「それは、わたしの淹れた紅茶が濃すぎたからでしょうか」
「いや。このハーブティーは、むしろ心を落ち着かせるものだろう」
「ふふ、それなら良かったです。あ、そうだ。マカロンもあるんですよ。エースたちが置いていったんです」
「甘いもの、か。……一つ、もらおう」
ななしがテーブルの上の皿に手を伸ばそうとした瞬間、シルバーの指先がその手首に触れる。
「あ」
「……すまない。遮るつもりはなかったんだが」
シルバーの指は離れない。それどころか、親指がななしの手首の脈拍をなぞるようにゆっくりと動く。
「シルバー、先輩……?」
「ななしの手は、いつも温かいな。いや、俺の体温が下がっているだけかもしれないが」
「……先輩の手のほうが、ずっと……心地いいです」
「心地いい、か」
シルバーの口元に微かな笑みが浮かぶ。しかしその瞳の奥にある光は、いつもの穏やかな彼のものではない。じっと見つめられるだけで、肌の表面が粟立つような錯覚を覚える。
「ななし。少し、距離が遠くないか」
「え? でも、すぐ隣に……」
「もっと、近くへ来てくれないか」
シルバーが引き寄せるように手首に力を込める。抗う理由もなく、ななしの身体は吸い寄せられるように彼の胸元へと傾く。
鼻腔をくすぐるのはシルバーから漂うどこか冷ややかで、それでいて甘い、深い森のような香り。
「先輩、近い、です」
「お前が、そうさせているんだ。気付いていないのか?」
「わたしが……?」
「お前の視線が、俺を捉えて離さないからだ。……いつもなら、俺を眠りに誘うはずのその瞳が、今は俺を覚醒させている」
シルバーの顔が近づく。彼の吐息が、ななしの頬を優しく撫でる。その吐息は外の夜気とは対照的に酷く熱を帯びている。
「ななし」
名前を呼ばれるだけで、背筋に電流が走るような感覚。
「はい」
「お前の声は、鼓膜の奥に響く。とても、甘く」
シルバーの自由な方の手が、ななしの頬に触れる。冷たいはずの彼の指先が今は驚くほど熱い。その熱は触れられた肌からじわじわと全身へと伝播していく。
「先輩の、その顔……ずるいです。いつもはあんなに無防備に寝ているのに」
「無防備、か。お前の前だからこそ、そうなってしまうだけだ。だが……今夜は、眠りたくない。眠ってしまえば、この時間が終わってしまうだろう?」
「終わらせたく、ないですか?」
「ああ。お前と二人だけのこの静かな空間を、もっと深く味わいたい」
シルバーの指先が顎から首筋へと滑り降りると、そこから伝わる熱にななしの身体は微かに震えた。
「そんなに震えて……寒いの、か?」
「いえ、寒くは……ないです。ただ、先輩の熱が、その、凄くて……」
「俺の熱、か。確かにお前が触れている場所から、身体の奥が酷く熱い」
シルバーはもう片方の手でななしの腰をそっと抱き寄せた。逃げる隙間を完全に塞ぐように、二人の身体が隙間なく密着する。衣服越しでも分かる彼の胸の鼓動は驚くほど速く、力強い。
「先輩の心臓、すごくドキドキしています」
「お前のせいで、な。……いや、お前のせい、にさせてくれ」
シルバーの視線がななしの唇へと落とされる。彼の瞳には普段の冷静沈着な面影はもうどこにもない。ただ目の前にいる存在を自身のすべてで満たしたいという、本能的な渇望だけが揺らめいている。
「ななし。目を閉じないでくれ。お前が俺をどう見ているのか、そのすべてを焼き付けたい」
「そんな風に見つめられたら、どうしていいか分からなくなります……」
「何も考えなくていい。ただ、俺を感じていてくれれば、それでいい」
言葉が終わると同時に、シルバーの顔がさらに近づいた。
触れ合うだけの、短い口づけ。しかし、それは始まりの合図に過ぎなかった。一度離れた唇が、今度は深い角度で再び重なり合う。
「ん……っ、」
小さな吐息がシルバーの口内へと吸い込まれていく。彼の舌がななしの唇をそっとなぞり、強引ではなく、しかし拒絶を許さない確かさで割り込んできた。
頭の芯がじわじわと痺れていく。シルバーの体温が混ざり合い、脳裏に見たこともない深い茨の庭が広がっていくような錯覚を覚える。外界の音は完全に遮断され、聞こえるのは二人が刻む互いの呼吸の音だけ。
「……はぁ、ななし」
ようやく唇が離れたとき、繋ぎ止められていた細い銀の糸が月明かりに妖しく光った。シルバーの息もいつになく荒い。
「シルバー先輩……、わたし、なんだか、夢を、見ているみたいで……」
「夢ではない。これは現実だ。だがもしこれが夢だと言うのなら、俺は二度と目覚めたくない。お前を俺の腕の中から離したくない」
シルバーの額がななしの額にこつんと乗せられる。お互いの熱い吐息が混ざり合って肌を濡らす。彼の大きな手が、ななしの背中を、まるで壊れ物を扱うように、けれど確実な力で愛おしそうに何度も撫で上げた。
「お前の中の俺を、もっと増やしてくれ。俺のことで、いっぱいに……なってほしい」
「もう、なっています……。先輩の匂いも、熱も、全部、頭から離れなくて……」
「なら、もっと刻み込もう」
シルバーの指がななしの髪に深く絡みつく。引き寄せられるままに、二人は再び深く、溺れるような口づけを交わした。
夜の帳がどれほど深まろうとも、この秘密の庭から抜け出す道は、もうどこにも見当たらなかった。
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Song by BE:FIRST
