微睡の淵の銀鎖
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ナイトレイブンカレッジの中庭は、学園の中でもひときわ穏やかな場所だった。
昼休みの賑わいも落ち着き、午後の授業まであと少し。
■■■は購買で買ったパンを手に、お気に入りのベンチへ向かって歩いていた。
「あ……」
自然と足が止まる。
樫の木の根元には、今日もシルバーの姿があった。
幹に背を預け、静かに目を閉じている。
リスが膝の上に乗り、肩には小鳥が二羽並んで羽を休めていた。
足元では数匹のウサギが丸くなり、安心しきった様子でくつろいでいる。
「今日もみんな集まってるんだ」
思わず見とれてしまう。
まるでその場所だけ時間がゆっくり流れているようで、木漏れ日まで穏やかに揺れて見えた。
邪魔をしないよう静かに近づくと、小鳥が羽を震わせる。
その気配に気づいたのか、シルバーがゆっくり瞼を開いた。
「……■■■か」
「起こしちゃいました?」
「いや」
穏やかに首を振る。
「動物たちが教えてくれた」
「え?」
「お前が来たと」
肩の小鳥へ目を向ける。
「本当に分かるんですか?」
「ああ。それに、みんなお前を歓迎している」
膝の上のリスが尻尾を揺らし、ウサギも近寄ってくる。
「かわいいですね」
「お前は春の日差しみたいだと、動物たちは思っているらしい」
「お世辞ですよね?」
「違う」
シルバーは真っすぐ答えた。
「俺も同じことを思っている」
「……そういうことを普通に言えるの、ずるいですよ」
「そうだろうか?」
首をかしげる様子に悪気はまったくない。
「感じたまま話しているだけなんだが」
「だから困るんです」
■■■は苦笑しながら隣の芝生へ腰を下ろした。
◇
パンを一口食べると、近くにいたウサギが興味津々といった様子で近寄ってくる。
それを見たシルバーはポケットから木の実を取り出した。
「これを」
■■■の手のひらへそっと乗せる。
「あげてやってくれ」
「いいんですか?」
「ああ。お前からもらえるなら、きっと喜ぶ」
「じゃあ――」
木の実を差し出すと、ウサギは恐る恐る鼻先を近づけ小さくかじり始めた。
くすぐったさに思わず笑う。
「かわいいですね」
「ああ」
シルバーも穏やかな目でその様子を眺めていた。
「先輩はどうしてこんなに動物に好かれるんですか?」
「…………」
「シルバー先輩?」
返事がない。
ゆっくりとシルバーの体が傾いていく。
「わっ」
そのまま■■■の肩へ頭を預けるように寄りかかった。
「また寝ちゃった……」
肩へ重みが伝わり、思わず小さく笑う。
髪が頬をかすめ、小鳥たちは何事もないように■■■の頭へ移動した。
一羽が肩へ降り立つと、もう一羽は近くの枝へ飛び、また戻ってくる。
「仲間だと思われたのかな」
足元ではウサギたちも安心したように丸くなっていた。
穏やかな寝息が耳元で聞こえる。
その音につられるように、■■■の表情も自然と柔らかくなった。
「シルバー先輩」
小さく名前を呼ぶが、返事はない。
眠ったままの横顔を見つめてから、そっと自分の頭を預けた。
木々を揺らす風が心地よく吹き抜ける。
鳥のさえずりと葉擦れの音だけが静かに響いていた。
◇
やがて予鈴が鳴る。
その音にシルバーはゆっくり目を開いた。
「……すまない、また眠ってしまったか」
「大丈夫ですよ」
慌てて体を起こすシルバーに、■■■も笑って肩を回した。
「だが、お前を退屈させてしまったんじゃないか」
「そんなことありません」
少し照れながら笑う。
「先輩の寝顔見てるの、好きですから」
「…………」
シルバーの言葉が止まる。
少しだけ視線をそらした横顔が、ほんのり赤くなっていた。
膝の上のリスを地面へ下ろし、ゆっくりと■■■へ向き直る。
「俺は眠っている時間が長い。だから見逃しているものも多いんだと思う」
■■■は黙って耳を傾けた。
「だが、お前といるこの時間は、とても大事だと思える」
その言葉に胸が熱くなる。
「動物たちも、お前の隣にいる時の俺は安心していると言っていたが、俺もそう思う」
シルバーから真っ直ぐな視線が向けられる。
「お前の隣は落ち着く」
「わたしもです」
少し照れながら続ける。
「また明日もここへ来てもいいですか?」
「ああ」
シルバーは優しくうなずく。
「待っている」
足元では動物たちが一斉に鳴き始めた。
その様子に二人は顔を見合わせ、小さく笑う。
シルバーは立ち上がり、■■■へ手を差し出した。
「行こうか」
「午後の授業、遅れちゃいますもんね」
「ああ」
「遅刻したらセベクくんも黙ってませんね」
「……それは避けたいな」
珍しく困ったように笑うシルバーを見て、■■■も笑みをこぼした。
二人は並んで歩き出す。
眠気をごまかすように瞬きを繰り返しながらも、シルバーは最後まで■■■の歩幅に合わせて歩き続けた。
木漏れ日の中、その背中を動物たちが静かに見送っていた。