虚像ダイヤモンド
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ、今の表情めっちゃいい! そのままキープ、ななしちゃん」
ハーツラビュル寮の薔薇園は、今が一番の見頃だ。
赤く塗り替えられた薔薇の香りが鼻腔をくすぐる中、ケイト先輩は器用にスマホを構え、レンズ越しに私を捉えている。
私は言われるがまま、慣れない自撮り用のポーズをとった。
「えっ、と……こう、ですか?」
「そうそう、首を少し傾けて……うん、最高に可愛い。マジカメ映え間違いなし!」
ケイト先輩は屈託のない笑顔でシャッターを切る。
学園でも指折りの人気者である彼と、監督生である私が「付き合っている」というのは、今や学園中の誰もが知る事実だった。
「……はい、オッケー! お疲れさま、ななしちゃん。協力感謝!」
最後の一枚を撮り終えた瞬間。
ケイト先輩の指先が、スマホの画面をスワイプする動きに変わる。
それと同時に、彼を包んでいたキラキラしたオーラが音もなく霧散した。
「……あー、今日も光量強すぎ。加工で落とさないと浮いちゃうかな」
独り言をつぶやく彼の瞳には、もう私は映っていない。
さっきまで私の肩を抱き、耳元で「可愛い」と囁いていた熱量はどこにもなかった。彼はベンチに腰を下ろすと無心でスマホを操作し始める。
私は所在なげに自分の服の裾を握りしめた。
ケイト先輩にとっての恋人という枠組み。
それは、彼がマジカメというステージで「リア充なケイト・ダイヤモンド」を演じ続けるための欠かせない小道具に過ぎないことを、私は痛いほど知っている。
「あの……ケイト先輩」
「んー? なあに、ななしちゃん。あ、今の投稿、もういいねがついたよ。ほら、見て」
差し出された画面の中には、幸せそうに笑い合う私たちがいた。
背景の薔薇は鮮やかで、二人の肌は陶器のように滑らかに修正されている。そこにあるのは、完璧に切り取られた「理想の幸福」だ。
「……すごいですね。……でも、私は……」
「……」
言いかけた言葉は、彼の横顔を見て飲み込んだ。
スマホの青白い光に照らされたケイト先輩の横顔はひどく美しく、そして恐ろしいほど無機質だった。
楽しそうでも、嬉しそうでもない。
ただ、流れてくるコメントを淡々と処理するだけの、作業機械のような冷徹さ。
「あ、ごめん。今、なにか言おうとした?」
ふいに彼が顔を上げた。
その瞬間、スッといつものケイト先輩の仮面が張り付く。
その切り替えの速さに、心臓がチクリと痛む。
「いえ……なんでもないです。……お疲れ様でした」
「そ? じゃあ、オレこれから談話室でトレイくんと打ち合わせあるから、今日はここまで。寮まで送れなくてごめんね?」
彼は私の頭をポン、と軽く叩いた。それは、可愛がっているペットに触れるような、あるいは使い慣れた道具を労うような軽い手つきだった。
「……はい。また明日」
「うん、また明日。今の写真、後で送っとくから。保存しといてね」
軽快な足取りで去っていく彼の背中を、私はいつまでも眺めていた。
オレンジ色に染まり始めた薔薇園で、私だけが取り残される。
ケイト先輩は、誰からも愛される輝きを放ち、誰の手にも届く場所で笑っている。けれどその中心にある核は、誰にも触れられないほど硬く、冷たい。
(……いつか、レンズを通さない私を見てくれる日は来るのかな)
そんな淡い期待さえ、ケイト先輩には見透かされている気がした。
私は自分の臆病な心をそっと胸の奥に隠した。
ハーツラビュル寮の薔薇園は、今が一番の見頃だ。
赤く塗り替えられた薔薇の香りが鼻腔をくすぐる中、ケイト先輩は器用にスマホを構え、レンズ越しに私を捉えている。
私は言われるがまま、慣れない自撮り用のポーズをとった。
「えっ、と……こう、ですか?」
「そうそう、首を少し傾けて……うん、最高に可愛い。マジカメ映え間違いなし!」
ケイト先輩は屈託のない笑顔でシャッターを切る。
学園でも指折りの人気者である彼と、監督生である私が「付き合っている」というのは、今や学園中の誰もが知る事実だった。
「……はい、オッケー! お疲れさま、ななしちゃん。協力感謝!」
最後の一枚を撮り終えた瞬間。
ケイト先輩の指先が、スマホの画面をスワイプする動きに変わる。
それと同時に、彼を包んでいたキラキラしたオーラが音もなく霧散した。
「……あー、今日も光量強すぎ。加工で落とさないと浮いちゃうかな」
独り言をつぶやく彼の瞳には、もう私は映っていない。
さっきまで私の肩を抱き、耳元で「可愛い」と囁いていた熱量はどこにもなかった。彼はベンチに腰を下ろすと無心でスマホを操作し始める。
私は所在なげに自分の服の裾を握りしめた。
ケイト先輩にとっての恋人という枠組み。
それは、彼がマジカメというステージで「リア充なケイト・ダイヤモンド」を演じ続けるための欠かせない小道具に過ぎないことを、私は痛いほど知っている。
「あの……ケイト先輩」
「んー? なあに、ななしちゃん。あ、今の投稿、もういいねがついたよ。ほら、見て」
差し出された画面の中には、幸せそうに笑い合う私たちがいた。
背景の薔薇は鮮やかで、二人の肌は陶器のように滑らかに修正されている。そこにあるのは、完璧に切り取られた「理想の幸福」だ。
「……すごいですね。……でも、私は……」
「……」
言いかけた言葉は、彼の横顔を見て飲み込んだ。
スマホの青白い光に照らされたケイト先輩の横顔はひどく美しく、そして恐ろしいほど無機質だった。
楽しそうでも、嬉しそうでもない。
ただ、流れてくるコメントを淡々と処理するだけの、作業機械のような冷徹さ。
「あ、ごめん。今、なにか言おうとした?」
ふいに彼が顔を上げた。
その瞬間、スッといつものケイト先輩の仮面が張り付く。
その切り替えの速さに、心臓がチクリと痛む。
「いえ……なんでもないです。……お疲れ様でした」
「そ? じゃあ、オレこれから談話室でトレイくんと打ち合わせあるから、今日はここまで。寮まで送れなくてごめんね?」
彼は私の頭をポン、と軽く叩いた。それは、可愛がっているペットに触れるような、あるいは使い慣れた道具を労うような軽い手つきだった。
「……はい。また明日」
「うん、また明日。今の写真、後で送っとくから。保存しといてね」
軽快な足取りで去っていく彼の背中を、私はいつまでも眺めていた。
オレンジ色に染まり始めた薔薇園で、私だけが取り残される。
ケイト先輩は、誰からも愛される輝きを放ち、誰の手にも届く場所で笑っている。けれどその中心にある核は、誰にも触れられないほど硬く、冷たい。
(……いつか、レンズを通さない私を見てくれる日は来るのかな)
そんな淡い期待さえ、ケイト先輩には見透かされている気がした。
私は自分の臆病な心をそっと胸の奥に隠した。
1/10ページ
