虚像ダイヤモンド
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卒業式を控えたナイトレイブンカレッジには、少し浮ついたような空気が流れていた。
来年から変わること。
新しく始まること。
そんな話題があちこちで聞こえる季節。
けれど放課後の中庭の片隅だけは、時間がゆっくり流れているようだった。
大きな木の下。
ケイトは■■■の膝を借りながら、珍しくスマホを触らずに空を眺めていた。
「……あーあ」
彼は小さく息を吐く。
「結局今年も、■■■ちゃんに甘えっぱなしだったなぁ」
「そんなことないです」
「いやいや、あるって」
苦笑しながら、彼は目を細める。
「前だったらさ、絶対こんなこと言わなかったと思う」
「慣れました?」
「んー、だいぶ毒されてる」
「ふふっ」
少しの沈黙のあと、■■■はそっと口を開く。
「ケイト先輩」
「ん?」
「来年もその先も、ずっとこうして先輩の隣にいてもいいですか?」
ケイトは一瞬、驚いたように目を瞬かせた。
そして、困ったように笑う。
「……こんな可愛げないオレの隣に?」
「はい」
■■■は迷いなく答える。
「ずっと一緒にいたいです」
その言葉を聞いた瞬間、ケイトの表情が少しだけ柔らかくなる。
以前の彼なら、きっと冗談で流していた。
「またまた〜」なんて笑って、軽い言葉に変えていたかもしれない。
けれど今は違った。
彼はゆっくり起き上がり、■■■をまっすぐ見つめる。
そこにあるのは、誰かに見せるための表情ではなかった。
「じゃあ、これ」
彼はポケットから小さな箱を取り出した。
「受け取ってほしいものがある」
蓋を開けると、中にはシンプルな銀色の指輪が入っていた。
中央には、小さな透明の石。
「……指輪?」
「うん」
ケイトは少し照れくさそうに笑う。
「先に言っとくけど、本物じゃないからね。キュービックジルコニア」
「きれいです」
「昔のオレだったらさ、こういうのも格好つけて選んでたと思う」
彼は指輪を見つめる。
「高いものとか、すごそうに見えるものとか。でも今回は、ちゃんと今のオレが渡せるものにしたかった」
その言葉に、■■■は胸が温かくなる。
「……今はこれで許して」
ケイトは少しだけ真剣な顔になる。
「いつかちゃんと、自分の力で本物を贈れるようになるから、その時まで予約しておいてくれる?」
「……ケイト先輩」
「返事は?」
彼は少し慌てたように笑う。
「保留は禁止ね。オレ、結構本気だから」
■■■は指輪を見つめ、それから彼を見る。
「はい。大切にします。この指輪も、ここに込めてくれた気持ちもずっと」
その返事を聞いたケイトは、ほっとしたように笑った。
そして、そっと■■■の額へ自分の額を重ねる。
「……あー、よかった」
小さな声だった。
マジカメにも載らない。
誰かに見せるためでもない。
二人だけが知っている、本当の約束。
「大好きだよ、■■■ちゃん」
「私もです」
「これからもオレのことを見ててね」
「はい」
重なる想いに派手な演出は必要なかった。
指先にある小さな石は、まだ本物のダイヤモンドではない。
けれど、彼が見せてくれた弱さも、差し出してくれた優しさも、■■■にとっては何より価値のある輝きだった。
目の前で笑っているこの人は、誰かが作り上げた理想の姿ではない。
世界に一人だけの、■■■にとっての本物なのだから。
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