TRIANGLE
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夜の静寂が戻るはずの校舎裏は、二人が放つ魔力の激突によって今やいつ爆発してもおかしくない戦場と化していた。
上から見下ろすマレウスの冷徹な魔圧と、隣から圧し掛かるレオナの野生的な熱量。ななしの精神メーターはとうに限界を突破し、脳内では葬送曲がフルボリュームで鳴り響いている。
「……あぁ、視界がチカチカしてきた。これはきっと走馬灯だ……」
「ななし、現実逃避してんじゃねぇよ。……トカゲ野郎、いつまでその冷てぇ手でこいつを掴んでやがる。さっさと離しやがれ」
レオナの腕がななしの肩をさらに強く引き寄せ、マレウスを威嚇するように牙を覗かせる。
「それはこちらの台詞だ、キングスカラー。お前のその不躾な腕こそ、彼女の清らかな肌に相応しくない。……ヒトの子よ、僕の手を取るといい。そうすれば、この不快な獣の気配をすべて消し去ってあげよう」
マレウスの指先がななしの手首を優しく、しかし確実に捕らえ、緑色の火花が二人の境界線でパチパチと弾けた。
「二人とも、もう無理です……!」
「おい、マレウス。これ以上やるってなら、ここで本気で遊んでやってもいいんだぜ? 校舎の半分くらい砂にしてやろうか」
「ふん、大きく出たな。僕の魔法でお前の自慢の毛並みを完全に焼き尽くしてやっても構わないが?」
ゴゴゴ……と地鳴りのような音が響き始め、階段の窓ガラスがガタガタと震え出す。グリムはついに「もうダメなんだゾー!」とななしの足元に完全に潜り込み、震える肉団子と化していた。
極限の恐怖と寝不足による疲労。
そして二人の強烈なオーラの板挟みになった結果、ななしの脳はついに強制シャットダウンを選択した。
「……あ、星が見える……綺麗な、茨とサバンナの星が……」
呟きと共にななしの身体から完全に力が抜け、生気を失った人形のように前へと倒れ込む。
「「っ!?」」
一瞬にして、二人の間に漂っていた殺気が霧散した。
「「「ななし!?」」」
レオナが素早くその大きな腕でななしの身体を横から抱き留め、マレウスもまた彼女が階段に頭をぶつけないよう、瞬時に放った浮遊魔法でその頭部を優しく包み込んだ。
二人は完全に意識を失って自分たちの腕の中に収まった少女を見つめ、それから初めて、互いにバツの悪そうな視線を交わした。グリムが心配そうにななしを見つめている。
「……チッ。トカゲ野郎、お前が魔力を放出しすぎるからこうなったんだろ」
「心外だな。お前が強引に引っ張るから、彼女の脆弱な精神が耐えきれなくなったのだ」
互いに責任を擦り付け合おうとするものの、ななしの顔色は青白く、呼吸は浅い。ただの寝不足とキャパシティオーバーによる気絶なのだが、彼らにとっては、どんな強力な呪いよりも恐ろしい事態に見えた。
「……ふん。これ以上ここで騒いでも意味はないな。キングスカラー、一時休戦だ」
「ハッ、言われなくても分かってんだよ。おい、こいつをオンボロ寮まで運ぶぞ」
マレウスが優雅にななしの身体を浮かせ、レオナがそれを横抱きにする形でしっかりと支える。先ほどまでの空気はどこへやら、二人はまるで壊れ物を運ぶかのように、細心の注意を払いながら静かに階段を降り始めた。
その時、足元で「ふなぁ……」と情けない声を上げて震えているグリムにレオナが視線を落とす。
「おい、毛玉。いつまでそこで縮こまってやがる。置いてくぞ」
「オ、オレ様を置いていかないでほしいんだゾ……!」
「ふむ。お前に泣き喚かれてはヒトの子が悲しむ。……特別だ、僕の魔法の加護を受け入れるがいい」
マレウスが指を鳴らすとグリムの身体がふわりと宙に浮き、ななしのすぐ隣へと優しく運ばれた。予期せぬ浮遊にグリムは一瞬目を丸くしたが、大好きなななしのぬくもりがすぐ横にあることに気づくと、ホッとしたように喉を鳴らした。
こうして二人に挟まれた争奪戦は、当事者の気絶による強制終了という前代未聞の結末によって幕を閉じた。
しかし事態はこれだけで終わらない。
翌朝、オンボロ寮のベッドでようやく目を覚ましたななしの枕元には目を疑うような光景が広がっていた。
ベッドの右側にも左側にも、出どころのわからない高級品や、誰がどうやって運んだのかも不明な山盛りのご馳走、お菓子がこれでもかと詰め込まれ、部屋中を埋め尽くしていたのだ。
「なにこれ……!」
「オメーは朝からうるさいんだゾ! でも、この山盛りのご馳走、めちゃくちゃ美味そうなんだゾ! オレ様が夜通し看病してやったんだから、全部オレ様が食うんだゾ!」
どこから集まったかもわからない大量の貢ぎ物で埋め尽くされたななしは、再び布団を頭まですっぽりと被り、終わりのない絶望の叫びを上げるのだった。
上から見下ろすマレウスの冷徹な魔圧と、隣から圧し掛かるレオナの野生的な熱量。ななしの精神メーターはとうに限界を突破し、脳内では葬送曲がフルボリュームで鳴り響いている。
「……あぁ、視界がチカチカしてきた。これはきっと走馬灯だ……」
「ななし、現実逃避してんじゃねぇよ。……トカゲ野郎、いつまでその冷てぇ手でこいつを掴んでやがる。さっさと離しやがれ」
レオナの腕がななしの肩をさらに強く引き寄せ、マレウスを威嚇するように牙を覗かせる。
「それはこちらの台詞だ、キングスカラー。お前のその不躾な腕こそ、彼女の清らかな肌に相応しくない。……ヒトの子よ、僕の手を取るといい。そうすれば、この不快な獣の気配をすべて消し去ってあげよう」
マレウスの指先がななしの手首を優しく、しかし確実に捕らえ、緑色の火花が二人の境界線でパチパチと弾けた。
「二人とも、もう無理です……!」
「おい、マレウス。これ以上やるってなら、ここで本気で遊んでやってもいいんだぜ? 校舎の半分くらい砂にしてやろうか」
「ふん、大きく出たな。僕の魔法でお前の自慢の毛並みを完全に焼き尽くしてやっても構わないが?」
ゴゴゴ……と地鳴りのような音が響き始め、階段の窓ガラスがガタガタと震え出す。グリムはついに「もうダメなんだゾー!」とななしの足元に完全に潜り込み、震える肉団子と化していた。
極限の恐怖と寝不足による疲労。
そして二人の強烈なオーラの板挟みになった結果、ななしの脳はついに強制シャットダウンを選択した。
「……あ、星が見える……綺麗な、茨とサバンナの星が……」
呟きと共にななしの身体から完全に力が抜け、生気を失った人形のように前へと倒れ込む。
「「っ!?」」
一瞬にして、二人の間に漂っていた殺気が霧散した。
「「「ななし!?」」」
レオナが素早くその大きな腕でななしの身体を横から抱き留め、マレウスもまた彼女が階段に頭をぶつけないよう、瞬時に放った浮遊魔法でその頭部を優しく包み込んだ。
二人は完全に意識を失って自分たちの腕の中に収まった少女を見つめ、それから初めて、互いにバツの悪そうな視線を交わした。グリムが心配そうにななしを見つめている。
「……チッ。トカゲ野郎、お前が魔力を放出しすぎるからこうなったんだろ」
「心外だな。お前が強引に引っ張るから、彼女の脆弱な精神が耐えきれなくなったのだ」
互いに責任を擦り付け合おうとするものの、ななしの顔色は青白く、呼吸は浅い。ただの寝不足とキャパシティオーバーによる気絶なのだが、彼らにとっては、どんな強力な呪いよりも恐ろしい事態に見えた。
「……ふん。これ以上ここで騒いでも意味はないな。キングスカラー、一時休戦だ」
「ハッ、言われなくても分かってんだよ。おい、こいつをオンボロ寮まで運ぶぞ」
マレウスが優雅にななしの身体を浮かせ、レオナがそれを横抱きにする形でしっかりと支える。先ほどまでの空気はどこへやら、二人はまるで壊れ物を運ぶかのように、細心の注意を払いながら静かに階段を降り始めた。
その時、足元で「ふなぁ……」と情けない声を上げて震えているグリムにレオナが視線を落とす。
「おい、毛玉。いつまでそこで縮こまってやがる。置いてくぞ」
「オ、オレ様を置いていかないでほしいんだゾ……!」
「ふむ。お前に泣き喚かれてはヒトの子が悲しむ。……特別だ、僕の魔法の加護を受け入れるがいい」
マレウスが指を鳴らすとグリムの身体がふわりと宙に浮き、ななしのすぐ隣へと優しく運ばれた。予期せぬ浮遊にグリムは一瞬目を丸くしたが、大好きなななしのぬくもりがすぐ横にあることに気づくと、ホッとしたように喉を鳴らした。
こうして二人に挟まれた争奪戦は、当事者の気絶による強制終了という前代未聞の結末によって幕を閉じた。
しかし事態はこれだけで終わらない。
翌朝、オンボロ寮のベッドでようやく目を覚ましたななしの枕元には目を疑うような光景が広がっていた。
ベッドの右側にも左側にも、出どころのわからない高級品や、誰がどうやって運んだのかも不明な山盛りのご馳走、お菓子がこれでもかと詰め込まれ、部屋中を埋め尽くしていたのだ。
「なにこれ……!」
「オメーは朝からうるさいんだゾ! でも、この山盛りのご馳走、めちゃくちゃ美味そうなんだゾ! オレ様が夜通し看病してやったんだから、全部オレ様が食うんだゾ!」
どこから集まったかもわからない大量の貢ぎ物で埋め尽くされたななしは、再び布団を頭まですっぽりと被り、終わりのない絶望の叫びを上げるのだった。
