DESCRIPTIVE LENS
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数ヶ月後。
■■■は、完成した最後のレポートを抱えて図書室へ向かっていた。
扉を開くと、いつもの窓際にヴィルがいる。
本を読む姿も、静かな空気も変わらない。
「来たわね」
「はい」
■■■は大切に抱えていたレポートを差し出した。
「最後の提出です」
ヴィルは静かに受け取り、一枚ずつ丁寧に目を通していく。
ページをめくる音だけが、図書室に響いた。
◇
読み終えるまで、しばらく時間がかかった。
ヴィルは最後のページを閉じると、レポートを両手で整える。
「……終わったわね」
その声には、不思議と穏やかな響きがあった。
「はい」
■■■も自然と笑みを浮かべる。
「最初は、本当に何を書けばいいか分からなかったです」
「覚えているわ」
「思い返すと恥ずかしいです」
「誰でも最初はそんなものよ」
そう言って、最初のレポートと最後のレポートを並べる。
「でも、今は違うでしょ」
ヴィルは最後のページを軽く叩いた。
「簡単なことじゃないわ」
「ヴィル先輩」
「何?」
「わたし、一つだけ分かったことがあります」
ヴィルは続きを促すように視線を向ける。
「景色って、見るだけじゃ残らないんですね」
「そうね」
「その時に誰が笑っていたか、誰が頑張っていたか、誰が何も言わずに支えていたか、そこまで見ようとすると、同じ場所でも全然違って見えました」
ヴィルは静かに頷く。
「だから文章を書くのが好きになりました」
「その答えを聞けただけでも、時間をかけた意味はあったかしら」
◇
ヴィルは立ち上がると、本棚へ向かった。
しばらく探したあと、一冊のノートを持って戻ってくる。
表紙には何も書かれていない。
「これを使いなさい」
「え?」
「レポートは終わったでしょう」
ノートを■■■へ差し出す。
「これから見つけた景色は、この中へ書いていけばいい」
■■■は両手で受け取った。
新品の紙はまだ何色にも染まっていない。
「ありがとうございます」
「勘違いしないこと」
ヴィルはすぐに付け加える。
「提出する必要はないわ。アンタ自身のために書くの」
「はい」
その返事は、これまでで一番迷いがなかった。
◇
図書室を出る頃には、窓の外は夕焼けに染まっていた。
廊下を並んで歩きながら、■■■はノートを胸に抱える。
「ヴィル先輩」
「何?」
「これからも行き詰まったら、相談してもいいですか」
ヴィルは少しだけ考える素振りを見せる。
「毎日は付き合えないわよ」
「もちろんです」
「でも、」
ヴィルは口元を緩めた。
「読んでほしいと言うなら、そのくらいは付き合ってあげる」
「ありがとうございます」
「その代わり、甘い感想は期待しないことね」
「はい!」
思わず笑い合う。
厳しい言葉は変わらない。
けれど、その奥にある気遣いはもう隠そうとしていないように感じられた。
◇
昇降口の前で足を止める。
夕暮れの光が校舎をやわらかく照らしていた。
「■■■」
「はい」
「迷う日があっても構わないの。その時は、また景色を見なさい」
「景色、ですか?」
「答えは紙の上じゃなく、意外と目の前にあったりするのよ?」
■■■は大きく頷いた。
「忘れません」
「ええ」
短い返事だった。
それだけで十分だった。
二人は軽く会釈を交わし、それぞれの帰り道へ歩き出す。
同じ方向ではない。
それでも、これまで積み重ねた放課後がなくなるわけではなかった。
厳しい言葉に励まされ、何度も書き直した日々。
一緒に景色を見つめ、言葉を探した時間。
そのすべてが、■■■の中で確かな力になっている。
ヴィルにとっても、誰かの視点を通して世界を見つめ直した時間は、決して無意味ではなかった。
次に図書室で顔を合わせる時は、課題のためではない。
一冊の本を勧め合ったり、書き上げた文章について語り合ったり。
そんな穏やかな放課後が、きっとまた訪れる。
二人は互いの歩みを尊重しながら、それぞれの場所で言葉を磨き続けていく。
友として、よき理解者として。
その距離はこれからも変わらず、静かな図書室とともに続いていくのだった。