不定期開催!オンボロ寮・美食研究会
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「ななし〜、まだできないのか!? オレ様の鼻はもう、この香ばしい匂いで麻痺しちまいそうなんだゾ!」
テーブルの上で尻尾をぴんと立て、よだれを堪えきれない様子で身を乗り出しているのはグリム。その視線の先では、ななしが丁寧にアボカドをカットしていた。
魔法が使えないななしにとって、料理は科学であり、数学であり、そして愛情だ。魔法で一瞬にして食材を変化させることはできなくても、包丁の角度や加熱の時間、調味料を合わせる順番ひとつで世界は驚くほど美味しく変わる。
「グリム、あんまり焦らないで。アボカドは変色しやすいから、食べる直前に合わせるのが一番なんだから」
これは、不定期に開催される「オンボロ寮・美食研究会」。
学園の騒がしい日常を忘れ、自分たちの「食べたいもの」を追求する、密かな愉しみである。
本日のメニュー
完熟アボカドと海老の濃厚クリーミーパスタ
【材料(2人分)】
・パスタ:200g
・アボカド:1個(完熟したもの)
・むき海老:100g
・ニンニク:1片(みじん切り)
・牛乳:150ml
・粉チーズ:大さじ2
・コンソメ(顆粒):小さじ1
・バター:10g
・レモン汁:小さじ1(アボカドの変色防止用)
・塩・黒コショウ:少々
【作り方】
①パスタをたっぷりのお湯に塩(分量外)を加え、表示時間より1分短く茹でる。
②アボカドは半分をフォークの背で潰してペースト状にし、レモン汁を混ぜる。残りの半分はトッピング用に1cm角に切る。
③フライパンにバターとニンニクを入れて弱火で熱し、香りが立ったら海老を加えて色が変わるまで炒める。
④牛乳、コンソメ、ペースト状のアボカドを加え、弱火で混ぜながら温める。
⑤茹で上がったパスタと粉チーズをフライパンに入れ、ソースを手早く絡める。
⑥塩・コショウで味を整え、皿に盛ってから角切りのアボカドを散らす。
「よし、完成! 『完熟アボカドと海老の濃厚クリーミーパスタ』だよ」
「おおお! 緑色のソースがキラキラしてて宝石みたいなんだゾ! 早速いただくんだゾーー!!」
グリムがフォークを突き立てようとした、その瞬間。
――コン、コン、コン。
静かだが、ひどく正確なリズムのノックが三回。
エースやデュースのような騒がしさはない。しかし、その音にはどこか逆らえない威厳が宿っていた。
「……こんな時間に誰だろう?」
ななしが首を傾げながら重い扉を開けると、そこには月明かりを背に受けた、真紅の髪の少年が立っていた。
「こんばんは、ななし。……夜分にすまないね」
「えっ、リドル先輩!? どうしたんですか、こんな時間に」
「……あ、いや。少し見回りをしていたのだが……その。オンボロ寮から、ハーツラビュルのキッチンでは嗅いだことのない、妙に食欲をそそる香りが漂ってきたものでね。……規律違反がないか、確認しに来たんだ」
リドルはいつものように毅然とした態度を崩さないが、その頬は心なしか赤らみ、視線はななしの肩越しにテーブルの上のパスタをちらちらと追っている。
「ふなっ! 規律違反なんてしてないんだゾ! オレ様たちはただ、美味いものを食おうとしてるだけなんだゾ!」
「グリム、リドル先輩に失礼だよ。……リドル先輩、もしよければ先輩の分も作りましょうか? ちょうどパスタの予備があるんです」
「えっ? いや、ボクは……寮の夕食は済ませているし、ハーツラビュルの寮長として、他寮で勝手につまみ食いなど……」
「これ、美食研究会の試作品なんです。よかったらリドル先輩に、感想を聞かせてほしいなって」
ななしが明るく笑って誘うと、リドルは少しだけ口元を綻ばせ咳払いをひとつした。
「……ふむ。君がそこまで言うのなら、美食研究会の視察として、一口だけいただこうかな」
ななしは手際よくもう一人分のパスタを仕上げた。
「お待たせしました、リドル先輩。どうぞ」
「……ありがとう。では、いただくよ」
リドルは背筋を正し、優雅な所作でフォークを手に取った。パスタを美しく巻き取り、一口。
「…………っ!」
「リドル先輩?」
リドルの大きな瞳がさらに見開かれる。彼は咀嚼するのを忘れたかのように固まり、それからゆっくりと飲み込んだ。
「……何だい、これは。アボカドをソースにするなんて、ハーツラビュルの女王の教えにはなかった。……濃厚なのに、レモンの酸味で後味が驚くほど爽やかだ。それにこの海老のぷりぷりとした食感……!」
「お口に合いましたか?」
「合うどころではないよ。……君は魔法士ではないけれど、ある種キッチンの魔術師なんだね」
「あはは、褒めすぎですよリドル先輩。でも、嬉しいです」
「アボカドが舌の上でトロ~リとろけて、そこに海老のぷりぷりと弾ける食感が追いかけてくるんだゾ……子分〜!オレ様おかわりが欲しいんだゾ!」
グリムが豪快にパスタを啜る横で、リドルもまた、どこか楽しげにフォークを進めていく。いつもは厳しい寮長も、ここではただの美味しいものに目を輝かせる少年だった。
「そういえばリドル先輩。見回り中って仰ってましたけど、何かあったんですか?」
ななしが尋ねると、リドルは少しだけ困ったような顔をした。
「……実はね、エースとデュースがまたレポートの締め切り間際だというのに寮を抜け出した形跡があってね。彼らを探していたはずだったんだが……。このパスタの香りに捕まってしまったのは、ボクの方だったようだ」
「あ、あはは……。あの二人、この前のレポートの締切間際は、ここで肉巻きおにぎりを食べてましたよ」
「……やはりか。後で厳重注意……いや、今日はボクも同罪だね。彼らのことを叱る資格はないかもしれない」
リドルは苦笑しながら、最後の一口を名残惜しそうに口に運んだ。
魔法が使えないななしが作る、温度のある料理。それは、リドルが背負っている重い責任や規律をほんの一時だけ解きほぐしてくれる力があるようだった。
「……ななし。この『美食研究会』というのは、不定期開催なのだろう?」
「はい。グリム個人で色々やってる時もありますけど、気が向いた時に二人で細々とやってます」
「そうか。……もし迷惑でなければで構わないのだが。また、ボクにも声をかけてくれないだろうか? もちろん、ハーツラビュルの規則を乱さない範囲で、だが」
少しだけ上目遣いに、期待を込めてリドルが言う。
「もちろんです! リドル先輩が来てくれたら、研究会ももっと格式高くなりそうですし」
「ふなー! ティーパーティーより、こっちの方が美味いもんが食えるんだゾ!」
「こら、グリム。……リドル先輩、次はもっと気合を入れて新しいレシピを考えておきますね」
「あぁ、期待しているよ。……あぁ、そうだ。お礼と言っては何だが、次はボクが最高級の紅茶を持参しよう。この料理に合うものを、ボクなりに選んでみるよ」
リドルは立ち上がり、満足げに微笑んだ。
その表情は、出会った頃の冷徹な寮長の面影はなく、一人の友人のような柔らかさを持っていた。
「では、ボクは彼らを探しに戻るよ。……ななし、今日は素晴らしい夜食をありがとう」
「はい、おやすみなさい、リドル先輩!」
寮服を翻し、軽やかな足取りでオンボロ寮を去っていくリドル。ななしは、空になった皿を片付けながらグリムと顔を見合わせた。
「……さて、グリム。リドル先輩がまた来るなら、次はもっと栄養面も考えた方がいいかな?」
「ふなっ! オレ様は肉が食いたいんだゾ!」
「あはは、わかってるって。ちなみに親分、今日のパスタの点数は?」
「今日も満点花丸なんだゾ!!」
魔法は使えないけれど、ここには美味しい料理とそれを分かち合える仲間がいる。オンボロ寮のキッチンには、今夜も小さな、けれど確かな幸せの香りが満ちていた。
深夜のオンボロ寮に、ななしとグリムの笑い声が静かに溶けていった。
テーブルの上で尻尾をぴんと立て、よだれを堪えきれない様子で身を乗り出しているのはグリム。その視線の先では、ななしが丁寧にアボカドをカットしていた。
魔法が使えないななしにとって、料理は科学であり、数学であり、そして愛情だ。魔法で一瞬にして食材を変化させることはできなくても、包丁の角度や加熱の時間、調味料を合わせる順番ひとつで世界は驚くほど美味しく変わる。
「グリム、あんまり焦らないで。アボカドは変色しやすいから、食べる直前に合わせるのが一番なんだから」
これは、不定期に開催される「オンボロ寮・美食研究会」。
学園の騒がしい日常を忘れ、自分たちの「食べたいもの」を追求する、密かな愉しみである。
本日のメニュー
完熟アボカドと海老の濃厚クリーミーパスタ
【材料(2人分)】
・パスタ:200g
・アボカド:1個(完熟したもの)
・むき海老:100g
・ニンニク:1片(みじん切り)
・牛乳:150ml
・粉チーズ:大さじ2
・コンソメ(顆粒):小さじ1
・バター:10g
・レモン汁:小さじ1(アボカドの変色防止用)
・塩・黒コショウ:少々
【作り方】
①パスタをたっぷりのお湯に塩(分量外)を加え、表示時間より1分短く茹でる。
②アボカドは半分をフォークの背で潰してペースト状にし、レモン汁を混ぜる。残りの半分はトッピング用に1cm角に切る。
③フライパンにバターとニンニクを入れて弱火で熱し、香りが立ったら海老を加えて色が変わるまで炒める。
④牛乳、コンソメ、ペースト状のアボカドを加え、弱火で混ぜながら温める。
⑤茹で上がったパスタと粉チーズをフライパンに入れ、ソースを手早く絡める。
⑥塩・コショウで味を整え、皿に盛ってから角切りのアボカドを散らす。
「よし、完成! 『完熟アボカドと海老の濃厚クリーミーパスタ』だよ」
「おおお! 緑色のソースがキラキラしてて宝石みたいなんだゾ! 早速いただくんだゾーー!!」
グリムがフォークを突き立てようとした、その瞬間。
――コン、コン、コン。
静かだが、ひどく正確なリズムのノックが三回。
エースやデュースのような騒がしさはない。しかし、その音にはどこか逆らえない威厳が宿っていた。
「……こんな時間に誰だろう?」
ななしが首を傾げながら重い扉を開けると、そこには月明かりを背に受けた、真紅の髪の少年が立っていた。
「こんばんは、ななし。……夜分にすまないね」
「えっ、リドル先輩!? どうしたんですか、こんな時間に」
「……あ、いや。少し見回りをしていたのだが……その。オンボロ寮から、ハーツラビュルのキッチンでは嗅いだことのない、妙に食欲をそそる香りが漂ってきたものでね。……規律違反がないか、確認しに来たんだ」
リドルはいつものように毅然とした態度を崩さないが、その頬は心なしか赤らみ、視線はななしの肩越しにテーブルの上のパスタをちらちらと追っている。
「ふなっ! 規律違反なんてしてないんだゾ! オレ様たちはただ、美味いものを食おうとしてるだけなんだゾ!」
「グリム、リドル先輩に失礼だよ。……リドル先輩、もしよければ先輩の分も作りましょうか? ちょうどパスタの予備があるんです」
「えっ? いや、ボクは……寮の夕食は済ませているし、ハーツラビュルの寮長として、他寮で勝手につまみ食いなど……」
「これ、美食研究会の試作品なんです。よかったらリドル先輩に、感想を聞かせてほしいなって」
ななしが明るく笑って誘うと、リドルは少しだけ口元を綻ばせ咳払いをひとつした。
「……ふむ。君がそこまで言うのなら、美食研究会の視察として、一口だけいただこうかな」
ななしは手際よくもう一人分のパスタを仕上げた。
「お待たせしました、リドル先輩。どうぞ」
「……ありがとう。では、いただくよ」
リドルは背筋を正し、優雅な所作でフォークを手に取った。パスタを美しく巻き取り、一口。
「…………っ!」
「リドル先輩?」
リドルの大きな瞳がさらに見開かれる。彼は咀嚼するのを忘れたかのように固まり、それからゆっくりと飲み込んだ。
「……何だい、これは。アボカドをソースにするなんて、ハーツラビュルの女王の教えにはなかった。……濃厚なのに、レモンの酸味で後味が驚くほど爽やかだ。それにこの海老のぷりぷりとした食感……!」
「お口に合いましたか?」
「合うどころではないよ。……君は魔法士ではないけれど、ある種キッチンの魔術師なんだね」
「あはは、褒めすぎですよリドル先輩。でも、嬉しいです」
「アボカドが舌の上でトロ~リとろけて、そこに海老のぷりぷりと弾ける食感が追いかけてくるんだゾ……子分〜!オレ様おかわりが欲しいんだゾ!」
グリムが豪快にパスタを啜る横で、リドルもまた、どこか楽しげにフォークを進めていく。いつもは厳しい寮長も、ここではただの美味しいものに目を輝かせる少年だった。
「そういえばリドル先輩。見回り中って仰ってましたけど、何かあったんですか?」
ななしが尋ねると、リドルは少しだけ困ったような顔をした。
「……実はね、エースとデュースがまたレポートの締め切り間際だというのに寮を抜け出した形跡があってね。彼らを探していたはずだったんだが……。このパスタの香りに捕まってしまったのは、ボクの方だったようだ」
「あ、あはは……。あの二人、この前のレポートの締切間際は、ここで肉巻きおにぎりを食べてましたよ」
「……やはりか。後で厳重注意……いや、今日はボクも同罪だね。彼らのことを叱る資格はないかもしれない」
リドルは苦笑しながら、最後の一口を名残惜しそうに口に運んだ。
魔法が使えないななしが作る、温度のある料理。それは、リドルが背負っている重い責任や規律をほんの一時だけ解きほぐしてくれる力があるようだった。
「……ななし。この『美食研究会』というのは、不定期開催なのだろう?」
「はい。グリム個人で色々やってる時もありますけど、気が向いた時に二人で細々とやってます」
「そうか。……もし迷惑でなければで構わないのだが。また、ボクにも声をかけてくれないだろうか? もちろん、ハーツラビュルの規則を乱さない範囲で、だが」
少しだけ上目遣いに、期待を込めてリドルが言う。
「もちろんです! リドル先輩が来てくれたら、研究会ももっと格式高くなりそうですし」
「ふなー! ティーパーティーより、こっちの方が美味いもんが食えるんだゾ!」
「こら、グリム。……リドル先輩、次はもっと気合を入れて新しいレシピを考えておきますね」
「あぁ、期待しているよ。……あぁ、そうだ。お礼と言っては何だが、次はボクが最高級の紅茶を持参しよう。この料理に合うものを、ボクなりに選んでみるよ」
リドルは立ち上がり、満足げに微笑んだ。
その表情は、出会った頃の冷徹な寮長の面影はなく、一人の友人のような柔らかさを持っていた。
「では、ボクは彼らを探しに戻るよ。……ななし、今日は素晴らしい夜食をありがとう」
「はい、おやすみなさい、リドル先輩!」
寮服を翻し、軽やかな足取りでオンボロ寮を去っていくリドル。ななしは、空になった皿を片付けながらグリムと顔を見合わせた。
「……さて、グリム。リドル先輩がまた来るなら、次はもっと栄養面も考えた方がいいかな?」
「ふなっ! オレ様は肉が食いたいんだゾ!」
「あはは、わかってるって。ちなみに親分、今日のパスタの点数は?」
「今日も満点花丸なんだゾ!!」
魔法は使えないけれど、ここには美味しい料理とそれを分かち合える仲間がいる。オンボロ寮のキッチンには、今夜も小さな、けれど確かな幸せの香りが満ちていた。
深夜のオンボロ寮に、ななしとグリムの笑い声が静かに溶けていった。
