TRIANGLE
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あの物資の山が届いた夜から数日。
オンボロ寮の玄関はレオナの防犯グッズで物々しく補強され、棚にはマレウスのハーブティーが綺麗に並んでいる。どちらの顔を立てるでもない絶妙なバランスを保ったままななしはなんとか今日までの学園生活を生き延びていた。
しかし外堀は確実に埋まりつつある。
昼休みの購買部裏、ななしの前に眼鏡の奥の瞳を怪しく光らせたアズール・アーシェングロットが立ちはだかった。
「おや、こんなところでお会いするとは。丁度あなたを探していたのですよ、ななしさん」
「アズール先輩……何ですか、その含みのある笑い方は」
「失礼な。僕はただトレンドを賑わせているあなたに、ごく建設的なご提案をしに来ただけです」
アズールは周囲を気にするように声を潜め不敵に微笑む。
「サバナクローとディアソムニアの寮長から受けている熱烈な視線……正直かなり荷が重いのではないですか? 我がオクタヴィネルのモストロ・ラウンジを、あなたの臨時の避難所として提供しても構いませんよ」
「……随分と親切なんですね」
「ええ。それと引き換えに、あなたがモストロ・ラウンジの営業を少しばかり手伝ってくだされば、という極めて真っ当な取引です。あの二人といえど、我が寮に無理やり踏み込むのは躊躇うはずですからね。悪くない話でしょう?」
アズールが静かに差し出してきた手をななしはじっと見つめた。
確かにあの二人の強烈な独占欲から一時的にでも逃れられるのは魅力的かもしれない。しかし、ここで誰かの用意した檻に逃げ込むのは何かが違う気がした。
「……お、お気持ちだけ受け取っておきます。私の問題は自分でなんとかしますから」
「そうですか……それは実に残念だ。気が変わったら相談にいらしてください。いつでも契約書を用意してお待ちしていますよ」
アズールはつまらなさそうに肩をすくめると、そのまま優雅に去っていった。
「ふなぁ〜……オレ様は取引とかどうでもいいから、早くオンボロ寮に帰ってのんびりしたいんだゾ」
グリムがななしの袖をぐいと引っ張る。その小さな肉球の重みに張り詰めていた肩の力が少しだけ抜けた。
「……そうだね、グリム」
二人の関係にいつまでも曖昧なまま流されているわけにはいかない。けれど明確な答えを出すには、自分の気持ちもあの二人の本心も、まだ深く知り得ていない気がしていた。
夕暮れ時、放課後のチャイムが鳴り響く。
ななしは教科書を鞄に詰めながら少しだけ重い息を吐いた。まずはそれぞれの関係性をもう一歩踏み込んで見つめ直すための、長い放課後が始まろうとしていた。
オンボロ寮の玄関はレオナの防犯グッズで物々しく補強され、棚にはマレウスのハーブティーが綺麗に並んでいる。どちらの顔を立てるでもない絶妙なバランスを保ったままななしはなんとか今日までの学園生活を生き延びていた。
しかし外堀は確実に埋まりつつある。
昼休みの購買部裏、ななしの前に眼鏡の奥の瞳を怪しく光らせたアズール・アーシェングロットが立ちはだかった。
「おや、こんなところでお会いするとは。丁度あなたを探していたのですよ、ななしさん」
「アズール先輩……何ですか、その含みのある笑い方は」
「失礼な。僕はただトレンドを賑わせているあなたに、ごく建設的なご提案をしに来ただけです」
アズールは周囲を気にするように声を潜め不敵に微笑む。
「サバナクローとディアソムニアの寮長から受けている熱烈な視線……正直かなり荷が重いのではないですか? 我がオクタヴィネルのモストロ・ラウンジを、あなたの臨時の避難所として提供しても構いませんよ」
「……随分と親切なんですね」
「ええ。それと引き換えに、あなたがモストロ・ラウンジの営業を少しばかり手伝ってくだされば、という極めて真っ当な取引です。あの二人といえど、我が寮に無理やり踏み込むのは躊躇うはずですからね。悪くない話でしょう?」
アズールが静かに差し出してきた手をななしはじっと見つめた。
確かにあの二人の強烈な独占欲から一時的にでも逃れられるのは魅力的かもしれない。しかし、ここで誰かの用意した檻に逃げ込むのは何かが違う気がした。
「……お、お気持ちだけ受け取っておきます。私の問題は自分でなんとかしますから」
「そうですか……それは実に残念だ。気が変わったら相談にいらしてください。いつでも契約書を用意してお待ちしていますよ」
アズールはつまらなさそうに肩をすくめると、そのまま優雅に去っていった。
「ふなぁ〜……オレ様は取引とかどうでもいいから、早くオンボロ寮に帰ってのんびりしたいんだゾ」
グリムがななしの袖をぐいと引っ張る。その小さな肉球の重みに張り詰めていた肩の力が少しだけ抜けた。
「……そうだね、グリム」
二人の関係にいつまでも曖昧なまま流されているわけにはいかない。けれど明確な答えを出すには、自分の気持ちもあの二人の本心も、まだ深く知り得ていない気がしていた。
夕暮れ時、放課後のチャイムが鳴り響く。
ななしは教科書を鞄に詰めながら少しだけ重い息を吐いた。まずはそれぞれの関係性をもう一歩踏み込んで見つめ直すための、長い放課後が始まろうとしていた。
