監督生と体が入替わるはなし
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朝のルーティンを裏切るような、奇妙な柔らかさの感触に目を覚ますアズール・アーシェングロッド。
いつもなら、パリッと糊のきいたシーツとジェイドが淹れる紅茶の香りが漂うはず。だが視界に広がるのは、古ぼけたオンボロ寮の天井だった。
(……昨日の魔法薬学の実験、あの爆発のせいか。……全く、損害賠償を請求したい気分だ)
アズールは、いつものように眼鏡を押し上げようとしたが、指が鼻筋に届く前に凍り付いた。手が、驚くほど小さい。白く、細い。
「……は? ……嘘でしょう? 僕の肉体はどこへ行ったのですか!?」
出たのは凛としたななしの声。
姿見の前に転がり込むと、そこにはパジャマ姿のななしが震える手で自分の胸を抑えている姿が映っていた。
「そんな、馬鹿な……! 僕が、女の子……? ななしさんの体……!?」
アズールはななしの華奢な手で、恐る恐る身体をなぞった。
マシュマロのような質感。そして、パジャマの上からでも分かる、胸元の未知なる弾力。
「……ああ。……なんという柔らかさだ。これが女性の……。いけません、落ち着きなさい! これは不測の事態、学術的調査の一環だと割り切れば!」
アズールは男としての本能的なパニックに翻弄され、真っ赤な顔を覆った。
◇
一方、オクタヴィネル寮のアズールの部屋。
「ひゃ、ひゃあぁぁぁぁ!?」
アズールの体で目覚めたななしは、鏡を見て絶叫した。
いつもとは違う視界と下半身に感じる重苦しいまでの存在感。
「な、なにこれ……! 下の方が、なんか、凄く……重たくて熱い……!」
ななしが、アズールの大きな手で恐る恐るズボンの中を……確認しようとした、まさにその時だった。
「アズール、朝から随分と精力的ですねぇ」
「ジェ、ジェイドせんっ……!? 違うんです、これは……!」
アズールの深みのある低音で必死に弁解するななしに、ジェイドは眼鏡を光らせて微笑んだ。
「おや、ご自分の状態がそんなに気になりますか? 男子生徒としては健全な証拠ですが……あまり弄りすぎると、寮生に示しがつきませんよ」
◇
二人は秘密の契約を結ぶように、人目につかないオンボロ寮で合流した。
ななしの体に入ったアズールは、スカートの裾を必死に押さえ込み、内股気味に震えながら、自分の体に詰め寄った。
「……ななしさん。貴女、僕の体を……その、粗末に扱ってはいませんね? ……男子の身体というものは、貴女が思っているよりもずっと、刺激に対して正直なのです。妙な真似をして、僕の尊厳を汚さないでくださいよ!」
「アズール先輩こそ!私の体で変なことしてないですよね!?」
アズールは、ななしの顔を真っ赤にして叫んだ。
「……そ、それは……!それよりも、クルーウェル先生に聞いてきてくださったんですよね!?」
クルーウェル先生から提示された戻り方は「互いの体温を密着させ、相手を唯一無二のパートナーと認めること」。
「……密着、ですか。……僕としたことが、計算外の事態ですよ」
アズールは、ななしの小さな手で、自らの制服の袖をそっと掴んだ。
その仕草はあまりに心細げで、ななしの顔をしていながら中身であるアズールの不安や熱が痛いほど伝わってくる。
「アズール先輩……震えているんですか?」
「……静かにしてください。貴女の体は、驚くほど繊細で、心臓の音が耳元でうるさいくらいに響くのです。これでは冷静な計算などできるはずがない」
アズールは観念したように溜息をつくと、ななしの胸元に、ゆっくりと額を預けた。
トクン、トクン、と重なる鼓動。
ななしの体に入っているアズールにとって、自分自身の大きな体温に包まれるという経験は、奇妙な安心感とそれを上回るほどのもどかしさを連れてきた。
「……ななしさん。貴女、魔法も使えないくせに、この弱肉強食の学園でよく生き延びてきましたね。その泥臭いまでの粘り強さ、僕は嫌いではありませんよ。……いえ、訂正しましょう」
アズールがななしの唇で、首筋にそっと顔を埋める。
そこから伝わるのは、恐怖ではなく深い信頼と甘い陶酔だった。
「……僕は、貴女という存在を……誰にも渡したくない。貴女が僕を頼り、僕が貴女を必要とする。この契約は、何があっても破棄させません。貴女のその温もりも、そのひたむきな心も、全て僕が管理させていただきます」
その誓いのような言葉が、二人の魂を強く結びつけた。
ななしの繊細な指先と、アズールの大きな掌が重なった瞬間、二人の間を優しい光が包み込んでいく。
◇
「……っ。……ふぅ、ようやく戻りましたか」
アズールは馴染みのある自らの肉体の重みを自覚し、静かに眼鏡を直した。目の前には呆然と自分を見上げているななしがいた。
「アズール先輩……戻りました、よね?」
「ええ、戻りました。……ですが、困りましたね。貴女を内側から感じたせいで、これまで以上に貴女という存在を近くに感じてしまう」
アズールはななしを壁際に追い詰め、逃げ場を塞ぐように、けれど優しく手を突いた。
「……ななしさん。貴女の体に入っていた時、僕は貴女の全てを知りたくなってしまいました。……ええ、表面的なことだけではありません。貴女が何に喜び、何を想い、僕をどう見ているのか。一分一秒、逃さず把握したいのです」
アズールは冷徹な商人の顔を捨て、一人の執着に満ちた男の瞳でななしを射抜いた。
アズールはななしの頬を、壊れ物を扱うような手つきで優しく撫でた。計算高さなどどこへやら。入れ替わりというハプニングは、アズールの中の独占欲という名の純粋な想いを、完全に引き出してしまったようだった。
いつもなら、パリッと糊のきいたシーツとジェイドが淹れる紅茶の香りが漂うはず。だが視界に広がるのは、古ぼけたオンボロ寮の天井だった。
(……昨日の魔法薬学の実験、あの爆発のせいか。……全く、損害賠償を請求したい気分だ)
アズールは、いつものように眼鏡を押し上げようとしたが、指が鼻筋に届く前に凍り付いた。手が、驚くほど小さい。白く、細い。
「……は? ……嘘でしょう? 僕の肉体はどこへ行ったのですか!?」
出たのは凛としたななしの声。
姿見の前に転がり込むと、そこにはパジャマ姿のななしが震える手で自分の胸を抑えている姿が映っていた。
「そんな、馬鹿な……! 僕が、女の子……? ななしさんの体……!?」
アズールはななしの華奢な手で、恐る恐る身体をなぞった。
マシュマロのような質感。そして、パジャマの上からでも分かる、胸元の未知なる弾力。
「……ああ。……なんという柔らかさだ。これが女性の……。いけません、落ち着きなさい! これは不測の事態、学術的調査の一環だと割り切れば!」
アズールは男としての本能的なパニックに翻弄され、真っ赤な顔を覆った。
◇
一方、オクタヴィネル寮のアズールの部屋。
「ひゃ、ひゃあぁぁぁぁ!?」
アズールの体で目覚めたななしは、鏡を見て絶叫した。
いつもとは違う視界と下半身に感じる重苦しいまでの存在感。
「な、なにこれ……! 下の方が、なんか、凄く……重たくて熱い……!」
ななしが、アズールの大きな手で恐る恐るズボンの中を……確認しようとした、まさにその時だった。
「アズール、朝から随分と精力的ですねぇ」
「ジェ、ジェイドせんっ……!? 違うんです、これは……!」
アズールの深みのある低音で必死に弁解するななしに、ジェイドは眼鏡を光らせて微笑んだ。
「おや、ご自分の状態がそんなに気になりますか? 男子生徒としては健全な証拠ですが……あまり弄りすぎると、寮生に示しがつきませんよ」
◇
二人は秘密の契約を結ぶように、人目につかないオンボロ寮で合流した。
ななしの体に入ったアズールは、スカートの裾を必死に押さえ込み、内股気味に震えながら、自分の体に詰め寄った。
「……ななしさん。貴女、僕の体を……その、粗末に扱ってはいませんね? ……男子の身体というものは、貴女が思っているよりもずっと、刺激に対して正直なのです。妙な真似をして、僕の尊厳を汚さないでくださいよ!」
「アズール先輩こそ!私の体で変なことしてないですよね!?」
アズールは、ななしの顔を真っ赤にして叫んだ。
「……そ、それは……!それよりも、クルーウェル先生に聞いてきてくださったんですよね!?」
クルーウェル先生から提示された戻り方は「互いの体温を密着させ、相手を唯一無二のパートナーと認めること」。
「……密着、ですか。……僕としたことが、計算外の事態ですよ」
アズールは、ななしの小さな手で、自らの制服の袖をそっと掴んだ。
その仕草はあまりに心細げで、ななしの顔をしていながら中身であるアズールの不安や熱が痛いほど伝わってくる。
「アズール先輩……震えているんですか?」
「……静かにしてください。貴女の体は、驚くほど繊細で、心臓の音が耳元でうるさいくらいに響くのです。これでは冷静な計算などできるはずがない」
アズールは観念したように溜息をつくと、ななしの胸元に、ゆっくりと額を預けた。
トクン、トクン、と重なる鼓動。
ななしの体に入っているアズールにとって、自分自身の大きな体温に包まれるという経験は、奇妙な安心感とそれを上回るほどのもどかしさを連れてきた。
「……ななしさん。貴女、魔法も使えないくせに、この弱肉強食の学園でよく生き延びてきましたね。その泥臭いまでの粘り強さ、僕は嫌いではありませんよ。……いえ、訂正しましょう」
アズールがななしの唇で、首筋にそっと顔を埋める。
そこから伝わるのは、恐怖ではなく深い信頼と甘い陶酔だった。
「……僕は、貴女という存在を……誰にも渡したくない。貴女が僕を頼り、僕が貴女を必要とする。この契約は、何があっても破棄させません。貴女のその温もりも、そのひたむきな心も、全て僕が管理させていただきます」
その誓いのような言葉が、二人の魂を強く結びつけた。
ななしの繊細な指先と、アズールの大きな掌が重なった瞬間、二人の間を優しい光が包み込んでいく。
◇
「……っ。……ふぅ、ようやく戻りましたか」
アズールは馴染みのある自らの肉体の重みを自覚し、静かに眼鏡を直した。目の前には呆然と自分を見上げているななしがいた。
「アズール先輩……戻りました、よね?」
「ええ、戻りました。……ですが、困りましたね。貴女を内側から感じたせいで、これまで以上に貴女という存在を近くに感じてしまう」
アズールはななしを壁際に追い詰め、逃げ場を塞ぐように、けれど優しく手を突いた。
「……ななしさん。貴女の体に入っていた時、僕は貴女の全てを知りたくなってしまいました。……ええ、表面的なことだけではありません。貴女が何に喜び、何を想い、僕をどう見ているのか。一分一秒、逃さず把握したいのです」
アズールは冷徹な商人の顔を捨て、一人の執着に満ちた男の瞳でななしを射抜いた。
アズールはななしの頬を、壊れ物を扱うような手つきで優しく撫でた。計算高さなどどこへやら。入れ替わりというハプニングは、アズールの中の独占欲という名の純粋な想いを、完全に引き出してしまったようだった。
