DESCRIPTIVE LENS
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
学園長室へ最終レポートを提出し終えた日の午後、ナイトレイブンカレッジの空気はどこか穏やかに澄んでいた。
ななしの指先には、数ヶ月間ペンを握り続けたことでできた小さな硬いタコが残っている。それは彼女にとって、ヴィル・シェーンハイトと共に戦った証でもあった。
「――遅いわよ、ななし。アタシを待たせるなんて、いい度胸ね」
ポムフィオーレ寮へと続く並木道。
夕日に焼かれた白亜の柱に寄りかかり、ヴィルが待っていた。
今日の彼も一分の隙もない着こなし。けれど、その手には一冊の見慣れたノートが握られていた。
「ヴィル先輩……。すみません、提出に時間がかかってしまって」
「別にいいわ。……学園長、なんて言っていたかしら」
「『魔法が使えない者だからこそ見える、毒のような真実が綴られている』って、驚いていました。それから……ヴィル先輩の評価が、さらに上がったみたいです」
ななしがおとなしめの声を弾ませると、ヴィルは鼻で笑った。
「当然よ。アタシが目をかけた記録係が、凡庸な仕事をするはずがないもの。……でも、アタシが聞きたいのはそんな公的な評価じゃないわ」
ヴィルは一歩、ななしへと歩み寄った。
並木道の木々が落とす長い影が、二人の足元で混ざり合う。
「アンタのレポートの最後の一節。……あれ、どういうつもりかしら?」
ヴィルが開いたノートの最終ページ。そこには、提出用のレポートには書かなかった、ななしの個人的な独白が記されていた。
『鏡は真実を写すが、愛しはしない。わたしは、鏡にはなりたくない。痛みを、濁りを、そのままの体温で受け止め、愛する人間でありたい――』
「……それは、わたしの本心です」
ななしは逃げずに、ヴィルの瞳を見つめた。
ヴィルは無言のまま、ななしの顎を指先ですくい上げた。夕闇の中、彼の瞳にはかつてないほどの色気と、そして抑えきれない独占欲が渦巻いている。
「生意気ね。アタシを愛するなんて、アンタにその覚悟があるの? アタシの記述を止めた瞬間、アタシはアンタを捨てて別の鏡を探すかもしれないのよ」
「構いません。ヴィル先輩が新しい鏡を探す必要がないくらい、わたしが、誰よりも深く先輩を書き留めますから」
ななしの静かな、けれど熱を帯びた言葉。
ヴィルは一瞬、呆れたように目を見開いた後、観念したように深い溜息を吐いた。
「……本当に、可愛くない子。でも、その傲慢さが、今のアンタを一番美しく見せているわ」
ヴィルはななしを引き寄せると、その耳元で、甘く、毒を含んだ声で囁いた。
「いいわ。これからは、レポートなんて名目は不要よ。アンタの人生というページに、アタシという物語を刻み続けなさい。アタシを女王として仕立て上げるまで、アタシの側で……」
言葉が途切れる。
ヴィルはななしを抱き寄せると、そのまま深く、吸い込まれるような口づけを落とした。
唇から伝わるのは、冷徹な仮面の裏側にあった熱い体温。
そして、彼が誰にも触れさせなかった毒の甘さ。
驚きに目を見開くななしの腰を、ヴィルは逃がさないように強く引き寄せ、さらに深く重ねる。それは主従でも師弟でもない、魂を分かち合う共犯者としての絶対的な契約だった。
やがて微かに唇が離れる。至近距離で見つめ合うヴィルの瞳は、情熱に濡れ、美しく潤んでいた。
「……これは、記述しなくていいわ。アンタの心の中にだけ、永久に秘匿しなさい」
ヴィルは満足げに、けれどひどく愛おしそうに、ななしの指先に自分の指を絡ませた。
並木道を、心地よい夜風が通り抜けていく。
ヴィルはななしの肩を抱き、ゆっくりと歩き出した。
「さあ、戻るわよ。明日の朝は早いんだから。……次の章のタイトル、もう決めているのかしら?」
「はい。……『女王の休息』、はどうですか?」
「却下よ。アタシに休息なんて似合わないわ。……『不滅』、にしなさい」
二人の笑い声が、夜の帳に溶けていく。
ななしの新しいノートの表紙には、まだ何も書かれていない。けれど、その真っ白なページは、これから綴られるヴィルとの峻烈で美しい日々の熱を、すでに予感させていた。
ななしの指先には、数ヶ月間ペンを握り続けたことでできた小さな硬いタコが残っている。それは彼女にとって、ヴィル・シェーンハイトと共に戦った証でもあった。
「――遅いわよ、ななし。アタシを待たせるなんて、いい度胸ね」
ポムフィオーレ寮へと続く並木道。
夕日に焼かれた白亜の柱に寄りかかり、ヴィルが待っていた。
今日の彼も一分の隙もない着こなし。けれど、その手には一冊の見慣れたノートが握られていた。
「ヴィル先輩……。すみません、提出に時間がかかってしまって」
「別にいいわ。……学園長、なんて言っていたかしら」
「『魔法が使えない者だからこそ見える、毒のような真実が綴られている』って、驚いていました。それから……ヴィル先輩の評価が、さらに上がったみたいです」
ななしがおとなしめの声を弾ませると、ヴィルは鼻で笑った。
「当然よ。アタシが目をかけた記録係が、凡庸な仕事をするはずがないもの。……でも、アタシが聞きたいのはそんな公的な評価じゃないわ」
ヴィルは一歩、ななしへと歩み寄った。
並木道の木々が落とす長い影が、二人の足元で混ざり合う。
「アンタのレポートの最後の一節。……あれ、どういうつもりかしら?」
ヴィルが開いたノートの最終ページ。そこには、提出用のレポートには書かなかった、ななしの個人的な独白が記されていた。
『鏡は真実を写すが、愛しはしない。わたしは、鏡にはなりたくない。痛みを、濁りを、そのままの体温で受け止め、愛する人間でありたい――』
「……それは、わたしの本心です」
ななしは逃げずに、ヴィルの瞳を見つめた。
ヴィルは無言のまま、ななしの顎を指先ですくい上げた。夕闇の中、彼の瞳にはかつてないほどの色気と、そして抑えきれない独占欲が渦巻いている。
「生意気ね。アタシを愛するなんて、アンタにその覚悟があるの? アタシの記述を止めた瞬間、アタシはアンタを捨てて別の鏡を探すかもしれないのよ」
「構いません。ヴィル先輩が新しい鏡を探す必要がないくらい、わたしが、誰よりも深く先輩を書き留めますから」
ななしの静かな、けれど熱を帯びた言葉。
ヴィルは一瞬、呆れたように目を見開いた後、観念したように深い溜息を吐いた。
「……本当に、可愛くない子。でも、その傲慢さが、今のアンタを一番美しく見せているわ」
ヴィルはななしを引き寄せると、その耳元で、甘く、毒を含んだ声で囁いた。
「いいわ。これからは、レポートなんて名目は不要よ。アンタの人生というページに、アタシという物語を刻み続けなさい。アタシを女王として仕立て上げるまで、アタシの側で……」
言葉が途切れる。
ヴィルはななしを抱き寄せると、そのまま深く、吸い込まれるような口づけを落とした。
唇から伝わるのは、冷徹な仮面の裏側にあった熱い体温。
そして、彼が誰にも触れさせなかった毒の甘さ。
驚きに目を見開くななしの腰を、ヴィルは逃がさないように強く引き寄せ、さらに深く重ねる。それは主従でも師弟でもない、魂を分かち合う共犯者としての絶対的な契約だった。
やがて微かに唇が離れる。至近距離で見つめ合うヴィルの瞳は、情熱に濡れ、美しく潤んでいた。
「……これは、記述しなくていいわ。アンタの心の中にだけ、永久に秘匿しなさい」
ヴィルは満足げに、けれどひどく愛おしそうに、ななしの指先に自分の指を絡ませた。
並木道を、心地よい夜風が通り抜けていく。
ヴィルはななしの肩を抱き、ゆっくりと歩き出した。
「さあ、戻るわよ。明日の朝は早いんだから。……次の章のタイトル、もう決めているのかしら?」
「はい。……『女王の休息』、はどうですか?」
「却下よ。アタシに休息なんて似合わないわ。……『不滅』、にしなさい」
二人の笑い声が、夜の帳に溶けていく。
ななしの新しいノートの表紙には、まだ何も書かれていない。けれど、その真っ白なページは、これから綴られるヴィルとの峻烈で美しい日々の熱を、すでに予感させていた。
