微睡の淵の銀鎖
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
先日の騒動から数日が過ぎた。
シルバーは相変わらずあちこちで眠ってしまうものの、不思議と同じ場所で見かけることが増えていた。
「……またここで寝てる」
オンボロ寮の自室から出てきた■■■は、小さく笑って足を止める。
廊下の壁にもたれ、静かな寝息を立てるシルバー。
以前のように立ったまま眠ってしまったわけではない。
きちんと壁際へ腰を下ろし、人の通り道を避けるように座っている。
その姿は、ここで眠ることを最初から決めていたようにも見えた。
「シルバー先輩」
しゃがみ込み、そっと肩へ触れる。
「起きてください。ここ、オンボロ寮ですよ」
「……ん」
ゆっくりとシルバーの瞼が開く。
「……■■■か」
眠たげな声なのに、その表情は穏やかだった。
「おはようございます」
「起こしてくれてありがとう」
「もう、自分の寮に帰らないと駄目ですよ」
「そのつもりだったんだが」
「本当ですか?」
「……本当だ」
少しだけ間が空く。
「ただ」
「?」
「気づいたら、ここに足が向いていた」
■■■は思わず瞬きをした。
「無意識に?」
「ああ」
シルバーはゆっくり立ち上がり、制服についた埃を払う。
「最近は、お前の気配を感じる場所にいると、不思議と心が落ち着く」
照れたように視線を逸らしながら続けた。
「だから、少しだけここで休もうと思った」
「シルバー先輩」
「困らせただろうか」
「いえ……」
「そうか」
申し訳なさそうに眉を下げる姿に、■■■は思わず笑ってしまう。
「でも、元気そうで安心しました」
「心配をかけたな」
「少し無理してるんじゃないかって思ってたんです」
シルバーは静かに首を振る。
「あの日、自分の未熟さを痛感した」
「未熟なんて」
「お前を助けることはできたが、もっと早く異変に気づけていたらとも思った」
シルバーは一度息をつく。
「それから考えるようになったんだ」
「何をですか?」
「誰かを守るということを」
その視線はまっすぐ■■■へ向けられていた。
「俺は、お前の隣にいたいと思っている」
「……先輩」
「お前が近くにいてくれるだけで、自分は独りじゃないと思えるんだ」
廊下に静かな沈黙が流れる。
■■■は胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。
「わたしも、先輩が近くにいてくれると安心します」
「そうか、よかった」
彼はそっと手を差し出す。
「少し……」
「先輩?」
「手を借りてもいいか」
■■■は小さく頷き、その手を重ねた。
シルバーは両手で優しく包み込む。
力を込めるわけではなく、壊れ物を扱うような穏やかな手つきだった。
「お前の手は温かいな」
「先輩の手も温かいですよ」
「そうか」
穏やかな笑みがこぼれる。
「■■■」
「なんですか?」
「俺は、お前を守るだけじゃなく、一緒に笑っていたい」
少しだけ照れたように目を細める。
「それが今の、一番素直な気持ちだ」
「……わたしもです」
「そうか」
「これからも、先輩と一緒に笑っていたいです」
その答えに、シルバーは嬉しそうに息をついた。
「一つ、頼みがあるのだが」
「頼み?」
「ああ」
「俺がまた道端で眠ってしまったら」
「はい」
「その時は、また起こしてほしい」
■■■は思わず吹き出した。
「それだけですか?」
「それだけだ」
真面目に頷く。
「お前の声が、一番安心して目を覚ませる」
「……セベクくんの声に負けないように起こさなきゃ」
「優しく起こしてくれると嬉しいのだが」
「冗談ですよ、何回寝ちゃっても起こしますね」
「ああ、助かる」
「その代わり、寝る場所は選んでくださいね」
「努力しよう」
「やっぱり努力なんですね」
「眠気には勝てない日もある」
真顔で答えるシルバーに、■■■は声を上げて笑った。
その笑顔につられるように、シルバーも穏やかに笑みを浮かべる。
二人の間を流れる空気は、以前よりずっと自然で、温かなものになっていた。
◇
その夜。
ディアソムニア寮へ戻ったシルバーは、廊下でリリアに呼び止められた。
「シルバー。お主、最近オンボロ寮へ行くことが多いようじゃのう」
「……はい」
「マレウスも、お前の姿が見えぬ日は少し物足りなそうにしておったぞ」
「申し訳ありません」
シルバーは素直に頭を下げる。
「ですが、今は大切にしたい時間があるのです」
リリアは目を細め、小さく笑った。
「ほう、何か見つけたようじゃな」
「はい……俺にとって、心から落ち着ける場所を見つけました」
その答えを聞いたリリアは、どこか嬉しそうに肩を叩いた。
「ならば、焦る必要はない」
「はい」
「大切なのは、隣を歩き続けることじゃ」
「肝に銘じます」
部屋へ戻ると、窓の外には静かな夜空が広がっていた。