DESCRIPTIVE LENS
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図書室へ向かう途中、■■■は学園長に呼び止められた。
「ちょうどよかった」
「学園長?」
「君が提出してくれている学園生活の記録なんですが……」
少し驚いて姿勢を正す。
「はい」
「先生方の間でも読ませてもらっておりまして」
思いがけない言葉に、■■■は目を瞬かせた。
「えっ……」
「非常に面白いと評判なんです」
「あ、ありがとうございます」
そう返したものの、実感が湧かない。
自分の書いたものを誰かが読んでいる。
その事実だけで胸が少し落ち着かなかった。
「感想を預かりましたので、渡しておきましょう」
学園長は一枚の紙を差し出す。
「感想?」
「名前は伏せてほしいということでしたので」
渡された紙には短い文章が綴られていた。
『あの場にいた時のことを思い出しました。自分では気付かなかった景色まで書かれていて、不思議な気持ちになりました』
たった数行。
それだけなのに、何度も読み返してしまう。
◇
図書室へ入ると、ヴィルはいつもの席で本を閉じた。
「珍しく遅かったわね」
「すみません」
■■■は感想の紙を差し出す。
「これ、学園長から預かりました」
ヴィルは静かに目を通す。
読み終えると、丁寧に紙を机へ戻した。
「そう」
「あまり驚かないんですね」
「いずれそうなると思っていたもの」
ヴィルは紅茶を一口飲む。
「読んだ人は、自分の記憶と重ねられるのよ」
「誰かに読まれるなんて考えたこともありませんでした」
「最初はそれでいいわ」
ヴィルは静かに頷く。
「でも今日からは少しだけ違うでしょう?」
「違う?」
「読む相手がいることも意識しなさい」
ヴィルは一冊のノートを机へ置いた。
「今日の課題よ」
開いてみると、真っ白なページが並んでいる。
「レポートではないんですか?」
「違うわ」
ヴィルはペンを一本差し出した。
「今日は、一人の相手を思い浮かべて書いてみなさい」
「相手を思い浮かべる……」
「ええ」
「家族でも、友人でも、相手がいると思って書くの」
■■■は少し考える。
「でも、どうして一人なんですか?」
ヴィルは微笑んだ。
「全員に伝えようとすると、誰にも届かないことがあるからよ」
その言葉は静かだったが、力強かった。
◇
■■■はペンを動かし始める。
書く相手は、まだこの学園を知らない誰か。
魔法が当たり前ではない場所から来た人。
最初は戸惑うかもしれない。
それでも、この学園には厳しい人だけではなく、手を差し伸べてくれる人もいる。
そんなことを伝えたかった。
途中で何度も書き直す。
ヴィルは口を挟まない。
ただ静かに待っていた。
やがて、一枚を書き終える。
「できました」
「読ませて」
ヴィルは最後まで目を通し、ふっと息をつく。
「前なら、学園の説明を書いていたわね」
「はい」
ヴィルはページを閉じる。
「相手へ話しかけるような文章になっている」
「読んでくれる人を考えたら、自然とそうなりました」
「それでいいのよ」
ヴィルは穏やかに頷いた。
「読む人がいて、初めて形になる文章もあるもの」
◇
帰り道。
夕焼けに染まる校舎を歩きながら、■■■は感想の紙をもう一度取り出した。
たった数行。
けれど、その言葉が嬉しかった。
「ヴィル先輩」
「何?」
「わたし、少しだけ分かった気がします」
「何が?」
「書くことって、自分のためだけじゃないんですね」
ヴィルは歩みを緩める。
「そうね」
「誰かが見落とした景色を届けたり、誰かの記憶を呼び起こしたり」
「いろいろな力があるんですね」
■■■は紙を大切にノートへ挟む。
その様子を見たヴィルは、どこか満足そうに微笑んだ。
「アンタはもう、ちゃんと誰かへ届けようとしている」
その評価が何より嬉しかった。
■■■は静かに頷く。
届けたい景色は、まだたくさんある。
そして、その景色の見つけ方を教えてくれる人が隣にいる。
そんな放課後が続いていくことを願いながら、二人はゆっくりと夕暮れの校舎を歩いていった。