問題児たちはオンボロ寮の合鍵が欲しい
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オンボロ寮の談話室、レオナは最も日当たりの良いソファを占領し長い足を肘掛けに投げ出していた。
「……ななし、そこで何をごちゃごちゃやってんだ」
閉じていたはずの瞳が僅かに開く。視線の先では、ななしがテーブルの上に並べられた四つの真新しい鍵を前に、うーんと唸り声を上げていた。
「あ、レオナさん。起きてたんですか? これ、ちょっと前に学園長からもらったんです。オンボロ寮の合鍵。何かあった時のために、信頼できる人に預けておきなさいって言われて」
「合鍵、だと?」
レオナの耳がぴくりと動く。体を起こした彼は、獲物を見定むるような鋭い視線でその金属片を凝視した。
彼にとって、この寮は格好の昼寝場所であり、騒がしい連中から逃れるための避難所。レオナは、その信頼できる人間の筆頭に自分が選ばれるものだと疑いもしない。
「ふなっ! だから合鍵なんて他の奴らに渡す必要ないんだゾ! オレ様がここにいれば、どんな奴だって追い返してやるんだゾ!」
ななしの膝の上でグリムが叫ぶ。レオナは鼻で笑い、大きな手でグリムの頭を雑に押し退けた。
「おい、草食動物。その鍵、一本よこせ。緊急時にこの俺が門を開けられねぇんじゃ、防犯もクソもねぇだろ」
当然の要求であるかのように、レオナは手のひらを上に向けて差し出す。
頼りになる年上の先輩として、また、この場所を誰よりも利用する者として、鍵を受け取る権利は自分にある。レオナの心中には、そんな傲慢に近い自信があった。
しかし、ななしは差し出された手を見つめたまま、申し訳なさそうに眉を下げる。
「うーん……でも、レオナさんに預けるの迷ってるんですよね」
「あ? なんでだ」
レオナの声が一段低くなる。
「だって、レオナさんここにきてもずっと寝てるだけじゃないですか。もしわたしが外で困ってて『レオナさん、鍵開けて!』ってお願いしても、絶対寝てて気づいてくれないですよ」
ななしは、本気でレオナの安眠を気遣うような顔でそう言った。
悪気など微塵もない。
レオナは絶句する。
自分は頼りになる存在として振る舞っているつもりだった。実際、これまでも何度か窮地を救ってやったはず。それなのに、この鈍感な草食動物の目には、この程度にしか映っていないのか。
レオナの心に、言いようのない焦燥と不機嫌が渦巻く。
他人に頭を下げるのも、順番を待つのも、レオナの辞書にはない。
「……そうかよ」
レオナは立ち上がり、ゆっくりとななしとの距離を詰める。
大きな影が彼女を覆う。
「レオナさん……?」
「別にいいぜ。お前がその気なら、俺は俺のやり方でやるだけだ」
レオナはななしの頬を薄く掠めるようにして、テーブルの鍵を指先で弾いた。カラン、と乾いた音が響く。
「貰えないなら、勝手に作らせる。……ラギーに型を盗らせるか、直接魔法で複製するか。手段なんていくらでもあるからな」
「えっ、レオナさん、それ犯罪ですよ!? ダメですって!」
ななしが慌てて鍵を背後に隠すと、レオナは口角を吊り上げ笑みを浮かべた。
「犯罪? 笑わせんな。俺がここに居座る権利を、誰が否定できるんだよ」
レオナは再び目を閉じ、腕を頭の後ろで組んだ。鍵は手に入らなかった。だが、手に入らないなら手段を選ばず奪うだけだという、彼なりの執着の表明だった。
「おい、草食動物。そこまで言うなら、今はまだ鍵はいらねぇよ。その代わり俺が来たら即座に開けろ。一秒でも待たせたら、そのドア魔法で消し飛ばしてやるからな」
「もう、レオナさんは……! わかりました、ちゃんと起きて開けますから、物騒なこと言わないでください!」
怒りながらも、お茶の準備を始めるななしの背中。
レオナはその気配を五感で楽しみながら、手に入らなかった鍵の代わりに、この穏やかな時間という特権を誰にも渡さないよう深く心に刻んだ。
「……ななし、そこで何をごちゃごちゃやってんだ」
閉じていたはずの瞳が僅かに開く。視線の先では、ななしがテーブルの上に並べられた四つの真新しい鍵を前に、うーんと唸り声を上げていた。
「あ、レオナさん。起きてたんですか? これ、ちょっと前に学園長からもらったんです。オンボロ寮の合鍵。何かあった時のために、信頼できる人に預けておきなさいって言われて」
「合鍵、だと?」
レオナの耳がぴくりと動く。体を起こした彼は、獲物を見定むるような鋭い視線でその金属片を凝視した。
彼にとって、この寮は格好の昼寝場所であり、騒がしい連中から逃れるための避難所。レオナは、その信頼できる人間の筆頭に自分が選ばれるものだと疑いもしない。
「ふなっ! だから合鍵なんて他の奴らに渡す必要ないんだゾ! オレ様がここにいれば、どんな奴だって追い返してやるんだゾ!」
ななしの膝の上でグリムが叫ぶ。レオナは鼻で笑い、大きな手でグリムの頭を雑に押し退けた。
「おい、草食動物。その鍵、一本よこせ。緊急時にこの俺が門を開けられねぇんじゃ、防犯もクソもねぇだろ」
当然の要求であるかのように、レオナは手のひらを上に向けて差し出す。
頼りになる年上の先輩として、また、この場所を誰よりも利用する者として、鍵を受け取る権利は自分にある。レオナの心中には、そんな傲慢に近い自信があった。
しかし、ななしは差し出された手を見つめたまま、申し訳なさそうに眉を下げる。
「うーん……でも、レオナさんに預けるの迷ってるんですよね」
「あ? なんでだ」
レオナの声が一段低くなる。
「だって、レオナさんここにきてもずっと寝てるだけじゃないですか。もしわたしが外で困ってて『レオナさん、鍵開けて!』ってお願いしても、絶対寝てて気づいてくれないですよ」
ななしは、本気でレオナの安眠を気遣うような顔でそう言った。
悪気など微塵もない。
レオナは絶句する。
自分は頼りになる存在として振る舞っているつもりだった。実際、これまでも何度か窮地を救ってやったはず。それなのに、この鈍感な草食動物の目には、この程度にしか映っていないのか。
レオナの心に、言いようのない焦燥と不機嫌が渦巻く。
他人に頭を下げるのも、順番を待つのも、レオナの辞書にはない。
「……そうかよ」
レオナは立ち上がり、ゆっくりとななしとの距離を詰める。
大きな影が彼女を覆う。
「レオナさん……?」
「別にいいぜ。お前がその気なら、俺は俺のやり方でやるだけだ」
レオナはななしの頬を薄く掠めるようにして、テーブルの鍵を指先で弾いた。カラン、と乾いた音が響く。
「貰えないなら、勝手に作らせる。……ラギーに型を盗らせるか、直接魔法で複製するか。手段なんていくらでもあるからな」
「えっ、レオナさん、それ犯罪ですよ!? ダメですって!」
ななしが慌てて鍵を背後に隠すと、レオナは口角を吊り上げ笑みを浮かべた。
「犯罪? 笑わせんな。俺がここに居座る権利を、誰が否定できるんだよ」
レオナは再び目を閉じ、腕を頭の後ろで組んだ。鍵は手に入らなかった。だが、手に入らないなら手段を選ばず奪うだけだという、彼なりの執着の表明だった。
「おい、草食動物。そこまで言うなら、今はまだ鍵はいらねぇよ。その代わり俺が来たら即座に開けろ。一秒でも待たせたら、そのドア魔法で消し飛ばしてやるからな」
「もう、レオナさんは……! わかりました、ちゃんと起きて開けますから、物騒なこと言わないでください!」
怒りながらも、お茶の準備を始めるななしの背中。
レオナはその気配を五感で楽しみながら、手に入らなかった鍵の代わりに、この穏やかな時間という特権を誰にも渡さないよう深く心に刻んだ。
