◯◯しないと出られない部屋
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放課後、いつも通りの自主トレの時間のはずだった。
ななしは、最近の運動不足を解消しようと魔法薬学の課題を早めに終わらせて運動場へと向かっていた。そこで偶然、いつものようにストイックに走り込んでいた同級生ジャック・ハウウルと出会った。
「あ、ジャック! 今日もトレーニング?」
「ななしか。ああ。……お前、そんな格好でどうした。珍しいな、体でも動かすのか」
「うん。最近ちょっと体力が落ちた気がして。ジャックを見習って私もジョギングしようかなって」
「いい心がけだ。少し付き合ってやるよ」
ジャックはぶっきらぼうに言いながらも、どこか嬉しそうに尻尾を揺らした。
二人が連れ立って、備品を片付けるために競技場の古い倉庫の扉を開けた、その時だった。視界が真っ白な魔力に包まれ、足元から感覚が消える。
「うわっ!? な、何これ!?」
「おい、ななし! 俺の腕を掴んでろ!」
ジャックが咄嗟にななしの肩を抱き寄せ、自分の方へと引き寄せた。
光が収まったとき、二人は見慣れた倉庫ではない場所にいた。
壁も床も天井も、窓一つない真っ白な部屋。中央には巨大なデジタルタイマーと、いくつかのトレーニング器具が置かれている。出口らしき扉には、武骨な魔法のメッセージが浮かび上がっていた。
協力して一時間筋トレしないと出られない部屋
「……筋トレ…だと?」
ジャックが掲示板の文字を読み上げ、呆然と呟いた。
「一緒に筋トレしないと出られないってこと!? ジャック、これ……」
「……チッ。誰の悪戯だか知らねぇが、この魔力の質、半端じゃねぇ。力ずくで壊すのは無理そうだな」
ジャックは扉を一度殴りつけたが、反動で拳が痺れるだけだった。
「一時間……。ジャックなら余裕だろうけど、私、もつかな……」
「弱音吐いてんじゃねぇ。……いいか、ななし。やるからには徹底的にやるぞ。中途半端なトレーニングは、筋肉にも、この部屋の主にも失礼だ」
「えっ、そっち!? ……わ、わかった。頑張るよ!」
ななしは気合を入れ直し、ジャックと向き合った。
「よし。まずは動的ストレッチからだ。怪我したら元も子もねぇからな。俺の真似をしろ」
ジャックの指導のもと、一時間のカウントダウンが始まった。
「……6、7、8……。おい、ななし、膝を曲げすぎるな。股関節から動かすイメージだ」
「は、はい……っ。……ジャック、教えるのすごく上手だね」
「別に……。教えるほどのことじゃねぇ。ただ、正しいフォームでやらねぇと意味がねぇから言ってるだけだ」
ジャックは視線を逸らしたが、その耳の先がわずかに赤くなっている。
「次はスクワットだ。20回を三セット。……準備はいいか」
「うん!」
「よし、開始。……1、2……」
二人の声が白い部屋に響く。
「……10、11……っ、ふぅ」
「ほら、腰を丸めるな。胸を張れ。辛いのは効いてる証拠だぞ」
ジャックはななしの背中にそっと手を添え、姿勢を矯正した。
「あっ……。ごめん、つい楽な姿勢になっちゃって」
「謝る暇があったら呼吸を整えろ。……よし、いいフォームだ。そのままでいろ」
ななしの背中に触れるジャックの手は、驚くほど熱かった。
「15分経過か。……次はプッシュアップだ。お前は膝をついてもいい」
「いいえ! 普通のやつでやる! ジャックと同じメニューをこなしたいもん」
「……フン、いい根性だ。だが、無理はするなよ」
ジャックの口元がわずかに綻ぶ。
二人は床に手をつき、腕立て伏せを開始した。
「……ぐ、っ……、はぁ……」
「ななし、顔を上げろ。床を見るな。……ほら、あと5回だ」
「は……いっ! ……あ、腕が……震えて……」
「耐えろ。俺がついてる。……あと3回!」
ジャックの声に鼓舞され、ななしは何とかセットを終え、床に倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ……、ジャック、すごすぎるよ……。息一つ乱れてない……」
「乱れてねぇわけねぇだろ。……お前が隣で必死に頑張ってるのを見て、俺まで変に力が入っちまってるんだ」
ジャックは床に座り込み、部屋に用意されていた水をななしに手渡した。
「お前……。本当に頑張り屋だな」
「え?」
「魔法も使えねぇのに、この学園で監督生なんてやってて……。それだけでも十分なはずなのに、こうして俺の特訓にも食らいついてくる。……そういうとこ、嫌いじゃねぇ」
「……ありがとう、ジャック。私、ジャックに認められたくて頑張ってるのかも」
「……っ、馬鹿。変なこと言うな」
ジャックは慌てて立ち上がり、背中を向けた。
「ほら、休んでる暇はねぇぞ! 次は体幹トレーニングだ。プランク1分3セット!」
「ええっ、1分3セット!? 長いよー!」
・
30分経過。部屋の温度が上がり、二人の体からは湯気が立つほどだった。
「……き、きつい……。なけなしの筋肉が…悲鳴をあげている……」
「動くな、耐えろ! 残り1分だ。……ななし、俺を見ろ」
ジャックはプランクの姿勢のまま、ななしの顔のすぐ近くに自分の顔を寄せた。
「ジャ、ジャック……!?」
「視線を逸らすな。俺を見ろって言っただろ。……辛い時は俺を見ろ。俺も、お前を見てる」
ジャックの瞳が至近距離でななしを射抜く。その強烈な眼差しに、ななしは疲れを忘れて見入ってしまった。
「……終了。よし、よくやった」
ジャックが姿勢を解き、ななしの頭を大きな手で乱暴に撫でた。
「……っ。あ、ありがとう……」
「お前、いい顔するようになったな。……最初はただの小せえ奴だと思ってたが、今は……少しは、猛獣の隣に立つ資格があるんじゃねぇか」
「それって、最高の褒め言葉だね」
ななしが笑うと、ジャックは照れたように鼻を鳴らした。
・
45分経過。
タイマーの数字が減るにつれ、部屋の空気が甘く、濃密なものに変わっていく。
「最後は……腹筋だ。俺が足を抑えてやる。……交互にやろう」
「うん。……お願いします!」
ジャックがななしの足首を掴む。その力強い握りに、ななしの心拍数がさらに跳ね上がった。
「……1、2、3……」
ななしが上体を起こすたびに、ジャックの顔が目の前に迫る。
「……10、11……」
「……ほら、スピードを落とすな。腹の筋肉を意識しろ」
「……15、……っ、16……!」
18回目。ななしが限界の力で上体を起こした時、勢い余って二人の距離がゼロになった。
「あ……」
ななしの鼻先が、ジャックの鼻先に触れる。
互いの熱い吐息が混じり合う。ジャックの体からは、太陽のような、少し焦げたような雄々しい香りがした。
「……あ、ごめ……」
「……逃げんな。……そのまま、腹筋続けろ」
ジャックは足を抑える力を強め、ななしの瞳を逃がさない。
「20……! ……はぁ、はぁ……」
「……よし。次は俺の番だ。抑えてろ」
役割を交代し、今度はジャックが上体を起こす。
ななしがジャックの足を抑えると、彼の筋肉の硬さに驚かされる。
ジャックが上体を起こすたび、彼の顔がななしの膝のすぐ近くまで来る。
「……1、2……」
ジャックの動きは正確で、力強い。
「……10、11……」
ななしは、目の前で上下するジャックの逞しい首筋や、額に光る汗から目が離せなかった。
「……20。……ふぅ」
ジャックが最後の1回を終え、上体を起こしたままの姿勢で止まった。二人の顔が、数センチの距離で静止する。
「……ジャック……?」
「……お前、さっきから俺のこと、どんな目で見てんだ」
「えっ、それは……。その、ジャックが一生懸命だから、私も、負けられないなって……」
「……嘘だな。こういうことに鈍い俺でもわかる。お前今、俺のこと別の意味で見てただろ」
ジャックの声が、いつもより低く、掠れている。
「……俺は、こうして二人きりで同じ目標に向かって体を動かしてると……。自分がどれだけお前を特別に思ってるか、嫌でも思い知らされる」
「ジャック……」
「俺は……トレーニングの仲間としてじゃねぇ。……一人の男として、お前を、俺だけの隣に置いておきたい」
ジャックの告白は、彼の生き様そのもののように真っ直ぐで、不器用だった。ななしは目を見開き、そしてゆっくりと微笑んだ。
「……私も。私もだよ、ジャック。……ジャックの、その真っ直ぐなところが、大好き」
・
タイマーが残り一分を切る。
二人の心が重なり、心拍数が極限まで高まったその時、真っ白な部屋がまばゆい光に包まれた。
『――条件達成。扉を解放します――』
カチリ、と鎖の外れる音がした。
だが、二人は動こうとしなかった。
「……開いたな」
「……うん。開いたね」
「…………」
「…………」
「……ななし」
「なに?」
「……外に出ても、……その。明日からも、一緒にトレーニングしてくれるか」
「もちろんだよ。……でも、明日はもっと初心者向けのメニューでお願い。すでに筋肉痛がやばい」
「……トレーニングには休息も大事だな」
ジャックは立ち上がり、ななしに手を差し伸べた。
ななしはその大きな手をしっかりと握り返す。
「……あ。そうだ、ジャック。最後に一つだけ」
「なんだ?」
「……頑張ったご褒美、もらってもいい?」
「ご褒美? ……あ、ああ、購買部のアイスか?」
「ううん、違うよ」
ななしは背伸びをして、ジャックの頬に羽が触れるような軽いキスをした。
「……っ、!? お、お前……っ!」
ジャックは顔面を真っ赤にし、尻尾をバタバタと激しく振り始めた。
「……反則だろ、そんなの! ……あー、クソッ、心拍数がまた上がっちまったじゃねぇか!」
「あはは! じゃあ、もう1回トレーニングしちゃう?」
「……これ以上やったら、俺の心臓がもたねぇよ!」
二人は繋いだ手を離さないまま、開かれた扉の向こう側へと歩き出す。そこには、いつものナイトレイブンカレッジの景色が広がっていた。
「……おい、ななし」
「ん?」
「……今の、……忘れるなよ。……俺の横に立つって言ったこと」
「忘れないよ。……これからもよろしくね、ジャック」
ジャックは恥ずかしそうに顔を逸らしながらも、ななしの手を力強く握り締めた。夕暮れの風が、二人の火照った体に心地よく吹き抜けていった。
ななしは、最近の運動不足を解消しようと魔法薬学の課題を早めに終わらせて運動場へと向かっていた。そこで偶然、いつものようにストイックに走り込んでいた同級生ジャック・ハウウルと出会った。
「あ、ジャック! 今日もトレーニング?」
「ななしか。ああ。……お前、そんな格好でどうした。珍しいな、体でも動かすのか」
「うん。最近ちょっと体力が落ちた気がして。ジャックを見習って私もジョギングしようかなって」
「いい心がけだ。少し付き合ってやるよ」
ジャックはぶっきらぼうに言いながらも、どこか嬉しそうに尻尾を揺らした。
二人が連れ立って、備品を片付けるために競技場の古い倉庫の扉を開けた、その時だった。視界が真っ白な魔力に包まれ、足元から感覚が消える。
「うわっ!? な、何これ!?」
「おい、ななし! 俺の腕を掴んでろ!」
ジャックが咄嗟にななしの肩を抱き寄せ、自分の方へと引き寄せた。
光が収まったとき、二人は見慣れた倉庫ではない場所にいた。
壁も床も天井も、窓一つない真っ白な部屋。中央には巨大なデジタルタイマーと、いくつかのトレーニング器具が置かれている。出口らしき扉には、武骨な魔法のメッセージが浮かび上がっていた。
協力して一時間筋トレしないと出られない部屋
「……筋トレ…だと?」
ジャックが掲示板の文字を読み上げ、呆然と呟いた。
「一緒に筋トレしないと出られないってこと!? ジャック、これ……」
「……チッ。誰の悪戯だか知らねぇが、この魔力の質、半端じゃねぇ。力ずくで壊すのは無理そうだな」
ジャックは扉を一度殴りつけたが、反動で拳が痺れるだけだった。
「一時間……。ジャックなら余裕だろうけど、私、もつかな……」
「弱音吐いてんじゃねぇ。……いいか、ななし。やるからには徹底的にやるぞ。中途半端なトレーニングは、筋肉にも、この部屋の主にも失礼だ」
「えっ、そっち!? ……わ、わかった。頑張るよ!」
ななしは気合を入れ直し、ジャックと向き合った。
「よし。まずは動的ストレッチからだ。怪我したら元も子もねぇからな。俺の真似をしろ」
ジャックの指導のもと、一時間のカウントダウンが始まった。
「……6、7、8……。おい、ななし、膝を曲げすぎるな。股関節から動かすイメージだ」
「は、はい……っ。……ジャック、教えるのすごく上手だね」
「別に……。教えるほどのことじゃねぇ。ただ、正しいフォームでやらねぇと意味がねぇから言ってるだけだ」
ジャックは視線を逸らしたが、その耳の先がわずかに赤くなっている。
「次はスクワットだ。20回を三セット。……準備はいいか」
「うん!」
「よし、開始。……1、2……」
二人の声が白い部屋に響く。
「……10、11……っ、ふぅ」
「ほら、腰を丸めるな。胸を張れ。辛いのは効いてる証拠だぞ」
ジャックはななしの背中にそっと手を添え、姿勢を矯正した。
「あっ……。ごめん、つい楽な姿勢になっちゃって」
「謝る暇があったら呼吸を整えろ。……よし、いいフォームだ。そのままでいろ」
ななしの背中に触れるジャックの手は、驚くほど熱かった。
「15分経過か。……次はプッシュアップだ。お前は膝をついてもいい」
「いいえ! 普通のやつでやる! ジャックと同じメニューをこなしたいもん」
「……フン、いい根性だ。だが、無理はするなよ」
ジャックの口元がわずかに綻ぶ。
二人は床に手をつき、腕立て伏せを開始した。
「……ぐ、っ……、はぁ……」
「ななし、顔を上げろ。床を見るな。……ほら、あと5回だ」
「は……いっ! ……あ、腕が……震えて……」
「耐えろ。俺がついてる。……あと3回!」
ジャックの声に鼓舞され、ななしは何とかセットを終え、床に倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ……、ジャック、すごすぎるよ……。息一つ乱れてない……」
「乱れてねぇわけねぇだろ。……お前が隣で必死に頑張ってるのを見て、俺まで変に力が入っちまってるんだ」
ジャックは床に座り込み、部屋に用意されていた水をななしに手渡した。
「お前……。本当に頑張り屋だな」
「え?」
「魔法も使えねぇのに、この学園で監督生なんてやってて……。それだけでも十分なはずなのに、こうして俺の特訓にも食らいついてくる。……そういうとこ、嫌いじゃねぇ」
「……ありがとう、ジャック。私、ジャックに認められたくて頑張ってるのかも」
「……っ、馬鹿。変なこと言うな」
ジャックは慌てて立ち上がり、背中を向けた。
「ほら、休んでる暇はねぇぞ! 次は体幹トレーニングだ。プランク1分3セット!」
「ええっ、1分3セット!? 長いよー!」
・
30分経過。部屋の温度が上がり、二人の体からは湯気が立つほどだった。
「……き、きつい……。なけなしの筋肉が…悲鳴をあげている……」
「動くな、耐えろ! 残り1分だ。……ななし、俺を見ろ」
ジャックはプランクの姿勢のまま、ななしの顔のすぐ近くに自分の顔を寄せた。
「ジャ、ジャック……!?」
「視線を逸らすな。俺を見ろって言っただろ。……辛い時は俺を見ろ。俺も、お前を見てる」
ジャックの瞳が至近距離でななしを射抜く。その強烈な眼差しに、ななしは疲れを忘れて見入ってしまった。
「……終了。よし、よくやった」
ジャックが姿勢を解き、ななしの頭を大きな手で乱暴に撫でた。
「……っ。あ、ありがとう……」
「お前、いい顔するようになったな。……最初はただの小せえ奴だと思ってたが、今は……少しは、猛獣の隣に立つ資格があるんじゃねぇか」
「それって、最高の褒め言葉だね」
ななしが笑うと、ジャックは照れたように鼻を鳴らした。
・
45分経過。
タイマーの数字が減るにつれ、部屋の空気が甘く、濃密なものに変わっていく。
「最後は……腹筋だ。俺が足を抑えてやる。……交互にやろう」
「うん。……お願いします!」
ジャックがななしの足首を掴む。その力強い握りに、ななしの心拍数がさらに跳ね上がった。
「……1、2、3……」
ななしが上体を起こすたびに、ジャックの顔が目の前に迫る。
「……10、11……」
「……ほら、スピードを落とすな。腹の筋肉を意識しろ」
「……15、……っ、16……!」
18回目。ななしが限界の力で上体を起こした時、勢い余って二人の距離がゼロになった。
「あ……」
ななしの鼻先が、ジャックの鼻先に触れる。
互いの熱い吐息が混じり合う。ジャックの体からは、太陽のような、少し焦げたような雄々しい香りがした。
「……あ、ごめ……」
「……逃げんな。……そのまま、腹筋続けろ」
ジャックは足を抑える力を強め、ななしの瞳を逃がさない。
「20……! ……はぁ、はぁ……」
「……よし。次は俺の番だ。抑えてろ」
役割を交代し、今度はジャックが上体を起こす。
ななしがジャックの足を抑えると、彼の筋肉の硬さに驚かされる。
ジャックが上体を起こすたび、彼の顔がななしの膝のすぐ近くまで来る。
「……1、2……」
ジャックの動きは正確で、力強い。
「……10、11……」
ななしは、目の前で上下するジャックの逞しい首筋や、額に光る汗から目が離せなかった。
「……20。……ふぅ」
ジャックが最後の1回を終え、上体を起こしたままの姿勢で止まった。二人の顔が、数センチの距離で静止する。
「……ジャック……?」
「……お前、さっきから俺のこと、どんな目で見てんだ」
「えっ、それは……。その、ジャックが一生懸命だから、私も、負けられないなって……」
「……嘘だな。こういうことに鈍い俺でもわかる。お前今、俺のこと別の意味で見てただろ」
ジャックの声が、いつもより低く、掠れている。
「……俺は、こうして二人きりで同じ目標に向かって体を動かしてると……。自分がどれだけお前を特別に思ってるか、嫌でも思い知らされる」
「ジャック……」
「俺は……トレーニングの仲間としてじゃねぇ。……一人の男として、お前を、俺だけの隣に置いておきたい」
ジャックの告白は、彼の生き様そのもののように真っ直ぐで、不器用だった。ななしは目を見開き、そしてゆっくりと微笑んだ。
「……私も。私もだよ、ジャック。……ジャックの、その真っ直ぐなところが、大好き」
・
タイマーが残り一分を切る。
二人の心が重なり、心拍数が極限まで高まったその時、真っ白な部屋がまばゆい光に包まれた。
『――条件達成。扉を解放します――』
カチリ、と鎖の外れる音がした。
だが、二人は動こうとしなかった。
「……開いたな」
「……うん。開いたね」
「…………」
「…………」
「……ななし」
「なに?」
「……外に出ても、……その。明日からも、一緒にトレーニングしてくれるか」
「もちろんだよ。……でも、明日はもっと初心者向けのメニューでお願い。すでに筋肉痛がやばい」
「……トレーニングには休息も大事だな」
ジャックは立ち上がり、ななしに手を差し伸べた。
ななしはその大きな手をしっかりと握り返す。
「……あ。そうだ、ジャック。最後に一つだけ」
「なんだ?」
「……頑張ったご褒美、もらってもいい?」
「ご褒美? ……あ、ああ、購買部のアイスか?」
「ううん、違うよ」
ななしは背伸びをして、ジャックの頬に羽が触れるような軽いキスをした。
「……っ、!? お、お前……っ!」
ジャックは顔面を真っ赤にし、尻尾をバタバタと激しく振り始めた。
「……反則だろ、そんなの! ……あー、クソッ、心拍数がまた上がっちまったじゃねぇか!」
「あはは! じゃあ、もう1回トレーニングしちゃう?」
「……これ以上やったら、俺の心臓がもたねぇよ!」
二人は繋いだ手を離さないまま、開かれた扉の向こう側へと歩き出す。そこには、いつものナイトレイブンカレッジの景色が広がっていた。
「……おい、ななし」
「ん?」
「……今の、……忘れるなよ。……俺の横に立つって言ったこと」
「忘れないよ。……これからもよろしくね、ジャック」
ジャックは恥ずかしそうに顔を逸らしながらも、ななしの手を力強く握り締めた。夕暮れの風が、二人の火照った体に心地よく吹き抜けていった。
