監督生と体が入替わるはなし
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「……ん……あー、よく寝た……」
エース・トラッポラは、聞き慣れた目覚まし時計の音ではなく、鳥のさえずりと静寂の中で目を覚ました。
ハーツラビュル寮の賑やかな朝の気配がない。漂ってくるのは、少し埃っぽい、けれどどこか落ち着く古い木造校舎の匂い。
「……は?ここオンボロ寮じゃん。昨日遊び倒して寝落ちしたっけ?」
欠伸をしながら上半身を起こそうとして、エースは違和感に凍り付いた。
体が、軽い。いつもなら枕元にあるはずのスマホを取ろうと伸ばした手は、自分より一回り小さく白く指先まで華奢な――見紛うことなき女の子の手だった。
「……え。……はぁぁぁあ!?」
自分の口から出たのは、可愛らしい高音の悲鳴。
慌てて姿見の前に転がり込むと、そこにはパジャマ姿で目を丸くしているななしの姿があった。
「嘘だろ……オレ、ななしになってる……!?」
一方その頃のハーツラビュル寮、エースの部屋。
「う、ううん……。……えっ!?」
エースの体で目覚めたななしは、隣のベッドで着替えていたデュースと目が合い心臓が止まるかと思った。
「おはようエース、珍しくうなされてたな。……どうした?僕の顔になにかついてるか?」
「デュ、デュース……? あの、私……じゃなくて、オレ、……えっと……」
低い自分の声に驚き、ななしは布団を頭まで被った。
中身がななしだとは露ほども思っていないデュースは「寝ぼけてんのか?」と呆れ顔で部屋を出ていく。
(どうしよう……! 私、エースの体になってる……!? ってことは、オンボロ寮の私の体は……!?)
◇
一限が始まる直前。二人は校舎裏の物陰で、ようやく合流を果たした。
ななしの体に入ったエースは、慣れないスカートの裾を気にしながら、猛烈な勢いで中身はななしの自分の体に詰め寄る。
「おいななし! オレの体でデュースに変なこと言ってねーだろうな!?」
「言わないよ! それよりエース、私の体でそんなに大股で歩かないで……! みんなが見てるから!」
エースは、ななしの愛らしい顔を歪ませて「チッ」と舌打ちをした。
「つーか、女子の体ってマジで不便! 視線は低いし、階段登るだけでなんか疲れる、お前体力なさすぎ。あと、さっきから色んな奴が『おはようななし』って距離詰めてくんだよ。アイツら普段オレが横にいる時はあんなに図々しくねーだろ!」
「それはエースが怖い顔してるからだよ……。とりあえず、放課後まで何とか乗り切ろう? クルーウェル先生なら戻し方を知ってるかもしれないし」
◇
お互い昼食をとることにしたが、ここでも問題が発生した。
中身がななしのエースの周りには、いつものように「エース、購買のパン一口ちょうだい」と男子生徒たちが群がる。
「え、あ、うん……いいよ」
ななしがエースの顔で「いいよ」と微笑んだ瞬間、周囲の空気が止まった。
「……おい、エースどうした?」
「しかも今の『いいよ』、めちゃくちゃ優しくなかったか……?」
(……ヤバい、エースはもっとぶっきらぼうだった……!?)
慌てて「あー、別に! 食いたきゃ食えば!?」とエースっぽく言い直したが、時すでに遅し。
一方、ななしの体に入ったエースは、さらに過酷な状況にいた。
「ななしさーん、一緒に食べませんか?」
「これ、お裾分け!」
(……うっぜぇぇえ!! どいつもこいつもななしのこと狙いすぎだろ! )
エースはななしの顔を最大限に活用し、そいつらを「あー、腹いっぱい。近寄んないで」と冷たくあしらった。
クルーウェル先生に相談し解決策を聞き出してきた二人は命からがらオンボロ寮へ逃げ帰った。
「戻り方……お互いの『好きなところ』を言葉にして、触れ合うこと、か……」
エースは、ソファに座る自分の体をじっと見上げた。
女子の視点で見上げる自分の顔は、情けないほど不安そうに揺れている。
「……お前さ、オレの体、怖くなかった?」
「え?」
「オレの体って、お前よりデカいし力も強いだろ。オレは今日一日お前の体で過ごしてみて分かったわ。お前、いつもこんな思いして過ごしてんのかって。……こんなの、オレが傍にいないと危なっかしくて見てらんねーわ」
エースはななしの小さな手で、自分の大きな手をそっと握った。
「……エース」
「戻ったら、もう変な奴らが近づかないように、オレがもっとちゃんと見張っててやるから。……だから、戻ってもオレの隣にいろよ」
エースの顔が、ななしの肌質も相まって赤くなる。
対するななしも、エースの低い声で必死に言葉を絞り出した。
「……うん。私も、エースの隣が一番安心するよ。大好きだよ、エース」
その言葉が引き金となり、二人の間を魔法の光が駆け抜ける。
◇
「……っ。あー、戻った……」
床に手をつき、エースは自分の喉から出る低い声に安堵した。
目の前には、いつもの、少し小さくて愛らしいななし。
「エース……戻ったね。よかった……」
「……ああ。戻った。けど……」
エースは立ち上がり、ななしの頭をごしごしと乱暴に、けれど慈しむように撫でた。
「お前、さっきオレの体で『大好き』って言っただろ。あれ、戻った今の状態でも言ってくんない?録音するから」
「えっ、そんなの恥ずかしいよ!」
「ははっ、ジョーダンだよ!本気にすんなって」
夕暮れのオンボロ寮。
入れ替わりという災難を経て、ななしのことを改めて強く意識するようになったのだった。
エース・トラッポラは、聞き慣れた目覚まし時計の音ではなく、鳥のさえずりと静寂の中で目を覚ました。
ハーツラビュル寮の賑やかな朝の気配がない。漂ってくるのは、少し埃っぽい、けれどどこか落ち着く古い木造校舎の匂い。
「……は?ここオンボロ寮じゃん。昨日遊び倒して寝落ちしたっけ?」
欠伸をしながら上半身を起こそうとして、エースは違和感に凍り付いた。
体が、軽い。いつもなら枕元にあるはずのスマホを取ろうと伸ばした手は、自分より一回り小さく白く指先まで華奢な――見紛うことなき女の子の手だった。
「……え。……はぁぁぁあ!?」
自分の口から出たのは、可愛らしい高音の悲鳴。
慌てて姿見の前に転がり込むと、そこにはパジャマ姿で目を丸くしているななしの姿があった。
「嘘だろ……オレ、ななしになってる……!?」
一方その頃のハーツラビュル寮、エースの部屋。
「う、ううん……。……えっ!?」
エースの体で目覚めたななしは、隣のベッドで着替えていたデュースと目が合い心臓が止まるかと思った。
「おはようエース、珍しくうなされてたな。……どうした?僕の顔になにかついてるか?」
「デュ、デュース……? あの、私……じゃなくて、オレ、……えっと……」
低い自分の声に驚き、ななしは布団を頭まで被った。
中身がななしだとは露ほども思っていないデュースは「寝ぼけてんのか?」と呆れ顔で部屋を出ていく。
(どうしよう……! 私、エースの体になってる……!? ってことは、オンボロ寮の私の体は……!?)
◇
一限が始まる直前。二人は校舎裏の物陰で、ようやく合流を果たした。
ななしの体に入ったエースは、慣れないスカートの裾を気にしながら、猛烈な勢いで中身はななしの自分の体に詰め寄る。
「おいななし! オレの体でデュースに変なこと言ってねーだろうな!?」
「言わないよ! それよりエース、私の体でそんなに大股で歩かないで……! みんなが見てるから!」
エースは、ななしの愛らしい顔を歪ませて「チッ」と舌打ちをした。
「つーか、女子の体ってマジで不便! 視線は低いし、階段登るだけでなんか疲れる、お前体力なさすぎ。あと、さっきから色んな奴が『おはようななし』って距離詰めてくんだよ。アイツら普段オレが横にいる時はあんなに図々しくねーだろ!」
「それはエースが怖い顔してるからだよ……。とりあえず、放課後まで何とか乗り切ろう? クルーウェル先生なら戻し方を知ってるかもしれないし」
◇
お互い昼食をとることにしたが、ここでも問題が発生した。
中身がななしのエースの周りには、いつものように「エース、購買のパン一口ちょうだい」と男子生徒たちが群がる。
「え、あ、うん……いいよ」
ななしがエースの顔で「いいよ」と微笑んだ瞬間、周囲の空気が止まった。
「……おい、エースどうした?」
「しかも今の『いいよ』、めちゃくちゃ優しくなかったか……?」
(……ヤバい、エースはもっとぶっきらぼうだった……!?)
慌てて「あー、別に! 食いたきゃ食えば!?」とエースっぽく言い直したが、時すでに遅し。
一方、ななしの体に入ったエースは、さらに過酷な状況にいた。
「ななしさーん、一緒に食べませんか?」
「これ、お裾分け!」
(……うっぜぇぇえ!! どいつもこいつもななしのこと狙いすぎだろ! )
エースはななしの顔を最大限に活用し、そいつらを「あー、腹いっぱい。近寄んないで」と冷たくあしらった。
クルーウェル先生に相談し解決策を聞き出してきた二人は命からがらオンボロ寮へ逃げ帰った。
「戻り方……お互いの『好きなところ』を言葉にして、触れ合うこと、か……」
エースは、ソファに座る自分の体をじっと見上げた。
女子の視点で見上げる自分の顔は、情けないほど不安そうに揺れている。
「……お前さ、オレの体、怖くなかった?」
「え?」
「オレの体って、お前よりデカいし力も強いだろ。オレは今日一日お前の体で過ごしてみて分かったわ。お前、いつもこんな思いして過ごしてんのかって。……こんなの、オレが傍にいないと危なっかしくて見てらんねーわ」
エースはななしの小さな手で、自分の大きな手をそっと握った。
「……エース」
「戻ったら、もう変な奴らが近づかないように、オレがもっとちゃんと見張っててやるから。……だから、戻ってもオレの隣にいろよ」
エースの顔が、ななしの肌質も相まって赤くなる。
対するななしも、エースの低い声で必死に言葉を絞り出した。
「……うん。私も、エースの隣が一番安心するよ。大好きだよ、エース」
その言葉が引き金となり、二人の間を魔法の光が駆け抜ける。
◇
「……っ。あー、戻った……」
床に手をつき、エースは自分の喉から出る低い声に安堵した。
目の前には、いつもの、少し小さくて愛らしいななし。
「エース……戻ったね。よかった……」
「……ああ。戻った。けど……」
エースは立ち上がり、ななしの頭をごしごしと乱暴に、けれど慈しむように撫でた。
「お前、さっきオレの体で『大好き』って言っただろ。あれ、戻った今の状態でも言ってくんない?録音するから」
「えっ、そんなの恥ずかしいよ!」
「ははっ、ジョーダンだよ!本気にすんなって」
夕暮れのオンボロ寮。
入れ替わりという災難を経て、ななしのことを改めて強く意識するようになったのだった。
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