不幸体質と霊感少女

「それはそうと、いつになったらチョコレートパフェ奢ってくれるんですか?」

「え?」

「なんですか、その如何にも『今の今まで忘れてました』な顔は」

「ご、ごめんね? 忘れてました!」

「いいですけどねぇ、別に。わたしの大好物のパフェ如き、広也さんのハッピーで浮かれぽんちな脳味噌では覚えきれないしょうし」

「むぅ、その言い方は良くないと思うけど!」

「男子大学生が『むぅ』とか言っても可愛くもなんともありませんけど」

はあ、と溜め息を吐いたのは見た目は絶世の美少女、神山紅羽ちゃんだ。
そんな溜め息ばかり吐いてたら幸せが逃げちゃうぞー、と思わないわけでもないけれども。
というか溜め息で幸せが逃げるならば、オレのこの『不幸体質』をどうにかして欲しい。もう今生では溜め息なんて吐かないから。

「あ、ちなみにですが広也さん」

「なに?」

「神様へもし万が一ですが今何か願ったら、もれなく広也さんあちら側の住人になりますからお気をつけてくださいね?」

「なんでそういうこと言うのー!?」

「事実ですから」

「事実はオブラートに包んで捨ててください!」

「広也さんって、はじめて会った時の暗い雰囲気消えましたよね。なんというか、キラキラしているというか?気のせいですかね」

「あ、それ友人にも言われたよー。『最近のお前明るいな!』って。紅羽ちゃんのお陰だね」

「は?どうしてわたしがそこに結びついてそうなるんですか?」

「だって、紅羽ちゃんは色々言いながら絶対にオレのこと助けてくれるじゃん。だからオレは自信をもって紅羽ちゃんに助けてもらう前提で動けるんだ」

「うわぁ……とんでもないクズ発言聞きました」

「……というのは半分冗談だけど」

「半分は本気なんですね」

「うん、でも、紅羽ちゃんが居てくれるお陰でオレはこんな体質だけど幸せだよ」

「それはそれは……」

――今現在、全力でかくれんぼしている人間の発言ではありませんね。

「そういう怖いことを忘れたかったのに!」

そう。今現在進行形でオレと紅羽ちゃんは包丁片手のぬいぐるみから逃げてます。
そのぬいぐるみは何故か喋ってきたのだけれども。
どうやら遊び相手が欲しかったそうな。
それにオレが選ばれたそうな。
意味分からないよね! オレもちょっと意味分からない!
でもこんな状況化にしておいてさっさと脱出した友人は絶対許さない。……絶対だ!

「まあ、意味分からないのも分かりますけど。わたしも巻き込まれてるのをお忘れですか?」

「あ。ご、ごめんね?」

「忘れたらダメでしょう。忘れたらこの空間から帰れなくなりますからね。まあ、わたしはかくれんぼ飽きて来たのでそろそろ帰りますけど」

「帰れたの!?」

「え?はあ、まあ」

「今すぐ帰ろう!」

「交霊術するくらいかくれんぼが好きなのかと思ってました」

「そんなわけないでしょーが!」

「なら、帰りましょうか」

「帰る!」

「よい御返事だことで」

そう言って紅羽ちゃんはジーパンのポケットから札のようなモノを取り出すと、ちょうど部屋に入ってきた可愛らしいけどよく見ると包丁片手のクマのぬいぐるみに向けて放った。
一瞬、クマのぬいぐるみは笑ったように見えたけれども、まあ、霊感チートの前では無駄だったよね。一発KOも仕方ない。
辺りはお互いが見える程度の暗さから、朝日が昇る程度の明るさに変わり……え、朝?

「うわっ! 今日、一限からなのに!」

「頑張ってください、わたしは帰って寝ます」

「うわぁぁぁん! 助けて紅羽様!」

「そんなどこでもなドア出せる青い狸ではあるまいし。無理ですよ」

「酷い! アレは狸じゃなくて猫だよ紅羽ちゃん!」

「そこそんなに重要ですか?」

そんなこんなを話している間に、オレは一限に遅れましたとさ。
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