TRIANGLE
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夕暮れ時のオンボロ寮。
外から吹き込む風が建付けの悪い窓をガタガタと鳴らす。食堂のテーブルに突っ伏したななしは深く溜息を吐いた。
「はぁ。明日の魔法史の小テストで赤点取って学園を追放される未来しか見えない」
「そんなわけねぇだろ。お前のそのネガティブさは逆に感心するぜ」
呆れたような、けれどどこか楽しげな声が響く。
顔を上げると、いつの間にか開いていた窓からサバナクロー寮の寮長レオナ・キングスカラーが入り込んでいた。
「レオナさん。また窓から……不法侵入ですよ」
「ほら、どけ。そこは俺の寝床だ」
「スルーですか」
レオナは当然のようにななしの隣の席を陣取り、彼女の肩に頭を預けてくる。首筋に重みがかかりななしは身を硬くした。
「ふなっ! レオナ、またオレ様たちのオンボロ寮に勝手に入ってきたのか!?」
談話室からツナ缶を抱えたグリムが飛び出してくる。
「うるぇぞ毛玉。俺はこいつに会いに来ただけだ。おい、ななし。なんだその面は、テストの心配なんかしてんのか」
「心配ですよ。わたし魔法が使えないから、せめて筆記だけは完璧じゃないと。もし赤点取ったら学園の古井戸に身を投げて、ゴーストとして暮らします」
「なるほど。ヒトの子よ、ゴーストになるくらいであれば、僕と並んで暮らす方が幾分か有意義だと思うが?」
冷ややかな、けれどどこか重厚な声。
一瞬にして室内の空気がぴりりと張り詰めた。
緑色の火花が散ったかと思うと、部屋の中央にマレウス・ドラコニアが立っていた。
「……あ、ツノ太郎」
「フン、またお出ましかよ、トカゲ野郎」
レオナがななしの肩に預けていた頭にぐいと重みを加え、不機嫌そうに目を細める。
「キングスカラーか。今日も今日とてヒトの子にべったりと。まるで主人の帰りを待つ忠実な猟犬のようだ」
「あ? 誰が忠実だって? 噛み殺されたいのか、おぼっちゃま」
「オメーら、また喧嘩するなら外でやるんだゾ! 寮が壊れたらオレ様たちの寝る場所がなくなるんだゾ!」
グリムの叫びも虚しく、レオナとマレウスの間に激しい視線が交錯する。ななしは二人の間に挟まれながら顔を覆った。
「あぁ、二人が戦ってオンボロ寮が学園の地図から消える。私は明日から、野宿をしながら雑草を食べて生きることになるんだ。せめて美味しいドレッシングを持って逃げなきゃ」
「ななし, お前は黙ってろ」
「ヒトの子、余計な心配は不要だ」
二人の声が重なる。
レオナはななしの頬を軽くつまんで強引に自分の方へ向かせ、マレウスはその反対側から彼女の髪に指を通した。
「おい、トカゲ野郎。人の女に勝手に触ってんじゃねぇよ」
「人の女、か。相変わらず独占欲が強いなキングスカラー。彼女は誰の所有物でもない。僕を特別な呼び名で呼び、招いてくれる大切な友人だ」
「友人? 笑わせんな。お前の友人ってのは、コレクションの一部だろ。俺はこいつの隣が一番落ち着くからここにいる。邪魔するな」
「邪魔をしているのは貴様の方だろう。僕はこれから人の子と、この寮の庭で見つけた珍しい植物について語らう約束を」
「そんな約束したっけ」
ななしの声など二人の耳には届かない。
「植物だぁ? んな地味なもんより、俺の睡眠に付き合う方が有意義だろ。おい草食動物、膝貸せ。今すぐだ」
「嫌ですよ! 私の膝なんかで寝たら、レオナさんの首がバキバキになりますよ」
「お前は僕の腕の中で眠ると良い」
「もっと嫌です! ツノ太郎の腕の中で寝るなんて、バチが当たって明日から一生不眠症になっちゃう!」
全力で拒否するななしだったが二人が側を離れる気配は一切ない。むしろお互いを牽制し合うようにじりじりと距離を詰めてくる。
「ふん。なら、どっちがこいつを満足させられるか勝負するか?」
レオナが挑発的に唇を吊り上げる。
「面白い。僕が勝った暁には、ヒトの子は僕と共に茨の谷の夜の散歩に招待しよう」
「だから勝手に決めないでくださいってば」
ななしの嘆きをよそに、レオナとマレウスの視線が激突する。グリムは「勝手にするんだゾ」と諦めた顔でお腹をさすった。
オンボロ寮の夜はまだ始まったばかり。
ななしの日常は、この二人によってますます予測不能な方向へと転がり始めていた。
「とりあえず、お腹空きました。晩ごはん、焦がしちゃうかもしれないけど、作ってきます」
「あぁ、俺は肉がいい」
「ヒトの子の手料理なら、どんな出来栄えでも楽しみだ」
「プレッシャーをかけないでください!」
叫びながらキッチンへ逃げ込むななし。
その後ろ姿を二人は全く異なる、けれど熱を帯びた視線で見つめていた。
外から吹き込む風が建付けの悪い窓をガタガタと鳴らす。食堂のテーブルに突っ伏したななしは深く溜息を吐いた。
「はぁ。明日の魔法史の小テストで赤点取って学園を追放される未来しか見えない」
「そんなわけねぇだろ。お前のそのネガティブさは逆に感心するぜ」
呆れたような、けれどどこか楽しげな声が響く。
顔を上げると、いつの間にか開いていた窓からサバナクロー寮の寮長レオナ・キングスカラーが入り込んでいた。
「レオナさん。また窓から……不法侵入ですよ」
「ほら、どけ。そこは俺の寝床だ」
「スルーですか」
レオナは当然のようにななしの隣の席を陣取り、彼女の肩に頭を預けてくる。首筋に重みがかかりななしは身を硬くした。
「ふなっ! レオナ、またオレ様たちのオンボロ寮に勝手に入ってきたのか!?」
談話室からツナ缶を抱えたグリムが飛び出してくる。
「うるぇぞ毛玉。俺はこいつに会いに来ただけだ。おい、ななし。なんだその面は、テストの心配なんかしてんのか」
「心配ですよ。わたし魔法が使えないから、せめて筆記だけは完璧じゃないと。もし赤点取ったら学園の古井戸に身を投げて、ゴーストとして暮らします」
「なるほど。ヒトの子よ、ゴーストになるくらいであれば、僕と並んで暮らす方が幾分か有意義だと思うが?」
冷ややかな、けれどどこか重厚な声。
一瞬にして室内の空気がぴりりと張り詰めた。
緑色の火花が散ったかと思うと、部屋の中央にマレウス・ドラコニアが立っていた。
「……あ、ツノ太郎」
「フン、またお出ましかよ、トカゲ野郎」
レオナがななしの肩に預けていた頭にぐいと重みを加え、不機嫌そうに目を細める。
「キングスカラーか。今日も今日とてヒトの子にべったりと。まるで主人の帰りを待つ忠実な猟犬のようだ」
「あ? 誰が忠実だって? 噛み殺されたいのか、おぼっちゃま」
「オメーら、また喧嘩するなら外でやるんだゾ! 寮が壊れたらオレ様たちの寝る場所がなくなるんだゾ!」
グリムの叫びも虚しく、レオナとマレウスの間に激しい視線が交錯する。ななしは二人の間に挟まれながら顔を覆った。
「あぁ、二人が戦ってオンボロ寮が学園の地図から消える。私は明日から、野宿をしながら雑草を食べて生きることになるんだ。せめて美味しいドレッシングを持って逃げなきゃ」
「ななし, お前は黙ってろ」
「ヒトの子、余計な心配は不要だ」
二人の声が重なる。
レオナはななしの頬を軽くつまんで強引に自分の方へ向かせ、マレウスはその反対側から彼女の髪に指を通した。
「おい、トカゲ野郎。人の女に勝手に触ってんじゃねぇよ」
「人の女、か。相変わらず独占欲が強いなキングスカラー。彼女は誰の所有物でもない。僕を特別な呼び名で呼び、招いてくれる大切な友人だ」
「友人? 笑わせんな。お前の友人ってのは、コレクションの一部だろ。俺はこいつの隣が一番落ち着くからここにいる。邪魔するな」
「邪魔をしているのは貴様の方だろう。僕はこれから人の子と、この寮の庭で見つけた珍しい植物について語らう約束を」
「そんな約束したっけ」
ななしの声など二人の耳には届かない。
「植物だぁ? んな地味なもんより、俺の睡眠に付き合う方が有意義だろ。おい草食動物、膝貸せ。今すぐだ」
「嫌ですよ! 私の膝なんかで寝たら、レオナさんの首がバキバキになりますよ」
「お前は僕の腕の中で眠ると良い」
「もっと嫌です! ツノ太郎の腕の中で寝るなんて、バチが当たって明日から一生不眠症になっちゃう!」
全力で拒否するななしだったが二人が側を離れる気配は一切ない。むしろお互いを牽制し合うようにじりじりと距離を詰めてくる。
「ふん。なら、どっちがこいつを満足させられるか勝負するか?」
レオナが挑発的に唇を吊り上げる。
「面白い。僕が勝った暁には、ヒトの子は僕と共に茨の谷の夜の散歩に招待しよう」
「だから勝手に決めないでくださいってば」
ななしの嘆きをよそに、レオナとマレウスの視線が激突する。グリムは「勝手にするんだゾ」と諦めた顔でお腹をさすった。
オンボロ寮の夜はまだ始まったばかり。
ななしの日常は、この二人によってますます予測不能な方向へと転がり始めていた。
「とりあえず、お腹空きました。晩ごはん、焦がしちゃうかもしれないけど、作ってきます」
「あぁ、俺は肉がいい」
「ヒトの子の手料理なら、どんな出来栄えでも楽しみだ」
「プレッシャーをかけないでください!」
叫びながらキッチンへ逃げ込むななし。
その後ろ姿を二人は全く異なる、けれど熱を帯びた視線で見つめていた。
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