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ナイトレイブンカレッジの朝は早い。
オンボロ寮の寝室でななしは鏡に向かって制服のシャツのボタンを留める。胸元にはきつく巻き付けられたサラシ。ゆったりとしたジャケットを羽織り身体の輪郭を隠す。
「毎日毎日、よくそんな窮屈そうなことやるんだゾ。オレ様だったら一日で投げ出してるんだゾ」
ベッドの上で眠そうに目をこすりながらグリムが話しかける。
「仕方ないでしょ。元の世界に帰る方法が見つかるまでは、男の子のフリをするって学園長との約束なんだから」
「子分が路頭に迷ったらオレ様のごちそうがなくなっちまうしな。オレ様が大魔法士になるまでは、学園長との約束をちゃんと守って隠し通すんだゾ」
「ありがとね、グリム。よし、朝ご飯にしよっか! 今日はチーズトーストだよ」
「待ってましたなんだゾ!」
キッチンに移動し焼き上がったトーストを皿に並べていると、玄関のドアが勢いよく開く。
「おーす、ななし。朝飯余ってねぇ? ――って、うわ、デュースてめぇ押すなよ!」
「お前が前でうろうろしているからだろ、エース。……おはようななし。朝早くからすまない」
ハーツラビュル寮の一年コンビが食堂になだれ込んでくる。エースは制服のネクタイを緩めたまま、ななしの隣の席へ滑り込んでくる。
「朝飯食べたんだけどさ、オンボロ寮の前通ったら、なんかいい匂いがして腹減っちゃった。オレの分もある?」
「おいエース、お前は本当に遠慮というものがないな……。すまない、ななし」
「いいよ、二人とも座って。まだ食パン残ってるからすぐ焼くよ」
「よっしゃ、サンキュ」
エースがひょいとななしの肩に腕を回す。
「ちょっと、エース。狭いから離れて。トーストが焦げる!」
「そ? じゃ、待ってまーす」
エースが腕を引き、テーブルにつく。
デュースがその隣で腕を組む。
「エース、お前は本当に……。ななし、何か手伝えることはないか? 皿を並べるくらいなら僕でもできるが」
「あ、じゃあそこのお皿、テーブルに運んでもらえると助かる」
「ああ、任せてくれ」
デュースが丁寧に皿を並べ始める。
「そういやさ、ななし」
エースが焼き上がったトーストを口に放り込む。
「来週の飛行術の授業、運動場じゃなくて荒地でやるんだってよ。なんかバルガス先生が、障害物コースみたいにするらしいぜ」
「えっ、障害物……?」
「あ、でもお前は魔法使えないから、どうせまた外周ランニングとかの別メニューだろ? オレらが箒で飛んでる間、下で走るやつ」
「……あ、そっか。別メニューか」
「別メニューだからと安心するなよ、ななし。あのバルガス先生のことだ、厳しい基礎体力育成メニューを組んでくるに決まっている。よし、今日の放課後から僕が特訓に付き合おう。まずはランニングからだ」
「あはは……気持ちは嬉しいけど、ほどほどにしてね」
ななしは苦笑いしながらお茶を濁す。
実は今朝から下腹部に重い鈍痛が走っている。
よりによってこのタイミングで月に一度の憂鬱な時期が重なってしまったのだ。
「ま、無理すんなって。最悪、オレらが箒の上から応援してやるからさ」
「エース、それはただの煽りだろうが!」
「ははっ、冗談だって!」
◇
朝食を終え、四人は教室へと向かう。
渡り廊下を進むと前方から教科書を抱えた生徒が歩いてくる。
グリムがななしの足にじゃれつき、そのまま前方から歩いてきた生徒の足元へ転がっていく。
「うおっと! 危ないッスね」
教科書を抱えたサバナクロー寮の二年生ラギー・ブッチがひらりと身をかわす。
「ラギー先輩。すみません、グリムが……」
ななしが慌ててグリムを抱き上げる。
「お、ななしくん。朝から元気ッスね」
ラギーがふと動きを止め、ななしに一歩近づく。耳がピクリと動き、鼻先が小さく動く。微かに漂った、鉄を思わせる血の匂いをその鋭い嗅覚が捉えた。しかし傷を負っている様子はない。
「……?」
「いや。なんか今日のななしくん、いつもよりちょっと……いや、なんでもないッス」
ラギーはシシシと笑いながら手を振り、そのまま去っていく。
「な、何なんだゾ、あいつ……」
グリムが首を傾げる。
ななしは自分の胸元にそっと手を当てる。
「……ななし、どうかしたか? 顔色が悪いようだが」
デュースが顔を覗き込んでくる。
「え? ああ、ううん、なんでもない」
「いいから、早く教室行こーぜ」
エースがひらひらと手を振りながら歩き出す。
「そうだな。ほら、ななしもグリムも遅れるぞ」
「うん、今行く。グリム、置いてっちゃうよ」
「待つんだゾ! オレ様が一番に教室に着くんだゾ!」
四人は賑やかに廊下を進んでいく。ななしはラギーの鋭い鼻に少し冷や汗をかきつつも、グリムの背中を追いかけて教室へ向かった。
オンボロ寮の寝室でななしは鏡に向かって制服のシャツのボタンを留める。胸元にはきつく巻き付けられたサラシ。ゆったりとしたジャケットを羽織り身体の輪郭を隠す。
「毎日毎日、よくそんな窮屈そうなことやるんだゾ。オレ様だったら一日で投げ出してるんだゾ」
ベッドの上で眠そうに目をこすりながらグリムが話しかける。
「仕方ないでしょ。元の世界に帰る方法が見つかるまでは、男の子のフリをするって学園長との約束なんだから」
「子分が路頭に迷ったらオレ様のごちそうがなくなっちまうしな。オレ様が大魔法士になるまでは、学園長との約束をちゃんと守って隠し通すんだゾ」
「ありがとね、グリム。よし、朝ご飯にしよっか! 今日はチーズトーストだよ」
「待ってましたなんだゾ!」
キッチンに移動し焼き上がったトーストを皿に並べていると、玄関のドアが勢いよく開く。
「おーす、ななし。朝飯余ってねぇ? ――って、うわ、デュースてめぇ押すなよ!」
「お前が前でうろうろしているからだろ、エース。……おはようななし。朝早くからすまない」
ハーツラビュル寮の一年コンビが食堂になだれ込んでくる。エースは制服のネクタイを緩めたまま、ななしの隣の席へ滑り込んでくる。
「朝飯食べたんだけどさ、オンボロ寮の前通ったら、なんかいい匂いがして腹減っちゃった。オレの分もある?」
「おいエース、お前は本当に遠慮というものがないな……。すまない、ななし」
「いいよ、二人とも座って。まだ食パン残ってるからすぐ焼くよ」
「よっしゃ、サンキュ」
エースがひょいとななしの肩に腕を回す。
「ちょっと、エース。狭いから離れて。トーストが焦げる!」
「そ? じゃ、待ってまーす」
エースが腕を引き、テーブルにつく。
デュースがその隣で腕を組む。
「エース、お前は本当に……。ななし、何か手伝えることはないか? 皿を並べるくらいなら僕でもできるが」
「あ、じゃあそこのお皿、テーブルに運んでもらえると助かる」
「ああ、任せてくれ」
デュースが丁寧に皿を並べ始める。
「そういやさ、ななし」
エースが焼き上がったトーストを口に放り込む。
「来週の飛行術の授業、運動場じゃなくて荒地でやるんだってよ。なんかバルガス先生が、障害物コースみたいにするらしいぜ」
「えっ、障害物……?」
「あ、でもお前は魔法使えないから、どうせまた外周ランニングとかの別メニューだろ? オレらが箒で飛んでる間、下で走るやつ」
「……あ、そっか。別メニューか」
「別メニューだからと安心するなよ、ななし。あのバルガス先生のことだ、厳しい基礎体力育成メニューを組んでくるに決まっている。よし、今日の放課後から僕が特訓に付き合おう。まずはランニングからだ」
「あはは……気持ちは嬉しいけど、ほどほどにしてね」
ななしは苦笑いしながらお茶を濁す。
実は今朝から下腹部に重い鈍痛が走っている。
よりによってこのタイミングで月に一度の憂鬱な時期が重なってしまったのだ。
「ま、無理すんなって。最悪、オレらが箒の上から応援してやるからさ」
「エース、それはただの煽りだろうが!」
「ははっ、冗談だって!」
◇
朝食を終え、四人は教室へと向かう。
渡り廊下を進むと前方から教科書を抱えた生徒が歩いてくる。
グリムがななしの足にじゃれつき、そのまま前方から歩いてきた生徒の足元へ転がっていく。
「うおっと! 危ないッスね」
教科書を抱えたサバナクロー寮の二年生ラギー・ブッチがひらりと身をかわす。
「ラギー先輩。すみません、グリムが……」
ななしが慌ててグリムを抱き上げる。
「お、ななしくん。朝から元気ッスね」
ラギーがふと動きを止め、ななしに一歩近づく。耳がピクリと動き、鼻先が小さく動く。微かに漂った、鉄を思わせる血の匂いをその鋭い嗅覚が捉えた。しかし傷を負っている様子はない。
「……?」
「いや。なんか今日のななしくん、いつもよりちょっと……いや、なんでもないッス」
ラギーはシシシと笑いながら手を振り、そのまま去っていく。
「な、何なんだゾ、あいつ……」
グリムが首を傾げる。
ななしは自分の胸元にそっと手を当てる。
「……ななし、どうかしたか? 顔色が悪いようだが」
デュースが顔を覗き込んでくる。
「え? ああ、ううん、なんでもない」
「いいから、早く教室行こーぜ」
エースがひらひらと手を振りながら歩き出す。
「そうだな。ほら、ななしもグリムも遅れるぞ」
「うん、今行く。グリム、置いてっちゃうよ」
「待つんだゾ! オレ様が一番に教室に着くんだゾ!」
四人は賑やかに廊下を進んでいく。ななしはラギーの鋭い鼻に少し冷や汗をかきつつも、グリムの背中を追いかけて教室へ向かった。
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