虚像ダイヤモンド
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暗闇に包まれた部屋には、二人の静かな呼吸だけが重なっていた。
抱きしめる腕は少し苦しいほど強く、それでも■■■はその温もりから離れようとはしなかった。
昼間に見せる穏やかな笑顔も、誰にでも向ける優しい声も、今はどこにもない。
そこにいるのは、飾らないケイトだけだった。
「……ねぇ、■■■ちゃん」
耳元で落ちる声は静かで、それでいて震えていた。
「本物のオレがいいって、本当?」
ケイトの抱きしめる腕に、また力が入る。
「もう後戻りできないよ」
小さく笑う声は、自分へ言い聞かせるようだった。
「オレ、君が思ってるよりずっと面倒だし、独占欲も強いし、一回手に入れたら、簡単には離したくなくなる」
言葉の最後だけ、少し弱くなる。
「……それでも?」
■■■はゆっくり彼を見上げた。
暗闇に慣れた目には、不安を隠しきれない彼の表情が映る。
「はい、先輩のこと全部、知りたいです」
「……」
「嬉しいことも、苦しいことも、一緒に受け止めたいです」
その返事を聞いた途端、ケイトは小さく息を漏らした。
「……ほんと、君ってお人好し」
照れ隠しのように呟くと、そっと額を寄せた。
触れるだけの口づけは、昼間とは違ってどこか不器用だった。
「……ケイト先輩」
「うん?」
「こうしている先輩の方が、安心します」
その一言に、ケイトは目を丸くする。
「普通は逆じゃない?」
「そうですかね?」
「そうでしょ」
「でも、今の先輩はちゃんと私を見てくれてますから」
その言葉に返事はなかった。
代わりに、もう一度強く抱き寄せられる。
まるで離してしまえば消えてしまうものを守るような抱擁だった。
「……困るなぁ」
肩へ顔を埋めたまま、くぐもった声が響く。
「そんなこと言われたら本当に離せなくなる」
「私も離れません。だから――」
ケイトの背中へそっと腕を回す。
「分身じゃなくて、本物の先輩が隣にいてください」
静かな沈黙が流れる。
その沈黙は気まずいものではなく、お互いの気持ちを確かめ合うための穏やかな時間だった。
やがてケイトはゆっくり顔を上げる。
まっすぐ■■■を見つめる。
「レンズ越しじゃなくて、ちゃんとオレが見えてる?」
その問いに、■■■は微笑んだ。
「はい。今までで、一番」
その答えだけで十分だった。
ケイトは照れたように目を細め、もう一度そっと■■■の額へ口づけを落とす。
「オレの負けだな」
「勝負してたんですか?」
「こんな風に誰かへ本音を話したの、初めてかも」
「ありがとうございます」
「ううん」
首を振る。
「ありがとうは、オレの方」
夜は静かに更けていく。
言葉は少なくても、寄り添う体温だけで十分だった。
誰かに見せるための笑顔も。
誰かに評価される写真も。
この部屋には必要ない。
お互いが互いの存在を確かめ合うように寄り添っていた。
◇
やがて窓の外がわずかに白み始める。
ケイトは名残惜しそうに■■■の手を握り、小さく笑った。
「……大好きだよ、■■■ちゃん」
その声には、昼間のような軽さはない。
飾ることをやめた、本当の想いだけが込められていた。
「本物のオレで、これからも君の隣にいたい」
■■■はその手を握り返し、小さく頷く。
その温もりだけは、朝が来ても消えることはなかった。