歌詞シリーズ
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「あ、おい!何笑ってんだ!」
放課後の購買部裏、西日が差し込むベンチ。エースは手元のアイスの袋を破りながら、呆れたような、だけどどこか楽しげな声を出す。
「だって、エースの話し方が面白いんだもん。しょうがないじゃん」
ななしは、エースの隣で小さく笑う。手元にあるのは、エースが「これ美味いから食ってみ」と半分に割ってくれたソーダ味のアイス。
「オレ、別に笑わせようとして喋ってないんだけど。……まあ、ななしが楽しそうなら、それでいっか」
エースはそう言って、ガリッと音を立ててアイスを齧る。その横顔が、いつもより少しだけ近くにあるように感じられた。同じクラスで毎日一緒にいるはずなのに、こうして二人きりで座っていると、エースの制服から漂う少し甘い香水のような匂いが、いつもよりふわりと強く香る。
「ねえ、エース。今日の香水、いつもと違う?」
「あ? ……あー、変な匂いする?」
「ううん。すごくいい匂い。なんか、いつもより大人っぽいっていうか……ちょっとドキドキする」
正直にそう伝えると、エースの視線がピタリと止まる。アイスを口に咥えたまま、彼はじっとななしの顔を見つめた。
「……ふーん? ドキドキ、ねえ」
少しだけ意地悪く口元を歪め、エースは顔を近づけてくる。夕方の光のせいで彼の髪がいつもより深く、艶やかに見えた。
「じゃあ、もっと近くに寄ったら、もっとドキドキすんの?」
「あ、ちょっと……近いってば、エース」
ななしは思わず身を引こうとするが、エースの手が素早く彼女の椅子の背もたれに回される。まるで逃げ道を塞ぐようなその仕草に、心臓がトクンと大きく跳ねる。同級生の枠を飛び越えてくるような気配に体温が上がる。
「逃げんなって。別に取って食おうってわけじゃないし。……まだ、ね」
最後の言葉は、風の音にかき消されそうなほど小さな呟きだった。しかし、ななしの耳には驚くほど鮮明に届いてしまう。エースの瞳がいつもの悪友のそれから、少しずつ熱を帯びたものへと変わっていくのが分かった。
「ほら、アイス溶けるぞ」
何事もなかったかのようにエースは身体を離し、自分のアイスを口に運ぶ。その態度があまりにも自然で、先ほどの距離の近さは幻だったのではないかと錯覚しそうになる。
「うん……。いただきます」
アイスを口に含むと、冷たいはずなのに、なぜか身体の奥が熱くなるような不思議な感覚に襲われる。ななしは、隣に座るエースの横顔を盗み見るようにして視線を送った。
◇
日が沈みかけ薄紫色の空が広がる頃、二人はオンボロ寮への帰り道を歩いていた。
歩幅はいつもよりずっとゆっくり。
どちらからともなく、足を進める速度を落としている。
「今日さ、この後なんか予定あんの?」
エースがポケットに手を突っ込んだまま、前を見据えて聞いてくる。
「ううん、特にないよ。課題も終わらせたし、あとはグリムと一緒に夕飯を食べるくらいかな」
「じゃあさ、今日オレもオンボロ寮寄ってっていい? 新しく買ったゲーム持ってきてんだよね。二人プレイできるやつ」
「いいけど、ゲームするならグリムも混ぜてって騒ぎそうだけど、大丈夫?」
「アイツなら、さっき食堂の購買でツナ缶買い込んで先に寮戻ったろ。今頃、腹いっぱい食って寝てんじゃねぇの?」
エースは歩みを止め、ななしの方を振り返る。その瞳は夕闇の中でどこか怪しく、そして抗いがたい魅力を放って輝いていた。
「それとも何? オレが部屋行くの、なんか都合悪い?」
「そんなことないよ。エースが来てくれたら嬉しいし」
ななしがそう答えると、エースは満足そうに口元を綻ばせる。
「よし、決まり」
並んで歩く道すがら、二人の手の甲が、歩く振動で何度もかすれ合う。カサ、と制服の生地が擦れ合う音が妙に耳に響く。
「……ねえ、ななし」
「なあに?」
「いや、なんでもない」
エースはそう言って顔を背けたが、その耳の端が夕暮れのせいだけではなく、ほんのりと赤く染まっているのをななしは見逃さなかった。頼り甲斐のない相槌の裏側で、本当は叫び出したいほどの想いが静かに暴れているようだった。
オンボロ寮の扉を開けると、案の定、談話室のソファではグリムがツナ缶を抱えたまま気持ち良さそうな寝息を立てていた。
「ほら、言った通りいびきかいて寝てんじゃん」
エースは小さく笑うと、ななしの腕を軽く引いて、グリムを起こさないよう静かに移動する。
夕暮れの光が窓から差し込み、長い影を作っているななしの部屋。いつも見慣れているはずの空間なのに、エースが一人分の存在感を放ってベッドの端に腰を下ろすだけで、まるで全く違う部屋のように見えてくる。
「ほら、炭酸でよかったよな」
途中で買ってきた冷えた缶ジュースを、エースがななしの頬にピタッと押し当てる。
「ひゃっ! 冷たいっ」
「あはは、いい反応。ほらよ」
手渡された缶を受け取る際、エースの指先がななしの指に深く触れた。男らしい大きな手が、一瞬だけ彼女の手を包み込むようにして離れていく。
エースはそのままななしの手を引くようにして、自分のすぐ隣に座らせた。ベンチの時よりもさらに距離が近い。お互いの肩が、ほんの少し動くだけで触れ合ってしまうほどの距離。
「ゲーム、始める前にさ……ちょっと話そ」
エースは持ってきたゲーム機に手を伸ばそうとせず、ななしをじっと見つめた。外からは微かにグリムの寝息が聞こえてくるが、この部屋の中は驚くほど静まり返っている。今夜の二人の恋模様を占うように、月明かりがうっすらと窓枠を照らし始めていた。
「話すって、何を?」
「何でも。……たとえば、ななしが最近、オレのことどう思ってるか、とか」
エースの視線が、ななしの唇へと向けられる。その視線は、じわじわと熱を帯び、彼女の肌を焦がしていくかのように濃厚だった。部屋の空気まで、エースのあの甘い匂いに染まっていく。
「どう思ってるかって……。一緒にいて一番楽しくて、大好きな友だちだよ?」
「……大好きな友だち、ねえ」
エースは低く笑うと、ゆっくりと身体を傾け、ななしをベッドに押し倒すような形で覆い被さった。
「その『大好き』のニュアンス、オレが思ってるやつと一緒かどうか、今から確かめてもいい?」
視界のすべてがエースの赤い髪と、情熱を孕んだ瞳で埋め尽くされる。彼の呼吸が、ななしの頬を優しく撫で、二人の間の空気が一気に熱を帯びていく。
じわじわと、しかし確実に友だちという境界線が溶けていくような感覚が、静かな部屋を満たしていった。
「……え、エース?」
仰向けに倒れ込んだシーツの感触は、いつもの自分の部屋のものなのに、今は驚くほど頼りなく感じられる。
目の前にあるエースの胸元からは、あの甘い香りが熱を孕んだ空気となって容赦なく降ってきた。月夜に照らされるななしの顔を、エースはどこか切なそうに見つめている。
「何? そんなびっくりした顔すんなよ。確かめるって言ったじゃん。……正直、もう限界なんだよね」
エースは逃がさないと言うように、ななしの頭の両脇に両手を突く。心の中にななしが映るたび、熱くなっていく身体。素直になれずにずっと、恋の迷路の中で引き裂かれていた。
「ゲームなんて、お前をここに連れてくるための口実に決まってんじゃん。……オレが四六時中お前のことばっか考えてんの、気づいてなかったの?」
エースの声はいつもよりずっと低く、かすんでいる。からかうような言葉の裏側で、泣きそうなくらい強い愛情が渦巻いているのが分かった。夕闇が深まる部屋の中で、彼の瞳だけがじっとこちらを射抜いている。
「オレさ、お前の名前を何回でも、何万回でも呼びたいって思ってる」
「エース……あのね、私……」
「いいから、今はオレの話聞いて。お前ってデュースに対しても、グリムに対しても、同じような顔して笑うだろ。オレ、あいつらと一緒くたにされんの、もう我慢できないわけ」
一方的に感情をぶつけてくるエースの端整な顔が、さらに数センチ、ゆっくりと近づいてくる。触れ合いそうなほど至近距離にある彼の唇の動きから目が離せなくなる。吐き出される熱い呼吸が、ななしの唇や頬に触れるたび、皮膚の奥がじりじりと焦がされるように熱くなっていった。
「エース、あの……私も、エースのことは特別だよ? 友だちだからじゃなくて……」
何か言葉を探そうとするけれど、胸の奥がトクン、トクンと激しく脈打って、上手く頭が回らない。言葉はいらない。心のもっと奥で、お互いの体温を覚えている。
「そんな顔すんなよ。オレだって、こんな余裕ないこと言いたくて言ってるわけじゃないし」
エースの片手がシーツから離れ、ななしの頬へと伸びた。大きな手のひらがそっと優しく頬を包み込む。指先が髪の隙間に滑り込み、耳の裏の柔らかい肌に触れた瞬間、ゾクッとした熱い電流が背筋を駆け抜けた。
「……ねえ、ななし。さっきの特別って言葉、オレの都合のいいように解釈していいの?」
彼の親指がななしの薄い下唇をそっとなぞる。
温かい指先の感触が、ダイレクトに内面の輪郭を狂わせていく。
「……待って、エース。ちゃんと、わたしの口からも言わせて」
かすかな吐息とともに紡がれた言葉に、エースの瞳の奥の熱が一瞬で跳ね上がるのが見えた。
「大好きだよ、エース」
「……お前、まじでそういう顔すんの反則」
ななしがしっかりとエースの首に腕を回すと同時に、彼の言葉が途切れて影が重なった。
重なり合った唇から、驚くほどの熱量が流れ込んでくる。最初はお互いの気持ちを確かめ合うような、息が詰まるほど優しい口づけ。だけど、ななしの指先がエースの髪をそっと愛おしそうに満たすと、エースは嬉しそうな、だけど切ないような小さな呻きを漏らし、さらに深く、甘く角度を変えて唇を塞いできた。
深く、深く、お互いの境界線が完全に溶けていくような濃厚な抱擁。
頭の芯が完全に真っ白になり、ただエースの体温と、あの甘い匂い、そして心地よく重なる二人の鼓動の音だけが、世界のすべてになったかのように部屋を包み込んでいた。
ようやく唇が離れたとき、エースはななしの首筋に顔を埋め、荒い呼吸を繰り返していた。彼の髪が首元に触れて、くすぐったいような、だけどたまらなく愛おしい熱を感じる。
「……ねえ、これ両想いってことでいいんだよな? オレばっかりお前に夢中なんだと思ってたから、めちゃくちゃ嬉しいんだけど」
首元から聞こえるエースの声は、いつもの意地悪な調子を取り戻しかけながらも、どこか甘えるように、そして愛おしそうに震えていた。
いつも余裕ぶっているエースが、自分と同じように真っ赤になって幸せそうに破顔している。そのお互いの熱量に、ななしの胸の奥は、これまでにないほどの甘い幸福感で満たされていった。
「嬉しいのは、わたしも同じだよ。ずっとエースのこと、特別だって思ってたんだから」
「へえ、言ったな? じゃあさ、もう『ただの友だち』のフリしてやんないから。明日からクラスでも、他の奴らの前でも、遠慮なくお前のこと独占するけどいーの?」
エースは首筋から顔を上げると、いたずらっぽく、だけど熱の引かない瞳でななしを見下ろす。その顔があまりにも近くて、ななしは小さく頷くことしかできない。
「いいよ、って言わせるように仕向けたんだけどね。……あー、まじで可愛い」
エースはそう言うと、愛おしさが堪えきれないといった様子で、ななしの額や鼻先、そして少し腫ぼったくなった唇に、何度も何度も優しく唇を重ねる。さっきまでの激しい口づけとは違う、甘やかで、大切に慈しむように。
「エース、くすぐったい……っ」
「いいじゃん、これくらい。今までどんだけ我慢してたと思ってんの」
そう言って笑うエースの腕の力が、さらにきゅっと強まる。完全に重なり合った二人の体温が、心地よい余韻となって静かな部屋に溶けていく。
部屋の外からは、相変わらずグリムの呑気な寝息が小さく聞こえていた。だけど今の二人には、世界のどんなノイズも届かない。
「ねえ、ゲームなんて後回し。今日はこのまま、ずっとこうしてよ?」
夕闇が完全に夜の帳へと変わる中、エースの甘い香りと途切れない体温に包まれながら、ななしは深く、深く、彼との特別な夜に沈んでいった。
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Song by BE:FIRST
放課後の購買部裏、西日が差し込むベンチ。エースは手元のアイスの袋を破りながら、呆れたような、だけどどこか楽しげな声を出す。
「だって、エースの話し方が面白いんだもん。しょうがないじゃん」
ななしは、エースの隣で小さく笑う。手元にあるのは、エースが「これ美味いから食ってみ」と半分に割ってくれたソーダ味のアイス。
「オレ、別に笑わせようとして喋ってないんだけど。……まあ、ななしが楽しそうなら、それでいっか」
エースはそう言って、ガリッと音を立ててアイスを齧る。その横顔が、いつもより少しだけ近くにあるように感じられた。同じクラスで毎日一緒にいるはずなのに、こうして二人きりで座っていると、エースの制服から漂う少し甘い香水のような匂いが、いつもよりふわりと強く香る。
「ねえ、エース。今日の香水、いつもと違う?」
「あ? ……あー、変な匂いする?」
「ううん。すごくいい匂い。なんか、いつもより大人っぽいっていうか……ちょっとドキドキする」
正直にそう伝えると、エースの視線がピタリと止まる。アイスを口に咥えたまま、彼はじっとななしの顔を見つめた。
「……ふーん? ドキドキ、ねえ」
少しだけ意地悪く口元を歪め、エースは顔を近づけてくる。夕方の光のせいで彼の髪がいつもより深く、艶やかに見えた。
「じゃあ、もっと近くに寄ったら、もっとドキドキすんの?」
「あ、ちょっと……近いってば、エース」
ななしは思わず身を引こうとするが、エースの手が素早く彼女の椅子の背もたれに回される。まるで逃げ道を塞ぐようなその仕草に、心臓がトクンと大きく跳ねる。同級生の枠を飛び越えてくるような気配に体温が上がる。
「逃げんなって。別に取って食おうってわけじゃないし。……まだ、ね」
最後の言葉は、風の音にかき消されそうなほど小さな呟きだった。しかし、ななしの耳には驚くほど鮮明に届いてしまう。エースの瞳がいつもの悪友のそれから、少しずつ熱を帯びたものへと変わっていくのが分かった。
「ほら、アイス溶けるぞ」
何事もなかったかのようにエースは身体を離し、自分のアイスを口に運ぶ。その態度があまりにも自然で、先ほどの距離の近さは幻だったのではないかと錯覚しそうになる。
「うん……。いただきます」
アイスを口に含むと、冷たいはずなのに、なぜか身体の奥が熱くなるような不思議な感覚に襲われる。ななしは、隣に座るエースの横顔を盗み見るようにして視線を送った。
◇
日が沈みかけ薄紫色の空が広がる頃、二人はオンボロ寮への帰り道を歩いていた。
歩幅はいつもよりずっとゆっくり。
どちらからともなく、足を進める速度を落としている。
「今日さ、この後なんか予定あんの?」
エースがポケットに手を突っ込んだまま、前を見据えて聞いてくる。
「ううん、特にないよ。課題も終わらせたし、あとはグリムと一緒に夕飯を食べるくらいかな」
「じゃあさ、今日オレもオンボロ寮寄ってっていい? 新しく買ったゲーム持ってきてんだよね。二人プレイできるやつ」
「いいけど、ゲームするならグリムも混ぜてって騒ぎそうだけど、大丈夫?」
「アイツなら、さっき食堂の購買でツナ缶買い込んで先に寮戻ったろ。今頃、腹いっぱい食って寝てんじゃねぇの?」
エースは歩みを止め、ななしの方を振り返る。その瞳は夕闇の中でどこか怪しく、そして抗いがたい魅力を放って輝いていた。
「それとも何? オレが部屋行くの、なんか都合悪い?」
「そんなことないよ。エースが来てくれたら嬉しいし」
ななしがそう答えると、エースは満足そうに口元を綻ばせる。
「よし、決まり」
並んで歩く道すがら、二人の手の甲が、歩く振動で何度もかすれ合う。カサ、と制服の生地が擦れ合う音が妙に耳に響く。
「……ねえ、ななし」
「なあに?」
「いや、なんでもない」
エースはそう言って顔を背けたが、その耳の端が夕暮れのせいだけではなく、ほんのりと赤く染まっているのをななしは見逃さなかった。頼り甲斐のない相槌の裏側で、本当は叫び出したいほどの想いが静かに暴れているようだった。
オンボロ寮の扉を開けると、案の定、談話室のソファではグリムがツナ缶を抱えたまま気持ち良さそうな寝息を立てていた。
「ほら、言った通りいびきかいて寝てんじゃん」
エースは小さく笑うと、ななしの腕を軽く引いて、グリムを起こさないよう静かに移動する。
夕暮れの光が窓から差し込み、長い影を作っているななしの部屋。いつも見慣れているはずの空間なのに、エースが一人分の存在感を放ってベッドの端に腰を下ろすだけで、まるで全く違う部屋のように見えてくる。
「ほら、炭酸でよかったよな」
途中で買ってきた冷えた缶ジュースを、エースがななしの頬にピタッと押し当てる。
「ひゃっ! 冷たいっ」
「あはは、いい反応。ほらよ」
手渡された缶を受け取る際、エースの指先がななしの指に深く触れた。男らしい大きな手が、一瞬だけ彼女の手を包み込むようにして離れていく。
エースはそのままななしの手を引くようにして、自分のすぐ隣に座らせた。ベンチの時よりもさらに距離が近い。お互いの肩が、ほんの少し動くだけで触れ合ってしまうほどの距離。
「ゲーム、始める前にさ……ちょっと話そ」
エースは持ってきたゲーム機に手を伸ばそうとせず、ななしをじっと見つめた。外からは微かにグリムの寝息が聞こえてくるが、この部屋の中は驚くほど静まり返っている。今夜の二人の恋模様を占うように、月明かりがうっすらと窓枠を照らし始めていた。
「話すって、何を?」
「何でも。……たとえば、ななしが最近、オレのことどう思ってるか、とか」
エースの視線が、ななしの唇へと向けられる。その視線は、じわじわと熱を帯び、彼女の肌を焦がしていくかのように濃厚だった。部屋の空気まで、エースのあの甘い匂いに染まっていく。
「どう思ってるかって……。一緒にいて一番楽しくて、大好きな友だちだよ?」
「……大好きな友だち、ねえ」
エースは低く笑うと、ゆっくりと身体を傾け、ななしをベッドに押し倒すような形で覆い被さった。
「その『大好き』のニュアンス、オレが思ってるやつと一緒かどうか、今から確かめてもいい?」
視界のすべてがエースの赤い髪と、情熱を孕んだ瞳で埋め尽くされる。彼の呼吸が、ななしの頬を優しく撫で、二人の間の空気が一気に熱を帯びていく。
じわじわと、しかし確実に友だちという境界線が溶けていくような感覚が、静かな部屋を満たしていった。
「……え、エース?」
仰向けに倒れ込んだシーツの感触は、いつもの自分の部屋のものなのに、今は驚くほど頼りなく感じられる。
目の前にあるエースの胸元からは、あの甘い香りが熱を孕んだ空気となって容赦なく降ってきた。月夜に照らされるななしの顔を、エースはどこか切なそうに見つめている。
「何? そんなびっくりした顔すんなよ。確かめるって言ったじゃん。……正直、もう限界なんだよね」
エースは逃がさないと言うように、ななしの頭の両脇に両手を突く。心の中にななしが映るたび、熱くなっていく身体。素直になれずにずっと、恋の迷路の中で引き裂かれていた。
「ゲームなんて、お前をここに連れてくるための口実に決まってんじゃん。……オレが四六時中お前のことばっか考えてんの、気づいてなかったの?」
エースの声はいつもよりずっと低く、かすんでいる。からかうような言葉の裏側で、泣きそうなくらい強い愛情が渦巻いているのが分かった。夕闇が深まる部屋の中で、彼の瞳だけがじっとこちらを射抜いている。
「オレさ、お前の名前を何回でも、何万回でも呼びたいって思ってる」
「エース……あのね、私……」
「いいから、今はオレの話聞いて。お前ってデュースに対しても、グリムに対しても、同じような顔して笑うだろ。オレ、あいつらと一緒くたにされんの、もう我慢できないわけ」
一方的に感情をぶつけてくるエースの端整な顔が、さらに数センチ、ゆっくりと近づいてくる。触れ合いそうなほど至近距離にある彼の唇の動きから目が離せなくなる。吐き出される熱い呼吸が、ななしの唇や頬に触れるたび、皮膚の奥がじりじりと焦がされるように熱くなっていった。
「エース、あの……私も、エースのことは特別だよ? 友だちだからじゃなくて……」
何か言葉を探そうとするけれど、胸の奥がトクン、トクンと激しく脈打って、上手く頭が回らない。言葉はいらない。心のもっと奥で、お互いの体温を覚えている。
「そんな顔すんなよ。オレだって、こんな余裕ないこと言いたくて言ってるわけじゃないし」
エースの片手がシーツから離れ、ななしの頬へと伸びた。大きな手のひらがそっと優しく頬を包み込む。指先が髪の隙間に滑り込み、耳の裏の柔らかい肌に触れた瞬間、ゾクッとした熱い電流が背筋を駆け抜けた。
「……ねえ、ななし。さっきの特別って言葉、オレの都合のいいように解釈していいの?」
彼の親指がななしの薄い下唇をそっとなぞる。
温かい指先の感触が、ダイレクトに内面の輪郭を狂わせていく。
「……待って、エース。ちゃんと、わたしの口からも言わせて」
かすかな吐息とともに紡がれた言葉に、エースの瞳の奥の熱が一瞬で跳ね上がるのが見えた。
「大好きだよ、エース」
「……お前、まじでそういう顔すんの反則」
ななしがしっかりとエースの首に腕を回すと同時に、彼の言葉が途切れて影が重なった。
重なり合った唇から、驚くほどの熱量が流れ込んでくる。最初はお互いの気持ちを確かめ合うような、息が詰まるほど優しい口づけ。だけど、ななしの指先がエースの髪をそっと愛おしそうに満たすと、エースは嬉しそうな、だけど切ないような小さな呻きを漏らし、さらに深く、甘く角度を変えて唇を塞いできた。
深く、深く、お互いの境界線が完全に溶けていくような濃厚な抱擁。
頭の芯が完全に真っ白になり、ただエースの体温と、あの甘い匂い、そして心地よく重なる二人の鼓動の音だけが、世界のすべてになったかのように部屋を包み込んでいた。
ようやく唇が離れたとき、エースはななしの首筋に顔を埋め、荒い呼吸を繰り返していた。彼の髪が首元に触れて、くすぐったいような、だけどたまらなく愛おしい熱を感じる。
「……ねえ、これ両想いってことでいいんだよな? オレばっかりお前に夢中なんだと思ってたから、めちゃくちゃ嬉しいんだけど」
首元から聞こえるエースの声は、いつもの意地悪な調子を取り戻しかけながらも、どこか甘えるように、そして愛おしそうに震えていた。
いつも余裕ぶっているエースが、自分と同じように真っ赤になって幸せそうに破顔している。そのお互いの熱量に、ななしの胸の奥は、これまでにないほどの甘い幸福感で満たされていった。
「嬉しいのは、わたしも同じだよ。ずっとエースのこと、特別だって思ってたんだから」
「へえ、言ったな? じゃあさ、もう『ただの友だち』のフリしてやんないから。明日からクラスでも、他の奴らの前でも、遠慮なくお前のこと独占するけどいーの?」
エースは首筋から顔を上げると、いたずらっぽく、だけど熱の引かない瞳でななしを見下ろす。その顔があまりにも近くて、ななしは小さく頷くことしかできない。
「いいよ、って言わせるように仕向けたんだけどね。……あー、まじで可愛い」
エースはそう言うと、愛おしさが堪えきれないといった様子で、ななしの額や鼻先、そして少し腫ぼったくなった唇に、何度も何度も優しく唇を重ねる。さっきまでの激しい口づけとは違う、甘やかで、大切に慈しむように。
「エース、くすぐったい……っ」
「いいじゃん、これくらい。今までどんだけ我慢してたと思ってんの」
そう言って笑うエースの腕の力が、さらにきゅっと強まる。完全に重なり合った二人の体温が、心地よい余韻となって静かな部屋に溶けていく。
部屋の外からは、相変わらずグリムの呑気な寝息が小さく聞こえていた。だけど今の二人には、世界のどんなノイズも届かない。
「ねえ、ゲームなんて後回し。今日はこのまま、ずっとこうしてよ?」
夕闇が完全に夜の帳へと変わる中、エースの甘い香りと途切れない体温に包まれながら、ななしは深く、深く、彼との特別な夜に沈んでいった。
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Song by BE:FIRST
