DESCRIPTIVE LENS
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マジカルシフト大会を数日後に控えた学園は、いつにも増して慌ただしかった。
校内を歩けば練習へ向かう生徒たちの声が飛び交い、運営の準備に追われる姿もあちこちで目に入る。
その中心にいるのが、ポムフィオーレ寮長のヴィルだった。
選手の調整だけではない。
運営との打ち合わせ、寮生への指示、備品の確認。
休む間もなく予定をこなしている。
そんな中でも、放課後になると■■■への指導は欠かさなかった。
「今日は外へ行くわよ」
「外ですか?」
「ええ」
ヴィルは日傘を差しながら歩き出す。
「ぼんやりしていたら置いていくわよ」
「ま、待ってください」
慌てて追いかけると、ヴィルは小さく笑った。
「少しは余裕を持ちなさい」
◇
案内されたのは、マジカルシフト競技場の裏手だった。
華やかな会場とは違い、そこには整備用の机や工具が並び、何人もの下級生がディスクの点検をしている。
誰もが真剣な表情だった。
「今日はここを見るの」
「試合じゃないんですか?」
「試合は誰でも見られるでしょう」
ヴィルは整備場を見回した。
「だからこそ、見えない場所を見なさい」
◇
「失礼します、寮長」
下級生たちが一斉に頭を下げる。
ヴィルは軽く頷き、そのまま一人ひとりの作業を確認していく。
「そのディスク、磨き残しがあるわ」
生徒は慌てて確認する。
「すみません!」
「謝る前に直しなさい」
ヴィルの声は厳しい。
「誰も気付かないと思って手を抜けば、その瞬間に全部崩れる」
生徒は真剣な表情で磨き直し始めた。
ヴィルはその様子を最後まで見届ける。
「いいわ」
たった一言。
それだけで、生徒の表情が少し明るくなった。
■■■はその変化を見逃さなかった。
◇
「何が見えた?」
「皆さん、すごく緊張していました」
「ええ、そうね」
「でも、ヴィル先輩に見てもらえて、嬉しそうにも見えました」
ヴィルは少しだけ目を細めた。
「……どうしてそう思ったの?」
「叱られていたのに、やり直す顔が前より真剣だったからです」
ヴィルは静かに頷く。
「役割を任せられるということは、信頼されている証拠」
「信頼、ですか」
「ええ」
ヴィルは整備場を見渡した。
「舞台へ立つ者だけが主役じゃない」
「裏で支える人がいるから、安心して前へ立てるの」
その声には、いつもの厳しさとは違う穏やかさがあった。
◇
一人の下級生が、磨き終えたディスクを持ってきた。
「寮長、確認お願いします」
ヴィルは受け取り、光へかざす。
何度も角度を変えながら確かめたあと、小さく頷いた。
「今度はいいわ」
「ありがとうございます!」
生徒はほっとしたように笑う。
その背中を見送りながら、ヴィルが呟いた。
「努力は、人に見られるためだけにするものじゃない」
「でも、認めてもらえると嬉しいですよね」
ヴィルは少し笑った。
「当然よ」
「だからこそ、簡単に褒めたりしない」
「できていないものを褒めるのは、その人を軽く扱うことだから」
■■■は思わず頷く。
その言葉は、これまでヴィルが自分に向けてきた厳しさとも重なっていた。
◇
「ヴィル先輩」
「何?」
「裏方の人たちは、試合の準備をしているだけだと思っていました」
「今はどう?」
「試合を作っている人たちなんだと思います」
ヴィルは一瞬だけ驚いたような表情を見せた。
「そうね、その視点は悪くないわ」
「舞台を支える柱、みたいです」
ヴィルは静かに笑った。
「少し大げさだけれど、今回は許してあげる」
「ありがとうございます」
「その代わり」
ヴィルは人差し指を立てた。
「比喩だけで終わらせないこと」
「比喩、ですか?」
「そうよ、ちゃんと書きなさい」
「はい」
◇
日が傾き始める。
整備場には、金色の光が差し込んでいた。
下級生たちは最後まで黙々と作業を続けている。
その姿を見つめながら、■■■はノートを開いた。
「もう書き始めるの?」
「忘れたくないので」
ヴィルは満足そうに頷いた。
「いい心掛けね」
■■■はペンを走らせる。
今日は舞台の上ではなく、その裏側を書こう。
誰にも気付かれない場所で、自分の役目を果たそうとする人たちのことを。
そして、その努力を誰よりも真剣に見つめるヴィルのことを。
「……アンタらしい文章になってきたわね」
その短い言葉が、■■■には何より嬉しい評価だった。