不定期開催!オンボロ寮・美食研究会
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夜の静寂に包まれたオンボロ寮のキッチン。
今夜は、いつもの刺激的なスパイスの香りはなりを潜め、どこか懐かしく優しい出汁の香りが漂っていた。
「ふなっ! ななし、今日はなんだか地味な匂いなんだゾ。本当に美味いのか?」
グリムが鍋の蓋を開けようとして、ななしにピシャリと手を叩かれる。
「ダメだよグリム、今が一番大事な蒸らしの時間なんだから。料理は待つ時間も大事なんだよ」
本日のメニュー
鶏むね肉と根菜の「揚げない」揚げ浸し
【材料(2人分)】
・鶏むね肉:1枚
・ナス:2本
・人参:1/2本
・カボチャ:スライス4枚
★特製・黄金出汁
・醤油・みりん・酒:各大さじ2
・顆粒出汁:小さじ1
・おろし生姜:たっぷり(1片分)
・水:200ml
【作り方】
①鶏むね肉は削ぎ切りにして、軽く塩を振り片栗粉をまぶす。
②フライパンに多めの油を引き、野菜をじっくりと焼く。揚げずに「焼く」ことで、素材本来の甘みを引き出す。
③温めた★黄金出汁に、焼きたての野菜と鶏肉をそのまま投入。
④ここからがポイント。火を止め、蓋をして10分放置。余熱で鶏肉にゆっくり火を通すことで、パサつかず驚くほどしっとりと仕上がる。
「完成。今日は胃に優しい、『鶏と根菜の揚げ浸し』だよ」
「ふなー! 汁が染みてて、これはこれで美味そうなんだゾ!」
グリムが箸を伸ばそうとした、その時。
「……夜分に失礼。少し、この近くを通ったものでね」
影から滲み出るように現れたのは、スカラビア寮の副寮長ジャミル・バイパーだった。彼はいつものように周囲への警戒を怠らない鋭い視線を向けながらも、鼻をかすかに動かした。
「ジャミル先輩! こんばんは。……もしかして、カリム先輩の夜食の買い出しですか?」
「いや、あいつは今さっき寝かしつけてきたところだ。……それにしても、オンボロ寮からこれほど雑味のない、澄んだ香りがしてくるとはな。少し意外だった」
ジャミルは調理台の上に置かれた調理器具を見つめる。
「……鶏むね肉か。火を通しすぎれば硬くなり、通りが悪ければ食中毒の原因になる」
「ふなー! ジャミル、そんなに気になるなら食ってみればいいんだゾ! ななしの料理は、魔法がなくても最高なんだゾ!」
「……グリムがそこまで言うのなら。…一口だけ、いただこうか」
ジャミルは促されるままに席に着くと背筋を伸ばし、一分の隙もない所作で箸を取った。出汁をたっぷりと含んだ鶏肉を一口。
「…………」
ジャミルの眉が、わずかに動いた。
「……驚いたな。肉の繊維の奥まで出汁が入り込んでいる。……余熱だけで火を通したのか。片栗粉で表面をコーティングして水分を閉じ込め、その隙間に出汁を吸わせて馴染ませたのか。」
「嬉しいです。ジャミル先輩にそう言ってもらえると、じっくり作った甲斐がありました」
「ふなっ! この鶏肉、噛んだ瞬間に中からじゅわっと汁が溢れてくるんだゾ! お日様みたいに優しい温かさが口いっぱいに広がるんだゾ……。あの気難しいジャミルが誉めるのも納得なんだゾ!」
「……俺なら、効率を重視して魔法で一気に仕上げてしまうところだ。だが、このナスのとろけるような食感は……時間をかけた者にしか出せない味だ。……悪くない」
ジャミルは静かに、しかし着実に箸を進めた。
いつもは「誰かのため」に、毒の有無や栄養バランスを計算しながら作る料理。だが今、彼が口にしているのは、ななしがただ美味しいものをと、手間暇だけをかけて作った無垢な一皿だった。
「……ななし。この出汁、生姜の分量が絶妙だ。俺ならここに少しスパイスを足したくなるところだが、……あぁ、そうか。この優しい味こそが、今の俺には……」
ジャミルは言葉を飲み込み、ふっといつもの仮面の笑顔ではない、素の表情を覗かせた。
「ふなっ! ジャミル、顔が緩んでるんだゾ! 子分の料理に降参するんだゾ!」
「……不覚だな。味の構成がシンプルすぎて、付け入る隙がない。……ななし、このレシピの出汁の比率、後で教えてもらえるか? ……あいつ……カリムの夜食にも、たまにはこういう落ち着いた味が必要かもしれない」
「もちろんです! ジャミル先輩の好みに合うように、今度は少しスパイスを効かせたアレンジも考えておきますね」
ななしが明るく笑うと、ジャミルは少しだけ居心地悪そうに、しかし満足げに目を細めた。
「……フン、余計な世話だ。……と言いたいところだが。君のその手間の使い道には、興味がある。また、気が向いたら覗かせてもらうよ」
ジャミルは最後の一滴まで出汁を味わうと、音もなく席を立ち暗い廊下へと消えていった。
「あのジャミルが、文句を言わずに完食したんだゾ! 明日は槍が降るんだゾ!」
「あはは、そうだね。……でも、誰かのために作る料理もいいけど、自分のために美味しいって思ってもらえるのが一番だよね」
オンボロ寮のキッチンには、今夜もどんな呪文よりも温かく心を解きほぐす香りが漂っていた。
今夜は、いつもの刺激的なスパイスの香りはなりを潜め、どこか懐かしく優しい出汁の香りが漂っていた。
「ふなっ! ななし、今日はなんだか地味な匂いなんだゾ。本当に美味いのか?」
グリムが鍋の蓋を開けようとして、ななしにピシャリと手を叩かれる。
「ダメだよグリム、今が一番大事な蒸らしの時間なんだから。料理は待つ時間も大事なんだよ」
本日のメニュー
鶏むね肉と根菜の「揚げない」揚げ浸し
【材料(2人分)】
・鶏むね肉:1枚
・ナス:2本
・人参:1/2本
・カボチャ:スライス4枚
★特製・黄金出汁
・醤油・みりん・酒:各大さじ2
・顆粒出汁:小さじ1
・おろし生姜:たっぷり(1片分)
・水:200ml
【作り方】
①鶏むね肉は削ぎ切りにして、軽く塩を振り片栗粉をまぶす。
②フライパンに多めの油を引き、野菜をじっくりと焼く。揚げずに「焼く」ことで、素材本来の甘みを引き出す。
③温めた★黄金出汁に、焼きたての野菜と鶏肉をそのまま投入。
④ここからがポイント。火を止め、蓋をして10分放置。余熱で鶏肉にゆっくり火を通すことで、パサつかず驚くほどしっとりと仕上がる。
「完成。今日は胃に優しい、『鶏と根菜の揚げ浸し』だよ」
「ふなー! 汁が染みてて、これはこれで美味そうなんだゾ!」
グリムが箸を伸ばそうとした、その時。
「……夜分に失礼。少し、この近くを通ったものでね」
影から滲み出るように現れたのは、スカラビア寮の副寮長ジャミル・バイパーだった。彼はいつものように周囲への警戒を怠らない鋭い視線を向けながらも、鼻をかすかに動かした。
「ジャミル先輩! こんばんは。……もしかして、カリム先輩の夜食の買い出しですか?」
「いや、あいつは今さっき寝かしつけてきたところだ。……それにしても、オンボロ寮からこれほど雑味のない、澄んだ香りがしてくるとはな。少し意外だった」
ジャミルは調理台の上に置かれた調理器具を見つめる。
「……鶏むね肉か。火を通しすぎれば硬くなり、通りが悪ければ食中毒の原因になる」
「ふなー! ジャミル、そんなに気になるなら食ってみればいいんだゾ! ななしの料理は、魔法がなくても最高なんだゾ!」
「……グリムがそこまで言うのなら。…一口だけ、いただこうか」
ジャミルは促されるままに席に着くと背筋を伸ばし、一分の隙もない所作で箸を取った。出汁をたっぷりと含んだ鶏肉を一口。
「…………」
ジャミルの眉が、わずかに動いた。
「……驚いたな。肉の繊維の奥まで出汁が入り込んでいる。……余熱だけで火を通したのか。片栗粉で表面をコーティングして水分を閉じ込め、その隙間に出汁を吸わせて馴染ませたのか。」
「嬉しいです。ジャミル先輩にそう言ってもらえると、じっくり作った甲斐がありました」
「ふなっ! この鶏肉、噛んだ瞬間に中からじゅわっと汁が溢れてくるんだゾ! お日様みたいに優しい温かさが口いっぱいに広がるんだゾ……。あの気難しいジャミルが誉めるのも納得なんだゾ!」
「……俺なら、効率を重視して魔法で一気に仕上げてしまうところだ。だが、このナスのとろけるような食感は……時間をかけた者にしか出せない味だ。……悪くない」
ジャミルは静かに、しかし着実に箸を進めた。
いつもは「誰かのため」に、毒の有無や栄養バランスを計算しながら作る料理。だが今、彼が口にしているのは、ななしがただ美味しいものをと、手間暇だけをかけて作った無垢な一皿だった。
「……ななし。この出汁、生姜の分量が絶妙だ。俺ならここに少しスパイスを足したくなるところだが、……あぁ、そうか。この優しい味こそが、今の俺には……」
ジャミルは言葉を飲み込み、ふっといつもの仮面の笑顔ではない、素の表情を覗かせた。
「ふなっ! ジャミル、顔が緩んでるんだゾ! 子分の料理に降参するんだゾ!」
「……不覚だな。味の構成がシンプルすぎて、付け入る隙がない。……ななし、このレシピの出汁の比率、後で教えてもらえるか? ……あいつ……カリムの夜食にも、たまにはこういう落ち着いた味が必要かもしれない」
「もちろんです! ジャミル先輩の好みに合うように、今度は少しスパイスを効かせたアレンジも考えておきますね」
ななしが明るく笑うと、ジャミルは少しだけ居心地悪そうに、しかし満足げに目を細めた。
「……フン、余計な世話だ。……と言いたいところだが。君のその手間の使い道には、興味がある。また、気が向いたら覗かせてもらうよ」
ジャミルは最後の一滴まで出汁を味わうと、音もなく席を立ち暗い廊下へと消えていった。
「あのジャミルが、文句を言わずに完食したんだゾ! 明日は槍が降るんだゾ!」
「あはは、そうだね。……でも、誰かのために作る料理もいいけど、自分のために美味しいって思ってもらえるのが一番だよね」
オンボロ寮のキッチンには、今夜もどんな呪文よりも温かく心を解きほぐす香りが漂っていた。
