TRIANGLE
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放課後。
オンボロ寮へ帰る道すがら予報になかった激しい雨が降り出した。
「ふなっ〜、冷たいんだゾ! オレ様の毛並みが台無しなんだゾー!」
「ひえぇ、やっぱり……! 私がさっき、お気に入りの栞を失くしたから、空が私を嘲笑って泣いてるんだ……!」
ななしはグリムを抱え、近くにあった東屋に逃げ込む。そこは校舎の裏手、古い石造りの屋根がある静かな場所だった。しかし、そこには先客がいた。
「……チッ。ったく、ついてねぇな」
柱に背を預け、雨空を忌々しげに見上げているのはレオナだった。
「レオナさん! すみません、ここ、レオナさんの雨宿りスポットでしたよね……! 私みたいな雨女が入り込んで、レオナさんの毛並みまで湿気させてしまった……。今すぐ外に出て、雨雲の生贄になってきます!」
「おい、待て」
レオナはななしの襟首をひょいと掴んで引き戻すと、湿った彼女の頭を大きな手で乱暴に拭った。
「……冷てぇな。お前、少しは自分を大事にしろよ」
「大事にする価値なんて、私には……」
「いいから、こっち来い。少しは温まんだろ」
レオナがななしを自分の隣、風が当たらない壁際へ押し込もうとしたその時。雨のカーテンを割り裂くように淡い緑色の光が周囲を照らした。
「雨の音に混じって、誰かの嘆きが聞こえると思えば……。やはり、お前だったか、ヒトの子」
「ツノ太郎……!」
そこには一滴の雨にも濡れることなく、不可視の障壁を纏ったマレウスが立っていた。
「……また貴様か、キングスカラー。雨宿りにかこつけて、彼女を隅に追い詰めるとは。獣の習性とは恐ろしいな」
「ハッ、トカゲ野郎。魔法で雨を弾いて涼しい顔かよ。お高くとまったお坊ちゃまには、雨の匂いや湿り気の良さは分かんねぇだろうな」
レオナがななしの肩を抱き寄せ、マレウスを挑発するように目を細める。
「ふむ。確かに僕は、自然の不便さを楽しむ趣味はない。だが、彼女を冷えから守る術は持っている」
マレウスが優雅に手を差し出す。
「ヒトの子。僕の魔法の加護の中に入るといい。寮まで一滴の雨もお前を汚させはしない」
「えっ、あ、あの……。でも、レオナさんがせっかく場所を空けてくれたし、でもツノ太郎の魔法も申し訳ないし……私はこのまま、雨水と一体化してアスファルトの染みになります……!」
「「なるな」」
二人の声が重なる。
「……おい、トカゲ野郎。お前の派手な魔法は目立ちすぎるんだよ。こいつは今、静かにしてぇんだ。なぁ?」
レオナがななしの耳元で低く囁く。
「震えている彼女を放っておくのは、僕の誇りが許さない。さあ、こちらへ」
マレウスの瞳が雨の中で怪しく光る。
ななしは右から伝わるレオナの確かな体温と、左から感じるマレウスの圧倒的な魔力に板挟みになり、もはや意識が遠のきそうだった。
「ふなっ! オレ様はツノ太郎の魔法がいいんだゾ! 濡れるのはもう御免なんだゾ!」
「グリム……!」
結局、レオナが「チッ、勝手にしろ」と言いながらななしをマレウスの魔法の障壁の中に押し込み、なぜかレオナ本人も「俺が濡れるのは癪だ」と言い張ってその中に入り込んだ。
狭い魔法の障壁の中、密着せざるを得ないその空間で、ななしは止まない雨を見つめていた。
(……美味しい空気、吸いたい。でも、左右からいい匂いがする。私の肺が王族の香りに耐えきれずに破裂しそう……)
雨は、二人のプライドと一人の絶望を包み込みながら、静かに降り続いていた。
オンボロ寮へ帰る道すがら予報になかった激しい雨が降り出した。
「ふなっ〜、冷たいんだゾ! オレ様の毛並みが台無しなんだゾー!」
「ひえぇ、やっぱり……! 私がさっき、お気に入りの栞を失くしたから、空が私を嘲笑って泣いてるんだ……!」
ななしはグリムを抱え、近くにあった東屋に逃げ込む。そこは校舎の裏手、古い石造りの屋根がある静かな場所だった。しかし、そこには先客がいた。
「……チッ。ったく、ついてねぇな」
柱に背を預け、雨空を忌々しげに見上げているのはレオナだった。
「レオナさん! すみません、ここ、レオナさんの雨宿りスポットでしたよね……! 私みたいな雨女が入り込んで、レオナさんの毛並みまで湿気させてしまった……。今すぐ外に出て、雨雲の生贄になってきます!」
「おい、待て」
レオナはななしの襟首をひょいと掴んで引き戻すと、湿った彼女の頭を大きな手で乱暴に拭った。
「……冷てぇな。お前、少しは自分を大事にしろよ」
「大事にする価値なんて、私には……」
「いいから、こっち来い。少しは温まんだろ」
レオナがななしを自分の隣、風が当たらない壁際へ押し込もうとしたその時。雨のカーテンを割り裂くように淡い緑色の光が周囲を照らした。
「雨の音に混じって、誰かの嘆きが聞こえると思えば……。やはり、お前だったか、ヒトの子」
「ツノ太郎……!」
そこには一滴の雨にも濡れることなく、不可視の障壁を纏ったマレウスが立っていた。
「……また貴様か、キングスカラー。雨宿りにかこつけて、彼女を隅に追い詰めるとは。獣の習性とは恐ろしいな」
「ハッ、トカゲ野郎。魔法で雨を弾いて涼しい顔かよ。お高くとまったお坊ちゃまには、雨の匂いや湿り気の良さは分かんねぇだろうな」
レオナがななしの肩を抱き寄せ、マレウスを挑発するように目を細める。
「ふむ。確かに僕は、自然の不便さを楽しむ趣味はない。だが、彼女を冷えから守る術は持っている」
マレウスが優雅に手を差し出す。
「ヒトの子。僕の魔法の加護の中に入るといい。寮まで一滴の雨もお前を汚させはしない」
「えっ、あ、あの……。でも、レオナさんがせっかく場所を空けてくれたし、でもツノ太郎の魔法も申し訳ないし……私はこのまま、雨水と一体化してアスファルトの染みになります……!」
「「なるな」」
二人の声が重なる。
「……おい、トカゲ野郎。お前の派手な魔法は目立ちすぎるんだよ。こいつは今、静かにしてぇんだ。なぁ?」
レオナがななしの耳元で低く囁く。
「震えている彼女を放っておくのは、僕の誇りが許さない。さあ、こちらへ」
マレウスの瞳が雨の中で怪しく光る。
ななしは右から伝わるレオナの確かな体温と、左から感じるマレウスの圧倒的な魔力に板挟みになり、もはや意識が遠のきそうだった。
「ふなっ! オレ様はツノ太郎の魔法がいいんだゾ! 濡れるのはもう御免なんだゾ!」
「グリム……!」
結局、レオナが「チッ、勝手にしろ」と言いながらななしをマレウスの魔法の障壁の中に押し込み、なぜかレオナ本人も「俺が濡れるのは癪だ」と言い張ってその中に入り込んだ。
狭い魔法の障壁の中、密着せざるを得ないその空間で、ななしは止まない雨を見つめていた。
(……美味しい空気、吸いたい。でも、左右からいい匂いがする。私の肺が王族の香りに耐えきれずに破裂しそう……)
雨は、二人のプライドと一人の絶望を包み込みながら、静かに降り続いていた。
