DESCRIPTIVE LENS
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翌日、放課後の図書室。
昨日と同じ場所に、ななしは一時間も前から座っていた。
目の前にあるのは、書き直したばかりのレポートと、ヴィル先輩が指定した観察用のハーブティーだ。
「昨日の今日で、少しはマシな語彙を見つけられたかしら?」
足音もなく背後に立っていたヴィルに、ななしは肩を揺らして振り返った。彼の着崩れ一つない制服の着こなしは、やはり周囲を威圧するほどに美しい。ヴィルは流れるような動作で対面の椅子に座ると、ななしが差し出した羊皮紙を一瞥した。
「……『中庭に咲く花の色が、夕日に焼かれて痛そうだった』。ふうん」
ヴィルがその一節を口にすると、まるで宝石に傷がつく瞬間のような、ひりつくような響きがした。
「色に痛みを感じたわけ? アンタにしては、少しだけ解像度が上がったじゃない」
「……昨日の帰り道、ヴィル先輩に言われた世界の残酷さを考えていたら、そう見えたんです。今まで、ただ綺麗だと思っていた花が枯れていく過程に見えて」
ななしが伏し目がちに答えると、ヴィルはふっと口角を上げた。それは称賛というよりは、獲物を見つけた観察者のような笑みだった。
「いいわ。その不快感を忘れないことね。美しさとは、単なる調和じゃない。崩壊や欠落をどうねじ伏せるか……その執念にこそ宿るものよ」
ヴィルは手元のカップに手を伸ばし、優雅に一口含んだ。そして、ななしにも飲むよう視線で促す。
「ななし、それを飲んでみて。感想を言いなさい」
言われるがままに口をつけたななしは、思わず眉を寄せた。
華やかな香りに反して、舌の上に残るのは痺れるような苦味と、喉の奥を刺すような鋭い刺激だった。
「……にがい、です。それに、なんだか少し怖くなるような味がします」
「怖い? 面白い表現をするわね」
ヴィルは楽しげに目を細めた。
「それはアタシが調合した、精神を研ぎ澄ませるための薬草茶よ。毒と薬は紙一重。世の中の正解ばかりを記述しようとするから、アンタの文章は退屈なの。その苦味、その恐怖――それをどう言葉で飼い慣らすか、やってみせなさい」
ヴィルの指先が、テーブルの上でななしの手に触れた。
手袋越しであっても、その温度は驚くほど高く、情熱を秘めている。
「アンタがアタシを美しいと書くなら、その裏にある毒の味まで書きなさい。それができないなら、アンタにアタシの隣に立つ資格なんてないわ」
ななしは、苦い茶の余韻に震えながら、彼の瞳を見つめ返した。ヴィル先輩はわたしを磨くつもりなのだ。彼が自分自身を極限まで追い込んで作り上げる美しさと同じ、厳しい基準で。
「……はい、ヴィル先輩。書いてみます。もっと、ちゃんと」
おとなしめの声ながら、そこには確かな意志が混じり始めていた。
ヴィルは満足げに手を離すと、次は舞台の幕を上げる直前の俳優のような真剣さで、白紙の羊皮紙を指し示した。
昨日と同じ場所に、ななしは一時間も前から座っていた。
目の前にあるのは、書き直したばかりのレポートと、ヴィル先輩が指定した観察用のハーブティーだ。
「昨日の今日で、少しはマシな語彙を見つけられたかしら?」
足音もなく背後に立っていたヴィルに、ななしは肩を揺らして振り返った。彼の着崩れ一つない制服の着こなしは、やはり周囲を威圧するほどに美しい。ヴィルは流れるような動作で対面の椅子に座ると、ななしが差し出した羊皮紙を一瞥した。
「……『中庭に咲く花の色が、夕日に焼かれて痛そうだった』。ふうん」
ヴィルがその一節を口にすると、まるで宝石に傷がつく瞬間のような、ひりつくような響きがした。
「色に痛みを感じたわけ? アンタにしては、少しだけ解像度が上がったじゃない」
「……昨日の帰り道、ヴィル先輩に言われた世界の残酷さを考えていたら、そう見えたんです。今まで、ただ綺麗だと思っていた花が枯れていく過程に見えて」
ななしが伏し目がちに答えると、ヴィルはふっと口角を上げた。それは称賛というよりは、獲物を見つけた観察者のような笑みだった。
「いいわ。その不快感を忘れないことね。美しさとは、単なる調和じゃない。崩壊や欠落をどうねじ伏せるか……その執念にこそ宿るものよ」
ヴィルは手元のカップに手を伸ばし、優雅に一口含んだ。そして、ななしにも飲むよう視線で促す。
「ななし、それを飲んでみて。感想を言いなさい」
言われるがままに口をつけたななしは、思わず眉を寄せた。
華やかな香りに反して、舌の上に残るのは痺れるような苦味と、喉の奥を刺すような鋭い刺激だった。
「……にがい、です。それに、なんだか少し怖くなるような味がします」
「怖い? 面白い表現をするわね」
ヴィルは楽しげに目を細めた。
「それはアタシが調合した、精神を研ぎ澄ませるための薬草茶よ。毒と薬は紙一重。世の中の正解ばかりを記述しようとするから、アンタの文章は退屈なの。その苦味、その恐怖――それをどう言葉で飼い慣らすか、やってみせなさい」
ヴィルの指先が、テーブルの上でななしの手に触れた。
手袋越しであっても、その温度は驚くほど高く、情熱を秘めている。
「アンタがアタシを美しいと書くなら、その裏にある毒の味まで書きなさい。それができないなら、アンタにアタシの隣に立つ資格なんてないわ」
ななしは、苦い茶の余韻に震えながら、彼の瞳を見つめ返した。ヴィル先輩はわたしを磨くつもりなのだ。彼が自分自身を極限まで追い込んで作り上げる美しさと同じ、厳しい基準で。
「……はい、ヴィル先輩。書いてみます。もっと、ちゃんと」
おとなしめの声ながら、そこには確かな意志が混じり始めていた。
ヴィルは満足げに手を離すと、次は舞台の幕を上げる直前の俳優のような真剣さで、白紙の羊皮紙を指し示した。
