TRIANGLE
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昨日の午後のことだ。
レオナの腕の中で、彼の制服のジャケットに包まれてうっかり眠ってしまったという失態。それがどこから漏れたのか、オンボロ寮の周囲には朝から妙にひんやりとした空気が漂っていた。
「……あぁ、やっぱり。昨日のあの穏やかな時間は、今日という破滅へのカウントダウンだったんだ。いっそ、透明人間になって空気と一体化したい……」
遠くに見える外の景色は、雲一つない快晴のはずなのに、オンボロ寮の屋根の上だけどっしりと重い影が落ちている。
「ヒトの子よ。……昨日は、ずいぶんとのどかな午後を過ごしたようだな」
「ひぇっ!?」
背後から響いた凍てつくような、けれど甘い旋律を持った声。振り返ると、マレウスが静かに立っていた。その周囲には明らかに不機嫌であることを示す緑色の火花がチリチリと爆ぜている。
「ツ、ツノ太郎……! なんか怒ってる!? 」
「……怒ってなどいない、だが…」
マレウスは一歩、また一歩と距離を詰めてくる。彼はななしの目の前まで来ると、その長い指先で彼女の頬をそっと撫でた。
「風の噂で聞いたぞ。昨日はリリアに呼ばれて僕が席を外している間に、キングスカラーがお前を……添い寝の相手にしたそうだな?」
「えっ、あ、あれは……! レオナさんが強引に……いえ、私の不注意で! レオナさんの貴重な睡眠時間を私の凡庸な寝息で汚してしまったんです……! 本当に、万死に値する行為で……!」
「万死に値するのは、お前ではなくキングスカラーの方だ」
マレウスの瞳が、一瞬だけ鋭い縦長に変化する。
「……僕がいない間に勝手にお前に触れ、あまつさえ自分のジャケットを貸し与えるとは。傲慢な獣め。……ヒトの子、お前もお前だ。無防備にも程がある。僕以外の者の前で、そんな隙を見せてはいけないと言っただろう」
「言われてないです! というか、ツノ太郎の前でも隙を見せたら、そのまま異世界に拉致されちゃう未来しか見えないよ」
「ふむ……異世界か。ななしとならば歓迎するが、今はその話ではない」
マレウスはななしの腰を、ぐいと自分の方へ引き寄せた。
昨日のレオナの荒々しい熱とは違う、ひんやりとしていながらも、底知れない魔力の重圧を感じる抱擁。
「ツノ太郎、近い! 鼻先が触れそう! こんなの、ツノ太郎ファンの人たちに見られたら、わたし本当に学園を追放されちゃう!」
「……安心しろ。ここには僕の魔力で邪魔者を近づかせないようにしてある」
マレウスはななしの髪を愛おしそうに指で掬い上げた。
「ヒトの子。……昨日はキングスカラーに甘んじたようだが、今日は僕がお前を独占させてもらおう。……不服か?」
「ふふふ不服なんて滅相もない! むしろ光栄すぎて、明日から私の運気がマイナス一万を突破して、歩くたびにバナナの皮で滑るようになります……!」
「……相変わらず、お前は面白いことを言う」
マレウスは、ななしの悲観的な妄想を全く気にする様子もなく、満足げに微笑んだ。彼はそのまま、ななしを包み込むようにして夜の闇を広げていく。
「獣の匂いを、僕の魔力で完全に上書きしてやろう。……お前の隣に並んでいいのは、僕だけだ」
「顔が、近い〜」
その声は優しく、けれど絶対に逃がさないという確固たる意志に満ちていた。ななしはマレウスの長い睫毛を至近距離で見つめた。
静かな嫉妬の炎を燃やすマレウスと、その腕の中でグリムの帰りを待つななし。オンボロ寮の屋根の上では、マレウスの機嫌に呼応するように雷鳴が小さく轟いていた。
レオナの腕の中で、彼の制服のジャケットに包まれてうっかり眠ってしまったという失態。それがどこから漏れたのか、オンボロ寮の周囲には朝から妙にひんやりとした空気が漂っていた。
「……あぁ、やっぱり。昨日のあの穏やかな時間は、今日という破滅へのカウントダウンだったんだ。いっそ、透明人間になって空気と一体化したい……」
遠くに見える外の景色は、雲一つない快晴のはずなのに、オンボロ寮の屋根の上だけどっしりと重い影が落ちている。
「ヒトの子よ。……昨日は、ずいぶんとのどかな午後を過ごしたようだな」
「ひぇっ!?」
背後から響いた凍てつくような、けれど甘い旋律を持った声。振り返ると、マレウスが静かに立っていた。その周囲には明らかに不機嫌であることを示す緑色の火花がチリチリと爆ぜている。
「ツ、ツノ太郎……! なんか怒ってる!? 」
「……怒ってなどいない、だが…」
マレウスは一歩、また一歩と距離を詰めてくる。彼はななしの目の前まで来ると、その長い指先で彼女の頬をそっと撫でた。
「風の噂で聞いたぞ。昨日はリリアに呼ばれて僕が席を外している間に、キングスカラーがお前を……添い寝の相手にしたそうだな?」
「えっ、あ、あれは……! レオナさんが強引に……いえ、私の不注意で! レオナさんの貴重な睡眠時間を私の凡庸な寝息で汚してしまったんです……! 本当に、万死に値する行為で……!」
「万死に値するのは、お前ではなくキングスカラーの方だ」
マレウスの瞳が、一瞬だけ鋭い縦長に変化する。
「……僕がいない間に勝手にお前に触れ、あまつさえ自分のジャケットを貸し与えるとは。傲慢な獣め。……ヒトの子、お前もお前だ。無防備にも程がある。僕以外の者の前で、そんな隙を見せてはいけないと言っただろう」
「言われてないです! というか、ツノ太郎の前でも隙を見せたら、そのまま異世界に拉致されちゃう未来しか見えないよ」
「ふむ……異世界か。ななしとならば歓迎するが、今はその話ではない」
マレウスはななしの腰を、ぐいと自分の方へ引き寄せた。
昨日のレオナの荒々しい熱とは違う、ひんやりとしていながらも、底知れない魔力の重圧を感じる抱擁。
「ツノ太郎、近い! 鼻先が触れそう! こんなの、ツノ太郎ファンの人たちに見られたら、わたし本当に学園を追放されちゃう!」
「……安心しろ。ここには僕の魔力で邪魔者を近づかせないようにしてある」
マレウスはななしの髪を愛おしそうに指で掬い上げた。
「ヒトの子。……昨日はキングスカラーに甘んじたようだが、今日は僕がお前を独占させてもらおう。……不服か?」
「ふふふ不服なんて滅相もない! むしろ光栄すぎて、明日から私の運気がマイナス一万を突破して、歩くたびにバナナの皮で滑るようになります……!」
「……相変わらず、お前は面白いことを言う」
マレウスは、ななしの悲観的な妄想を全く気にする様子もなく、満足げに微笑んだ。彼はそのまま、ななしを包み込むようにして夜の闇を広げていく。
「獣の匂いを、僕の魔力で完全に上書きしてやろう。……お前の隣に並んでいいのは、僕だけだ」
「顔が、近い〜」
その声は優しく、けれど絶対に逃がさないという確固たる意志に満ちていた。ななしはマレウスの長い睫毛を至近距離で見つめた。
静かな嫉妬の炎を燃やすマレウスと、その腕の中でグリムの帰りを待つななし。オンボロ寮の屋根の上では、マレウスの機嫌に呼応するように雷鳴が小さく轟いていた。
