虚像ダイヤモンド
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朝の柔らかな光が部屋に差し込む中、ケイトは■■■を抱きしめたまま小さく呟いた。
「……もう、分身に任せない」
その声には、決意と少しの不安が混ざっていた。
けれど■■■は彼の胸元に顔を寄せたまま、ゆっくり首を振る。
「……ケイト先輩」
「ん?」
「分身、消さなくてもいいですよ」
「……え?」
腕の力がわずかに緩む。
ケイト先輩は驚いたように顔を上げ、■■■を見る。
「なんで? いいの?」
「はい」
「……■■■ちゃんって、意外とあっさりしてる?」
「違います」
■■■は首を振った。
「魔法も、先輩自身の一部ですよね」
「まあ、そうだけど」
「それで助けられてきたことも、先輩が頑張ってきたことも、全部なかったことにはしたくないです」
ケイト先輩は黙って聞いていた。
「先輩が外で笑うために必要なものなら、使ってほしいんです」
「……」
「だからその分、私の前では無理に完璧を取り繕わないでほしいんです」
「……そっか、そこまで考えてなかったなぁ」
困ったように笑う。
「オレ、君は分身を使われるの嫌なんだと思ってた」
「……どちらかと言えば、やっぱり本物がっていうのはありますけど」
ケイトは少し照れたように視線を逸らした。
「なんのために使うのか、ってことね」
「はい」
そう答えると、ケイトは優しく目を細めた。
「了解、ちゃんと線引きする」
「■■■ちゃんの前では、ただのオレでいる」
「……ふふ」
思わず笑みがこぼれる。
「フィルターがなくても、先輩はちゃんと素敵ですよ」
「……それ、反則じゃない?」
「何がですか?」
「そういう不意打ち」
分身なら、きっとこんなふうに困った顔はしない。
余裕のある笑顔で、上手な返事を返すはずだ。
でも今目の前にいる彼は、言葉に詰まって、照れて、どうしていいかわからない顔をしている。
それが、■■■には嬉しかった。
◇
翌日から、二人の関係は少しだけ変わった。
学園では、ケイト先輩は今まで通り明るく振る舞う。
友達と笑い合って、写真を撮って、誰からも好かれる人気者の姿。
周囲から見れば、何も変わっていない。
けれど、写真を撮り終えたあと。
誰も見ていない場所で、そっと繋がれる指先。
「疲れた」と小さく零す声。
そんな瞬間にだけ見せる表情は、■■■だけが知っているものだった。
◇
放課後。
人のいない教室で扉を閉めた瞬間、ケイトは大きく息を吐いた。
「はぁ、疲れたー……」
机に寄りかかりながら、苦笑する。
「今日もさ、ケイトくん最高! ってコメントいっぱい来た」
「いいことじゃないですか」
「ありがたいんだけどね」
「先輩らしいですね」
そう言うと、彼は少し笑った。
「でしょ?」
「外では言えないけどさ」
「こうやって『無理してない?』って聞いてくれる場所があるの、結構助かってる」
■■■は頷いた。
「いつでも聞きますよ。疲れた時は、ちゃんと言ってください」
「……そういうところなんだよね」
「え?」
「オレが敵わないって思うところ」
照れ隠しのように笑う。
「君、オレが隠してるところばっか見つけるんだもん」
少し間を置いて、彼は静かに続けた。
「これから学外研修とか始まったら、今みたいに会える時間も減っちゃうんだろうな」
「ちょっと寂しいですね」
「それでも、こうやってオレの戻る場所でいてくれる?」
「もちろんです」
迷いなく答える。
その返事を聞いて、ケイトは安心したように笑った。