◯◯しないと出られない部屋
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学園の資料室の奥。
ななしは、ジャミル・バイパーと共に重い扉の向こう側に閉じ込められていた。壁に浮かび上がったのは淡く発光する魔法の文字。
お互いの好きなところ3つ言わないと出られない部屋
「……はぁ。この学園の魔法はどうしてこう、プライバシーの欠片もないんだ」
ジャミルは深く溜息をつき、シャツの襟元を気だるげに整えた。
「好きなところ、ですか! ジャミル先輩、わたしから行きましょうか?」
「待て、ななし。……これは一種の精神的な拷問だ。まともに受けて立つ必要はない。いいか、お互い適当に無難なことを三つ並べて、魔法を騙して出るぞ」
ジャミルは効率主義者だ。自分の内面を晒すような真似は避けたい。
彼はあえて事務的なトーンで、ななしに向き直った。
「いいか、俺から行くぞ。……一つ目、お前のその無駄に前向きなところ。二つ目、どんなトラブルにも動じない図太い神経。三つ目……学園の誰に対しても分け隔てなく接する、要領の良さだ。……よし、これで三つだ」
「わ、ジャミル先輩、それ褒めてます? ほとんど『図太い』って言っただけじゃないですか!」
「事実だろう。さあ、次はお前の番だ。早くしろ」
ジャミルは顔を背け、早く終わらせろと言わんばかりに促した。ななしは「えー、なんだろうなぁ」と少し考えたあと、いつもの明るい笑顔で、ジャミルの懐に土足で踏み込んできた。
「一つ目! ジャミル先輩の、実はすごく面倒見が良いところ! わたしが困ってると、なんだかんだ言いながら助けてくれますよね。二つ目、ふとした時に見せる、ちょっと意地悪な笑い方! 完璧な先輩が、わたしに意地悪してくれるの、実は特別感があって嬉しいです。そして三つ目……!」
ななしは一歩踏み込み、ジャミルの目を真っ直ぐに見つめた。
「ジャミル先輩の、その綺麗な目です! 時々、すごく熱心にわたしを見てくれるじゃないですか。あの時の目に、いつもドキッとしちゃうんですよね。……あはは、恥ずかしい!」
ジャミルの計算が、音を立てて崩れ去った。
「……は、」
ななしの告白はあまりに真っ直ぐで、ジャミルが無難に切り抜けようとしていた目論見を粉々に粉砕した。特に三つ目。自分が密かにななしに送っていた熱い視線に、彼女が無自覚にせよ気づいていて、しかもそれを「好きだ」と言ったのだ。
「……っ、ななし、それ……誰にでも言っているのか? それとも、俺をからかっているのか?」
「えっ? 違いますよ、本当のことですって! 先輩の目、吸い込まれそうで本当にかっこいいんですから」
「…………」
ジャミルは、じわじわと顔が熱くなるのを感じた。
ななしの鈍感な明るさが、かえって生々しい。自分の隠していたはずの執着を肯定されたジャミルの内側で、何か熱いスイッチが入ってしまった。
「ジャミル先輩……?」
「お前は今、『ドキッとする』と言ったな。……それは、こういうことか?」
ジャミルはななしの手首を掴み、逃げ場を奪うように壁へと追い詰めた。瞳には少し意地の悪い、けれど隠しきれない独占欲が宿っている。
「そんなに俺の目が好きなら、もっとよく見たらどうだ。……今なら、お前しか映っていないぞ?」
彼はななしの耳元に顔を寄せ、その瞳で至近距離から彼女を射抜いた。
「本当の三つ目を言ってやる。……俺は、お前のその、無防備に俺の領域に入り込んでくるところが……反吐が出るほど、愛おしくてたまらない」
「……っ!?」
「そんな顔をするな。お前が自覚なく俺を振り回すたびに、俺がどれだけ自分を抑えているか……鈍感なお前には一生、理解できないだろうな」
ジャミルの低い声が、ななしの鼓膜を濃密に揺らす。ななしは、さっきまでの楽観的な態度が嘘のように、全身の血が顔に集まるのを感じた。
「ジャミル、先輩……。今の、は……」
「三つ目の『好きなところ』だ。……文句はあるか?」
ジャミルは満足げに目を細め、さらに顔を近づけた。ななしはあまりの熱量に耐えきれず、視線を泳がせ、口をパクパクとさせた。
「わ、わ、わたし、そんな……っ! 先輩がそんなこと考えてるなんて、思わなくて……!」
「ふん。お前は鈍いからな。……だが、今のでよく分かっただろう? 俺がお前をどう見ているか」
カチリ。
扉の魔法が解け、音を立てて開いた。魔法は、二人の間に流れる「逃げ場のない本音の熱量」を、最高の真実だと判定したのだ。
「……あ、開きましたね」
「ああ、そうだな。……早く行くぞ」
ジャミルは即座に手を離し、いつもの無表情に戻った。だが、その耳元がわずかに赤いことをななしは見逃さなかった。
「……。……ジャミル先輩」
「なんだ」
「……やっぱり、先輩の目、かっこよすぎて反則です。……今の、すごく心臓に響きました……」
「……っ! 二度と言うな!!」
ジャミルは足早に廊下を去っていく。ななしは赤くなった顔を両手で押さえながら、ようやく自分がとんでもない爆弾を投下し、それ以上のカウンターを喰らったのだと自覚した。
一方、ジャミルは早鐘を打つ心臓を抑えながら毒づいていた。
自分の執着を笑い飛ばすどころか、真っ赤になって震えていた少女。いつか本当に「逃げられなくしてやる」と、彼は不本意ながらも甘い誓いを立てるのだった。
ななしは、ジャミル・バイパーと共に重い扉の向こう側に閉じ込められていた。壁に浮かび上がったのは淡く発光する魔法の文字。
お互いの好きなところ3つ言わないと出られない部屋
「……はぁ。この学園の魔法はどうしてこう、プライバシーの欠片もないんだ」
ジャミルは深く溜息をつき、シャツの襟元を気だるげに整えた。
「好きなところ、ですか! ジャミル先輩、わたしから行きましょうか?」
「待て、ななし。……これは一種の精神的な拷問だ。まともに受けて立つ必要はない。いいか、お互い適当に無難なことを三つ並べて、魔法を騙して出るぞ」
ジャミルは効率主義者だ。自分の内面を晒すような真似は避けたい。
彼はあえて事務的なトーンで、ななしに向き直った。
「いいか、俺から行くぞ。……一つ目、お前のその無駄に前向きなところ。二つ目、どんなトラブルにも動じない図太い神経。三つ目……学園の誰に対しても分け隔てなく接する、要領の良さだ。……よし、これで三つだ」
「わ、ジャミル先輩、それ褒めてます? ほとんど『図太い』って言っただけじゃないですか!」
「事実だろう。さあ、次はお前の番だ。早くしろ」
ジャミルは顔を背け、早く終わらせろと言わんばかりに促した。ななしは「えー、なんだろうなぁ」と少し考えたあと、いつもの明るい笑顔で、ジャミルの懐に土足で踏み込んできた。
「一つ目! ジャミル先輩の、実はすごく面倒見が良いところ! わたしが困ってると、なんだかんだ言いながら助けてくれますよね。二つ目、ふとした時に見せる、ちょっと意地悪な笑い方! 完璧な先輩が、わたしに意地悪してくれるの、実は特別感があって嬉しいです。そして三つ目……!」
ななしは一歩踏み込み、ジャミルの目を真っ直ぐに見つめた。
「ジャミル先輩の、その綺麗な目です! 時々、すごく熱心にわたしを見てくれるじゃないですか。あの時の目に、いつもドキッとしちゃうんですよね。……あはは、恥ずかしい!」
ジャミルの計算が、音を立てて崩れ去った。
「……は、」
ななしの告白はあまりに真っ直ぐで、ジャミルが無難に切り抜けようとしていた目論見を粉々に粉砕した。特に三つ目。自分が密かにななしに送っていた熱い視線に、彼女が無自覚にせよ気づいていて、しかもそれを「好きだ」と言ったのだ。
「……っ、ななし、それ……誰にでも言っているのか? それとも、俺をからかっているのか?」
「えっ? 違いますよ、本当のことですって! 先輩の目、吸い込まれそうで本当にかっこいいんですから」
「…………」
ジャミルは、じわじわと顔が熱くなるのを感じた。
ななしの鈍感な明るさが、かえって生々しい。自分の隠していたはずの執着を肯定されたジャミルの内側で、何か熱いスイッチが入ってしまった。
「ジャミル先輩……?」
「お前は今、『ドキッとする』と言ったな。……それは、こういうことか?」
ジャミルはななしの手首を掴み、逃げ場を奪うように壁へと追い詰めた。瞳には少し意地の悪い、けれど隠しきれない独占欲が宿っている。
「そんなに俺の目が好きなら、もっとよく見たらどうだ。……今なら、お前しか映っていないぞ?」
彼はななしの耳元に顔を寄せ、その瞳で至近距離から彼女を射抜いた。
「本当の三つ目を言ってやる。……俺は、お前のその、無防備に俺の領域に入り込んでくるところが……反吐が出るほど、愛おしくてたまらない」
「……っ!?」
「そんな顔をするな。お前が自覚なく俺を振り回すたびに、俺がどれだけ自分を抑えているか……鈍感なお前には一生、理解できないだろうな」
ジャミルの低い声が、ななしの鼓膜を濃密に揺らす。ななしは、さっきまでの楽観的な態度が嘘のように、全身の血が顔に集まるのを感じた。
「ジャミル、先輩……。今の、は……」
「三つ目の『好きなところ』だ。……文句はあるか?」
ジャミルは満足げに目を細め、さらに顔を近づけた。ななしはあまりの熱量に耐えきれず、視線を泳がせ、口をパクパクとさせた。
「わ、わ、わたし、そんな……っ! 先輩がそんなこと考えてるなんて、思わなくて……!」
「ふん。お前は鈍いからな。……だが、今のでよく分かっただろう? 俺がお前をどう見ているか」
カチリ。
扉の魔法が解け、音を立てて開いた。魔法は、二人の間に流れる「逃げ場のない本音の熱量」を、最高の真実だと判定したのだ。
「……あ、開きましたね」
「ああ、そうだな。……早く行くぞ」
ジャミルは即座に手を離し、いつもの無表情に戻った。だが、その耳元がわずかに赤いことをななしは見逃さなかった。
「……。……ジャミル先輩」
「なんだ」
「……やっぱり、先輩の目、かっこよすぎて反則です。……今の、すごく心臓に響きました……」
「……っ! 二度と言うな!!」
ジャミルは足早に廊下を去っていく。ななしは赤くなった顔を両手で押さえながら、ようやく自分がとんでもない爆弾を投下し、それ以上のカウンターを喰らったのだと自覚した。
一方、ジャミルは早鐘を打つ心臓を抑えながら毒づいていた。
自分の執着を笑い飛ばすどころか、真っ赤になって震えていた少女。いつか本当に「逃げられなくしてやる」と、彼は不本意ながらも甘い誓いを立てるのだった。
