DISGUISE
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ポムフィオーレの面々と出会った翌日。
エペルから貰った林檎はグリムが半分以上を平らげ、ななしもコンポートにして美味しくいただいた。そのおかげか身体の底からエネルギーが湧いてくるように調子が良い。
しかしそんな万全な体調とは裏腹に、ななしはとある端末を抱えて頭を抱えていた。学園から支給されているゴーストカメラのデータ転送用魔導端末が急に謎のエラーを吐き出してフリーズしてしまったのだ。
「オレ様の活躍を記録したデータが消えたら承知しないんだゾ!」
「困ったな……。こういう機械の故障はイグニハイドの人たちが詳しいって聞いたけど……」
◇
放課後、ななしは文句を言うグリムを宥めながら、イグニハイド寮へと続く近未来的な通路を渡り、寮長の部屋の前に立っていた。面識は全くないが背に腹は代えられない。意を決してドアを叩く。
ドア越しに「ひっ」という情けない声が漏れ聞こえた後、イグニハイド寮長――イデア・シュラウドが話し始める。
「あ、あの……予告なしの突発対面イベント発生とか、マジで勘弁してほしいんでござるが……」
「あの、すみません! 突然お邪魔してしまって……。オンボロ寮のななしと申します。学園長から支給されてるデータ転送端末がどうしても直らなくて、イデア先輩を頼るしかないと聞いて伺いました」
ドアの向こうのイデアは言葉を詰まらせた。
メカニカルな電子音が響き、重厚な金属製のドアがゆっくりと開く。部屋の中では無数のモニターが怪しく光る中、猫背のイデアが恐る恐る姿を現した。
「ほら、早く貸してくだされ……」
「オレ様のデータを早く直すんだゾ!」
グリムがズカズカと部屋に入り込んで声を張り上げると、イデアの目が一瞬で泳いだ。
(ひっ……生グリム氏……! 画面越しじゃなくて生でもふもふしたい……)
「ちょ、勝手に入らないでくだされ……!」というイデアの抵抗も虚しく、グリムを追いかける形でななしも室内に足を踏み入れる。
イデアはななしの手からひったくるように端末を受け取ると、デスクにプラグを差し込み、目にも留まらぬ速さでコードを叩き込み始めた。
「……やっぱりね。オンボロ寮のゴーストの魔力がバックグラウンドで異常消費されてたのが原因か。全く、リソースの無駄遣いも甚だしいというか」
「直るんですか……?」
ななしが覗き込むように一歩足を踏み出すと、ガシャンと床に落ちていたコードに足が引っかかってしまった。
「あ、」
「ひっ!?」
「ふなっ!?」
バランスを崩したななしの身体が、前方にいたイデアへと倒れ込む。
ドサッという鈍い音とともに、ななしはイデアを押し倒すような形で彼の薄い胸の中にすっぽりと収まってしまった。
「ひぃいいい!? なな、何事!? リアル物理接触!? 拙者のパーソナルスペースが完全崩壊なんですけど!?」
「痛いんだゾ! ななし、オレ様を踏んづけるんじゃねーんだゾ!」
床に転がったグリムが騒ぎ立てる中、イデアはパニックを起こして叫ぶ。
「ご、ごめんなさい! すぐ退きます!」
慌てて身体を起こそうとしたななしの手首を、イデアのごつごつとした長い指が不意に、ぎゅっと掴んだ。
「へ……」
「……タイムタイム! 今、急に退かれたら、その、君の服の裾がコードに引っかかって端末の同期が途中で切れるから……! 頼むから静止してて!」
「データが消えるのは困るんだゾ! ななし、そいつの言う通りじっとするんだゾ!」
グリムがイデアの横で野次馬のように声を張り上げる。
イデアは片手でななしの手首を固定したまま、もう片方の手で必死にキーボードを叩き続ける。視線はキーボードを往復しつつも、すぐ横でちょこんと座っているグリムの毛並みに吸い寄せられ、パニックと欲望で目がぐるぐると回っている。
ななしの腕を固定するために掴んでいる彼の指先は、驚くほどひどく震えていた。
「……お、終わった! 同期完了! はい解散、あざっした!」
バグが直った端末をななしの胸元に無理やり押し付けると、イデアはものすごい勢いで部屋の奥へと後退し、自らの顔をパーカーのフードで深く覆い隠してしまった。
「端末は最適化しておいたから……! だから、今日のところはこれ以上拙者の精神を削らないでくだされ、頼むから……!」
「あ、ありがとうございました……!」
ななしは真っ赤になった顔を隠すように、直った端末とグリムを抱えて逃げるように部屋を飛び出した。
閉まったドアの向こうから、イデアの「……な、何なんだよ今の……。距離感バグりすぎ……。でもグリム氏は至近距離で見ても最高のもふもふの暴力だった……触れなかったけど視覚的破壊力で拙者のライフが色んな意味でゼロになるところだったわ……」という、魂の抜けたような呟きが漏れ聞こえていたことには、ななしは気づく由もなかった。
エペルから貰った林檎はグリムが半分以上を平らげ、ななしもコンポートにして美味しくいただいた。そのおかげか身体の底からエネルギーが湧いてくるように調子が良い。
しかしそんな万全な体調とは裏腹に、ななしはとある端末を抱えて頭を抱えていた。学園から支給されているゴーストカメラのデータ転送用魔導端末が急に謎のエラーを吐き出してフリーズしてしまったのだ。
「オレ様の活躍を記録したデータが消えたら承知しないんだゾ!」
「困ったな……。こういう機械の故障はイグニハイドの人たちが詳しいって聞いたけど……」
◇
放課後、ななしは文句を言うグリムを宥めながら、イグニハイド寮へと続く近未来的な通路を渡り、寮長の部屋の前に立っていた。面識は全くないが背に腹は代えられない。意を決してドアを叩く。
ドア越しに「ひっ」という情けない声が漏れ聞こえた後、イグニハイド寮長――イデア・シュラウドが話し始める。
「あ、あの……予告なしの突発対面イベント発生とか、マジで勘弁してほしいんでござるが……」
「あの、すみません! 突然お邪魔してしまって……。オンボロ寮のななしと申します。学園長から支給されてるデータ転送端末がどうしても直らなくて、イデア先輩を頼るしかないと聞いて伺いました」
ドアの向こうのイデアは言葉を詰まらせた。
メカニカルな電子音が響き、重厚な金属製のドアがゆっくりと開く。部屋の中では無数のモニターが怪しく光る中、猫背のイデアが恐る恐る姿を現した。
「ほら、早く貸してくだされ……」
「オレ様のデータを早く直すんだゾ!」
グリムがズカズカと部屋に入り込んで声を張り上げると、イデアの目が一瞬で泳いだ。
(ひっ……生グリム氏……! 画面越しじゃなくて生でもふもふしたい……)
「ちょ、勝手に入らないでくだされ……!」というイデアの抵抗も虚しく、グリムを追いかける形でななしも室内に足を踏み入れる。
イデアはななしの手からひったくるように端末を受け取ると、デスクにプラグを差し込み、目にも留まらぬ速さでコードを叩き込み始めた。
「……やっぱりね。オンボロ寮のゴーストの魔力がバックグラウンドで異常消費されてたのが原因か。全く、リソースの無駄遣いも甚だしいというか」
「直るんですか……?」
ななしが覗き込むように一歩足を踏み出すと、ガシャンと床に落ちていたコードに足が引っかかってしまった。
「あ、」
「ひっ!?」
「ふなっ!?」
バランスを崩したななしの身体が、前方にいたイデアへと倒れ込む。
ドサッという鈍い音とともに、ななしはイデアを押し倒すような形で彼の薄い胸の中にすっぽりと収まってしまった。
「ひぃいいい!? なな、何事!? リアル物理接触!? 拙者のパーソナルスペースが完全崩壊なんですけど!?」
「痛いんだゾ! ななし、オレ様を踏んづけるんじゃねーんだゾ!」
床に転がったグリムが騒ぎ立てる中、イデアはパニックを起こして叫ぶ。
「ご、ごめんなさい! すぐ退きます!」
慌てて身体を起こそうとしたななしの手首を、イデアのごつごつとした長い指が不意に、ぎゅっと掴んだ。
「へ……」
「……タイムタイム! 今、急に退かれたら、その、君の服の裾がコードに引っかかって端末の同期が途中で切れるから……! 頼むから静止してて!」
「データが消えるのは困るんだゾ! ななし、そいつの言う通りじっとするんだゾ!」
グリムがイデアの横で野次馬のように声を張り上げる。
イデアは片手でななしの手首を固定したまま、もう片方の手で必死にキーボードを叩き続ける。視線はキーボードを往復しつつも、すぐ横でちょこんと座っているグリムの毛並みに吸い寄せられ、パニックと欲望で目がぐるぐると回っている。
ななしの腕を固定するために掴んでいる彼の指先は、驚くほどひどく震えていた。
「……お、終わった! 同期完了! はい解散、あざっした!」
バグが直った端末をななしの胸元に無理やり押し付けると、イデアはものすごい勢いで部屋の奥へと後退し、自らの顔をパーカーのフードで深く覆い隠してしまった。
「端末は最適化しておいたから……! だから、今日のところはこれ以上拙者の精神を削らないでくだされ、頼むから……!」
「あ、ありがとうございました……!」
ななしは真っ赤になった顔を隠すように、直った端末とグリムを抱えて逃げるように部屋を飛び出した。
閉まったドアの向こうから、イデアの「……な、何なんだよ今の……。距離感バグりすぎ……。でもグリム氏は至近距離で見ても最高のもふもふの暴力だった……触れなかったけど視覚的破壊力で拙者のライフが色んな意味でゼロになるところだったわ……」という、魂の抜けたような呟きが漏れ聞こえていたことには、ななしは気づく由もなかった。
