◯◯しないと出られない部屋
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校内にある植物園。
そこは、サバナクロー寮長レオナ・キングスカラーの昼寝の聖地だった。
ななしは学園長から預かった書類を届けるため、茂みをかき分けて彼の定位置へと向かっていた。
「レオナさーん! 起きてください、書類届けに来ましたよ」
「……あぁ? んだよ、草食動物。せっかくの昼寝を邪魔してんじゃねぇ」
レオナは気だるげに片目を開け、地面に座り込むななしを睨みつけた。
「そんな怖い顔しないでくださいよ。これ、急ぎだって言われたんですから」
「チッ……。お前はいつもいつも、余計な仕事ばっかり運びやがって」
レオナが重い腰を上げ、ななしが差し出した封筒を受け取ろうと手を伸ばした、その時だった。
周囲の景色が陽炎のように揺らぎ、鮮やかな緑が消えていく。瞬きをした次の瞬間、二人は窓一つない真っ白な部屋の中に立っていた。
「……は?」
「えっ、何これ。ここどこ……?」
ななしが周囲を見渡すと、重厚な扉に魔法の文字が浮かび上がっていた。
急所を晒さないと出られない部屋
「……急所?…を晒す?」
ななしがその文字を読み上げる。
「ハッ、くだらねぇ。どこのどいつが仕組んだか知らねぇが、趣味の悪い悪戯だな」
レオナは不機嫌そうに鼻を鳴らし、扉を蹴りつけた。だが、扉はびくともしない。
「レオナさん、危ないですよ! ……でも、どうしましょうか。急所って言われても……」
「俺にそんなもんがあるわけねぇだろ。とっとと壊して出るぞ」
「無理ですよ、さっきの蹴りでもびくともしないみたいですし……それに」
ななしは、レオナの獣耳が警戒するようにぴくりと動くのを見逃さなかった。
「……急所って、命に関わるところですよね。……喉、とか?」
「あぁ? 獣に喉笛を晒せってか。殺されたいのか」
「冗談ですよー! あはは、私がレオナさんを殺せるわけないじゃないですか。……あ、でも、私がレオナさんに喉を見せればいいのかな? はい、どうぞ!」
ななしは緊張をごまかすように、わざとふざけた調子で笑いながら、自分の首を差し出してみせた。
「……おい。お前、自分が何を言ってるのか分かってんのか」
レオナの瞳が、捕食者のそれに変わる。
「え、だって、これ以外に出る方法ないですし。レオナさんなら一瞬でガブっと……痛いのは嫌ですけど!」
「……笑ってんじゃねぇよ。ヘラヘラしやがって」
レオナは一歩、ななしとの距離を詰めた。
「……こっち来い、ななし」
「え、はい?」
レオナは壁際に腰を下ろすと、強引にななしの腕を引いて自分の膝の間に閉じ込めた。
「わわっ、レオナさん!? 近いですよ!」
「黙れ。……お前の喉なんて、俺が本気を出せばいつでも噛みちぎれる。そんなもんは覚悟じゃねぇ」
「じゃあ、どうすればいいんですか……」
「……本当の急所ってのは、そこじゃねぇだろ」
レオナはななしの手首を掴み、自分の胸……心臓の鼓動が伝わる場所に、強引に押し当てた。
「……っ!」
「ここだ……お前が他の奴と笑ってたり、危ねぇ目に遭ってたりするのを見るたび、苛つくほど騒ぎ出しやがる、ここが俺の一番の急所だ」
レオナの声は、いつもより低く、殺気すら孕んでいた。
「肉体の弱点なんていくらでもある。だが俺が唯一、自分でも制御できねぇのは……お前に対するこの苛立ちだ。……これを晒してやるって言ってんだよ」
ななしの手のひらに、レオナの激しい鼓動が伝わってくる。
「レオナさん……。あは、あはは……。……それって、告白ですか?」
ななしはまた、照れ隠しの笑い声を上げた。
だが、その声は微かに震えている。
「……笑うなっつってんだろ。……殺すぞ」
レオナはななしの首筋に顔を埋め、鋭い牙を肌に立てた。
「あ……っ」
「……俺の命を、お前に預ける。……その代わり、お前の全部も俺が食い尽くしてやる。……文句あるか」
「…………」
ななしは、あまりの重圧に笑い声さえ喉の奥に消えた。レオナの背中に手を回し、その広い背中をそっと抱きしめる。
「……あはは。……レオナさんって、本当にずるいですよね。……命を預けるなんて」
「……なら、とっとと言え。……お前の本当の言葉を」
ななしはレオナの髪に指を絡め、彼の耳元で囁いた。
「……愛してるなんて、恥ずかしくて言いたくないですけど。……私の命、レオナさんにあげます。……だから、離さないでくださいね」
その瞬間。
部屋中にまばゆい光が溢れ、扉にかけられていた重厚な鎖が音を立てて砕け散る。条件が達成されたのか、出口は開かれた。
「……あ。開いたみたいですよ、レオナさん」
「……知ってるよ。……だが、まだ動くんじゃねぇ」
レオナはななしを抱きしめたまま、その場から動こうとしなかった。
「レオナさん……? もう、出なきゃ」
「……うるせぇ。……お前が俺をここまでにしたんだ。責任とってもらうぜ」
レオナは顔を上げ、ななしの瞳をじっと見つめた。そこには一人の男としての執着が滲み出ていた。
「……あはは。……大丈夫ですよ。ちゃんと覚悟決めてますから」
扉の向こう側から、植物園の緑の香りが流れ込んでくる。二人は繋いだ手を離さないまま、ゆっくりと戻っていった。
「……あ、そういえば、学園長からの書類って結局読んでませんよね?」
「……あぁ? そんなもん、後回しだ。……今は、お前の声を、もっと近くで聴かせろ」
「はあ〜、レオナさんってホント人の話聞かないですよね」
夕暮れの廊下に二人の足音が重なり合って響く。離れぬよう繋ぎ合わされた互いの指先から抗いようのない熱が静かに、そして深く伝わり続けていた。
そこは、サバナクロー寮長レオナ・キングスカラーの昼寝の聖地だった。
ななしは学園長から預かった書類を届けるため、茂みをかき分けて彼の定位置へと向かっていた。
「レオナさーん! 起きてください、書類届けに来ましたよ」
「……あぁ? んだよ、草食動物。せっかくの昼寝を邪魔してんじゃねぇ」
レオナは気だるげに片目を開け、地面に座り込むななしを睨みつけた。
「そんな怖い顔しないでくださいよ。これ、急ぎだって言われたんですから」
「チッ……。お前はいつもいつも、余計な仕事ばっかり運びやがって」
レオナが重い腰を上げ、ななしが差し出した封筒を受け取ろうと手を伸ばした、その時だった。
周囲の景色が陽炎のように揺らぎ、鮮やかな緑が消えていく。瞬きをした次の瞬間、二人は窓一つない真っ白な部屋の中に立っていた。
「……は?」
「えっ、何これ。ここどこ……?」
ななしが周囲を見渡すと、重厚な扉に魔法の文字が浮かび上がっていた。
急所を晒さないと出られない部屋
「……急所?…を晒す?」
ななしがその文字を読み上げる。
「ハッ、くだらねぇ。どこのどいつが仕組んだか知らねぇが、趣味の悪い悪戯だな」
レオナは不機嫌そうに鼻を鳴らし、扉を蹴りつけた。だが、扉はびくともしない。
「レオナさん、危ないですよ! ……でも、どうしましょうか。急所って言われても……」
「俺にそんなもんがあるわけねぇだろ。とっとと壊して出るぞ」
「無理ですよ、さっきの蹴りでもびくともしないみたいですし……それに」
ななしは、レオナの獣耳が警戒するようにぴくりと動くのを見逃さなかった。
「……急所って、命に関わるところですよね。……喉、とか?」
「あぁ? 獣に喉笛を晒せってか。殺されたいのか」
「冗談ですよー! あはは、私がレオナさんを殺せるわけないじゃないですか。……あ、でも、私がレオナさんに喉を見せればいいのかな? はい、どうぞ!」
ななしは緊張をごまかすように、わざとふざけた調子で笑いながら、自分の首を差し出してみせた。
「……おい。お前、自分が何を言ってるのか分かってんのか」
レオナの瞳が、捕食者のそれに変わる。
「え、だって、これ以外に出る方法ないですし。レオナさんなら一瞬でガブっと……痛いのは嫌ですけど!」
「……笑ってんじゃねぇよ。ヘラヘラしやがって」
レオナは一歩、ななしとの距離を詰めた。
「……こっち来い、ななし」
「え、はい?」
レオナは壁際に腰を下ろすと、強引にななしの腕を引いて自分の膝の間に閉じ込めた。
「わわっ、レオナさん!? 近いですよ!」
「黙れ。……お前の喉なんて、俺が本気を出せばいつでも噛みちぎれる。そんなもんは覚悟じゃねぇ」
「じゃあ、どうすればいいんですか……」
「……本当の急所ってのは、そこじゃねぇだろ」
レオナはななしの手首を掴み、自分の胸……心臓の鼓動が伝わる場所に、強引に押し当てた。
「……っ!」
「ここだ……お前が他の奴と笑ってたり、危ねぇ目に遭ってたりするのを見るたび、苛つくほど騒ぎ出しやがる、ここが俺の一番の急所だ」
レオナの声は、いつもより低く、殺気すら孕んでいた。
「肉体の弱点なんていくらでもある。だが俺が唯一、自分でも制御できねぇのは……お前に対するこの苛立ちだ。……これを晒してやるって言ってんだよ」
ななしの手のひらに、レオナの激しい鼓動が伝わってくる。
「レオナさん……。あは、あはは……。……それって、告白ですか?」
ななしはまた、照れ隠しの笑い声を上げた。
だが、その声は微かに震えている。
「……笑うなっつってんだろ。……殺すぞ」
レオナはななしの首筋に顔を埋め、鋭い牙を肌に立てた。
「あ……っ」
「……俺の命を、お前に預ける。……その代わり、お前の全部も俺が食い尽くしてやる。……文句あるか」
「…………」
ななしは、あまりの重圧に笑い声さえ喉の奥に消えた。レオナの背中に手を回し、その広い背中をそっと抱きしめる。
「……あはは。……レオナさんって、本当にずるいですよね。……命を預けるなんて」
「……なら、とっとと言え。……お前の本当の言葉を」
ななしはレオナの髪に指を絡め、彼の耳元で囁いた。
「……愛してるなんて、恥ずかしくて言いたくないですけど。……私の命、レオナさんにあげます。……だから、離さないでくださいね」
その瞬間。
部屋中にまばゆい光が溢れ、扉にかけられていた重厚な鎖が音を立てて砕け散る。条件が達成されたのか、出口は開かれた。
「……あ。開いたみたいですよ、レオナさん」
「……知ってるよ。……だが、まだ動くんじゃねぇ」
レオナはななしを抱きしめたまま、その場から動こうとしなかった。
「レオナさん……? もう、出なきゃ」
「……うるせぇ。……お前が俺をここまでにしたんだ。責任とってもらうぜ」
レオナは顔を上げ、ななしの瞳をじっと見つめた。そこには一人の男としての執着が滲み出ていた。
「……あはは。……大丈夫ですよ。ちゃんと覚悟決めてますから」
扉の向こう側から、植物園の緑の香りが流れ込んでくる。二人は繋いだ手を離さないまま、ゆっくりと戻っていった。
「……あ、そういえば、学園長からの書類って結局読んでませんよね?」
「……あぁ? そんなもん、後回しだ。……今は、お前の声を、もっと近くで聴かせろ」
「はあ〜、レオナさんってホント人の話聞かないですよね」
夕暮れの廊下に二人の足音が重なり合って響く。離れぬよう繋ぎ合わされた互いの指先から抗いようのない熱が静かに、そして深く伝わり続けていた。
