歌詞シリーズ
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ガラスの天井を激しく叩く雨音が、温室のなかに反響している。
外はバケツをひっくり返したような土砂降り。温室の隅にある手入れの行き届いたベンチに、ケイトとななしは座っていた。
辺りには濡れた土の匂いと、植物の爽やかな香りが濃く立ち込めている。普段なら多くの生徒が行き交うこの場所も、この悪天候のせいか完全に貸し切り状態だった。
「いやー、マジで降られちゃったね。寮に戻るだけでずぶ濡れ確定じゃん?」
ケイトはいつもと変わらない軽いトーンでそう言いながら、手元のスマートフォンをポケットに滑り込ませた。いつもなら画面から目を離さない彼が、珍しくそれを完全にしまい込む。
そして隣に座るななしの顔をじっと見つめた。
その瞳は、いつものはしゃいだものではなく、どこか落ち着いた深い色を湛えている。
「そうですね。でも、先輩なら魔法を使えば濡れずに戻れるんじゃないですか?」
「あはは、確かに。二人をすっぽり包むくらいの雨よけなら、オレでも簡単に作れちゃうかも」
ケイトは悪戯っぽく微笑み、マジカルペンを指先でくるりと回してみせた。けれど彼はそれを胸ポケットに仕舞い、ベンチの背もたれに腕を乗せる。
ほんの少しだけ距離が縮まる。肩が触れ合うか触れ合わないかの境界線で、ケイトは楽しそうに首を傾げた。
「でもさー、それ使ってすぐに戻っちゃうの、なんか勿体なくない? せっかくななしちゃんと二人きりで足止め食らってるわけだし。これってさ、運命的な何かを感じちゃっても良くない?」
「先輩、またそうやってからかう」
「からかってないってば。オレ、ななしちゃんの前だといつも本音しか言ってないよ? 雨よけなんていつでもできるから、今はもう少し、こうしてたいなーって。信じてくれないの、けーくん地味に傷つくなー」
ケイトは胸元に手を当てて、大袈裟に悲しそうなポーズをとってみせる。
しかし、その唇の端は柔らかく弧を描いていた。
冗談の仮面を被りながら、その奥にある本心を少しずつ、けれど確実に匂わせていく。彼のそんな態度に、温室の空気は静かに満たされていった。
雨脚はさらに強まり、屋根を叩く音はまるで世界を遮断する壁のようになっていく。温室のなかの気温が、雨の冷気によって少しずつ下がり始めた。
ななしが小さく身震いした瞬間、ケイトの動きがピタリと止まる。
「あ、もしかして寒い?」
「あ、いえ。少しだけ……」
「ダメだよ、風邪ひいちゃったら大変。ほら、これ着て」
ケイトは迷いのない動作で、自分の制服のジャケットを脱ぎ、ななしの肩にふわりとかけた。一瞬にして、彼の体温がそのまま移ったかのような温かさが、ななしの身体を包み込む。
「ありがとうございます。でも、ケイト先輩が風邪ひいちゃったら……」
「オレは大丈夫。それより、ななしちゃんがオレのジャケット着てるの、なんかめちゃくちゃ可愛い。魔法で暖めるより、こうしてオレの服着てもらう方が、けーくん的にはテンション上がるんだよね」
ケイトはそう言いながら、ジャケットの襟元に軽く手をかけ、ななしの顔を覗き込んだ。
その距離は、お互いの睫毛の数まで数えられそうなほどに近い。
彼の瞳の奥に、じわりと熱いものが灯るのが見えた。
冗談めかした声音の奥で、彼の呼吸がわずかに熱を帯びていく。
皮膚が触れ合っているわけではないのに、衣服を通じて彼の存在が全身に染み込んでいくような、奇妙な身体感覚が生まれていた。
「……先輩、近い……」
「んー? 雨の音がうるさいから、これくらい近くないと声が届かないでしょ?」
ケイトは滑らかな声で言い逃れをしながら、さらに距離を詰めた。
彼の左手がベンチに置かれたななしの手の上に重ねられる。
指先が微かに触れ合い、そこからじわじわと熱が伝わっていく。
ケイトの指は長くて、少しだけ冷えていたが、その中心にある体温は驚くほどに高い。
「あ……」
「オレ、冷たい? でも、ななしちゃんの手はあったかいね」
ケイトはゆっくりと、自分の指をななしの指の隙間に滑り込ませた。
絡み合う指先。
お互いの鼓動が、その接触面を通じて互いの身体へと響き渡る。
感情が身体の境界線を越えて混ざり合っていくような、甘く息苦しい感覚。温室の湿った空気が、二人の熱で満たされていく。
「ケイト先輩……、なんだか、いつもと違います」
「そう? いつも通りだよ。ただ……、今は誰も来ないし、雨が全部の音を消してくれてるからさ。ちょっとだけ、素真面目になってもいいかなって思ってる」
ケイトの声は、すでに普段のトーンより明らかに低く、かすれていた。
彼の瞳がななしの潤んだ目をまっすぐに見つめ、そのままゆっくりと、唇へと滑り落ちていく。
その視線の動きだけで、肌がじりじりと焼けるような熱さを感じる。
二人の間に流れる空気は濃密で、逃げ場のないものへと変化していた。
「ねえ、ななしちゃん。ちょっと疲れたよね。今日はいろいろ大変だったでしょ」
ケイトが囁く。
その声は優しく、同時に抗いがたい命令のようでもあった。
「そんなことは……」
「いいから。ほら、目、閉じなよ」
彼の言葉が、耳のすぐ後ろで弾けた。
甘い囁きに弾かれるように、ななしの瞼がゆっくりと下りていく。
視界が暗闇に閉ざされた瞬間、温室のなかのすべてが変わった。
雨の音、植物の匂い、冷たい空気。
それらがすべて、ケイトというひとつの存在のなかに収束していく。
視覚が失われたことで、他の感覚が痛いほどに鋭敏になった。
肌に触れるケイトの制服の、仕立ての良い生地の感触。
彼の手のひらが、今度はななしの頬をそっと包み込む。
その指先の動き、皮膚の質感、そして彼の規則正しい、けれど少しだけ速い呼吸の音が脳裏に直接響き渡る。
「そうそう。誰も見てないよ。現実のことも、面倒なことも、全部忘れていいから。雨よけの魔法なんて、今は必要ないでしょ?」
ケイトの指先が頬から耳の後ろへと滑り、そのまま髪を優しく梳いた。
触れられるたびに全身の神経がその一点に集中し、熱が波のように押し寄せる。
ななしの内面は、ケイトから与えられる刺激だけで完全に満たされていた。外の嵐の激しさとは対照的に、閉じた世界のなかは、果てしなく甘く静かだった。
「オレだけを感じて。君のなかに、オレしかいない状態にして」
ケイトの唇が、ななしの額に、そして瞼のすぐ横に、触れるような軽さで落とされた。けれどそこから伝わる愛の深さは、あまりにも濃密で、胸が苦しくなるほどだった。
言葉を介さずとも、彼がどれほど自分を求めているのかが痛いほどに伝わってくる。
「ケイト、先輩……」
「うん、ここだよ。ずっとここにいるから」
閉じた瞼の裏側で、雨の音すら遠ざかっていく。
ケイトの制服のジャケットに包まれた身体は、彼の体温と香りで満たされていた。視界を奪われたことで、ななしの意識は、肌に触れる彼の質感と、胸の奥を焦がすような感情の揺らぎだけに研ぎ澄まされていく。
「……ケイト、先輩」
「ん? どうしたの、ななしちゃん。まだ目、開けちゃダメだよ?」
ケイトの声は、すぐ耳元で鼓膜を優しく撫でるように響いた。
いつもの軽快なトーンは完全に影を潜め、低く、どこか切迫した響きを帯びている。
彼の指先が、そっとななしの顎に触れ、ゆっくりと上を向かせた。
触れられた場所から、痺れるような熱が全身へと広がっていく。
ななしの心のなかは、彼に対する淡い憧れや戸惑いが一瞬にして濃密な独占欲へと塗り替えられていくのを感じていた。
「なんだか、すごく……苦しい、です」
「苦しい? どこが? ……ここ?」
ケイトの手のひらが、ななしの左胸のあたりに、そっとあてがわれる。衣服越しに伝わる、トクトクと速いテンポで打つ鼓動。
それが自分のものなのか、それとも、さらに距離を詰めてきたケイトのものなのか、もう判別がつかなかった。
誰もいない温室、遮断された視界、そして雨の壁。
そのすべてが、二人の世界をこれ以上ないほど狭く濃密にしていた。
「先輩の、せいです。……ずるいです……」
「あはは……。ずるくて結構。そうでもしないと、ななしちゃんはオレのこと、男として見てくれないでしょ?」
ケイトの自嘲気味な低い笑い声が、ななしの胸を締め付ける。いつも誰にでも優しい彼が、今は壊れ物を扱うような手つきで、けれど執拗に自分を求めている。彼に愛されている、その事実だけで頭の芯がとろけそうだった。
「オレね、ずっと怖かったんだよね。君に近づきすぎて、いつもの自分でいられなくなるのがさ。でも、もう無理。この雨のせいに、全部しちゃおっか」
ケイトの唇がななしの頬を滑り、耳の裏、そして首筋へと吸い付くように落とされていく。触れられるたびにななしの背中にゾクゾクとした快感が走り、小さな吐息が漏れた。
その声を拾うように、ケイトの呼吸もまた一段と荒くなっていく。衣服の擦れる音、二人の重なる息遣いだけが暗闇の世界のすべてだった。
「ねえ、ななしちゃん。オレの名前、呼んで?」
「ケイト、先輩……」
その言葉とともにケイトの長い指がななしの髪に深く潜り込み、引き寄せられた。ついに重なった唇は、驚くほど熱く、そしてどこまでも貪欲だった。
何度も角度を変え、深く、互いの存在を確かめ合うような口づけ。
ななしの頭のなかは真っ白になり、ただケイトから注がれる圧倒的な熱量に溺れていく。
彼の内面にある、普段は決して見せない執着や、独占欲、寂しさといったすべての感情が、その唇を通じて直接流れ込んでくるようだった。
「ん……、ふあ……」
息が続かなくなり、わずかに唇が離れた瞬間、ケイトはななしの額に自分の額をぴったりと押し当てた。
お互いの荒い呼吸が、熱い塊となって混ざり合う。
「……ケイト」
「うん、よくできました。……あーあ、もうこれ、絶対に離してあげられないやつじゃん。オレのこと、こんな風にさせた責任、ちゃんと取ってよね?」
ケイトはそう言って、ななしの身体を壊れ物を抱きしめるように、強く、きつく抱きしめた。
彼の腕のなかは、外の嵐が嘘のように温かく、そして逃げ場のない愛で満ちていた。
目を閉じたその裏側で、二人はどこまでも深い、二人だけの世界に沈み込んでいった。
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Song by syrup16g
外はバケツをひっくり返したような土砂降り。温室の隅にある手入れの行き届いたベンチに、ケイトとななしは座っていた。
辺りには濡れた土の匂いと、植物の爽やかな香りが濃く立ち込めている。普段なら多くの生徒が行き交うこの場所も、この悪天候のせいか完全に貸し切り状態だった。
「いやー、マジで降られちゃったね。寮に戻るだけでずぶ濡れ確定じゃん?」
ケイトはいつもと変わらない軽いトーンでそう言いながら、手元のスマートフォンをポケットに滑り込ませた。いつもなら画面から目を離さない彼が、珍しくそれを完全にしまい込む。
そして隣に座るななしの顔をじっと見つめた。
その瞳は、いつものはしゃいだものではなく、どこか落ち着いた深い色を湛えている。
「そうですね。でも、先輩なら魔法を使えば濡れずに戻れるんじゃないですか?」
「あはは、確かに。二人をすっぽり包むくらいの雨よけなら、オレでも簡単に作れちゃうかも」
ケイトは悪戯っぽく微笑み、マジカルペンを指先でくるりと回してみせた。けれど彼はそれを胸ポケットに仕舞い、ベンチの背もたれに腕を乗せる。
ほんの少しだけ距離が縮まる。肩が触れ合うか触れ合わないかの境界線で、ケイトは楽しそうに首を傾げた。
「でもさー、それ使ってすぐに戻っちゃうの、なんか勿体なくない? せっかくななしちゃんと二人きりで足止め食らってるわけだし。これってさ、運命的な何かを感じちゃっても良くない?」
「先輩、またそうやってからかう」
「からかってないってば。オレ、ななしちゃんの前だといつも本音しか言ってないよ? 雨よけなんていつでもできるから、今はもう少し、こうしてたいなーって。信じてくれないの、けーくん地味に傷つくなー」
ケイトは胸元に手を当てて、大袈裟に悲しそうなポーズをとってみせる。
しかし、その唇の端は柔らかく弧を描いていた。
冗談の仮面を被りながら、その奥にある本心を少しずつ、けれど確実に匂わせていく。彼のそんな態度に、温室の空気は静かに満たされていった。
雨脚はさらに強まり、屋根を叩く音はまるで世界を遮断する壁のようになっていく。温室のなかの気温が、雨の冷気によって少しずつ下がり始めた。
ななしが小さく身震いした瞬間、ケイトの動きがピタリと止まる。
「あ、もしかして寒い?」
「あ、いえ。少しだけ……」
「ダメだよ、風邪ひいちゃったら大変。ほら、これ着て」
ケイトは迷いのない動作で、自分の制服のジャケットを脱ぎ、ななしの肩にふわりとかけた。一瞬にして、彼の体温がそのまま移ったかのような温かさが、ななしの身体を包み込む。
「ありがとうございます。でも、ケイト先輩が風邪ひいちゃったら……」
「オレは大丈夫。それより、ななしちゃんがオレのジャケット着てるの、なんかめちゃくちゃ可愛い。魔法で暖めるより、こうしてオレの服着てもらう方が、けーくん的にはテンション上がるんだよね」
ケイトはそう言いながら、ジャケットの襟元に軽く手をかけ、ななしの顔を覗き込んだ。
その距離は、お互いの睫毛の数まで数えられそうなほどに近い。
彼の瞳の奥に、じわりと熱いものが灯るのが見えた。
冗談めかした声音の奥で、彼の呼吸がわずかに熱を帯びていく。
皮膚が触れ合っているわけではないのに、衣服を通じて彼の存在が全身に染み込んでいくような、奇妙な身体感覚が生まれていた。
「……先輩、近い……」
「んー? 雨の音がうるさいから、これくらい近くないと声が届かないでしょ?」
ケイトは滑らかな声で言い逃れをしながら、さらに距離を詰めた。
彼の左手がベンチに置かれたななしの手の上に重ねられる。
指先が微かに触れ合い、そこからじわじわと熱が伝わっていく。
ケイトの指は長くて、少しだけ冷えていたが、その中心にある体温は驚くほどに高い。
「あ……」
「オレ、冷たい? でも、ななしちゃんの手はあったかいね」
ケイトはゆっくりと、自分の指をななしの指の隙間に滑り込ませた。
絡み合う指先。
お互いの鼓動が、その接触面を通じて互いの身体へと響き渡る。
感情が身体の境界線を越えて混ざり合っていくような、甘く息苦しい感覚。温室の湿った空気が、二人の熱で満たされていく。
「ケイト先輩……、なんだか、いつもと違います」
「そう? いつも通りだよ。ただ……、今は誰も来ないし、雨が全部の音を消してくれてるからさ。ちょっとだけ、素真面目になってもいいかなって思ってる」
ケイトの声は、すでに普段のトーンより明らかに低く、かすれていた。
彼の瞳がななしの潤んだ目をまっすぐに見つめ、そのままゆっくりと、唇へと滑り落ちていく。
その視線の動きだけで、肌がじりじりと焼けるような熱さを感じる。
二人の間に流れる空気は濃密で、逃げ場のないものへと変化していた。
「ねえ、ななしちゃん。ちょっと疲れたよね。今日はいろいろ大変だったでしょ」
ケイトが囁く。
その声は優しく、同時に抗いがたい命令のようでもあった。
「そんなことは……」
「いいから。ほら、目、閉じなよ」
彼の言葉が、耳のすぐ後ろで弾けた。
甘い囁きに弾かれるように、ななしの瞼がゆっくりと下りていく。
視界が暗闇に閉ざされた瞬間、温室のなかのすべてが変わった。
雨の音、植物の匂い、冷たい空気。
それらがすべて、ケイトというひとつの存在のなかに収束していく。
視覚が失われたことで、他の感覚が痛いほどに鋭敏になった。
肌に触れるケイトの制服の、仕立ての良い生地の感触。
彼の手のひらが、今度はななしの頬をそっと包み込む。
その指先の動き、皮膚の質感、そして彼の規則正しい、けれど少しだけ速い呼吸の音が脳裏に直接響き渡る。
「そうそう。誰も見てないよ。現実のことも、面倒なことも、全部忘れていいから。雨よけの魔法なんて、今は必要ないでしょ?」
ケイトの指先が頬から耳の後ろへと滑り、そのまま髪を優しく梳いた。
触れられるたびに全身の神経がその一点に集中し、熱が波のように押し寄せる。
ななしの内面は、ケイトから与えられる刺激だけで完全に満たされていた。外の嵐の激しさとは対照的に、閉じた世界のなかは、果てしなく甘く静かだった。
「オレだけを感じて。君のなかに、オレしかいない状態にして」
ケイトの唇が、ななしの額に、そして瞼のすぐ横に、触れるような軽さで落とされた。けれどそこから伝わる愛の深さは、あまりにも濃密で、胸が苦しくなるほどだった。
言葉を介さずとも、彼がどれほど自分を求めているのかが痛いほどに伝わってくる。
「ケイト、先輩……」
「うん、ここだよ。ずっとここにいるから」
閉じた瞼の裏側で、雨の音すら遠ざかっていく。
ケイトの制服のジャケットに包まれた身体は、彼の体温と香りで満たされていた。視界を奪われたことで、ななしの意識は、肌に触れる彼の質感と、胸の奥を焦がすような感情の揺らぎだけに研ぎ澄まされていく。
「……ケイト、先輩」
「ん? どうしたの、ななしちゃん。まだ目、開けちゃダメだよ?」
ケイトの声は、すぐ耳元で鼓膜を優しく撫でるように響いた。
いつもの軽快なトーンは完全に影を潜め、低く、どこか切迫した響きを帯びている。
彼の指先が、そっとななしの顎に触れ、ゆっくりと上を向かせた。
触れられた場所から、痺れるような熱が全身へと広がっていく。
ななしの心のなかは、彼に対する淡い憧れや戸惑いが一瞬にして濃密な独占欲へと塗り替えられていくのを感じていた。
「なんだか、すごく……苦しい、です」
「苦しい? どこが? ……ここ?」
ケイトの手のひらが、ななしの左胸のあたりに、そっとあてがわれる。衣服越しに伝わる、トクトクと速いテンポで打つ鼓動。
それが自分のものなのか、それとも、さらに距離を詰めてきたケイトのものなのか、もう判別がつかなかった。
誰もいない温室、遮断された視界、そして雨の壁。
そのすべてが、二人の世界をこれ以上ないほど狭く濃密にしていた。
「先輩の、せいです。……ずるいです……」
「あはは……。ずるくて結構。そうでもしないと、ななしちゃんはオレのこと、男として見てくれないでしょ?」
ケイトの自嘲気味な低い笑い声が、ななしの胸を締め付ける。いつも誰にでも優しい彼が、今は壊れ物を扱うような手つきで、けれど執拗に自分を求めている。彼に愛されている、その事実だけで頭の芯がとろけそうだった。
「オレね、ずっと怖かったんだよね。君に近づきすぎて、いつもの自分でいられなくなるのがさ。でも、もう無理。この雨のせいに、全部しちゃおっか」
ケイトの唇がななしの頬を滑り、耳の裏、そして首筋へと吸い付くように落とされていく。触れられるたびにななしの背中にゾクゾクとした快感が走り、小さな吐息が漏れた。
その声を拾うように、ケイトの呼吸もまた一段と荒くなっていく。衣服の擦れる音、二人の重なる息遣いだけが暗闇の世界のすべてだった。
「ねえ、ななしちゃん。オレの名前、呼んで?」
「ケイト、先輩……」
その言葉とともにケイトの長い指がななしの髪に深く潜り込み、引き寄せられた。ついに重なった唇は、驚くほど熱く、そしてどこまでも貪欲だった。
何度も角度を変え、深く、互いの存在を確かめ合うような口づけ。
ななしの頭のなかは真っ白になり、ただケイトから注がれる圧倒的な熱量に溺れていく。
彼の内面にある、普段は決して見せない執着や、独占欲、寂しさといったすべての感情が、その唇を通じて直接流れ込んでくるようだった。
「ん……、ふあ……」
息が続かなくなり、わずかに唇が離れた瞬間、ケイトはななしの額に自分の額をぴったりと押し当てた。
お互いの荒い呼吸が、熱い塊となって混ざり合う。
「……ケイト」
「うん、よくできました。……あーあ、もうこれ、絶対に離してあげられないやつじゃん。オレのこと、こんな風にさせた責任、ちゃんと取ってよね?」
ケイトはそう言って、ななしの身体を壊れ物を抱きしめるように、強く、きつく抱きしめた。
彼の腕のなかは、外の嵐が嘘のように温かく、そして逃げ場のない愛で満ちていた。
目を閉じたその裏側で、二人はどこまでも深い、二人だけの世界に沈み込んでいった。
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Song by syrup16g
